学年末の進級試験最終日。セラフィーナは、慌てて駆け回るハリー達三人組の後ろ姿を目撃した。
「今ポッター達が入っていった部屋、確かマクゴナガル教授がいた部屋だな」
「そうですね。遂に教授に頼るということを覚えたのでしょうか」
リオラの言葉にセラフィーナは小さく肩を竦めた。
「さてな。あの三人のことだ、ただ教授を頼るだけで終わるとも思えんが」
そう言って歩き出そうとしたその時、勢い良く扉が開いた。飛び出してきたのは、先程部屋に入ったばかりのハリー達三人組だった。
「どうした貴様等。そんなに焦った顔をして」
「あ、アウレリウス……」
ハリーが言い淀む。その隣ではロンが落ち着きなく周囲を見回し、ハーマイオニーは何かを考えるように唇を引き結んでいた。
セラフィーナはそんな三人の様子を見比べ、小さく鼻を鳴らす。
「なるほど、面白そうな話らしいな」
「どうしてそうなるのよ」
「調べていた件で何か進展があったから、マクゴナガル教授に頼ったのではないのか?」
「……否定できないわね」
ハーマイオニーは疲れたように額を押さえた。
「それで、何があった?」
セラフィーナは腕を組む。三人は顔を見合わせ、少しの沈黙の後にハリーが口を開いた。
「僕達、マクゴナガル先生に話したんだ。賢者の石が危ないって」
「そうだろうな。貴様等が教授のいる部屋へ駆け込んでいくのが見えたから、そうではないかと思っていた」
「でも先生は信じてくれなかったんだ」
「ほう?」
「それだけじゃない。今夜、誰かが賢者の石を取りに行くかもしれないんだ」
そこからハリー達は、セラフィーナに今までの経緯を話す。禁じられた森で見たモノ、それがヴォルデモートである可能性、ダンブルドアの不在……。
「……」
「……」
事の重大さに、流石のセラフィーナも笑みを消して黙り込む。リオラは表情こそ崩さないが、動揺しているのは見開かれた目を見れば分かる。
「お嬢様、想像以上に規模が大きい話になりましたね」
「そうだな。ユニコーンの血、ヴォルデモート、賢者の石……なるほど。ピースが揃えばこんなに簡単なパズルもそうは無いな」
「か、簡単……?」
三人は驚きで目を見開く。
「力を失った。倒された。ヴォルデモートに関して当時を知る大人達は口を揃えてこう言う」
ロンとハーマイオニーは同意するように頷く。実際、ロンは親からそう聞かされていたし、ハーマイオニーが読んだ本にもそう書いてあった。
「だが不思議なことに、ヴォルデモートが死んだと言っている大人に私は会ったことがない。同様に、死んだと書いてある本も読んだことがない」
「……確かにそうだわ。例のあの人が死んだなんて本には書いてなかった」
「あれだけ強大な闇の魔法使いだ。私達の知らん闇の魔術で命からがら生き延びていたとしても、何ら不思議ではない」
誰も口を挟まない。セラフィーナの言葉が的外れだとは思えないからだ。
「ギリギリのところで生き延びているヴォルデモートがユニコーンの血で命を繋ぎ、賢者の石で完全な復活を目論んでいる。気持ち良いぐらい筋が通るな」
三人は思わず顔を見合わせた。
「じゃあ!」
ハリーが一歩前に出る。
「やっぱり僕達の考えは正しかったんだ!」
「違う」
「え?」
「筋が通ると言っただけだ」
ハリーが言葉に詰まる。
「だが、可能性は高いと思う」
セラフィーナは肩を竦めた。
「ヴォルデモートかどうかはともかく、禁じられた森でユニコーンの血を啜るような存在がいるという時点で、放置して良い話ではないな」
「でしょ!?」
「だから今夜──」
「待て」
興奮するハリーとロンを、セラフィーナが片手を上げて制した。
「一つ教えてくれ。貴様等は今夜何をするつもりだ?」
「賢者の石を守るんだ」
ハリーは即答した。
「スネイプかもしれない、ヴォルデモートかもしれない。とにかく誰かが盗む前に守らなきゃ!」
「なるほど。つまり、貴様等三人でヴォルデモートかもしれない相手と戦うつもりか。碌に戦い方も知らん一年生が三人で」
「……」
「……」
「……」
三人は揃って視線を逸らした。
「馬鹿だな。無謀どころか自殺に等しいぞ」
「分かってるよ!」
ハリーが即座に言い返す。
「でも他に方法が無いんだ!ダンブルドア先生はいないし、マクゴナガル先生だって信じてくれなかった!」
「……アウレリウス、無謀だってことは分かっているわ。でも、時間が無いのよ」
「ふむ」
セラフィーナは顎に手を当てる。その横でリオラが小さく呟いた。
「お嬢様、まさか協力する気ではありませんよね?」
「さてな」
セラフィーナの紅い瞳が僅かに細められる。
「確かにこいつ等は無謀だ。だが頼れる者がいないなら自分達がやるしかないというのは、間違ってはいないと私は思う」
「お嬢様……」
「それに、仮に本当にヴォルデモートだとして賢者の石を手に入れてみろ。必ず後悔するぞ」
「それは、そうですが……」
リオラは返答に困る。そこで横から口を挟んだのはハリーだった。
「そう言ってくれるってことは、今の僕達の視野は狭くないの?」
「話を聞く限りではな。それに、緊急事態において情報の精度は二の次だ。そこで無駄に時間を浪費して手遅れになりましたでは、笑い話にもならん」
「じゃあ!」
ハリーの表情が明るくなる。
「手伝ってくれるの!?」
セラフィーナは即座に首を横に振った。
「それとこれとは話が別だ」
「えぇ!?」
ロンが素っ頓狂な声を上げる。
「貴様等が正しい可能性は高い。だが、私はまだ確信していない」
「でも例のあの人が復活するかもしれないのよ!?」
ハーマイオニーが思わず声を荒げる。
「分かっている。今夜までに独自に調べ、確信を持てたら手伝ってやる」
「分かった!」
ハリーは力強く頷いた。
「僕達は僕達で動く」
「好きにしろ」
セラフィーナは肩を竦める。
「ただし死ぬなよ」
「え?」
「せっかく面白くなってきたところだからな」
呆れたような視線を向けるハーマイオニーとロンを余所に、セラフィーナは踵を返した。
「行くぞリオラ」
「はい」
その背中を見送りながら、ハリーは小さく息を吐く。不安が消えた訳ではない。だが、少なくとも自分達の考えが完全な的外れではなかったことだけは分かった。
そしてその夜、ホグワーツで最も長い夜が始まろうとしていた。
長かった賢者の石編も、やっと終わりが見えてきましたね。
もうちょっとテンポよく書いた方がいいのかな……