II:アイドル系魔法少女:IIと神バズリデザイナー 作:時雨 あさひ
「マジ生き返る~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
七星つむぎです。わたしは今、天国にいます。
おんぷちゃんに衣装を着てもらって、告白して、ライブを見て。
とっても素敵な体験を終えたわたしと沙苗ちゃんは2人でスパにやってきました。
天然温泉が体を芯から温めて、ボロボロのわたしを癒してくれています。
なんでこの世に銭湯やスパがあるかを身をもって知りました。仕事疲れの社会人とか部活終わりの学生が多い理由も分かる。
ここは原宿駅から20分ほど歩いたところにあるスーパー銭湯で、岩盤浴の評判も良いとのこと。これから行くので楽しみです。
「そうだろそうだろー? ここ、アタシのお気に入り」
沙苗ちゃんが自慢げに言う。長い髪をゴムでとめてざっくり目なお団子ヘアになっていた。
こういう、一緒にお風呂に入ったことが無かったので、沙苗ちゃんの腹筋が割れていることに驚いた。
正直言ってめちゃくちゃカッコよくって今後見る目が変わりそうになる。SNSで言うところのメロいというやつか、これが。
なんでも中高と陸上部だったらしく、土日の部活が終わると、よくここに来ていたのだと言う。大学では方針を変え、水泳をやりたいとのこと。
わたしは、というといまだ決めかねている。おんぷちゃんの衣装づくりもあるし、ガッツリ目は無理だろうなと思う。完全趣味な茶道が現状一位ではあるが……。
ひとまずは、大学生活に慣れるまで保留としておこう。
ああ、それにしてもーーー
「おんぷちゃんのライブ、すっごく良かった……」
もう死んでもいいかってぐらいの素晴らしいライブだった。めちゃくちゃかわいくって笑顔がキュートで存在がプリティーだった。
それも! わたしの! 衣装を! 着て! である!
この関係が今後も続くとなると、尊さにより体が持たない日は近いという予感がする。流石に目はほじくりたくないので感情を自制しなくてはならなくなる。
じとっとした目で、沙苗ちゃんが言う。
「まだそれ言うか? さっきもずっと言ってたじゃん」
「だってだってだって、この世で最も神聖なものだったんだよ、わたしにとっては。網膜に焼きつけた」
「そうかい。神聖視はほどほどにな。厄介オタク一歩手前だぞ、つむぎは」
そう言い、目を閉じる沙苗ちゃん。
おんぷちゃんに対して害になるのだけは避けたい。というより害をなす人間がいるならどんな手を使っても消す。
待って、これってまさか厄介オタクの考えなのか?
なら、この湯にそれを浄化してもらおうと、わたしも瞳を閉じた。
「「ふぅ…………」」
温まり、安心の息がハモる。
休日なので人が多く、湯気が室内中にかかっていた。
それがスパに来たという実感になり心地よかった。あまり体は見られたくない派なので特に。
骨の髄までふにゃふにゃになったわたしは呟いた。
「もうここに住みたい」
「それな。てか家に露天風呂が欲しい」
「あぁぁ最高ー」
同じく気が抜けた声に同意した。
「誰にも邪魔されないプライベート空間って、なんか憧れね?」
「分かる気がする……。頭を静かにしたい時、結構あるよね」
「それはあるけどさぁ、人付き合いとかから離れたい。一人になって夜の風に吹かれながらお湯に浸かりてぇ」
わたしは思わず大きく目を見開いた。
都会っていう状況は、そこまで息苦しいんだろうか。
「沙苗ちゃんにもそういうのあるんだ……」
「あー? 誰にだってあるっしょ、そういうの」
「じゃあさじゃあさ、お金貯めていつか貸切風呂入ろうよ。……あ、それだとわたしもいるか」
「いいよ、つむぎなら。気遣いとかいらんし。それ採用。バイトの繁忙期終わったら一緒に行こうぜー」
気遣いがいらない―――その言葉に、わたしは嬉しくなる。
それから少し、沙苗ちゃんとなんでもない話を続けた。
大学の課題のことだったり、流行しているコスメのことだったり、今日の晩ごはんを何にするかだったり。
こういった話をしていると、沙苗ちゃんとは本当に気の知れた仲だなぁと再認識出来て、何だか嬉しかった。
そういえば何か、話すことがあった気がした。
そう気付いたのは、今の話題が4日前の出来事だったから。
ぼんやりとした記憶は、それこそ湯気のように掴みどころが無くてうまく言葉に出来ない。
いつ、どこでだったか……。
