M-Link:TRUE ENDの外側 作:syu3_syosetsu
『貴様、見ているな!』
夕方の秋葉原は、ビルの隙間に溜め込んだ熱をまだ吐き出していた。ラジ館の方から流れてくる人の声、階下のテレビの音、どこかの室外機の唸り。そのすべてが未来ガジェット研究所の薄い壁を通り抜け、俺の宣戦布告の余韻を雑音に変えていく。
紅莉栖が日本に来てから、ラボの空気は少しだけ変わっていた。本人は「遊びに来たわけじゃない」と言い張るが、まゆりは嬉しそうに茶を出し、ダルは何かにつけて解析を頼み、俺は鳳凰院凶真として当然のように彼女を戦力に数えている。
その日、ダルが持ち込んだのは海外通販の小さな箱だった。
『いや、見てるとかじゃなくてさ。オカリン、これ見てくんない?』
俺は白衣を翻したまま、机に置かれた箱を見下ろした。角の潰れた段ボール。印字の薄い配送ラベル。中から出てきたのは、黒い小型USBモジュールだった。側面に白い文字がある。
M-Link
『ほう。ついに機関は、我がラボへ接続端末を送り込んできたか』
『たぶんジャンク』
『たぶん、とは何だ』
ダルはノートPCを開き、通販履歴を見せた。注文は存在する。アカウントもダルのもの。金額も配送番号もある。だが本人は、買った覚えがないという。
『徹夜明けにポチったんじゃないの』
紅莉栖はあっさり言った。
『それが一番ありそうで怖い』
『いやー、否定しきれないのがつらいんだよね。ジャンク詰め合わせ見てた記憶はあるんだけど、これ単品を買った記憶はない』
まゆりは箱を覗き込んで、ラベルの端を丁寧に伸ばした。
『ダルくん、また変なの買ったんだね』
『まゆ氏、またって言わないで』
紅莉栖はM-Linkを指でつままず、机の上から観察した。
『得体の知れないUSB機器をそのまま挿すのは論外。ネットワーク切断。検証用環境。自動実行禁止。ログ保存。最低限それくらいはやって』
『さすが牧瀬氏、話が早い』
『褒めてない。危ないから言ってるの』
俺は腕を組んだ。
『フゥーハハハ! 黒きリンクは、世界の裏側へ繋がる鎖。その鎖を断つか、辿るかは、我らラボメンの選択というわけだ』
『だからジャンクだって』
ダルはネットワークを切り、検証用環境を立ち上げた。まゆりは梱包箱を潰さず、机の端に置く。
『これも取っておいた方がいいかな』
『いい判断ね』紅莉栖が頷く。『配送ラベルも写真を撮って。購入経路の確認に使えるかもしれない』
M-Linkを接続する。画面が一瞬だけ反応した。
新しいデバイスが検出されました。
だが、ストレージとしては見えない。ドライブも出ない。標準的なUSBメモリではなかった。
『死んでる?』
『完全には死んでいないわ。接続直後に短い応答がある』
ダルが低レベル読み取りツールを走らせる。しばらく無意味な数列が流れたあと、彼の指が止まった。
『……ん?』
『どうした』
『これ、完全なノイズじゃない。中に領域っぽいものがある』
画面に短い文字列が出る。
【M-Link解析ログ】
archive: present
access: locked
stage: 0/4
ダルが小さく口笛を吹いた。
『ただの死んだジャンクじゃなさそう』
紅莉栖は画面を睨んだまま言った。
『保存領域がある。でも読めない。今分かるのはそれだけ』
それだけ。
だが、その黒い小さなモジュールは、明らかに何かを隠していた。