ハリー・ポッターと深紅の覇者   作:筋肉神

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戦闘に三話丸々使ってしまった

でも楽しかったからよし!


第42話 限界の先

 クィレルが壁に手を付きながら立ち上がる。

 

「グッ……」

 

 焼け爛れた胴体の傷から血が流れ落ちる。眼前では深紅の獅子が低く唸り、黄金の瞳で獲物を捉えていた。

 

 その姿は正に捕食者。

 

 クィレルは思わず一歩後退した。

 

「恐れるな、クィレル」

 

 後頭部から低い声が響く。

 

「我が君……」

 

「何を怯える必要がある」

 

 赤い瞳が細くなる。

 

「よく見ろ」

 

 クィレルは息を呑んだ。獅子を従えるセラフィーナ。その顔色は青白く、大量の汗が流れている。杖を持つ右手も微かに震えていた。

 

「限界……?」

 

「そうだ」

 

「レジナルドは五体の獅子を従えながら平然と笑っていた」

 

 ヴォルデモートが不気味に笑う。

 

「だが小娘は違う。膨大な魔力と戦闘センスで誤魔化しているが、やはりまだ未熟なのだ。あの魔法はまだ荷が重い」

 

 クィレルの顔から焦りが消える。

 

「なるほど……」

 

「焦るな。時間はこちらに味方する」

 

「はっ!」

 

 そして。

 

「ククク……」

 

 セラフィーナが不敵に笑う。

 

「何がおかしい!?」

 

「おかしいさ。あぁ、全くお笑いだクィレル。そしてヴォルデモートよ」

 

 荒い息を吐きながらも、その深紅の瞳からは欠片も光が失われていない。

 

「私の魔力切れを待つつもりだろう?浅はかなことだ」

 

「浅はかだと!?」

 

「クク……愚か者め。そんな消極的な戦法でこの私に勝てるとでも思ったか?」

 

 セラフィーナの口角が吊り上がる。

 

「ならば、その前に殺せばよいだけの話だ」

 

「ほう?」

 

 ヴォルデモートの赤い瞳が細まる。

 

「何故守りに入る?」

 

 セラフィーナの声は静かだった。

 

「何故距離を取る?」

 

 深紅の獅子が低く唸る。

 

「一年生相手に時間を稼ぐのか?」

 

 荒い呼吸、大量の汗、身体の震え。それでもその笑みは、燃え盛る闘志は消えない。

 

「勝つつもりならば、今この瞬間に私を殺しに来い」

 

「小娘が……!」

 

 クィレルが歯を食いしばる。

 

「その状態でまだそんなことを言うか!」

 

「当然だ」

 

 セラフィーナは不敵に笑う。

 

「私の魔力は尽きかけている。ならば最大の好機ではないか」

 

 深紅の瞳が妖しく輝く。

 

「それとも何だ?まさか恐れているのか?」

 

「なに?」

 

「魔力が尽きる寸前の十一歳の小娘を相手に、距離を取って時間稼ぎとはな」

 

 クスリと笑う。

 

「随分と臆病なことだ。子供に怯える小心者め」

 

「貴様ァ!!」

 

 クィレルが激昂し、一歩前に踏み出す。

 

 だが──

 

「止まれ」

 

 ヴォルデモートの一言で、その足が止まった。

 

「我が君……」

 

「愚か者が。同じ過ちを繰り返すつもりか」

 

 クィレルがハッと息を呑む。

 

「……小娘、また私を挑発して冷静さを失わせるつもりだったのか。そんな状態になりながら、なんて奴だ」

 

「ククッ……バレてしまっては仕方ない」

 

 セラフィーナは肩を竦めながら笑う。

 

「だが、もう遅い」

 

「なに?」

 

「貴様等は時間を使い過ぎた」

 

 その瞬間、深紅の獅子が咆哮した。

 

「ガアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

「クィレル!」

 

「はっ!」

 

 クィレルが数多の呪文を放つ。

 

 炎、斬撃、失神呪文。

 

 だが──

 

 深紅の獅子は全てを食い破るように突き進む。

 

「馬鹿な!?」

 

「終わらせろ!」

 

 セラフィーナが杖を振り下ろす。深紅の獅子が跳躍し、巨大な顎がクィレルに迫る。

 

「プロテゴ!」

 

 透明な盾が展開される。

 

 ガァン!!

