M-Link:TRUE ENDの外側 作:syu3_syosetsu
翌日のラボは、いつもより少しだけ整っていた。
M-Linkのために、机の上には検証用PC、俺の紙ノート、ダルの解析ログ、まゆりが保管した梱包箱が並んでいる。紅莉栖は腕を組み、その全体を見渡した。
『証拠品みたいね』
俺は笑った。
『我ら未来ガジェット研究所は、ついに未知のルート装置を巡る捜査本部となった』
『捜査じゃない。検証』
ダルはあくびを噛み殺した。
『でも今日はほどほどにしようぜ。牧瀬氏、帰国準備あるんでしょ?』
その言葉で、ラボの空気が一瞬止まった。俺だけが、反応を隠すのに少し遅れた。
『帰国?』
紅莉栖は何でもないことのように言う。
『数日後。もともと短期滞在だし』
『なぜそれを先に言わん』
『聞かれてないから』
『貴様、ラボメンとしての報告義務をだな』
『いつからそんな義務ができたのよ』
まゆりが小さく言った。
『クリスちゃん、もう帰っちゃうんだ』
紅莉栖の表情が少しだけ柔らかくなる。
『また来るわよ。別に今生の別れじゃないんだから』
ダルが場を軽くしようとする。
『まあ、その前にM-Linkの中身だけ見てくれると助かる』
『なぜ私が片付ける前提なの』
『牧瀬氏が一番こういうの得意だから』
紅莉栖はため息をついたが、否定はしなかった。
『帰国前に、危険性がないかだけは確認しておく。変な自動実行や外部通信がないか、最低限』
黒い小さなデバイス。そこに隠された predicted route block。
ただのゲームデータ。
そう思うには、名前が少しだけ気に入らない。
紅莉栖はM-Linkのイメージファイルを開き、昨日ダルが抽出したデータを眺めていた。
『橋田、ステージ1の補正手順をもう一度見せて』
『ほい』
『このテーブル、壊れているんじゃない。意図的に欠けているように見える』
『マジ?』
『断定はしない。でも、単純な破損ならもっと散らばる。この欠け方は規則的』
俺は低く笑った。
『つまり、選ばれし者だけが読める封印』
『封印じゃなくてアクセス制御。たぶんね』
まゆりは紅莉栖の横顔を見ていた。
『クリスちゃん、楽しそう』
『楽しそうじゃない。気になっているだけ』
『それって、楽しいのと違うの?』
紅莉栖は言い返そうとして、やめた。
『……少しだけよ』
その少しだけのために、紅莉栖はスマホを取り出した。航空会社の予約画面を開き、空席を確認し、眉間に皺を寄せる。まるでコードの不具合でも追っているような顔だった。
『数日だけ延ばす。危険性の確認が終わらないまま帰る方が気持ち悪いから』
まゆりがぱっと顔を上げた。
『ほんと?』
『解析のため。変な意味じゃないから』
数日だけ。
紅莉栖がラボにいる時間が、ほんの少しだけ延びた。
だが、M-Linkはその少しを削るように、次の謎を差し出している。
紅莉栖は画面の前で静かに言った。
『これ、壊れているんじゃない。読める形に戻せていないだけ』
その言い方は、もう帰国準備をしている人間のものではなかった。