M-Link:TRUE ENDの外側 作:syu3_syosetsu
紅莉栖の解析は、ダルのそれとはまるで違っていた。
ダルが鍵穴を探すなら、紅莉栖は扉の材質から疑う。どこが壊れているのか。どこが意図的に隠されているのか。どの断片が偶然で、どの断片が構造なのか。
彼女はM-Linkのコピーを複数作り、エントロピーを測り、ブロックごとの規則性を並べた。
『高エントロピー領域が全部暗号化とは限らない。圧縮、乱数、ノイズ、疑似乱数。まずそこを分ける』
ダルは感心したように画面を見た。
『牧瀬氏、地味にガチ』
『地味にじゃない。普通にガチ』
俺は紙ノートに断片語を書き写していた。
『route、objective、score、event_log……ルート、目的、スコア、イベントログか』
『岡部、意味づけは後。今は構造』
数時間後、紅莉栖は一つの仮説にたどり着いた。
『このログ、単一の時系列じゃない』
『どういうこと?』
『観測済みのイベントらしき領域と、予測候補らしき領域が混ざってる。ゲームのセーブデータなら、実行済みイベントと未到達ルートの両方を持っているような構造』
俺の目が光った。
『未到達ルート……』
『飛びつかない』
紅莉栖はキーを叩いた。
【M-Link解析ログ】
ARCHIVE STAGE 2 OPENED
record model: observed_event / predicted_route mixed
branch candidates: departure_delay / shared_analysis / archive_unlock
紅莉栖が、ほんのわずかに反応した。眉が動いた、という程度の変化だったが、俺には見えた。
ダルが画面を覗き込む。
『なにこれ? 日本語で言うと?』
紅莉栖は視線を画面に固定したまま答える。
『観測済みイベントと、予測ルートが混ざっている。分岐候補は、出発延期、共同解析、アーカイブ解放。そう読める』
まゆりが画面を見つめる。
『なんだか、最近のまゆしたちみたいだね』
紅莉栖は即答しなかった。少しだけ間を置いてから、いつもの調子を取り戻す。
『……一般的な変数名としてはあり得る。ゲームでもシミュレーションでも、出発延期なんてよくあるイベント』
『だが、お前は昨日、帰国を延ばした』
『だから何? このデバイスが私の予定を知っている証拠にはならない』
『フゥーハハハ……だが言葉は揃い始めているぞ、助手よ』
『偶然よ』
その声は、否定したいからこそ少しだけ硬かった。
俺は紙ノートに三つの単語を書いた。
departure_delay。
shared_analysis。
archive_unlock。
その横に、ラボで起きた出来事を並べる。
紅莉栖の帰国延期。
四人で解析。
M-Linkの段階開示。
偶然だと切り捨てるには、形が整いすぎていた。
『フゥーハハハ……見えたぞ。これはゲームの分岐などではない』
紅莉栖が振り返る。
俺はノートを突きつけた。
『我々はすでに盤上にいる。M-Linkに記された選択肢を、知らぬ間に踏み始めているのだ!』