JCが歩む 作:永遠の12歳
迷子
私は後悔した。
もっと歴史を勉強しておけばよかった。
もっと真面目に授業を受けるべきだった。
もっと、ちゃんとした学校生活を送るべきだった。
「なんでこうなったぁぁぁぁああああ゛!!!」
当たりを見渡せば、着物を装い歩く人々……と宇宙人。
それに、和風しか感じられない建物達。しかし看板を見てみれば、それらの中身はあたしが生きていた時代と何ら変わらなそうに見える。
そして何より、でかでかと、こっちですよと激しめの主張をするBIGシルバーちんこ。
あたしは時代劇にでも巻き込まれてしまったのだろうか。
いや、それとも本当に転生とかいう三次元でしか起こらないものを成してしまったのか。
分からない。
こんな摩訶不思議を、ピチピチのJCがわかるわけが無い……!
しかも、こちとら授業中に櫛とミニ鏡を出して前髪を整えるクソみたいな女子というステータス付きぞ…………!
終わってる。本当に終わっている。
というかさっきからグサグサとくる道行く人達の視線が痛い。
なんだ、あたしが道のど真ん中に立っているからか?
それとも、叫んじゃったから?
なんにせよ、冷ややかな視線を向けられるポイントが多すぎる。
このままじゃあたし視線の刃に頸斬られちゃうよ。絶対に蜻蛉〇舞複眼〇角並に突き刺されてじわじわと死んでいっちゃう。
「やだなぁ……」
まだ、鬼滅〇刃の映画第二章見れてないのに。なんなら始まってすらいねーよ。
こんな所で死ぬくらいなら……
路地裏で怪しい取引現場見てアポトキる方がマシ!!
しかしどうしたものか。
冷ややかな視線を突きつけられることはなくなったけど、あたしが時代劇に巻き込まれちゃったていう事実は変わらないし。
それに、臭い。
路地裏に来たはいいけどさぁ、まさか黒い袋達からめちゃんこ臭い異臭がするとは思わないじゃん。
あたしが予想してたの、丸型の青いゴミ箱が幾つか置いてあって、上から槍が降ってきたりするそーいうの想像してんだけど。
臭い。
とにかく臭い。
しかも……なんか赤い液体みたいなのが地面に染みてるし。
あ、なんか血腥いかも?
「……」
これってそういう……
「ねぇ、お嬢さん。さっきから見てたけど大丈夫? もし、辛いことがあるのなら───」
「───きゃぁぁぁあああ!!」
ガチャガチャと揺れる手錠。
パトカーを運転する洋装を纏った男の人。
あたしの隣にも、一人ずつ。
パトカーなんて洒落ない車に乗るのは初めて。
揺られながら見るこの世界の景色に、なんの感情も抱かなかった……
「あ、嬢さんもミンティアいる?」
「あ、……っす」
さっきまでの混乱もいなくなって、頭がスースーしている。
まったく……おかしいほどに気分が悪い。
episode1・前にかける手錠ほど意味の無いものはない
廃刀令の時代に、唯一刀を帯刀することを許された特殊警察。
彼らは主に江戸の治安を守るために活動している。
見廻り、護衛、攘夷浪士共の捕縛。等様々で、時には任務のために腰に差している物を抜き、獲物を斬ることだってある。
良くも悪くも度々新聞に載り、彼らは人々に信頼と恐怖を与えた。
真選組は、江戸では知れた名だ。
「
「ないです……」
カチャカチャと忌々しい音を立てる手錠。
きゅっと力強く握られている拳は震えていた。
「……こんなこと聞きたくないけど、君の潔白を証明するには必要なことなんだ。もう一度聞くね。本当に、この人のこと知らないんだよね?」
「はい……」
腰に刀……ではなくバトミントンのラケットを帯刀した男の人は、佐藤めぐるに問いかけ続ける。
それらは身分の確認というよりも、少女がこの事件について隠し事をしていないかという確認作業に過ぎなかった。
なぜあの路地裏にいたのか。
黒い袋の正体について何を知っているのか。
写真に写っている女の人を知っているか。
男の人が提示した写真には凛とした少女が映っていた。話によると、3日前から家に帰っておらず行方不明との事。
なぜ彼は少女の写真を佐藤めぐるに見せたのか。
気味が悪い程に勘がいいあたしは気づいてしまった。
そう……黒い袋の中身は、写真に写っている少女の遺体だったのだ……
「あ、あの……御手洗に、行ってもいいですか……?」
「わかった。じゃあ、あの男の人について行ってね。終わったらまた声をかければいいから」
「はい……」
ずっと握られていた拳は、指が白くなっていて、手のひらには爪がくい込んだ跡があった。
仕方の無いことだ。見せつけるように腰に下げている刀に怯えてしまうのは。
こちとら令和の時代を生きる華奢な女子中学生ぞ。
刀なんぞ、フィクションの中でしか見た事がないんだ。
それに他人の血だって初見なんだから……本当にどうしようもない。
まぁ、小学生の時に派手に転んで両膝と両肘から血が出てるやつは見た事はあるかもしれないけど、それとこれはちがうから。
「ここで待ってるから、出てきたら声掛けて」
こんな不憫なJC他にいる?
時代劇に巻き込まれたかと思ったら、事件に巻き込まれちゃって。それに人生初の手錠とパトカー両方経験しちゃったよ。
もしここがゲームの中なら、トロフィー獲得出来ちゃうね。
達成:トロフィー・シルバー
キッザ〇ア、犯罪体験バージョン。
「はぁ……」
ふざけてる場合じゃないっつーの。
さっさっと手洗い終わらせて、無実を証明させなくちゃ。
このままじゃ、家に帰ることも儘ならない。
てか、あたし何処にいるかも、ここが何なのかもわかってないのに……
家に帰りたいなんて、そんな難しいこと……できるのかな……?
