インフィニット・ストラトス 語り手が紡ぐ物語 作:パーノクス
Side 一夏
「全員揃ってますね。それじゃあ
にっこり笑顔でそう告げるのは俺たちのクラス副担任、山田真耶先生。身長は低めで生徒に混じっても違和感なさそうだ。おまけに服もダボッとしているせいでますます小さく見えるし、かけてる黒縁眼鏡も若干ずれている。
「それでは皆さん。一年間よろしくお願いします」
「「「「「…………」」」」
教室全体が妙な緊張感に包まれてるせいか、誰一人山田先生の挨拶に無反応。
「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順で……⋯」
流石に無反応なのは予想してなかったようで、少しばかりうろたえている。反応したいのだが、今の俺にはそんな余裕は微塵として存在しない。なぜなら、俺以外のクラスメイトが全員女子だからだ!
ここは
思い起こせば今年の2月。俺が試験会場を間違い、そこにあったISを起動させちゃったのが原因。女性にしか動かせない筈なのに、何故か男である俺が動かしてしまい、あれよあれよと言う間に、強制的にここに入学することになったのだ。なんでこうなってしまったんだか。
中学の頃の友達である弾なら、ハーレム最高とか言って喜ぶんだろうけどなあ。あいつ、こういう男が少なくて女子が沢山いるラノベみたいな環境に憧れてたし。
だが、実際にそんな環境を体験してる身から言わせてもらえれば、男子校行きたい。早くここを抜け出したい。
救いを求めて窓側の席に視線を向けるのだが、その視線の先に座っていたかつての幼馴染、篠ノ之箒は視線を送っても顔を逸らすだけ。それが6年ぶりに再会した幼馴染に対する態度でしょうか。もしかして俺嫌われてるんじゃないか。
「……くん。織斑 一夏くん!」
「は、はいっ!?」
目の前から聞こえる自分の名を呼ぶ大きな声によって逃避していた魂を現実へと引き戻され、はっとして裏返った声で返事をしてしまう。
「あっあの、大声出しちゃってごめんなさい。お、怒ってる? 怒ってるかな? ゴメンね、ゴメンね。自己紹介、『あ』から始まってい今、『お』の織斑くんなんだよね。だからね、ゴメンね? 自己紹介してくれるかな? だ、駄目かな?」
掛けているメガネがずり落ちそうになる程ペコペコと頭を下げる山田先生。何て言うか、生徒にそこまで下手に出るのは良くないと思うのだが。
「そんなに謝らなくても……⋯自己紹介しますから、とりあえず、先生も落ち着いてください」
「ほ、本当ですか? 本当ですね? や、約束ですよ。絶対ですよ!」
がばっと顔をあげて、俺の手を取り熱心にそう聞いて来る山田先生。いや、そんな熱心に言わなくてもきちんとやるつもりだ。
自己紹介は入学初日のイベントのようなもの。何事も最初が肝心だ。最初の印象が交友関係を大きく左右させる。
「ふう…………織斑一夏です。よろしくお願いします」
名乗り終えると、頭を下げそして上げるのだが、目の前の女子生徒達は『もっと色々喋ってよ』的な視線を送って来る。そして『これで終わりじゃないよね』と言う場の空気。すいません終わりなんです。視線に耐えられず、幼馴染の箒に視線を向けるも、また顔を逸らされる。あの薄情者めええええ。
頭の中でどうやってこの状況を乗り切ろうかと考えてると、俺の腕に何かがぶつかった感触があり、ちらりと下を見る。
すると、机の上に自己紹介の例文のようなものが書かれてる紙があったのだ。女子たちは俺の自己紹介に夢中になってるのか、俺の机にある紙には全く気づいてない。誰かは知らないが、これはきっと神様からの助けだ。俺はこっそりカンニングしながら、自己紹介の続きを言う。
「趣味は料理。得意科目は数学と科学。中学時代は家の事情で帰宅部であり、バイト三昧の日々でした。これから一年間よろしくお願いします!」
そう言うと、周りから拍手が送られてきて、満足したような表情をしていた。
(よかったあ。誰か分からないけど、この紙のおかげでなんとか乗り切ることができたぜ)
そう安心したのも束の間。
「誰かの助けがなければ、満足に自己紹介もできないのかお前は」
パアンッと小気味よい音を鳴りながら誰かに頭を叩かれた。
