II:アイドル系魔法少女:IIと神バズリデザイナー   作:時雨 あさひ

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6th Magic ストリートアイドルのひみつ②

 

 岩盤浴への道中、わたしは沙苗ちゃんのスマホで、今流行しているというスクールアイドルのMVを見ていた。

 グループであろうその4人は楽曲を流しながら、学校の廊下をぐるりと1周している。風船やらキラキラした飾りやらがあり、見る人を飽きさせないような工夫がしてあった。

 たまにエキストラだろう学生に絡みに行ったりして、学校の和気あいあいとした雰囲気も垣間見えた。

 

「なんか、ただの学生って感じ……」

 

 わたしが見ながら呟くと、沙苗ちゃんはガクッと体を崩す。

 

 今、わたし達は館内着に着替えていた。

 岩盤浴を利用するには必要で、追加料金を払い床に敷くタオルと館内着を貰う形になる。

 

 髪を下ろしている沙苗ちゃんの一枚下にはあの腹筋が隠れていると思うとドキドキする。知っているのは自分しかいないと思うと何でか優越感まで湧いてきた。

 

「めっちゃ冷めてる言い方!」

 

 ケラケラと沙苗ちゃんは笑う。

 意外で、目を見開く。

 今のは明らかに良い意味では無い。だというのに沙苗ちゃんの様子は未だ明るい。不機嫌になってもおかしくはないだろうに。

 

 階段を下って、2階の休憩室に来た。

 等間隔に設置されたリクライニングシート。本棚の中には漫画が端から端までびっしりと収納されている。

 落ち着きのあるクラシックが流れているので、シートに腰を下ろして瞳を閉じればそのまま寝ちゃいそうな雰囲気だった。

 

「けど、そういうところ……あー……親しみやすさと、気軽さが、流行を生み出してるってところがある」

「そうなんだ……。あ、それってトライアイドルの影響?」

「そうそう。あれのおかげで、スクールアイドルってのは手を伸ばしやすいのになって、今も勢力をガンガン伸ばしてるわけだ」

 

 教師みたいに話す沙苗ちゃん。

 やはり、わたしの中ではアイドルっていうよりもインフルエンサーの印象だった。

 説明を受けてもイマイチ釈然としない。

 当人等に会えば変わりもするだろうが……。

 

 わたしは眉をひそめ、目を細める。

 投稿から6日。再生回数は400万を超え、コメントは1万以上。

 流石に世も末とまでは言わないが、何というかもやもやする。

 

「なに、アイドルなのが解釈違い?」

 

 沙苗ちゃんはわたしの不満げな顔を見やって、顔をニヤけさす。

 わたしは無言で、ただ口を結んでこくこく頷いた。

 

「ははっ。いつの間にかつむぎにもそういうの芽生えてんの。いいじゃんいいじゃん」

「なにが……?」

 

 不機嫌そうに問うと、沙苗ちゃんはさらっと言った。

 

「だって、お前って好きか無関心かのどっちかじゃん。苦手って感情があって良かったなってさ」

「…………」

 

 言われて、自分も気がつく。

 

 もやもやとした思いの原因は、それだ。

 なら、苦手な理由も紐付いて分かる。思い出のスクールアイドルと、今のそれとを瞬時に、無意識のうちに比較していたからだ。

 二番煎じだと、感じていたからだ。

 

 それは良くないと思う反面、それでもアイドルの名を冠するのに対しては懐疑心がある。

 スクールアイドルとインフルエンサーの線引きがまるで分からない、が理由だ。

 

 これに関しては、まださっきの動画を見たのと、ちょっとの説明だけの知識だから。

 ようは知識不足と先入観という低俗な代物が生じさせた結果だ。それは失礼にも程がある。

 

 わたしは申し訳なさで頬をかいた。

 

「こめん、ちょっと変な先入観で見ちゃってた」

「そーいう時もある。ま、アタシが見せたのは一例だから、他のやつ見たら許容自体は出来るっしょ、多分。アタシが今推してんのはさ、普通の高校に通ってんのに、どことなくお嬢様気質な子でーーー」

「うんうん」

「体のしなやかさがバズってて、そっから追ったんだけどさ、雑談動画でのほんわかした性格がギャップで沼。ガチでいいから。白雪万理亞(しらゆきまりあ)って名前」

 

