カシアン・ロズウェルとの出会い以降も、セラフィーナの日常に大きな変化は無かった。相変わらず早朝に鍛錬をし、大広間では毎回七年生の男子顔負けの量を平らげる。授業では優秀な成績を収め、スリザリンの得点獲得に一役買っている。そして空いた時間は読書か魔法の研究に費やしていた。
そんな変わらぬ日々を過ごしている間にも、ホグワーツでは様々な出来事が起きていた。特にハリー達三人組は以前にも増して慌ただしく動き回り、ドラコはどうにかハリー達を追い落とそうと企んでいるようだった。
「お嬢様、最近はポッター達やマルフォイと話されないのですね」
「何やら忙しそうだからな。興味が無い訳ではないが、あまり首を突っ込み過ぎるのも野暮というものだろう」
図書館の窓から差し込む日差しの中、オーロラが気持ち良さそうに丸くなっている。少なくともセラフィーナ達にとっては、この上なく平穏な午後だった。
その後も授業や課題に追われる、いつも通りの時間が過ぎていく。だが、その日の夕食時。大広間へ入ったセラフィーナは、普段より騒がしい空気に気付いた。
「聞いたか?」
「あぁ、ポッター達のことだろ?」
「五十点減点だってさ。しかも一人五十点らしい」
周囲の生徒達が驚きの声を上げる。セラフィーナは席に着きながら僅かに眉を動かした。
「一人五十点?また随分と派手な減点だな」
「どうやら夜間外出だそうです」
近くの生徒達の会話を聞いていたリオラが答える。
「ポッター達三人組とマルフォイが捕まったとか」
「マルフォイも?」
「はい。聞いた話によると、ポッター達の夜間外出を告げ口したらそれも夜間外出に該当すると言われ減点されたそうです」
「……馬鹿なのかあの男は」
セラフィーナは呆れたように目を閉じ、溜め息を吐いた。
「それから、どうやらその四人に減点の他に罰則も与えられるようです」
「ほう?」
「禁じられた森で森番の仕事を手伝うそうです」
「なに?」
セラフィーナは腕を組み、数秒黙って考える。禁じられた森と言えば、四階の廊下と並んでダンブルドアが立入を禁じた場所だ。
「いくら罰則とは言え、わざわざ立入を禁じているような危険地帯に一年生を行かせるのはどうかと思いますが……」
「そうか?森番の手伝いということは、生徒だけで森に入る訳ではないのだろう?」
「えぇ、恐らくはそうだと思いますよ」
「なら問題あるまい」
テーブルに現れ始めた夕食に視線を移す。
「あの森番は半巨人だ。その辺の魔法生物相手に後れを取るような弱者ではない」
「私が心配しているのは森番の戦闘力ではないのですが……」
リオラはまだ納得していない様子だったが、それ以上は何も言わなかった。セラフィーナの戦闘力中心の考え方は今に始まったことではないし、何より食事が始まった。そうなるとこの主人の頭の中は食事が最優先事項になり、他への興味が薄れるのだと彼女は長い付き合いの中で熟知していた。
翌日。朝食のために大広間へ向かったセラフィーナは、真っ先にハリー達の姿を見つけた。
「……随分と酷い顔だな」
思わずそう呟く。実際、ハリー達三人組は一目で寝不足と分かる顔をしていた。特にハリーに至っては、他二人よりも更に酷い顔をしている。
「禁じられた森で何かあったのでしょうか?」
「そうだろうな。流石に森番の手伝いだけでああはならんだろうから、何か想定外のトラブルがあったのだろうよ」
グリフィンドールの席に着いた三人組は、そんな心底疲れ切った酷い顔にも関わらず真剣な表情で何かを話していた。
「ククッ……本当に面白い奴等だ」
「お嬢様、今笑う要素があったでしょうか?」
「うむ。次に奴等から話を聞く時、面白い話題が増えそうだなと思ってな」
リオラは小さく溜め息を吐いた。
「……お嬢様はもう少し、他人を心配するということを覚えるべきだと思います」
「何を言う、心配はしているぞ。それに奴等が無事で良かったとも思っている」
意外な返答にリオラは目を丸くする。
「本当ですか?」
「うむ。仮に禁じられた森で奴らが死んでいたら、面白い話が聞けなくなってしまうだろう」
リオラは完全に手で顔を覆った。
そんな二人を余所に、オーロラはベーコンを咥えて満足そうに尻尾を振っていた。
そうしていると、ドラコがクラッブとゴイルを引き連れてセラフィーナの正面の席に座る。最近では最早日常風景となっている光景だ。
「貴様も寝不足か?ポッター達と共に禁じられた森に行ったと聞いたぞ」
その言葉にドラコは顔をしかめる。
「……その話はしたくない」
声に張りが無い。明らかに寝不足で疲れ切っている。
「なら何故私の正面に座った?私から問われることぐらい予測できただろう」
「……皆が君を避けているからね。少なくとも、君以外からは追及されないと思ったからだ」
それだけ言って水を一口飲み、ゆっくりと食事を始める。
「つまり、お嬢様を人避けとして使ったということですね」
「なるほど。目の付け所は間違っていないぞマルフォイ」
そう言って特に気にした様子もなく、セラフィーナは食事を再開する。
「……怒らないのかい?」
「逆に何故怒る必要がある?人避けとして利用されたところで私に損がある訳でもないし、その程度で侮辱されたと解釈するほど私の器は小さくないぞ」
ドラコは数秒黙り込んだ。
「……君は本当に変わっているね」
「貴様からそれを言われるのは何度目だろうな」
セラフィーナは特に気にした様子もなくベーコンを口へ運ぶ。ドラコは何か言いたげな顔をしたが、結局何も言わずに黙々と食事を続けた。
昨夜見た光景を思い出したくなかったのか、それとも上手く説明できる気がしなかったのか。いずれにせよ、その後食事中に昨夜の話題が上がることは無かった。
ただ一つ確かなのは、禁じられた森で起きた出来事がハリー達だけでなくドラコにも少なからず影響を与えていたということだった。
今日は夜に更新できないから、昼~夕方でもう一話か二話更新できたらいいな~