ハリー・ポッターと深紅の覇者   作:筋肉神

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盛り上がってきました


第39話 深紅と漆黒

「ハリー・ポッター……」

 

 赤い瞳が細く歪む。その顔は到底人間とは思えない異様なものだった。

 

「っ……!」

 

 ハリーが額の傷を押さえる。リオラは顔を強張らせ、オーロラは低く唸り続けている。

 

 だが。

 

 セラフィーナだけは、その顔を真っ直ぐ見据えていた。

 

「なるほど。貴様がヴォルデモートか」

 

 静かな声だった。その声は不自然なほど落ち着いていて、恐怖も虚勢も感じられない。

 

「ほう……この私を前に恐怖を感じぬか」

 

「……恐怖か。生憎、私には存在しない感情だ」

 

「なに?」

 

 赤い目が細まる。クィレルも眉をひそめて怪訝な顔をする。

 

「言葉通りだ。いや、厳密には存在しなくなった感情と言うべきか」

 

「戯言を……!」

 

「待て」

 

 クィレルの言葉をヴォルデモートが遮る。

 

「面白いことを言うな小娘。恐怖を感じぬ理由、この私に話してみろ」

 

 クィレルは目を見開く。闇の帝王であるヴォルデモートが、一年生の少女に興味を持ったのだ。

 

「戦闘において恐怖は足枷だ。敵に対する恐怖、痛みに対する恐怖、死に対する恐怖。それ等は一つ一つの動作を遅らせ、技を鈍らせ判断を誤らせる」

 

 杖を下ろすことなく、淡々と話し続ける。

 

「我がアウレリウス家では、幼少期より恐怖と苦痛を克服するための訓練を行う」

 

「恐怖と苦痛を克服……だと?」

 

「そうだ。打撲、裂傷、骨折、灼熱、極寒、酸欠、暗闇、閉所……ありとあらゆる苦痛や恐怖を敢えてこの身で経験し、強制的に慣れさせたのだ」

 

 静寂。ハリーは絶句し、クィレルですら信じられないものを見る目でセラフィーナを見ている。

 

 すると、ヴォルデモートの顔がゆっくりと歪んだ。

 

「クク……ククク……」

 

 闇の帝王が笑っていた。

 

「面白い。恐怖を消すために恐怖に身を投じたか」

 

 赤い瞳が細まる。

 

「常人ならば狂気と呼ぶだろう。だが、そうか……アウレリウス家か」

 

 その声に、怒りと僅かな懐かしさが紛れ始める。

 

「その鮮血のような髪……なるほど。小娘、貴様レジナルドの娘か」

 

 セラフィーナの目が僅かに細くなる。

 

「戦争の英雄と呼ばれた父だ。貴様が知っているのも当然か」

 

「あぁ……よく知っているとも」

 

 ヴォルデモートは低く笑う。

 

「あの男は最後まで私を恐れなかった。私と幾度も対峙しながら生き延び、私の僕共(しもべども)を大勢殺し、数多くの者をアズカバン送りにした」

 

 徐々にヴォルデモートの顔が怒りに歪み、声は怒気一色に染められる。

 

「純血名家の者でありながら私に従わず、純血主義を完全に否定する。とても愚かで、忌々しく、厄介な男だった」

 

 赤い瞳が鋭く光る。

 

「狂人だ。どんなに不利な戦況でも引かず、どんな傷を負っても心底楽しそうに笑いながら戦い続ける……」

 

「ふん、娘の前で父親を褒めるな。むず痒いではないか」

 

 皮肉か本心か。セラフィーナのその言葉にヴォルデモートは口角を吊り上げる。

 

「そして今、奴の娘が目の前にいる。私の怨敵であるハリー・ポッターと肩を並べてな……!」

 

 赤い目が細められる。笑みも怒りも消え、表情が無くなる。

 

「私としたことが、無駄な話に時間を使ってしまった」

 

 ヴォルデモートの視線がハリーに向く。

 

「ハリー・ポッター……その石を渡せ」

 

 ハリーは反射的にポケットを押さえた。その仕草を見た瞬間、ヴォルデモートの目が見開かれる。

 

