ハリー・ポッターと深紅の覇者   作:筋肉神

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もうちっとだけ続くんじゃ……


第44話 勝者の条件

「なるほどのう……君の考えは分かったセラフィーナ」

 

 静かな声。語気が強くなるセラフィーナとは対照的に、ダンブルドアはどこまでも穏やかで優しい口調で喋っている。

 

「殺し合いだから殺す……実に合理的な戦士の思想じゃな。若い頃はワシも近い考えを持っておったよ」

 

 ハリーが息を呑む。信じられないという表情でダンブルドアを見つめている。

 

「じゃがな……人を殺すというのは、時として殺された者よりも生き残った者を傷付けることがある。ワシはそれを知っておる」

 

「……」

 

 相変わらずセラフィーナの表情は伺えない。しかしまだ杖はしっかりと握られ、クィレルを踏み付ける足もどかされてはいない。

 

「人殺しがなんだと言うのですか?私は幼少期より我が家の敷地の森にて魔法生物を相手に戦闘訓練を繰り返し、その全てを屠ってきました。殺しなんぞとうに慣れています」

 

「ミス・アウレリウス!」

 

 マクゴナガルの顔色が変わる。

 

「そのようなことを、平然と口にするものではありません!」

 

 厳しい声。しかしその表情に浮かんでいたのは怒りではなく、痛ましいものを見るような悲しみだった。

 

「貴女はまだ十一歳なのですよ!人だろうと魔法生物だろうと、殺しに慣れるだなんてとんでもないことです!」

 

「殺しを躊躇した者は時として格下にすら敗北する。そして教授、命懸けの戦闘において年齢など何の意味もありませんよ」

 

 マクゴナガルが険しい表情で一歩前に出るが、ダンブルドアが片手を上げて制する。

 

 代わりにスネイプが静かに口を開いた。

 

「ふん……」

 

 黒い瞳が真っ直ぐセラフィーナを射抜く。

 

「確かに、戦場では貴様の考えは間違いではない」

 

 ハリーが驚いてスネイプを見る。

 

「せ、先生!?」

 

「黙っていろポッター」

 

 スネイプは冷たく言い放つ。

 

「敵に情けをかけて命を落とす阿呆など珍しくもない」

 

「うむ。セブルスやセラフィーナの言う通りじゃが、やはりこれは戦場の理屈じゃ。ホグワーツの理屈はそうではない」

 

 ダンブルドアが数歩セラフィーナに近付く。

 

「君の考えがどうであろうと、ワシは君を殺人者にさせるつもりはない。クィリナスを拘束し、魔法省に引き渡して然るべき裁きを与える。それが校長として、大人としてのワシの義務じゃ」

 

 ゆっくりとダンブルドアが杖を握る。

 

「必要なら、実力行使もワシは厭わん。生徒に嫌われようと憎まれようと、それで生徒が殺人者になるのを止められるならワシは構わん」

 

「……私の戦いに、勝利に水を差すつもりなら教授方と言えど私の敵だ」

 

 初めてクィレルから足をどかし、振り返ってダンブルドア達と向かい合う。その深紅の瞳には、自らの戦いを邪魔されたことに対する強い怒りが宿っていた。

 

「ようやく目が合ったのう。セラフィーナ、君は今夜多くのことを成し遂げた」

 

 杖を握りつつ、その表情は穏やかだった。

 

「賢者の石を守り、友を守り、ホグワーツを守り、ヴォルデモートをも退けた。無論全てが君の功績とは言わんが、最大の功労者が君であることに異論ある者はおらんじゃろう」

 

 ハリーは激しく頷く。

 

「もう十分戦った。これ以上君が戦う必要は無いのではないかの?」

 

 スネイプも静かに口を開く。

 

「校長は随分と優しい言い方をしているが、我輩ならもっと簡潔に言う」

 

 一拍。

 

「勝てんよ」

 

 場が静まり返る。

 

「いくら強いとは言え一年生。それもギリギリの死闘を終えたばかりで体力も魔力も激しく消耗している……万全の状態でさえ我輩達一人にも勝てぬ小娘が、その消耗した状態で我輩とミネルバ、そして校長と戦うと?無謀もここまでくれば清々しいな」

 

 黒い瞳が冷たく細められる。

 

「それとも、勝ち目の無い戦いに飛び込むことをアウレリウス家では勇気と呼ぶのか?」

 

「セラフィーナ……ワシは君を敵とは思っておらん。じゃが、生徒が殺人者になるのを黙って見届ける気も無い」

 

 杖先が僅かに上がる。

 

 ダンブルドアの声は相変わらず静かだが、一歩も譲る気が無いことだけは誰の目にも明らかだった。

 

「……功績の為に戦った訳ではない。そして勝ち目の無い戦いに挑むのは確かに無謀だが、私の勝利条件は教授方を倒すことではない。クィレルを殺すことだ」

 

 ダンブルドアはその答えを聞いても、眉一つ動かさなかった。

 

「そうか」

 

 ただ静かに頷く。

 

「ワシ等三人を前にしてなお、その意志を曲げぬ覚悟は本物じゃ」

 

 言葉とは裏腹に、その青い瞳に悲しみが宿る。

 

「じゃが、強い意志が常に正しい結論へ導くとは限らん」

 

 マクゴナガルが息を呑み、スネイプはゆっくりと杖を構える。

 

 今にも魔法が飛び交いそうな緊張。

 

 その時──

 

「アウレリウス!もうやめてよ!」

 

 ハリーが叫ぶ。その目には涙がたまっている。

 

「もう終わったんだよ!ヴォルデモートは逃げた!クィレル先生はもう戦えない!」

 

 必死の叫び。涙が零れても構わず叫び続ける。

 

「何でダンブルドア先生達と戦うなんて話になってるんだよ!おかしいよ!」

 

「何度も言わせるなポッター」

 

 深い溜め息を吐く。

 

「殺し合いとして始まった戦いの決着は、当事者同士のみが終わらせる権利を持つ。第三者に終わらせる権利は無い」

 

「うむ。君の主張は実に筋が通っておる。事の是非はともかく、その歳でそこまで一貫した主張ができるのは素晴らしいことじゃ」

 

 ダンブルドアはゆっくりと杖を下ろす。

 

「セラフィーナ、君の考えは十分伝わった。ワシは君の考えそのものを頭から否定する気は無い」

 

「……校長?」

 

 スネイプは怪訝な目でダンブルドアを見る。

 

「じゃがのう、ワシはそもそも今夜の戦いは殺し合いではないと思っておる」

 

 その言葉に、セラフィーナは困惑したように目を見開く。

 

「クィリナスとヴォルデモートは君達を殺すつもりだった。そして君は命を懸けて戦った……それは事実じゃ」

 

 青い瞳が真っ直ぐセラフィーナを捉える。

 

「じゃが、命を狙われた戦いと殺し合いは違う」

 

「……」

 

 セラフィーナは何も言わず、ただダンブルドアを睨んでいる。

 

「君は『殺し合いの決着』として以外でクィリナスを殺さねばならん理由を持っておらん」

 

「それは……」

 

「石を守り、ヴォルデモートを撃退してクィリナスがもう戦えぬ状態となった今、戦う理由は失われた」

 

 セラフィーナの瞳に僅かな迷いが生じる。ダンブルドアはそれを見逃さない。

 

「それでもなお殺すと言うなら、それは断じて戦いの続きではない。新たな殺人じゃ」

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