「いっーーー!?」
この叩き方、威力、角度、速度。とある人物が検索でヒットしたのだが。
恐る恐る振り返ると、黒のスーツにタイトスカート、スラリとした長身、過肉厚ではない美しいボディライン。狼を思わせる鋭い吊り目。間違いなくこの人は。
「げえっ、初代死神!?」
「誰が地球上で最高の殺し屋だ、馬鹿者」
パアンッとまた頭を叩かれてしまった。頭が割れそうなくらいに痛い。しかも、音が大きいせいで女子たちも若干引いてるし。
「全く。カンニングシートで手助けか。くだらない事をする性格は変わらないな。
死神⋯⋯ではなく、俺の姉、織斑千冬がそう言いながら見た生徒は、銀色の髪をなびかせる生徒だった。身長は160くらいだろうか。瞳は宝石のようにキラキラ輝いてる金色の瞳で、顔立ちが凄い整っていて可愛いと言うより美人系。同じ15歳のはずなのに、そう思わせない大人っぽさがある。スタイルもスラッとした体形ながらも胸が大きい。それにあの顔、どこかで見たような。
「あのままでは、織斑君が可哀想と思ったので。織斑先生こそ、もう少し生徒に優しくするべきでは? 厳しくする事と理不尽に暴力を振るうことは違いますよ」
「相変わらず生意気だな。しごかれて多少はマシになったと思ったのだが」
「いえいえ。あのしごきのおかげで、神の如き美貌を持つわたくし様はとーっても素晴らしい性格になりましたよ」
自分で神の如き美貌を持つと言うのか。確かにかなりの美人だけど、中々のナルシストだな。
それにしても、千冬姉とあの人の会話、聞いてて怖くなってくるな。まるで見えない火花でも飛び散っているかのような。知り合いみたいだけど、どういう関係なんだ。
「まあ良い。貴様とこれ以上話していても拉致が明かない。山田君、クラスへの挨拶を押しつけてすまなかったな」
「い、いえ。副担任なんだからこれくらいはしないと」
「諸君、私が担任の織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる為のIS操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことをよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで徹底的に指導してやる。逆らっても構わんが、私の言うことは絶対に聞け。いいな?」
何という暴君スタイル。こんな事言われたらほかの生徒達は流石に。
「キャーーーー! 素敵ぃ! 本物の千冬様をこの目で見られるなんて!」
「お目にかかれて光栄です!」
「私、お姉様に憧れて沖縄からはるばるやって来ました!」
クラスメイトの女子の殆どが黄色い声援を響かせた。
「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しくも本望です!」
「私、お姉さまの為なら死ねます!」
「……はぁっ。毎年毎年、よくもこれだけ馬鹿者共がたくさん集まるものだ。ある意味感心させられる。それとも何か? 私のクラスにだけ馬鹿者だけを集中させるように仕組んでいるのか?」
あまりの女子達の声援に、千冬姉は鬱陶しそうな顔で見ている。でも千冬姉、こういう人気は買えないんだぞ。少しくらいファンサみたいなことをしても良いと思うが。
「きゃあああああっ! お姉様、もっと叱って! 鞭で叩きながら罵って!」
「でも時には優しい笑顔を見せて!」
「そして絶対につけあがらないように躾をして私たちを奴隷にして!」
クラスメイトは元気で何よりだ。しかし
「⋯⋯⋯⋯」
先ほどの闇月と呼ばれた生徒は千冬姉の事を冷たい目で睨みつけていた。あれは嫉妬とかそういうのじゃなくて、憎しみのような怒りだ。でも、一体何をしたらあれほどのことを。
千冬姉は確かに厳しいけど、なんだかんだ優しい所もある事を知っている。あんな憎しみをぶつけられるようなことをするとは思えないんだが。
「さて。SHRは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらうぞ。その後実習だが、基本動作は半月で身体に染みこませろ。いいか、良いなら返事をしろ。良くなくても返事をしろ、私の言葉には絶対に返事をしろ。これは命令だ」