「クィレル!」

 

「はっ!」

 

「石は奴のポケットの中だ!」

 

 クィレルの顔に歓喜が浮かぶ。彼は再び杖を握り、一歩前に出た。

 

「ポッター、その石を渡せ!」

 

「断る!」

 

 ハリーが叫ぶ。足が震えているが、それでも一歩も引かない。

 

「これは渡したら駄目なんだ!」

 

「愚かな!」

 

 クィレルが杖を向ける。

 

 しかし──

 

「アクシオ!」

 

 リオラが呪文を唱えて杖を振る。

 

「うわっ!?」

 

 ハリーが猛スピードでリオラに引き寄せられ、彼女はしっかりと受け止める。

 

「オーラ、リオラ!ポッターを守れ!クィレルの相手は私がやる!」

 

「承知しました」

 

 リオラは即座に命令を了承し、オーロラもハリーを守るように立つ。

 

「貴様……一年生の小娘が、一人で私と戦うつもりか?」

 

「思い上がるなよクィレル。確かに、全盛期のヴォルデモートが相手なら私なんぞ相手にもならんだろう。だが、そのヴォルデモートは今や弱り果てて自ら戦えぬ身だ」

 

 口角を吊り上げてニヤリと笑う。

 

「宿主選びを間違えたなヴォルデモート。スネイプ教授やマクゴナガル教授に寄生していたなら私の勝機は薄かっただろうが、クィレル如きなら勝てぬ相手ではない」

 

「わ、私を愚弄するか!」

 

 クィレルの顔が怒りで赤くなる。

 

 当然だ。如何に純血名家の子とは言え、父親が優秀とは言え、相手が一年生の少女であることに変わりはないのだから。

 

「トロールを単独で打倒して調子に乗っているらしい。私を甘く見るなよ小娘!」

 

 クィレルが激昂したその時。

 

「クク……」

 

 不意にヴォルデモートが笑った。

 

「クク……ハハハ……!」

 

 クィレルが目を見開く。

 

「わ、我が君……?」

 

「熱くなるな、クィレル」

 

「ですが……!この小娘は私を、そして貴方様をも侮辱したのですよ!?」

 

「だからこそだ」

 

 ヴォルデモートの口元が歪む。

 

「面白いではないか。名門アウレリウス家の娘、恐怖を失った狂気の小娘、そして私を堂々と侮辱するその傲慢さ」

 

 赤い瞳がセラフィーナを見据える。

 

「気に入らぬ。だが、どこまで父親に迫れるのか私も興味がある」

 

 そして静かな声で命じる。

 

「クィレル」

 

「はっ!」

 

「まだ殺すな。まずは試せ」

 

 その命令に、クィレルは困惑の表情を浮かべる。

 

「し、しかし……!」

 

「聞こえなかったか?」

 

 その一言だけでクィレルの顔から血の気が引く。

 

「も、申し訳ございません……!」

 

「クク……」

 

 ヴォルデモートは笑う。

 

「アウレリウス。貴様がレジナルドの娘ならば、その力を示してみせろ」

 

 セラフィーナの口角が吊り上がる。

 

「ほう?随分と余裕だなヴォルデモート」

 

 深紅の瞳に闘志が宿る。膨大な魔力が体内で煮え滾り、強大な殺気となって体外に放出される。

 

「言っておくが、私は父ほど甘くはないぞ。アズカバンになど送らず、敵対する者は一人残らず殺してやる」

 

「ククク……ならば見せてみろ」

 

 クィレルはセラフィーナの魔力と殺気に少しだけ目を見開くが、後頭部に宿る主人の手前怖気ることは許されない。

 

「クィレル。その身をもって試してやれ」

 

「はっ!」

 

 クィレルが杖を構える。

 

「後悔するなよ小娘!」

 

 セラフィーナもまた杖を正眼に構えた。

 

「生憎、生まれ落ちて十一年、後悔なんぞとは無縁だ」

 

 深紅と漆黒。

 

 二つの殺気が激突する。




ヴォルデモートの一人称問題。映画版では『俺様』でしたが、個人的にあまり好きではない翻訳だったのでこの二次創作では『私』で統一します。
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