目を瞑って唸り、どうにか引っ張り出そうとするも、進歩は無い。
すると、隣からざぱぁという音が聞こえてくる。見れば沙苗ちゃんが立ち上がっていた。
「話してたら露天入りたくなってきた。行こう」
わたしは頷き、続いて立ち上がる。
「うわ、さっぶ」
「お風呂の嫌なとこって、お風呂から出ることだよね……」
湯気で温かい室内から、風が吹く外に出たために、寒暖差が激しく体を縮こませる。
「あ」
しかし、その寒さがわたしの記憶を呼び覚ましてくれた。
ストリートアイドルの件だった。あれから何日経ったんだ? 沙苗ちゃんにおんぷちゃんのことを話した時だから、4日になるか。よくもまぁ思い出せたものだ。パスの放物線がそこまで行くとは思うまい。
また忘れたりしないよう口パクしながら歩く。
ぺちぺちと粒石の床を踏みしめ、飛ぶこむみたいに体を湯に入れる。
お湯の効能を感じる間もなく、わたしは話題を振った。
「沙苗ちゃんに聞きたいことがあるんだけど」
「ん? なに?」
両手を組んでうーんと上げた沙苗ちゃんが、こちらを向く。
一瞬だけ無防備な腋に目がいった。黒子があったからだ。待て、流石にそれはおっさんがすぎるぞ、と自制心が働いて顔の方に視線を移動させる。
「おんぷちゃんって、いわゆるストリートアイドルなんだよね? その……それが、何なのかってことを聞きたくって。他のとどんな違いがあるの?」
ようやく言えたことに、謎の達成感を覚えた。
きょとん、とした顔になる沙苗ちゃん。
「知らなかった?」「知らなかった」「そっからか……」
自分がいかに常識知らずなのかは自覚していた。
SNSに関しては元からあまり触れていなかった上、例の黒歴史でからっきしだった。おんぷちゃんのおかげで晴れたので、今後は少しずつ知っていこうとは思っている。
が、それ以前に興味が無いものには、とことん無関心なのがわたしだった。裏表が無いというよりかは、我が強いの方が合っているのではと自己分析している。
そんなことでわたしは、アイドルについてもっと詳しく知ろうと考えた。
「教えて、お願いっ」
「おけ。それじゃ、まずは基本的なことから」
沙苗ちゃんが、取り付けられたテレビへ指をさす。
夕方によくやっている、バラエティ番組が放送されていた。
『ノーブルクラウン』という札が立てられたエリアと、『グロリアスコスモス』という札のエリアがあった。女性アイドルがお題箱に手を入れて、中の物を取り出す。どうやらそのお題で勝負して、合計ポイントの多い事務所が勝ち、という内容らしい。
「あれが、事務所所属のアイドル。言い換えるなら『プロジェクトアイドル』な。アイドルっていうと、大体の人はこういうのをイメージするんじゃない?」
「うん。いつも沙苗ちゃんが見てる番組も、そのプロジェクトアイドルの子が出てるやつ……っていう認識でいい?」
頷く沙苗ちゃん。
「グループは違うけど、あそこの『グロリアスコスモス』ってところのね。CDっていう現物があって、大きな会場でライブしたり、色んなメディアに出てたり、ファンクラブに入れば限定動画見れたり。事務所っていう後ろ盾がある分、露出と供給が多くて目にしやすいのが、プロジェクト」
「へ~……。なんていうか……まんまだね」
人並みの意見しか出てこない。
「あっはは。ま、そうだな。今のところ、勢力がデカいのが、主に女性アイドルを売り出してる『ノーブルクラウン』と、男女どっちもな『グロリアスコスモス』」
ちょうど、番組にいる人たちの事務所だった。
言われてみれば、確かに格が違う印象を受ける。
特に、黒髪のロングの人からはこの世のものとは思えない、ただならぬ魅力が画面越しにまで伝わってきていた。
「影響力も実力も超一流。ドームライブをどちらかが奪い合いしてるくらいの覇権コンテンツってわけ。5万のキャパ争奪戦もアタシらにはあるんだけどね」
「5万!? それでも足りないの!?」
5万人なんて、もはや人口だ。
アイドルの力というのは、それほどまでに大きいのか。
沙苗ちゃんは呆れた様子で言う。
「足りない足りない。アイドル黄金期なんだぞ? 100万人のファンはくだらないし、その内ライブに行きたいのが半分でも50万人以上! そりゃあヴィジョバも流行るってもんっしょ!」
あまりの大きさに、開いた口が塞がらない。
それでチケットを取れなかった大多数が、ヴィジョバに行きつくのか。
ライブ会場に行かずとも同等の体験が出来るというなら、確かに喉から手が出るくらいに欲しい代物。
