II:アイドル系魔法少女:IIと神バズリデザイナー   作:時雨 あさひ

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2nd Magic わたしが神バズリデザイナー⁉︎

 

「おー。すごい元気だねっ」

 

「だってってってって、おんぷちゃんがわたしの目の前にいて実在していてわたしに話しかけてくれてそれももう半端ない可愛さでお目目がきゅるんってしてて顔小さくてまつげめっちゃ長くてかわいっかわいっ何もかもがかわいっかわいい細胞でできてる? 元気いっぱいなところもかわいくって私服なところも私服⁉︎ 私服⁉︎ え待ってすっごく似合ってる‼︎ やっぱりおんぷちゃんにはミニスカートが合うなって思ってたの! なんていうか言葉が下手でごめんね? かわいさを前面に出すんじゃなくて絶妙な女の子感っていうかおんぷちゃんの良さは勿論かわいいもあるけどこっちまで笑顔にしちゃう明るさだからほんとにほんとにそれが良くってそれにキャスケットがおしゃま味を倍増させて理想のおんぷちゃんの私服そのものっていうかすごくて、すごくて、すごくて……‼︎」

 

「おー…………すごい……元気、だね……」

 

 息継ぎも無しに言ってしまい、ぜぇひぃとしか音にできない口に酸素を与える。

 

 現実か? 幻想(ユメ)なんじゃないか?

 だけど今表情が引きつっている女の子は紛れもなくおんぷちゃん、おんぷちゃん? なんでそんなにドン引きしてるの? ちょっと距離も置いてない?

 

 ……でも、そんな顔してるおんぷちゃんもいいな……。

 

「で……その……平気? お水いる?」

「だっ大丈夫……だよ。心配してくれてありがとう……」

 

 おんぷちゃんの優しさが身に染み渡る。

 

 荒かった呼吸を整える。

 脳の熱はすーっと抜け落ちて、わたしはようやく冷静さを取り戻した。

 おんぷちゃんはわたしを見て、くすくすと笑った。

 

「つむぎお姉ちゃんって、本当にわたしのこと大好きなんだね」

「うん! すっごく大好き! 世界でいちばん好き!」

「ほんと? あなたの1番になれて嬉しいなっ」

 

 こんなことを言われたら、わたしの語彙の泉が「かわいい」で埋め尽くされてしまう。

 信じられないけど、目の前にいるのは一昨日に見た香純(かすみ)おんぷその人だ。変装なんかじゃないと魂が告げている。

 

 平常心を取り戻した今、改めておんぷちゃんの私服姿を見る。

 長い髪はまとめてお団子ヘアに。キャスケットを被り、メイクもカジュアルなものにしていた。英語とロゴがプリントされたカットソーに、黒色のミニスカート。そして白の厚底スニーカー。

 ガーリーな印象を受けながらも、彼女の持ち味なほがらかさが良く出ている。センスが王道なのも、またおんぷちゃんらしい。

 

 彼女はぴょん、とステップするような足取りで近づいてくる。

 それだけなのに、視線を釘付けにされてしまう。

 プライベートであっても、否、プライベートだからこそか。好きな人の別側面なんて、いくらあってもいい。

 足を止めたおんぷちゃんが口を開く。

 

「それでね? わたしがつむぎお姉ちゃんを呼び出した理由なんだけど……」

「呼び出した……そっか。わたし手紙で……」

「驚いて忘れちゃった? そう、わたしが魔法を使って鞄に忍び込ませたのです。なんたって、アイドル系魔法少女だからね☆」

「そうなんだ……! 魔法ってすごいね……!」

 

 えっへん! と誇らしげに胸をはるおんぷちゃん。

 そっか。だから朝の講義中には無くて、昼食終わりに入ってたんだ。

 ウキウキを隠しきれず、わたしは目を輝かせて問うた。

 

「他に魔法ってどんなことが出来るの⁉︎」

「知りたい〜?」

「知りたい!」

「ふっふーっん♪ ステッキからビームが出たり、流れ星に乗って街を上から見たり、寝坊した時に身支度をちょっぱやで出来たり、お菓子が出てきたり、めっちゃ強くなったり、め(中略)ど(中略)ろ(中略)ー(中略)あ(中略)出来たりもする!」

