インフィニット・ストラトス 語り手が紡ぐ物語 作:パーノクス
小さい頃からわたくし様は物語が大好きだった。童話、ラノベ、漫画、形態に限らず私は物語が大好きな本の虫。基本的に望むのはハッピーエンドの物語だけ。4歳ぐらいの頃は、夜中にずーーっと本を読んでいて、よく親に怒られたものだ。今思うと、かなり不健康な生活をしていたように思う。
『どうして本なんか読んでるの! あなたの力は、こんなくだらない物の為にあるんじゃないのよ。言うことを聞きなさい!』
『
私が小学校に入る前に亡くなった両親。あの人たちが本を読みすぎて寝ようとしないわたくし様を叱った言葉。今では声だけ覚えていて、何を言ってたかまでは思い出せない。
人と話すのが苦手だったから友達はおらず、いつも孤独な生活を送っていた。
『こっち来んなよ。お前、体中痣だらけだし、胸元がいきなり光ったりして気持ち悪いんだよ!』
『あんたの席なんか無いから。さっさと消えてくれない? あんたみたいな化物と話したくないの』
そう言えば、わたくし様は異様なまでに他の園児たちに嫌われていた気がするが、その理由を思い出せない。ま、思い出せないということは、思い出す必要もないほどくだらないものなのだろう。もしかしたら、神の如き美貌を持つわたくし様に嫉妬していたのかもしれない。なんせわたくし様の容姿は美しく輝く銀髪に黄金のように美しく輝く金色の瞳、芸術品のように美しく整った顔立ち。両親が産んでくれた素晴らしき美貌なのだからな。
それはともかくとして、両親が亡くなった後、頼る親戚もいなかったわたくし様を支えたのは、遺された財産と物語だけ。
ハッピーエンドの物語を読むと、悲しみを紛らわせ、孤独を感じなくなった。恐らく物語が無ければ、わたくし様は早々にこの世を去っていただろう。話すのが苦手で友達を作れずとも、物語の世界が、登場人物たちがずっと一緒にいてくれるからわたくし様は寂しくなかった。
そうして物語にずっと助けられてきたから、わたくし様は小学2年生の頃に決意した。自分も物語を作り、語る存在になりたい。悲しむ人たちを物語を語り、元気づけたいと思った。
最初は小学校の開催するお遊戯会に参加して園児たちに童話を語ったりする程度だった。しかし、神の如き美貌を持ち、どんどん語り部の実績を積み上げていたわたくし様は、いつしか先生や町の偉い人に頼まれ、いつのまにかテレビに出演し、語り手として少しばかり有名になっていった。最初の頃は楽しかった。物語を作る力こそなかったが、わたくし様の語った物語が子供たちに届くことが。わたくし様の語りを聞いて、元気を出してくれる子どもたちがいたことが。そんな子供たちから感謝の手紙が届くことが。
だが、あの忌まわしき兵器が生まれてから、物語を語ることが楽しくなくなってしまった。子どもたちから寄せられる感謝の手紙も、いつしか減ってしまった。
その日。語り手の収録を終えた後、わたくし様はプロデューサーに怒られていた。
「言葉さん。何度も言わせないでくれる? シンデレラとか赤ずきんとか人魚姫とか、あんなゴミみたいな童話を読むのは辞めてちょうだい! あれは男が作った物。つまりこの世に残すべきではない毒物なの。あんな物語を子どもたちに聞かせたら、情操教育に非常に悪いわ。良い、言葉。私たちはただ金稼ぎの為にやってるんじゃなくて、子どもたちに学びを与え、成長させるためにこの番組をやってるの。二度と男が作った物語なんて読ませないで。次こんな事をしたらクビにするわよ!」
「⋯⋯はい。申し訳ありません」
「全く。あなたもいい加減男の物語が素晴らしいなんて思想をやめてほしいわね。男ってのは、こんなにも素晴らしい道具を使えない劣等種なのだから。劣等種の作るものなんて全部ゴミなのよ。ゴーミ」
彼女は力を誇示するかのように、腕に着けてあるリングのアクセサリーをわたくし様に見せびらかしていた。
