ハリー・ポッターと深紅の覇者   作:筋肉神

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クライマックスに突入してきました。ここから数話にわたって文字数が増えます


第38話 声の主

 ハリー、セラフィーナ、リオラ、オーロラは次の扉を潜った。

 

 石造りの部屋を駆け抜ける。そして更に奥の扉へ。

 

「急ぐぞ」

 

「うん!」

 

 最後の扉を押し開く。

 

 そこにいたのは、こちらに背を向けて立つ頭にターバンを巻いた男だった。

 

「……クィレル先生?」

 

 ハリーの声に、鏡の前に立っていたクィレルはゆっくりと振り返る。その表情にいつもの怯えは感じられない。

 

「ポッター」

 

 視線も声も、そして立ち姿さえも普段のクィレルからは想像も付かないほどに堂々としている。

 

「そんな、まさか……だって」

 

「そう。いつも怯えているクィレル教授がこんな大それたことをする訳がない……誰もがそう言う。事実、君達もスネイプを疑っていたのだろう?彼は如何にも怪しい」

 

 ハリーは言葉に詰まる。視線を逸らして一瞬だけセラフィーナを見て、クィレルに視線を戻す。

 

「……アウレリウスか。ポッター達に余計な入れ知恵をしたのは君だな?」

 

「その通りだ。だが貴様だったとは私も予想外だったがな」

 

「ふふっ……そうかい」

 

「だが、こうして真実を目撃すると筋が通ることがある」

 

「……ほう?」

 

 クィレルが僅かに目を見開く。それは驚きというよりは興味だった。

 

「私はずっと不思議に思っていたんだ。英国魔法界で最も安全と言われるこのホグワーツに身を置いていながら、何をそんなに四六時中怯えているのかと」

 

「気が弱い人間というのはいるものだよアウレリウス。誰もが君のように強くはない」

 

「そうだな。だが、それでも貴様の怯えようは過剰だった」

 

「……鋭いな」

 

「あれは漠然としたものに対する怯えではない。もっと身近に、抗えない何かに対しての明確な恐怖に見えた」

 

 クィレルの目が大きく見開かれる。今度は興味ではなく、明確な驚きによって。

 

「そして私は、今回の件を調べるにあたって古い闇の魔術の存在を知った」

 

「……なに?」

 

 空気が変わる。クィレルの声が明らかに低くなり、その目には警戒の色が映る。

 

「肉体を失って尚も生き続ける者が、他者に寄生するという悍ましい代物だ」

 

 ハリーが驚愕の表情でセラフィーナを見る。

 

「き、寄生だって!?」

 

「そうだポッター。恐らくこの世で最も悪辣な魔法の一つだろうよ」

 

 クィレルは即座に言葉を返さない。暫く黙り込んでセラフィーナを、ハリーを観察する。そして、深く息を吐いて口を開いた。

 

「……なるほど。アウレリウス家は古代魔法の研究をしていると聞く。しかし、一年生でそこまで辿り着くのは末恐ろしいな」

 

 否定ではない。セラフィーナの言った闇の魔術と、クィレルの反応。そこから導き出される答えに、ハリーは顔を青くした。

 

「じゃあ、まさか……」

 

「だが一つ訂正させてもらおう。あの御方に寄生という言葉は相応しくない……力を取り戻すまでお隠れになられているだけだ」

 

 クィレルの声に僅かな怒りの感情が混じるが、セラフィーナは気にした様子もなく口を開く。

 

「そんな言葉遊びに興味は無い。それよりどうやら貴様、まだ石を手に入れていないな?」

 

 ピクリと、クィレルの眉が動く。

 

「……そうだ。ダンブルドアを遠ざけ、教授達の罠を突破した。しかし石は見当たらなかった。この鏡には、石を手にした私が映っているのに……!」

 

 眉間に皺が寄り、怒りで声が震える。あと一歩で石が手に入らぬ現状に憤っている。

 

「鏡だと?」

 

「そ、それは!」

 

 ハリーが気付く。クリスマス休暇の時、短い間だったが夢中になっていたあの鏡。ダンブルドアが何処かに隠し、探すことを禁じられたあの鏡だ。

 

「ポッター?貴様、何を知っている」

 

「あの鏡は、見た人の一番強い願望を映すんだ。ダンブルドア先生がそう言ってた」

 

「ほう……」

 