「すごーい! そんなことまで⁉︎」

「そう! そして、わたしが得意なのが笑顔の魔法! これを習得した香純おんぷちゃんは、みんなに笑顔になって欲しいから、アイドル系魔法少女として活動しているのです!」

「そうだったんだ……‼︎」

 

 どのサイトにも載っていない情報を知ることができて、わたしは感涙する。

 でも、と首を傾げた。

 

「なんで……わたし、なの?」

 

 するとおんぷちゃんは、さも同然と言う顔で言った。

 

「お姉ちゃんって、お洋服を作ってるんでしょ? それでお願いがあってーーー」

 

 驚きの発言に目を丸くする。

 それを知ってるのは東京ではたった2人。

 おんぷちゃんには、まだ話していない情報のはずだ。

 

「え、えっ。待って、それも魔法で?」

「ううん。違うの。なんで知ってるかって言うとね。

 ーーーこれ、お姉ちゃんのでしょ?」

 

 おんぷちゃんはポケットから取り出したスマートフォンを、わたしに画面を突きつけた。

 ヴィジョバが普及しているとはいっても、価格やコンパクトさ(持ち運び)ではスマホに軍配が上がる。だからまだ主流はあちら側にあった。

 それに写っているのはSNSの投稿。

 4枚の写真とアカウント名が、

 

「ぎゃっ!」

 

 悲鳴を上げて飛び退く。

 何故だ。

 何故、これが現存している。

 

 写真の中身は1着の衣装。

 それを、それぞれ別の視点で撮った4枚。

 間違いなく、()()()()()()()()()()稿()()()ものだ。

 

 透明感(とうめいかん)のある煌びやかなワンピース。肩の金色の装飾(そうしょく)は、全体の緑色とのコントラストを考えて製作した。

 モチーフは『舞踏会(ぶとうかい)の妖精』。スラっとしたシルエットは、着ている妖精をある程度想像させるように出来ている。袖は無く、花柄のオペラグローブを採用。靴は既製品(きせいひん)のヒールを。

 当時のわたしの集大成であり、今でもなお完成度の高い1品。

 衣装に関しては何の罪も無いが、訳あって思い出したくない4つの黒歴史の1つだ。

 

「こ、れ。お姉ちゃんのでしょ〜?」

 

 汗だらっだらのわたしを面白がったおんぷちゃんは、いじわるな表情で問い詰めてくる。

 まずい、なにか、言わなければーーー

 

「わたし、知ってるんだよー?」

「なニをっ?」

「つむぎお姉ちゃんが、衣装を作る時に雰囲気(ふんいき)にあったイニシャル刺繍(ししゅう)するの」

「ほへっ? な、な、な……」

()()()()()。そうだなぁ。正直に言ってくれたら、よしよしって撫でてあげ」

「わたし! わたしです! わたしがやりました!」

「る、って言う前に言い切ったの怖っ⁉︎ どうやって喋ったの今⁉︎」

 

 わたしでもそんな魔法知らないよ⁉︎ と声を張り上げるおんぷちゃん。

 これは仕方ない。仕方のないことだ。

 確固たる証拠を言い当てられ、反論できる余地が無いのなら、頭を下げて白状するのが人の末路(まつろ)。決して(えさ)に釣られたわけではない。

 ……なでなで、まだかな。

 

「……分かってはいたけど、この人だいぶ感情が激しいな……」

 

 おんぷちゃんの中でわたしの評価が下がったような気がするが、多分気のせいだろう。

 はあ、とため息を吐いておんぷちゃんが尋ねる。

 

「もしかして、これって何かの嫌な思い出と結びついてたりする?」

 

 またしても図星(ずぼし)。表情に出てしまっていたようで、おんぷちゃんは納得がいった様子だった。

 ぼそぼそと、わたしは話し出す。

 

「こ、高校生の頃……初めてのバイト代で、奮発(ふんぱつ)して作った服が会心の出来で……調子に乗って……SNSに上げたの……使ったことのないアカウントで……」

「うんうん」

「朝起きて、確認したら全然反応が無くって。それで……一日中、反応を気にしてたら気が狂いそうになって……アプリを消したの……」

「なるほど。あ。アプリを消したらアカウントも消えるって思ったんだね」

「うん……消えないんだね……過去って……」

 