 

 耳をつんざく強烈な衝突音。しかし先程とは違い、クィレルが展開した透明な盾は破壊されていなかった。

 

「……そうか、破壊できなかったか」

 

 魔力枯渇。セラフィーナの身体がグラリと揺れ、倒れそうになりながらギリギリのところで踏ん張る。

 

 しかし──深紅の獅子は姿が大きく揺らいで粒子となって消滅した。

 

「……ハッ、ハハハッ!やった、やったぞ!遂に魔力が底をついたか小娘!」

 

「お嬢様!!」

 

「アウレリウス!!」

 

 クィレルが勝ち誇り、リオラとハリーが絶叫する。セラフィーナは既に立っているのがやっとで、今にも倒れてしまいそうに項垂れている。

 

「さあ、あとはお前だポッター。大人しく賢者の石を──」

 

「油断するな愚か者!!」

 

 クィレルがセラフィーナから視線を外し、ハリーの方を向く。ヴォルデモートが怒声を浴びせるが、既に致命的な隙ができてしまった。

 

「……クリムゾン・ランス」

 

 その瞬間、杖先に鮮烈な深紅の光が収束する。

 

 それは炎ではない。

 

 雷でもない。

 

 純粋に圧縮された魔力の槍。

 

 深紅の流星。

 

 そう呼ぶべき一撃だった。

 

「なっ──」

 

 轟ッ!!

 

 深紅の槍が射出される。

 

 迷いなく一直線。

 

 まるで光そのものが突き進んでいるような異次元の速度。

 

「ぷ、プロテゴ・トタラム!!」

 

 クィレルは咄嗟に防御呪文を展開しようとするが、間に合わない。

 

 一閃──深紅の槍は、クィレルの腹部を貫き、そのまま背中側へと突き抜けた。

 

「ガァァァァァッ!!」

 

 鮮血が舞う。

 

 クィレルの身体が吹き飛び、石床を転がった。

 

「クィレル!」

 

 ヴォルデモートの怒声が響く。

 

「ぐっ……」

 

 腹部に空いた風穴。

 

 大量の血液。立ち上がることさえ困難な致命傷。

 

「何故だ……何故まだ……」

 

 クィレルの掠れた声。

 

「クク……」

 

 セラフィーナが笑う。

 

「誰が……全て使い切ったと言った?」

 

 口元から血が流れる。視界は霞み、身体は悲鳴を上げている。

 

 それでも。

 

 深紅の瞳だけは輝きを失わない。

 

「最後の一滴まで使い切るなど三流のすることだ」

 

「グッ……」

 

 クィレルは自ら治癒の呪文をかけるが、腹部に開いた風穴はそう簡単には塞がらない。

 

「小娘……その魔法にも覚えがある。レジナルドが使っていた魔法だ」

 

 ヴォルデモートが静かに言う。

 

「そうだ……アウレリウス家独自の攻撃魔法だ」

 

 セラフィーナの声も掠れる。もはや立っているのが奇跡だ。

 

「……ここまでか」

 

 ヴォルデモートの低い声が響く。

 

「器がこの有様では、もはや石は我が手には入らぬ……」

 

「うっ……!?」

 

 その瞬間、ハリーの傷が焼けるように痛む。

 

「アウレリウス……そしてハリー・ポッター」

 

 クィレルの身体から、黒い霧のようなものが溢れ出る。

 

「見事だった。だが次は、これほど上手くはいかんぞ」

 

 赤い瞳が深紅の少女を見据える。

 

「アウレリウス。貴様の父に続き、その名は記憶しておこう」

 

 不気味に口角が吊り上がる。

 

「そしてハリー・ポッター……」

 

 ハリーの額の傷が激しく痛む。

 

「我々はまた会う。その時こそ、全てを終わらせてやろう」

 

 黒い霧が天井へと昇っていく。

 

「覚えておけ。死は終わりではない」

 

 そして、黒い霧は音もなく消え去った。

 

「我が……君……」

 

 クィレルが震える声を漏らす。

 

 主を失ったその顔には、恐怖と絶望だけが浮かんでいた。

 

「い、行かないでください……」

 

 力なく伸ばした手が空を掴む。

 

「お願いです……見捨てないで……」

 

 しかし返事はない。

 

「嫌だ……嫌だ……!」

 

 クィレルは血を吐きながら床を這う。

 

「私は貴方のために……全てを捧げたのに……!」

 

 主に見捨てられた哀れな男の慟哭が響き渡る。

 

「……しぶといな。気休めに自らにかけていた治癒魔法が命を繋いだか?」

 

 青白い顔、霞む視界、震える手足と口から溢れる血液。

 

 そんな状態でもなお、セラフィーナは杖を握り締め、一歩、また一歩とクィレルへ歩み寄る。

 

「……アウレリウス?」

 

 ハリーはその背中を見て、背筋に冷たいものが走った。

 

 今の彼女の顔は見えない。

 

 だが何故か……彼女を止めなければならないと思った。

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