「……」
ううん。泣いちゃダメだよね。こういう時こそ、強気でいかなくちゃ。
あたしは長女だから我慢できる。
ネガティブなんかいらない。
ずっとポジティブでいなきゃ。
「あたしは強い子だから……長女だから……」
よしっ!
「あの……御手洗終わりました」
「ん、じゃあ戻ろっか」
さっきまで白かった指は、赤くなってるし、手錠の跡も少しついてる。
「さっき大きな音がしたけど……大丈夫かい?」
「大丈夫です。ちょっと転けて扉にぶつかっただけです。だから大丈夫です!」
「そうかい。なら良かった」
無実を証明して、暗くなる前に家に帰ろう。
家出少女というトロフィーを獲得してしまう前に、ゲームクリアを果たさなくちゃ。
「じゃあ引き続き、お話聞かせてもらうね」
「はい」
「どうして路地裏にいたの?」
「暗いところの方が落ち着くからです」
「へ? ……えっとじゃあ次。あの黒い袋のことなんだけど、思いあたることある?」
「ないです」
「この女の人なんだけど、関わったことは?」
「ないです」
「君は、─────」
── Prrrr. Prrrr.
「あ、ちょっと電話出てきます。暫くお願いします」
「あいよ」
この人達って、警察なのかな?
皆同じ制服を来てるし、刀を帯刀してる。あの山崎退っていう人は、なぜかバトミントンのラケットを腰に差してたけど、事情聴取のやり方もあたしが知ってる警察と何ら変わりはない。それに、パトカーにも乗ったし。
ここの警察という役割は、きっと彼らが務めているのだろう。
『迷子になった時、困った時は、進んで警察を頼りましょう。そのために彼らはいるのですから、何も遠慮する必要はありませんよ』
警察ならば市民が困っていたら助けてくれる。
小学生の頃先生が誰でも知ってることをよく言っていた。
いや、先生のお陰でみんな知ることができたのかな。
「あの、聞きたいことがあるんですけど……」
「ん?」
「ここって何処ですか?」
「え」
「あと、今って何年ですか?」
「えっと、ここは江戸で……今は────」
「───めぐるちゃん! ごめん!」
「え?」
「んぁ? 山崎どうした? 緊急の任務でも入ったか?」
青白い顔をした山崎退さんは言った。
「めぐるちゃんはこの事件に何も関係なかったんだ。今さっき、沖田隊長が事件の犯人を捕縛した」
犯人は、あの写真に映っていた少女を惨殺し、バラバラになった遺体を黒い袋に入れて路地裏に遺棄したと自ら主張した。
そして、綺麗なお辞儀をして首を差し出したことも。
山崎退さんは、犯人と同じように首を差し出す勢いでお辞儀する。
「君を疑って、しかも怖い思いをさせた」
「山崎……俺からも謝らせてくれ、すまねぇ」
警察という人達が、市民に頭を下げている。
もしあたしがゲス野郎だったら、写真撮ってネットに上げてるんだろうなぁ……
やだなぁ。
そんな大人にはなりたくない。
「はぁぁ……よかったぁ。あたし本当に無実だった」
自分のこと疑っちゃってたよ。
知らな内にカッとなって、無意識にころころしちゃってたとか。
もしかして、あたし多重人格で、小学生の頃に闇絵を描いてたサイコパス人格が出てきちゃってたのかと思って疑っちゃったよ〜。
はぁ、よかった。
「頭上げてください。疑われることをした私にも罪はあるんですから」
「めぐるちゃん……」
お巡りさん……いいんです。
本当に。
「というか早く手錠取ってほしいっす! マジで今容疑者の気分なんで。このままじゃ本当に罪おかしそう。早くしてっ!!」
「ハイ!」
ひとつの鍵で簡単に開いてしまう手錠。
手を握ったり開いたり、手首を回したりして、ようやく実感する。
やっと解放されたのだ、この息苦しい時間からやっと離れられる。
「ありがとう、お巡りさん」
「……こちらこそご協力感謝します」
あまり好ましくない状態なのに、気分の悪さも、頭のスースーさもなくなって、随分と気持ちがいい。
このまま帰路について、家に帰りたい。
少しだけ我儘が叶うなら、この特別な時間を過ごしたという証が欲しい。
夢でもなく、幻想でもない。
きっとこれを自慢したら、みんな羨ましがるだろうなぁ。
「じゃあ、気をつけて帰るんだよ」
「はい」
特に社会の先生。
あの人、自作プリントに歴史系アニメのキャラ名出すくらい歴史好きだし……
「……」
気をつけて帰る。
でも、どこに帰ればいいの?
「なぁ、山崎」
「どうかしましたか、沖田隊長」
「アイツの名前、
「そうですけど。それがどうかしたんですか?」
「そういや─────」
写真に映っていた子も似たような名前だった。
「いや、偶々でしょ。……もしかして沖田隊長、最近意味怖でも見ましたか?」
漢字も、読みも違う。
それに容姿も全然違う。写真に映っていた少女は髪が長く綺麗に切り揃えてあった。でもあの子の髪は短い。雑に切った感じの髪型だったけど、違和感なく似合っていた。
悪戯好きの沖田隊長だから、こんなことを言うのだろう。
きっと俺を怖がらせようとしているのだ。
次回・近所のおばちゃんにおかえりと言われたらなんて返したらいいか分からない