 消え去りたい衝動にかられ、涙が浮き出る。

 顔を見られたくなくて、わたしは下を向いた。

 これを思い出すと、当時の恐怖と孤独感が鮮度そのままでぶり返してきて死にたくなる。

 普段考えないようしてるネガティブな感情が、あっという間に膨れ上がり心を覆い被す感覚。

 

「でも、その過去って案外良いものみたいだよ?」

「え……」

 

 慰めではないまっすぐな声に、顔を上げた。

 おんぷちゃんの爪がスマホの画面に当たる。指さしたのは写真よりも下の方だ。

 うぐ、と思わず目を逸らす。

 でもおんぷちゃんのすることなら、と元に戻す。

 わたしは促されるままそこを見てーーー驚愕した。

 

 

 

 ()()()()()()()

 

 

 

「か、」

 

 

 

 ライクスパイダー(拡散数)()()()()()()

 

 

 

「ばずっ、」

 

 

 

 インプレッション(閲覧数)()()()()()

 

 

 

「うそっ、」

 

 

 それを確かーーーSNSではこう言うはずだ。

 

 

 

「か、か、かっ神バズリしてる〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッッッ!???!??!??!!??!??」

 

 

 

 バッ! と、まるで教祖のように手を広げたおんぷちゃんは告げる。

 

「そう! つむぎお姉ちゃんはたった1件の投稿で瞬く間に注目を浴びた、いわば神バズリデザイナー!」

 

 かくいうわたしも、これに惚れこんだ1人なの! とおんぷちゃんは続けた。

 情報が耳から頭に入ってこない。わたしは今、放心という状態にあった。

 

「ほんっと、見た時感動して泣いちゃって! 夢に出てくるおとぎ話の世界がパァって広がって、それが現実にあるだなんて、凄いの感情しか浮かばなくって。あぁもう、とにかくすっごくてすっごくてすっごかったのの〜〜〜〜‼︎」

「まーーーーー」

 

 空を仰ぎ、呼吸をして叫ぶ。

 

「ーーー全く実感が沸かない! 他人事のように感じる!」

「なんでぇ⁉︎」

「た、多分嫌な記憶すぎて客観視してるからだと思う……」

「よーし、それじゃあ一緒に喜ぼう! そうしたら本当に自分がやったって思えるっしょ! やったー! めちゃくちゃバズってるぞー!」

「や、ヤター! たくさんの人に、見られて、嬉しいなー!」

「バズるって並大抵のことじゃできないぞー! それをやってのけたつむぎお姉ちゃんはすごいー!」

「そうなのー⁉︎」「そうだよー!」「そうかー!」

 

 わたしはおんぷちゃんの見よう見まねで、手を上げて片言の台詞を発する、ぎこちない喜び方しか出来なかった。

 でも、こうして万歳しながら口にしてみると、何だか本当に嬉しくなってくる。

 魔法じゃない、おんぷちゃん自身の力。そう感じとれた。

 

 

 

 

           ♪

 

 

 

 数分するとそれも終わり、確かな実感がわたしの心に芽生えた。

 苦労した甲斐(かい)があった、という気持ちは少なく、この服が評価されて本当に良かったという安堵(あんど)()めていた。

 

 足跡がしっかりしているのは良いことだ。

 でも、後ろを振り返った時に、この長い道をここまで歩いてきたんだと教えてくれる大きな光こそ必要だと。そう思えたのだ。

 わたしは微笑む。

 

「ありがとうね、おんぷちゃん。教えてくれなきゃ、死ぬまでずっと悔いってたよ」

「つむぎお姉ちゃんを笑顔にすることが、アイドル系魔法少女の使命だからね♪ わたしは当然のことをしてまでだよっ」

「そうやって人を救っちゃうおんぷちゃん大好き!」

 

 わたしはついついおんぷちゃんを抱きしめる。

 …………え?