「……そうだ。願望を映す鏡だ。だが、どうすれば石が手に入るかが分からない」

 

 苛立ちを隠し切れない声だった。セラフィーナは鏡を一瞥する。

 

「なるほど。どんな仕掛けかは知らんが、少なくとも貴様相手には有効な仕掛けらしいな」

 

 クィレルの顔が歪む。

 

「知ったような口を……!」

 

「事実だろう。欲する者に簡単に渡るなら、貴様はとっくに石を手にしている」

 

 数秒の沈黙。

 

 そして、人間のものとは思えない恐ろしい声が響き渡る。

 

「その子を使え……」

 

 ハリーとリオラはキョロキョロと辺りを見回し、セラフィーナは静かにクィレルを睨んでいる。オーロラはクィレルを見ながら僅かに毛を逆立てる。

 

「ポッター!」

 

 クィレルが懐から杖を取り出し、ハリーに向けながら叫ぶ。

 

「こちらに来い。早く!」

 

「今の声、貴様のものではないな」

 

 クィレルが杖を抜くのを見て、セラフィーナもほぼ同時に杖を抜いた。

 

「ハリー・ポッター!来るんだ!」

 

「従う必要は無いぞポッター。貴様を呼ぶ理由は分からんが、敵の言葉に耳を貸す必要は無い」

 

「口を挟むなアウレリウス!」

 

 クィレルが激昂する。それは怒りだけではなく、焦りも含まれていた。

 

「随分と余裕が無くなったものだな」

 

「うるさい!来るんだハリー・ポッター!」

 

 クィレルの迫力に気圧されてか、はたまた何かを感じたのか。ハリーはセラフィーナの制止を振り切ってゆっくりと鏡に近付く。

 

「おい!チィッ……馬鹿が」

 

 力尽くでも止めたいが、杖を向け合っている以上迂闊な動きはできない。セラフィーナは舌打ちをしながらも、クィレルに杖を向け続ける。

 

「ここに立て。鏡を見ろ」

 

 ハリーはゆっくりと鏡の前に立つ。

 

 鏡の中には、自分とその後ろで微笑む両親が映っていた。

 

 そして──

 

 鏡の中の自分が、そっとポケットから赤い石を取り出した。

 

「……!」

 

 ハリーの心臓が跳ねる。鏡の中の自分は、取り出した赤い石をゆっくりとポケットに戻した。

 

 その瞬間、自分のポケットに何か硬い感触があることに気付く。

 

「何が見える?」

 

 クィレルが低い声で尋ねる。ハリーは一瞬だけ息を止めた。

 

 言ってはいけない。この男にだけは。

 

「ぼ、僕が……」

 

 ハリーは鏡から目を離さず答える。

 

「クィディッチでグリフィンドールが優勝して……僕が優勝杯を持ってる」

 

 クィレルが目を細める。

 

「それだけか?」

 

「……うん」

 

「嘘だ」

 

 ハリーが頷いた瞬間、先程と同じ不気味で恐ろしい声が部屋に響き渡る。

 

「また、この声……」

 

 リオラが息を呑む。オーロラは低く唸り、全身の毛を逆立てる。

 

「何処だ……」

 

 セラフィーナが周囲を見渡す。

 

「声の主は何処にいる」

 

 クィレルがゆっくりとセラフィーナの方に振り返る。

 

「アウレリウス」

 

 クィレルは不気味に笑う。

 

「君は実に優秀だ。古代魔法の知識も、観察眼も素晴らしい」

 

 ゆっくりと杖を懐にしまう。

 

「だが、一つだけ見誤った」

 

「なに?」

 

「あの御方が私に寄生しているのではない。私が、この御方に身体を捧げているのだよ」

 

 そう言って、頭に巻いているターバンに手をかける。そしてゆっくりと解いていく。

 

「……」

 

 セラフィーナも、リオラもハリーも動かない。ただとてつもなく嫌な予感がする。

 

 そして完全にターバンが解かれた。

 

 鏡に映るクィレルの後頭部。そこには顔が浮き出ていた。

 

 人間のような鼻が無く、蛇のように細い裂け目。

 

 血の気の無い青白い皮膚。

 

 そして、赤く光る二つの瞳がゆっくりと開かれる。

 

「ハリー・ポッター……」

 

 その顔は、醜く歪んだ笑みを浮かべた。




盛り上がってまいりました
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