なんとも間の良い便利機器だ。
「すっごいね……」
「ドーム争奪もチケ戦も元からだったのに、ブームが来たからやっべぇの。きらめに会えんくなったの結構ツラい」
「あ。沙苗ちゃんも被害者だったんだ」
「もう1年近くも現地に行けてないからマジでつれぇんだよ~~~……」
沙苗ちゃんは怒りをばしゃばしゃとお湯にぶつける。
今の会話でどれだけプロジェクトアイドルが凄いかは伝わった。
となると……。
ばん! と最後の一撃をぶつけた沙苗ちゃんに、わたしは尋ねる。
「で、そうじゃない、個人活動しているのがストリートってこと?」
「まぁ待て待て。概ねそれであってるけど」
「? プロジェクトのことは分かったから、次にと思って……」
「アタシも十分話したと思ってる。だから、次」
こほんと改まって、沙苗ちゃんは言った。
「学校生活をしながら活動しているのを、スクールアイドル」
「―――スクール、アイドル」
ゆっくりと、その言葉を反復する。
聞いたことがあるような、無いような響き。
中学生ぐらいの時に、クラス中がその話をしていたような―――
「ほら、アタシらが中2の時に『トライアイドル』っていうの流行んなかった?」
その単語を聞いた途端、頭にビビッと電気が走る。
聞いたことがあるし、友達に見せてもらったこともあった。
わたしは両手を合わせ、同時に納得する。
「あったあった! 動画サイトで、制服着て歌って踊ってたり、YouTuberっぽいこともしてるやつでしょ⁉︎ 懐かしい!」
2人ユニットで、水髪の子が
『何ごとも挑戦‼︎』をスローガンにし、アイドルだけではなく多種多様なことに挑戦していく様子が人気を博した、当時の小中学生がハマりにハマったチャンネル。
あまりSNSを見ないわたしでも、毎日更新があると直ぐに見ていたぐらいにはどハマり状態だった。数少ないSNSの良き思い出だ。
思い出話に声を大きくしたわたしに張り合うように、沙苗ちゃんも興奮しだす。
「っしょ⁉︎ っしょ⁉︎ 流石のつむぎでも知ってたか! 1番好きなのなに? アタシはマグロ漁船に乗ったらデッカいクジラを見つけた回!」
「えー! それいいよね! わたしはね……1番か……えー? あ、あれかもっ。マスコットを作ろう生放送で……」
「あれかー‼︎ 哀がありえんキメラ作ってしばらく3人が笑ったやつだ!」
「それでっ、それ、それにすることにしてっ、名前ッ付けようってなって、ヒッ、楽々がトライくんって付ける流れがほんっっと、にッ、面白くって……!」
だめだ。一連の流れを思い出すと笑いが止まらなくなってしまう。
沙苗ちゃんも手を叩いて引き笑いしていた。
少し経って笑いがおさまると、沙苗ちゃんは続ける。
「えぇっと……スクールアイドルの話ね。基本的には部活動でやってんだって。結構どこの中学高校にもあって、人気っぽい」
「想像つかないな……。わたしの高校には無かったし……」
「でね、さっき言ったトライアイドルが出てきてから、スクールアイドルってもんが変わったらしいんだよ。主にネットが活動の場になって、流行の最先端を行く! って感じに」
「え? トライアイドルって、スクールアイドルだったの?」
「んーなんかそうらしい。言われてみれば制服も着てたし。あ、スクールはアイドル衣装がそのまま制服なことが多いんだよ。それでぇ……か?」
「判定甘くない?」
「ぶっちゃけアタシも思う」
2人して苦笑いをした。
ほどよく温まった自分の体をわたしはなぞる。
入ってから結構経ったし、話が途中ではあるがそろそろ出たい気分だった。
だいぶ疲れが取れたと思う。強張った筋肉がほぐれ、肩を回すとぐんぐん動く。
その時、上部に取り付けられたスピーカーからチャイムが鳴った。
『この後、17時より、二階岩盤浴エリアにて、ロウリュを開催致します。お越しの際は……』
アナウンスがわたし達に告げる。
それを聞いた向かい側にいる学生グループが、わいわい話しながら露天を後にする。時計の方に目線を向けると、ロウリュまで10分前と示していた。
「つむぎ、行く?」
沙苗ちゃんが尋ねてくる。
聞く話によれば、岩盤浴はとても効能が高いと聞くし、イベントがあるのなら行くべきだろう。
わたしは立ち上がって言った。
「うん。行こう」
「よし、行こうか」
そういうことになった。
番組を見て歌月詠奈以外の人物描写が無かったのは、単につむぎが興味を示さなかったからです。