 なにこれなにこれなにこれなにこれめっちゃ良い匂いするなに使ってるのこれを嗅いだまま永眠することが目標になったんだけ、肌柔らかっすっごいぷにぷにしてるんだけど赤ちゃん? 赤ちゃんっておんぷちゃんだったんだ! 通りで愛くるしいわけだ包まれて何だか眠くなってきたもしかしておんぷちゃんって安眠に効く? だとしたら全国に原寸大のおんぷちゃん抱き枕を製造しなきゃ、いやそれはだめだ! こんなに効果のあるものが世に知られてしまったら世界がおんぷちゃんを取り合う戦争になっちゃうそれだけは阻止しなきゃいけないおんぷちゃんはみんなに笑顔を振りまく存在なのに! だから今はわたしがわたしをわたしで我慢しなきゃ!

 

「つ、つむぎお姉ちゃ……苦し……っ」

 

 腕の中でおんぷちゃんが本当に苦しそうな声で懇願(こんがん)してきて、ハッと我に帰って急いで離れる。

 

 まただ。また、やってしまった……!

 今日のわたしはいくらなんでも浮かれすぎだ。

 大好きなおんぷちゃんを目にして話して救われたとはいえ、こうも自分勝手なことをしたなら嫌われてもおかしくはない。

 

「ごっごめんね。き、嫌いになった?」

 

 おそるおそる聞く。咳払いの後、おんぷちゃんは首を振る。

 こうして宗教って出来たんだろうな、という謎の考えを頭から消し、おんぷちゃんが治るのを手伝う。

 

 ふぅ、と長く息を吐くおんぷちゃん。

 

 すると、もう一度吸って、吐いた。

 

 

 

「ーーーそれで。いよいよ本題」

 

 

 

 真剣な顔で、声色で、香純(かすみ)おんぷが話を切りかえる。

 一気に空気が変わり、ぶるりと身の毛が震えて鳥肌が立った。

 

 時間は夕方になろうとしている。

 綺麗な夕焼けが地球の裏側に、朝を届けようとゆっくりと沈む。

 

 すっかり大学からは人の気配が無くなっていた。

 

 おんぷちゃんとわたしだけの、2人の世界。

 まるでこうなっていたのを、世界が事前に決めていたかのような、そんな気さえしてしまう。

 

 万歳している間、パチパチと脳内で情報(ピース)を組み立てて、ある程度の想像は出来ていた。

 もしその通りならーーーきっと、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 こくりと頷き、おんぷちゃんの言葉を待つ。

 

 口が、開く。

 

 

 

「七星つむぎさん。あなたにーーー

 ーーーわたしの衣装を作って欲しいの」

 

 

 

 決意の(ひとみ)だった。

 いつもの明るさとは打って変わった口調は、それだけで彼女がいかに本気かを物語(ものがた)っていた。

 

「わたし、色んな魔法は持ってるけど、服を作る魔法は持ってないの。だから、自分で作らなきゃいけなくって。

 それで……その……あんまり良い出来って言えないでしょ? 頑張っても、頑張っても、わたしにはあれが限界。

 そんな時にあなたの投稿を見て、感動したんだ」

 

 弱みを見せている。

 あの香純おんぷが、わたしに対して、笑顔ではない顔を見せている。

 

「本当に、素敵だった。あれが着れたら、この人の作る服を着れたらって。

 もし、会えたのなら。

 わたしに、その魔法をかけて欲しいって」

 

 不思議な感覚だった。

 どこかおんぷちゃんじゃない誰かが、喋っている気がして。

 

「……今のままのわたしだと、やりたいことまで届かないの」

 

 そう言って、ほんの一瞬、目をそらす。

 おんぷちゃんのファンだからこそ、わたしはそれを見逃さなかった。見逃せなかった。

 話す時に口が小さくなったのは、明らかな自信の無さが表れていた。

 

「だから、お願いします」

 

 アイドル系魔法少女、香純おんぷ。

 

 その彼女があんな顔をするのは、見せるのは、おそらくわたしにだけだろう。

 

「ごめんね」

 

 でも。

 それは、駄目だ。

 

「わたしはーーー」

 

 

 

 

 

 それじゃあ駄目なんだ。

 

 

 

 

 

 

「わたしは、おんぷちゃんの言うことは聞けない」

 




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