ハリー・ポッターと深紅の覇者   作:筋肉神

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ロンの初めての活躍の場面!


第36話 魔法使いのチェス

 その部屋にあったのは、巨大な白と黒の駒が並ぶチェス盤だった。

 

「チェス……」

 

 ハリーが呟く。部屋全体が一つの巨大なチェス盤になっており、人の背丈を優に超える駒が整然と並んでいる。

 

「これ、魔法使いのチェスだ……」

 

 ロンの声が僅かに弾む。先程までの焦りも忘れたように、彼は盤面へ視線を向けていた。

 

「チェスか。つまり、チェスで勝たなければ先には進めないのか。厄介なことだ」

 

「そうですね。チェスはあまり嗜まないので……」

 

「私もだ。教養としてルールは知っているが、そもそも私好みのゲームではないからな」

 

 二人の会話を聞いて、ハーマイオニーが目を丸くする。

 

「そうなの?なんだか意外だわ。貴女こういうの得意そうなのに」

 

「これは軍師のゲームだぞ?私は後方で指揮を執るのは性に合わない」

 

 その言葉に、今度はロンが僅かに目を見開く。そしてゆっくりと盤面から視線を外し、セラフィーナ達の方に向き直る。

 

「それなら、ここは僕に任せてほしい」

 

 セラフィーナとリオラは、珍しく虚を突かれたような顔でロンを見る。

 

「……分からんなウィーズリー。何故貴様に任せる必要がある?」

 

「どこがどう『それなら』なのですか?」

 

 二人から当然のように疑問を向けられ、ロンは一瞬だけ言葉に詰まった。だが、すぐに顔を上げる。

 

「僕はチェスが得意なんだ」

 

「それだけでは理由にならんな」

 

 セラフィーナが即座に切り捨てる。

 

「誰しも得意なことの一つや二つはあるだろう。私も戦闘は得意だ」

 

「それは得意ってレベルじゃないだろ……」

 

 ロンが思わず呟くが、誰も突っ込まない。

 

 彼は小さく咳払いをした。

 

「とにかく、僕は本当にチェスが得意なんだ。家じゃ兄弟と毎日のようにやってたし、負けることなんてほとんど無い」

 

「ほう?」

 

 セラフィーナの眉が僅かに動く。

 

「それだけではまだ足りませんね」

 

 リオラも冷静だった。

 

「貴方には戦績がありません」

 

「戦績?」

 

「お嬢様は結果を重視されます」

 

 ロンは頭を掻く。そして観念したように言った。

 

「僕はウィーズリー家で一番チェスが強い」

 

 一瞬、空気が変わった。ハリーとハーマイオニーは驚いたようにロンを見る。

 

「そうなの?」

 

「ああ」

 

 ロンは頷く。

 

「兄貴達とも何度もやった。フレッドやジョージはもちろん、パーシーにも勝ったことがある」

 

 セラフィーナは黙ってロンを見つめる。その目は本当に驚いているように、小さく見開かれている。

 

「ほう?あのパーシー・ウィーズリーに勝ったのか」

 

「お嬢様?」

 

「とても優秀な男だと聞いている。なるほど、その話に偽りがないのであれば、確かに十分な根拠になり得るな」

 

 セラフィーナは盤面へ視線を向けた。

 

「ならばやってみろ、ウィーズリー」

 

 紅い瞳が真っ直ぐロンを見据える。

 

「自らの実力を示し、その話が偽りではないと証明してみせろ」

 

 ロンはゆっくりと盤面へ歩み寄った。先程までのどこか頼りない雰囲気は消えている。

 

 その目は真剣そのものだった。

 

 巨大なチェス盤を見渡し、白と黒の駒の配置を確認していく。

 

「……なるほど」

 

 数十秒後、ロンが小さく呟く。

 

「分かったの?」

 

 ハリーが尋ねる。

 

「ああ」

 

 ロンは頷いた。

 

「僕達もゲームに参加するんだ」

 

「参加する?」

 

 ハーマイオニーが首を傾げる。

 

 ロンは黒い駒に近付いた。すると黒いナイトがゆっくりと首を動かし、まるでロンを見定めるように見下ろす。

 

「ほらね。僕達が正しい位置につけば、向こうもそれを認めるはずだ」

 

「つまり、僕達も駒として扱われるってこと?」

 

 ハリーが呟く。

 

「そういうこと」

 

 ロンは頷いた。

 

「それで僕が指揮を執る」

 

 巨大な駒達は微動だにしない。しかし、その圧倒的な存在感だけで十分だった。

 

「面白い」

 

 セラフィーナが口元を吊り上げる。

 

「ならば見せてもらおうか、ウィーズリー」

 

 ロンは一度だけ頷く。そして盤面を見据えた。

 

「ハリー、君はビショップ」

 

「うん」

 

「ハーマイオニーはルーク」

 

「分かったわ」

 

 次々と配置を決めていくロン。

 

 迷いは一切無い。それを見ていたセラフィーナは僅かに目を細めた。

 

 先程までとは違い、今のロンには確かな自信があった。

 

 そして何より――盤面全体を見渡すその視線は、本当に指揮官のそれだった。

 

「私はどうする?」

 

 セラフィーナが尋ねる。ロンは盤面から視線を外さず答える。

 

「アウレリウス達は盤面に入らないでほしい」

 

 意外な言葉だった。ハリーとハーマイオニーが思わずロンを見る。

 

「え?」

 

「どうして?」

 

 ロンは盤面を指差した。

 

「人数が増えるほど考えることも増える。このチェスは普通のチェスじゃない。駒も勝手に動くし、相手も本気で潰しに来る」

 

 そう言って巨大な白の駒を見据える。

 

「正直、人数が多い方が有利とは限らない」

 

 その声には迷いが無かった。

 

「僕とハリーとハーマイオニーだけで十分だ」

 

 静寂が落ちる。セラフィーナは数秒間ロンを見つめていた。

 

 そして――

 

「なるほど」

 

 小さく頷く。

 

「戦力を増やすのではなく、統制を優先したか」

 

 ロンは黙って頷いた。

 

「悪くない判断だ」

 

 その言葉にハリーとハーマイオニーが目を見開く。セラフィーナが素直にロンの判断を受け入れているところなど、二人は初めて見たからだ。

 

「ならば任せよう」

 

 セラフィーナは盤面から一歩下がった。

 

「ここは貴様の戦場らしい」

 

 紅い瞳が真っ直ぐロンを見据える。

 

「存分に実力を示してみせろ、ウィーズリー」

 

 ロンは一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに口元を引き締める。

 

「ああ」

 

 短く答えた。その返事には先程までの自信の無さは無い。

 

 巨大な黒のナイトへ歩み寄る。すると石造りのナイトがゆっくりと頭を下げ、ロンは迷わずナイトの背へ飛び乗る。

 

「ハリー、ビショップへ」

 

「うん!」

 

「ハーマイオニー、ルークだ」

 

「分かったわ!」

 

 二人もそれぞれの位置へ向かう。

 

 その瞬間だった。

 

 ゴゴゴゴゴ……

 

 巨大な駒達が一斉に動き出した。石と石が擦れ合う重低音が部屋中へ響き渡る。白の駒達もまた動き出し、無機質な視線をこちらへ向けていた。

 

 ロンはナイトの上から盤面全体を見渡す。

 

 そして深く息を吐いた。

 

「よし」

 

 黒のナイトの手綱を握る。

 

「ゲーム開始だ」




映画版だと、チェスのシーンかなりサラッと流れた印象があるんですよね。
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