深夜。窓からは月明かりが差し込み、談話室は静寂に包まれている。セラフィーナは読んでいた本を閉じてソファから立ち上がり、ローブを羽織る。
「行かれるのですか?」
「あぁ、家から持ってきた古代魔法の文献に面白いものがあってな」
「面白いもの……というかお嬢様。旦那様の書斎から文献を持ち出したのですか?」
リオラは呆れたような目でセラフィーナを見る。アウレリウス家は代々古代魔法研究の分野でも名を馳せているため、様々な書物や文献があるのは彼女も知っている。だが、それを無断で家の外に持ち出すのは如何なものかと彼女は頭を悩ませる。
「構わんよ。本当に持ち出してはならん物には保護呪文がかけられている」
「まあ、それは……そうかもしれませんが。それで、文献には何が書かれていたのですか?」
リオラの問いに、セラフィーナはローブの襟を整えながら答えた。
「肉体を失ってなお完全には死なず、ゴーストに近い状態となった者が他者に寄生して命を繋ぐ呪いだ」
「……そんな呪いが実在するのですか?」
「この文献だけでは断定はできんし、そもそも肉体を失ってなお生き続けるなど私には理解できん」
セラフィーナは完全に身支度を整えると、懐から杖を取り出した。
「だが、ヴォルデモートならあるいは可能かもしれん」
リオラは小さく息を吐いた。
「なるほど。それで確認しに行くのですね」
「そうだ。ヴォルデモートであろうとなかろうと、こんな面白そうなことに私が首を突っ込まない訳がないだろう?」
リオラは頭を抱えたくなる衝動に駆られるが、今更である。長い付き合いだがこの主人が何かに興味を持ったが最後、満足するまで絶対に止まらないことを彼女は身をもって知っている。
「私も同行します」
「好きにしろ」
「はい。好きにします」
オーロラもまた、自分だけ置いて行かれる気は無いらしい。普段なら既に寝ている時間帯だが、軽やかにソファから飛び降りてセラフィーナの足元に歩み寄る。
「よし、行くぞ」
石壁が静かに閉じる。二人と一匹は人気のない廊下を進んでいった。
深夜のホグワーツは昼間とは別世界だ。生徒達の話し声も無く、聞こえるのは自分達の足音だけ。壁に掛けられた松明の炎が揺れ、長い影を廊下に落としている。
幾つかの階段を上り、四階へ続く廊下へ差し掛かったその時だった。
「止まれ」
オーロラが足を止め、それに気付いたセラフィーナも足を止める。
「どうしました?」
「足音が聞こえたらしい」
前方から聞こえてくるのは複数人の足音。隠れる気配もなく、むしろ急いでいるような足取りだった。
数秒後。角を曲がって現れた三人の姿を見て、セラフィーナは小さく笑った。
「良い夜だな、ポッター」
「アウレリウス!?本当に来たんだ!」
ハリーが安堵したように表情を明るくする。セラフィーナは肩を竦めた。
「うむ。結局確信までは持てなかったが、私なりに同行に値すると思えたからな」
「何か分かったの?」
「確信は持てなかったと言っただろう?それより早く行くぞ」
ハリー達は顔を見合わせた。聞きたいことは山ほどあるが、今はそんな余裕は無い。
「そ、そうだった。急がなきゃ!」
一行は足早に四階の廊下を進む。やがてフラッフィーがいる部屋の扉が見えてきた。
「待って」
真っ先に気付いたのはハーマイオニーだった。扉の前に駆け寄り、鍵穴を覗き込む。
「鍵が壊されてるわ」
ハリーとロンの顔色が変わる。
「誰かが先に入ったんだ!」
「どうやらそのようだな」
セラフィーナは静かに扉へ手を伸ばした。紅い瞳には僅かな高揚が宿っている。
「なら急ぐぞ」
ギィィ……と重い音が響く。
部屋の中では、静かに流れるハープの音色を聞きながら三頭犬フラッフィーが眠っていた。
「寝ている……?」
ロンが呆然と呟く。
「ハープだわ」
ハーマイオニーが指差した。フラッフィーの傍らには美しい銀色のハープが置かれ、自動的に旋律を奏で続けている。
「誰かが眠らせたのね」
「つまり先客がいるということか」
セラフィーナは周囲を見回す。
その時だった。
「見ろ。前足の下だ」
フラッフィーの巨大な前足の下。そこには既に開いた状態の落とし戸があった。
「急がなきゃ!」
ハーマイオニーが焦ったように言う。
「そうだな。私達は既に出遅れてしまっているようだ」
セラフィーナが頷く。
次の瞬間、ハリーが躊躇なく落とし戸へ飛び込んだ。
「ハリー!」
ロンが続き、ハーマイオニーも意を決したように飛び込んだ。
セラフィーナはその様子を見て、小さく笑う。
「本当に躊躇が無いな」
「お嬢様も人のことは言えません」
「違いない」
そう言ってセラフィーナも落とし戸へ身を躍らせた。オーロラとリオラもその後に続く。
全員が、何か柔らかい物の上に着地した。
「なんだこれ……?」
ロンが怪訝そうな声を上げる。薄暗い空間の中、足元には黒い蔦のような植物が無数に広がっていた。
「これは……植物か?」
セラフィーナは周囲を見回す。天井は遥か上にあり、落とし戸から差し込む僅かな光だけでは全体像は分からない。
「クソッ、全然見えない」
ハリーが杖を取り出そうとした、その時だった。
オーロラが低く唸る。
「……どうした?」
セラフィーナが視線を向ける。オーロラの耳は伏せられ、全身の毛が逆立っていた。明らかに警戒している。
「お嬢様」
リオラの声が僅かに強張る。
「この植物……動いていませんか?」
その言葉に全員の視線が足元へ落ちた。
次の瞬間。黒い蔦が、ゆっくりとハリーの足首へ絡み付いた。
近々映画を一から観直して、原作も一から読み直そう。図書館行かなきゃ