ハリー・ポッターと深紅の覇者   作:筋肉神

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日付変わるまであと30分だった……


第47話 二年目の夏

 八月半ばのダイアゴン横丁。新しくホグワーツに入学する子供達や、新学年から必要になる新しい教科書を買いに来た生徒とその家族で賑わっている。

 

 そんな中、一際目立つ集団がいた。

 

「やっぱ毎年この時期は騒がしいな!」

 

 見上げるような長身に、服の上からでも分かる鍛え抜かれた肉体。燃えるような赤髪と深紅の瞳を持つ男――レジナルド・ヴァレリウス・アウレリウス。

 

「一番騒がしいのはアナタよ」

 

 隣を歩くのはイゾルデ・セラフィーナ・アウレリウスである。腰まで届く美しい金髪に深紅の瞳。神々しいとまで称される美貌を持ち、女性としてはかなりの長身だ。

 

「しかし、父上と母上が買い物に付き添ってくれるとは意外でした」

 

「入学前は二人とも忙しくて貴女達だけで行かせてしまったもの。親として、一度ぐらいは買い物に付き合わなきゃね。今はどんな教科書を子供に使わせているのかも見ておきたいし」

 

 イゾルデの目が細められる。その表情を見れば、娘であるセラフィーナには彼女が何を考えているのかすぐに分かった。質の悪い教科書を使っていようものなら、ホグワーツに文句の一つも言いに行くに違いない。

 

 四人と一匹は石畳を踏みしめながらダイアゴン横丁を歩く。

 

 通りには色とりどりのローブを身に纏った魔女や魔法使いが行き交い、あちこちから楽しげな笑い声が聞こえてきた。

 

 そんな中、一際大きな歓声が辺りに響き渡る。

 

「おおっ! 凄い人だな!」

 

 レジナルドが歓声の上がる方へ視線を向ける。

 

 通りの先にある大型書店『フローリッシュ・アンド・ブロッツ』の前には、人だかりが出来ていた。

 

「何か催しでもしているのかしら?」

 

 イゾルデが首を傾げる。

 

「この時期ですから、新刊の発売か著名人の講演でしょうか」

 

 セラフィーナも店先へ目を向けた。

 

 入口には金色の大きな垂れ幕が掲げられている。

 

 《本日正午 ギルデロイ・ロックハート先生 サイン会開催》

 

 その下には、白い歯を輝かせて微笑む本人の巨大な写真が飾られていた。

 

「ギルデロイ・ロックハート……?」

 

 レジナルドは聞き覚えのない名前に眉を上げる。

 

「あら……」

 

「母上?」

 

 イゾルデはサインを書いているロックハートへ歩み寄る。その落ち着いた足取りと迷いのない様子に、並んでいた客達は互いに顔を見合わせながらも自然と道を開けた。

 

「ふふっ……随分と有名になったものね。ギルデロイ」

 

「……?」

 

 ロックハートは一瞬きょとんとした顔をし、驚きで目を見開く。

 

「ま、まさか……イゾルデ・エヴァーハート!?おお、何という偶然!まさかこんな所で再会できるとは!」

 

「ふふっ……大袈裟ね。それと、今はアウレリウスよ」

 

「おぉ!ではやはり、あのレジナルド・アウレリウスとご結婚を?」

 

「そうよ。彼は貴方を覚えていなかったのだけれどね」

 

 レジナルドがロックハートを覚えていないと知り、サインを貰うために並んでいた客達から驚きの声が上がる。しかし本人は気にした様子もなく白い歯を見せて笑う。

 

「はっはっはっ!仕方ありませんよ、レジナルド・アウレリウスは有名でしたからね。在学中は『戦った相手以外の名前は覚えない男』と皆が噂していましたよ!」

 

「おいおい、俺だって人の名前ぐらい覚えるぜ?」

 

「あらそう?じゃあ私達が五年生の時のスリザリンの監督生は誰だったかしら?」

 

 レジナルドは腕を組んで黙り込む。

 

「……ほら、あれだ。えっと……あの茶髪の」

 

「残念ね。彼は黒髪だったわ」

 

「……」

 

「ダメみたいね。知ってたわ、アナタが覚えていないことぐらい」

 

「はっはっはっ!しかし、本当に懐かしいですねぇ」

 

 ロックハートは昔を思い出すように目を細める。

 

「ところでギルデロイ?貴方サイン会のためにダイアゴン横丁に来たの?」

 

「いえ!実はこの度、ホグワーツにて闇の魔術に対する防衛術を教えることになりまして。教科書の販売ついでのサイン会なのですよ」

 

「そう。それで、闇の魔術に対する防衛術の教科書は貴方の著書を使うのかしら?」

 

「えぇ!」

 

 ロックハートは満面の笑みを浮かべ、大きく頷く。

 

「今年は私の著書を全巻採用していただきましてね! これら七冊全てが教科書となるのですよ!」

 

 そう言って店頭に山積みとなった著書を誇らしげに示す。

 

「バンパイヤとばっちり船旅、トロールとのとろい旅、泣き妖怪バンシーとのナウな休日……」

 

 イゾルデは店頭に積まれた本のタイトルを読み上げていく。

 

「娘達の教科書用に二セット。それと私が読む用に一セット買うわ」

 

「さ、三セットですか?」

 

 流石のロックハートも目を見開く。自身の著書は決して安価なものではないからだ。

 

「これだけ売れていて教科書にも採用される本だもの……じっくり読ませてもらうわよ?」

 

「いやぁ、流石にお目が高い!これほど熱心な読者に恵まれるとは幸運です!」

 

 ロックハートは満面の笑みを浮かべる。

 

「では店員に用意させますので、少々お待ちください!」

 

 そう言って店員へ指示を出そうとした、その時だった。

 

「失礼」

 

 店の入口から、聞き覚えのある低い声が響く。

 

 高級な黒いローブを纏った男が店内へ姿を現す。背中へ流した白金色の長髪を見た瞬間、レジナルドの表情から笑みが消えた。

 

「……ルシウスか。一年前にも言ったが、テメエがまだ生きていることが残念でならねえよ」

 

「相変わらずだなレジナルド。粗野で野蛮、純血貴族の品格など微塵も持たぬ蛮人め」

 

 二人の視線が交差した瞬間、先程まで賑やかだった雰囲気は完全に消え去り水を打ったような静寂に包まれた。

 

 周囲の客達は思わず息を呑み、店員達も手を止めて二人を見つめていた。

 

「これはこれは!ルシウス・マルフォイ卿!」

 

 しかし、そんな空気など意にも介さずロックハートは満面の笑みで両手を広げる。

 

「本日はお越しいただきありがとうございます!ドラコ君の教科書をお求めですか?」

 

 その瞬間、空気が凍り付く。ロックハートの声は静寂の中に虚しく響き、二人は彼を一瞥もしない。

 

「あー……ゴホン。お二人はお知り合いでしたかな?」

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