ハリー・ポッターと深紅の覇者   作:筋肉神

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今回少し短いです


第49話 小さな異変

 九月一日。

 

 ロンドン、キングズ・クロス駅の九と四分の三番線は今年も例年通りホグワーツへ向かう生徒達とその家族で賑わっていた。

 

 真新しいローブに身を包んだ一年生達は期待と緊張の入り混じった表情を浮かべ、上級生達は久々の再会を喜び合っている。

 

「しかし今年は荷物が少ないな」

 

「えぇ、セラフィーナとリオラが沢山手伝ってくれたおかげで、収納呪文の開発が間に合ったのよ」

 

 セラフィーナの足元にあるのは、ごく普通のトランクが一つだけだった。ホグワーツへ向かう生徒としては、考えられないほど荷物が少ない。

 

「薬品棚に調合台、大釜、天秤、本棚まで、全てトランク一つに収まっているからな」

 

「流石のお嬢様も、少しポカンとしていましたね」

 

 リオラが軽く微笑む。

 

「当然だ。一つのトランクに大釜や棚が次々と飲み込まれていく光景を見て驚かない者がいるなら、是非とも紹介してほしいものだ」

 

「もっとも、万能という訳ではないのだけれど」

 

「ほう、どんな欠点があるんだ?」

 

 レジナルドが興味深そうに問い掛ける。

 

「もちろん、容量は無制限ではないわ。呪文を行使する人の魔力と技量に左右されるの」

 

「まあ、容量無制限なんて魔法がある訳ねえか」

 

「それと、生き物は収納できないわ。液体も瓶や樽のような容器に入っていれば収納できるけれど、水そのものを直接収納することは出来ないの」

 

「それでも十分便利じゃねえか」

 

 レジナルドは感心したように頷く。

 

「これなら研究室ごと持ち運べるじゃねえか」

 

「そのために開発したのよ。セラフィーナに頼まれたというのもあるけれど、研究のたびに荷物を運び直すのは非効率だったもの。遅かれ早かれ開発するつもりではあったのよ」

 

 イゾルデは当然と言わんばかりに微笑んだ。

 

「便利なのは間違いないが、悪用されたら厄介そうだな」

 

「だから一般には公開しないし、魔法省に申請もしないつもりよ。少なくとも現時点ではね」

 

「妥当だな」

 

 両親の会話に、セラフィーナも静かに頷く。

 

 もし犯罪者がこの呪文を扱えば、盗品の運搬や密輸は格段に容易になる。便利な魔法ほど、使い方を誤れば危険なのだ。

 

 その時、ホームにホグワーツ特急の汽笛が高らかに鳴り響いた。

 

「そろそろ時間ね」

 

「えぇ、行ってきます。母上、父上」

 

「行ってまいります」

 

 リオラがセラフィーナの隣で頭を下げる。

 

「あぁ、今年も頑張ってこい。売られた喧嘩は遠慮せず買えよ!」

 

「程々に、ね。セラフィーナ、戦わず言葉で相手を制する術も覚えるのよ」

 

「はい、母上」

 

 セラフィーナは静かに頷く。オーロラがレジナルドとイゾルデの手を軽く舐めてから、セラフィーナの肩に飛び乗る。

 

 二人と一匹はトランクを引きながらホグワーツ特急へ乗り込んだ。発車までまだ十分ほど時間があるため、車内は思い思いにコンパートメントを探す生徒達で賑わっている。

 

「去年と同じ車両へ向かうぞ」

 

「はい、お嬢様」

 

 二人は通路を進み、空いているコンパートメントを一つ見つける。そこは去年も座った、六人掛けの広いコンパートメントだった。

 

「ほう、今年もここは空いていたか」

 

「運が良いですね」

 

 セラフィーナはトランクを網棚に乗せると、窓際の席へ腰を下ろした。リオラも向かいの席に座り、オーロラはセラフィーナの隣で丸くなる。

 

 発車まであと僅か。去年と同じ席で、二度目のホグワーツへの旅が始まろうとしていた。

 

 通路や別のコンパートメントでは、生徒達が慌ただしく行き交っている。

 

 荷物を抱えて空席を探す者。

 

 友人を見つけて手を振る者。

 

 去年と変わらぬ、出発前の賑わいだった。

 

 暫くして、コンパートメントの扉が勢い良く開く。

 

「アウレリウス!今年もここにいたのね?」

 

「グレンジャーか。ダイアゴン横丁以来か」

 

「それより、ハリーとロンを見なかった!?」

 

「見ていないな。一緒ではないのか?」

 

 ハーマイオニーは不安そうな表情を浮かべる。

 

「いないの……もうすぐ発車なのに、二人が見当たらないの。ホームにもいないし、列車の中も探してるんだけど……」

 

「ふむ。あの二人なら多少出発が遅れても驚きはしないが……」

 

「それは……そうだけど。でも、ロンの所は毎年家族総出で来るのよ?ロンだけいないなんておかしいわ」

 

「ふむ。それは確かに変だな」

 

 セラフィーナは腕を組んで小さく頷く。

 

「また何か厄介な事に巻き込まれてなければいいがな」

 

「……そうね。それが不安なのよ」

 

 ハーマイオニーは窓の外へ目を向ける。

 

 ホームにはまだ見送りの家族達の姿があった。しかし、その中にハリーとロンの姿は最後まで見当たらなかった。

 

 そして発車を告げる長い汽笛がホームに響き渡る。

 

「もう時間か……」

 

 ゆっくりとホームが後方へ流れていく。

 

 窓越しに手を振る家族の姿も次第に小さくなり、やがて赤レンガ造りのキングズ・クロス駅は視界の彼方へ消えていった。

 

 結局最後まで、ハリーとロンが姿を現すことはなかった。

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