散々怒られたわたくし様は控え室を出て自分の楽屋に戻り、着の身着のまま畳の上に転がりこんだ。
「⋯⋯はあ。もう嫌であるな。こんな事ばかりで」
昔はこんな世界ではなかったが、ある物が生み出されたことで、女尊男卑の醜い世の中となった。
その原因となったある物の名は
そんな凄まじい兵器だが、1つの欠点があった。それは女性にしか操作できないこと。それ故に女性と男性のパワーバランスは変化してしまった。と言っても、最初の頃はそこまで大きな歪みでもなかった。
ISを作るにはコアと呼ばれる物が必要なのだが、これを開発できるのはISの開発者である篠ノ之束のみ。そしてコアの総数は467個。よって作られるISも467機だけであり、世界に配布したとしても精々3,4機程度が限界。軍にとってはとてつもない力を秘めた新兵器程度で、軍に志願する女性が多少増えるぐらいのものだった。
しかし、各国の企業は血眼になってコアの解析や研究を行い、遂には疑似コアと呼ばれる物の開発に成功した。純正のコアと比べて多少の制限はあるものの、火力は純正のコアを使用したISと遜色なく、各国が安価で疑似コアを作れるようになる頃には、一国に1000機以上のISが配備されることが当たり前となり、世界のバランスは大きく歪み、女が幅を利かせ、男を奴隷のように扱う世の中となった。
男が作ったというだけで評価を大きく下げ、ゴミのように捨てられることが当たり前のようになった狂った世界。多くの制限がかけられてるとはいえ、一般人でさえISを持つことが当たり前となった世の中では、男の立場は塵に等しく、女は世界の支配者であるかのように振る舞っていた。
先ほどのプロデューサーもISを装着しており、腕に着けてあったリングがそれだ。人殺しが出来ないように制限はかけられてるものの、それでも男たちからしたら恐怖の対象でしかなく、ここで働く男性スタッフは皆、彼女の奴隷のように寝る暇もなく働いている。
こんな腐った世界のせいで、男の作った物語を語っても、子どもたちは何も感じないどころか、嫌悪するようになってしまった。誰が作ったかなど、物語の出来には全く関係ないというのに。そんな簡単な事さえ理解しなくなったこの世界を強く憎み、絶望した。
しかし、わたくし様1人で出来ることなどあるはずもなく、国や政府という巨大な力に流され、彼らの言われるがままにテストし、訓練し、今では日本代表候補生にして、専用機持ちという地位を得ている。世間から見れば羨ましいものでも、わたくし様にとってはゴミと同じくらいいらないものである。こんな物のために、わたくし様は語り手になったわけではないというのに。
プロデューサー曰く、語って戦えるアイドルこそ今の時代だとかなんとかで、強制的に血反吐を吐くような訓練を受けさせられ、長い鍛錬の果てに、代表候補の地位を手に入れた。
あの時の地獄は思い出したくもない。織斑千冬の超スパルタ鬼訓練は本当に死ぬかと思った。何度吐きそうになったことか。しかもダメージを翌日に残さず、完全に回復するように上手く調整してるから質が悪い。
「⋯⋯いつまで⋯⋯わたくし様はいつまでこんな生活を続ければ良いのであるか」
面白い番組がないかと思ってテレビを付けると、そこには衝撃の映像が映っていた。
『ご覧下さい! 女性しか起動できないと思っていたIS。このISを起動させた男が現れました。その名は織斑一夏、織斑一夏です!』
映像ではISを装着した男が、間抜けな顔をしながら周囲のマスコミに困惑している様子が見られた。
「ISを操縦した男⋯⋯世界のイレギュラー」
それを見た瞬間、ある物語がわたくし様の脳内で紡がれていく。荒削りでガバも多いが、もしこの物語を完遂させることが出来れば、今の腐った世の中に大穴を穿つ事が出来るかもしれない。
「く、くふふふふふ。くふふふふふふふ。まさか、こんな主人公属性を持つ者が現れるとはな。織斑一夏、そなたの力、神の如き美貌を持つわたくし様の描く物語の為に、利用させて貰うぞよ」