何という鬼教官。優しい所もあると言ったが、撤回したくなってしまった。
千冬姉は第一世代IS操縦者の元日本代表。しかも公式試合の戦歴は無敗の最強の存在。ところがある日突然、引退して姿を消してたのだが、まさかIS学園の教師をしてるとは思わなかった。
こうしてSHRは終わり、次は1時間目のIS基礎理論授業が始まるのであった。
Side 言葉
わたくし様は1時間目の授業が終わった後、早々に織斑一夏に話しかけに行った。
「織斑一夏。少しよろしいか?」
「ああ。えっと⋯⋯確か、闇月さんだっけ?」
「
「え、良いのか!?」
「かまわぬ。そなたはいきなりここに飛ばされた身だろう。ある程度教えてやらんと大変であろうし」
「助かるよ。じゃあ、このページなんだけど」
彼に分からない所を教えようとした所。
「⋯⋯ちょっと良いか?」
ポニーテールの女性がこちらに割り込んできた。確か、名前は篠ノ之箒だったか。あの天災科学者、篠ノ之束の妹。とはいえ、わたくし様にとっては特になんでもない相手だ。あの科学者には思う所はあるが、箒はあの科学者の妹というだけ。憎しみを抱くのはお門違いもいいところだ。
「⋯⋯箒?」
どうやら織斑一夏とは知り合いのようだが、なんだか睨まれてる気がするが、気の所為だろうか。
「すまない闇月。少しこいつを借りて良いか?」
「わたくし様は構わぬが」
「えっと⋯⋯箒?」
「廊下で話がしたい。ついてこい」
「わ、分かった。ごめん闇月さん。また後で」
彼はそう言うと、箒と一緒にそそくさと廊下の方へ行ってしまった。そして次に。
「ちょっと、よろしくて?」
声のした方を振り返ると、そこにはイギリスの代表候補生、セシリア・オルコットが立っていた。彼女も心なしか、わたくし様の事を睨んでるように見える。
「初めまして。ミス・オルコット。わたくし様は闇月言葉。日本の代表候補生です」
「あら。極東の島国の人間といえど、代表候補に選ばれるのなら、多少の礼節はあるようですわね。感心しましたわ」
言葉は褒めてるように聞こえるが、あからさまに見下したような物言い。自分の実力に絶対の自信を持っているが故に、他者を見下してるといったところか。
「それで。一体何用でしょうか?」
「同じ代表候補生ということで挨拶しておこうと思いまして。それに、貴方がどんな人間か気になっていましたから。ショックですわ。代表候補という素晴らしい地位を貰いながら、あなたは極東の猿に媚を売るくだらない人間のようですわね。同じ代表候補として恥ずかしくなりますわ。一体どんな教育をされてきたのやら。あんな猿に媚を売って物を教えるなど、愚の骨頂ですわよ」
極東の猿。織斑一夏の事を言ってるのだろう。露骨なまでの女尊男卑の人間。今では珍しくもない存在なのに、こうして直に会うと少しばかり怒りを覚えてしまう。こやつらのような人間のせいで、物語の価値が貶められている。そう思うと我慢ならない。
「わたくし様が誰と関わろうと、そなたには関係ないだろう。その鬱陶しい口を閉じて、少しでも学びの時間に費やしたらどうであるか? そなたは勉強は出来ても道徳は赤点のように見えるからな。そのままだと将来は苦労するぞ?」
「⋯⋯言ってくれますわね。島国に住む猿の癖に」
彼女に睨まれ、こっちも多少の殺気を込めて睨み返していると、キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴り始めた。
「ふん。またお話しましょう。島国の代表候補生さん」
そう言って、彼女は席に戻っていった。
「⋯⋯はあ。くだらない口論をしてしまった」
あそこは代表候補の人間として堪えるべきだった。下手に言い争えば、国際問題になる可能性もあるというのに。あまりにも未熟だな。放課後、代表候補の道徳やルール、マナーについて学び直さなくては。
わたくし様は、こんな所でつまずいてる暇は無いのだから。
察した方もいると思いますが、言葉は織斑先生が大嫌いです。代表候補になるための訓練でスパルタ教育を受けてきたので。しかし、織斑先生の『強さ』は尊敬してます。なんせ公式戦無敗のブリュンヒルデですからね