キィィィ……ッ!
ブレーキ音と共にホグワーツ特急がゆっくりと速度を落としていく。窓の外は既に完全な夜となっており、黒い湖と巨大な城だけが無数の灯りに照らされていた。
「着いた……!」
ロンが興奮した声を漏らす。周囲のコンパートメントからも次々と生徒達が通路へ出ていく音が聞こえてくる。梟の鳴き声、トランクを引く音、興奮した話し声。
「行くぞ」
その声を聞きリオラが真っ先に立ち上がって扉を開ける。それを見てからセラフィーナが立ち上がり、オーロラも静かに床へ降り、その後ろへ付いた。
コンパートメントを出た瞬間、通路にいた上級生達の視線が一斉に集まる。
「……あれか」
「本当にレガリア・アウルムを連れてるぞ」
「アウレリウス家の……」
ひそひそ声が広がる。だがセラフィーナ達は特に気にした様子もなく歩き続けた。
「一年生!一年生はこっちだぁ!!」
突然、雷鳴のような大声が夜の駅に響く。
その声の主は、巨大だった。常人の倍はある巨体に、もじゃもじゃの黒髪と髭。分厚いコートを着込んだ大男がランプを掲げて立っている。
「おぉ……?」
その大男──ルビウス・ハグリッドの視線がセラフィーナからオーロラへ向いた瞬間、その黒い瞳が大きく見開かれた。
「お、おおぉぉぉぉぉぉ……!」
ハグリッドが感嘆の声を漏らす。
「な、なんて見事な子だ……!」
ハグリッドの巨大な顔がぐっと近付く。普通の動物なら怯えて逃げ出し、魔法生物なら威嚇するか攻撃してもおかしくはない距離。だがオーロラは動かず、ただ静かにハグリッドを見上げている。
「レガリア・アウルムか……?いや、それにしちゃあ雰囲気が違ぇ……」
「ほう、詳しいな」
セラフィーナが少し感心したような目でハグリッドを見る。
「へへっ、そりゃあオレぁ魔法生物が大好きだからなぁ!それでもこんな子ぁ初めて見たぞ……!綺麗だなぁ……」
意外にもオーロラは嫌がる様子を見せず、寧ろ興味深そうにハグリッドを見ている。
「おぉ……!嫌われてねぇ!っと、いけねえ!一年生、こっちだ!ボートに乗るぞぉ!」
慌てて移動を始めるハグリッドに一年生達がついていく。揺れるランプの灯りに照らされる少し濡れた石畳、そして暗闇の中広がる巨大な湖。
「……夢みたいだ」
ハリーの声にロンも小さく頷く。
「うん、すっげえ……」
「ふむ、ボートは4人乗りか。では私、オーロラ、リオラ、グレンジャーだな」
「え?」
セラフィーナの言葉にハーマイオニーは目を丸くする。どうやらその中に誘われるとは思っていなかったようだ。
「え、いいの?」
「構わんよ。こんな小舟にむさ苦しい男共と一緒に乗りたくはあるまい」
「酷くない!?」
ロンの叫びを無視してセラフィーナ達はボートに乗り込む。ハリーはその様子を見て少しだけ苦笑している。
暫くして一年生が全員ボートに乗り込む。
「全員乗ったなぁ!」
ハグリッドの声と共にボートが進み始める。
夜の湖。その向こうには、月明かりに照らされたホグワーツ城がそびえ立っている。まるで、魔法界そのものが新たな魔法使い、魔女の卵を歓迎しているかのように。
ハーマイオニーは城を見上げながら小さく息を呑んだ。
「本当に凄い……」
その声には、本で読んだ憧れが現実になった感動が滲んでいる。
湖面には魔法の灯りが揺れ、無数の塔と窓が夜空に浮かび上がっていた。
「確かに素晴らしいな。千年の歴史は伊達ではないということか」
セラフィーナの隣でリオラも静かに城を見上げている。
「えぇ、とても美しいです」
オーロラは船首側に座り、静かに城を見つめている。その深紅の瞳に、ホグワーツの灯りが映る。
そしてボートが岸に到着し、一年生達はハグリッドに連れられて巨大な門の前に整列する。
「よぉし、一年生。ここで待ってるんだぞぉ!」
そう言ってハグリッドは門を軽くノックする。すると扉が開き、深緑色のローブを纏った痩せた魔女が現れる。眼鏡の奥の鋭い視線が、一年生達を静かに見渡し……セラフィーナとオーロラを見て一瞬だけ止まった。
「一年生連れてきたぞ、マクゴナガル先生」
ハグリッドの言葉に、マクゴナガルはセラフィーナとオーロラから視線を外す。
「ご苦労様です、ハグリッド」
そしてマクゴナガルは一年生の方に向き直る。
「ようこそホグワーツへ。間もなく諸君は組み分けを受けます」
場の空気が引き締まる。
「ホグワーツには四つの寮があります。グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリン。諸君が在学中、寮は諸君の家となります」
一年生達の緊張が更に強くなる。
「優秀な成績は寮へ点をもたらし、規則違反は減点の対象となります。一年を通して最も多くの点を獲得した寮には寮杯が授与されます」
それだけ言うとマクゴナガルは一年生達に背を向ける。
「では行きますよ」
一年生達が門を潜ると、その先にある大広間への扉がゆっくりと開かれる。
眩い光。
無数の蝋燭。
そして天井いっぱいに広がる夜空。
一年生達から感嘆の声が漏れた。
「うわぁ……!」
「すげぇ……!」
マクゴナガルが厳かに告げた。
「一年生、前へ」
大広間へ足を踏み入れた瞬間、無数の視線が一年生達へ注がれる。
空中に浮かぶ蝋燭、夜空を映した魔法天井。そして四つの寮の長テーブルから響くざわめき。
ハリーは完全に圧倒されていた。
「……すごい」
その声はほとんど呟きだった。
ロンも口を半開きにして天井を見上げる。
「本当に空みたいだ……」
ハーマイオニーは周囲を忙しなく見回していた。
そして上級生達の方でもざわめきが広がる。最初は新入生達に対する歓迎の目線が大半だった。しかし次第に、上級生達の視線が一カ所に集中していく。
腰まで届く鮮血のような深紅の髪。髪と同色の瞳は猛禽類のように鋭く、11歳の少女とは思えない威圧感。そして神が作った美術品の如く整った顔立ちの少女と、その横に付き従う金白色の美しい魔法生物。見るなと言うのは酷な話である。
そして、マクゴナガルが古びた帽子を椅子に置く。
「これより組み分けを行います」
組み分け帽子って洗濯するのかな