 これ、と画面を変える沙苗ちゃん。

 

『そうそう。先日、同級生の方々とお泊まり会をしましょうとお話をいただいたのです〜。そこで、皆さまに聞きたいことがありまして。持って行く菓子折りは、どういった物が好まれるのでしょうか〜〜〜?』

 

 ライトグリーンの髪でタレ目な女の子が、ほにゃあ〜っとした緩んだ表情で、またもや、ほにゃあ〜っとした喋り方をしていた。

 遊びに行く時にわざわざ菓子折りを持って行くなんて、よほど育ちの良い人なのだろう。

 

 彼女のかわいらしい顔が近づく。コメント欄を見ているようだ。

 一気にコメントが加速する。あどけない瞳が上へ下へと移動した。

 

『ほえっ。いりませんのっ? あ、いらないのですかっ? 知りませんでした……ありがとうございます〜。むぅ〜……日本だとそうなのですか……トリュフチョコレートでもと思ったのですけれど……

 

 なにやら聞き捨てならない言葉をぽそぽそと口にして、万理亜は眉を落とす。

 もしかして外国育ちの人なのだろうか。

 

「この、箱入り娘なのにその秘密を隠してる感が良い。たまに出ちゃうのも小動物っぽくって……良くね?」

 

 しみじみと万理亜の良さを語る沙苗ちゃんの姿が、あまりにも珍しくておかしくて小さく笑ってしまった。

 

「うん、ちょっと分かる。親しみやすいっていうのも伝わってきた」

 

 嘘偽りない言葉だった。

 同時に、沙苗ちゃんってこういう女の子が好きなんだなぁと思った。

 

 ふと、さくらちゃんを思い出す。

 あの子も似たような雰囲気なので、だから仲良くなったのかな? と想像した。

 

「そんで、こっちがバズったやつ」

 

 スマホの画面が変わる。

 6人グループのMVだった。これがスクールアイドル部のメンバー全員らしく、概要欄には名前とイメージカラーのハートが。

 全員が一斉にジャンプする。その中で明らかに万理亜だけ高く、着地も品があった。2倍は跳んでいた。

 次は他の子のソロパート。後ろでくるくると回る様はバレエを見ているようで、そっちに目がいってしまう。

 

「存在感がすごい……」

「っしょ。明日に配信あるから見ようぜ」

 

 分かった、と返す。

 この子なら苦手意識は浮かばないし、入門には丁度いいだろう。

 

 

 そんなこんなで、岩盤浴である。

 

 敷いたタオルから、温められた石の熱が体に伝わってくる。

 じわじわと背中を、腕を、温める。

 室内に蔓延しているロウリュの蒸気が顔の発汗を促進させた。

 

 息を吸うと微量の熱気が喉にくる。

 静かで、温かくて、寝息まで聞こえてくる。

 

 腕の汗がびっしりになると、わたしは体を裏返した。今度は表面である。

 顔に近い分、温度が高いように感じた。

 細かく息を吸って吐く。そして、長い息。

 

 出る頃にはタオルが汗でびっしょりになっていた。

 給水機で水分を補充してから、クールルームに入る。

 ひんやりとした空気が、温まった体をしめつけた。

 

「馬鹿汗かいた……」

 

 沙苗ちゃんとわたしは、タオルで汗を拭きとる。

 岩盤浴でかく汗には保湿効果があるので、肌にハリと弾力が戻ってきた。もちもち触ると面白い。

 

「んでねぇ……あんだっけ。プロジェクト、スクール……を話したんだっけ」

「話した話した。いよいよストリート……」

 

 2人とも口調がほわほわしていた。

 ここまで来るのに結構時間が経っている。まさか話が分割するとは思ってもいなかった。

 

 そして沙苗ちゃんは一言だけ、口にした。

 

()()()()()()()()()()

 

 その言葉を理解するのに、10秒かかった。

 

「それ、以外」

 

 見開いたわたしの目と、沙苗ちゃんの目が合う。ふざけてなんか一切ない目が、わたしを見つめる。

 

 プロジェクト、スクール、そのどちらでもないのがーーーストリート。至極単純で、実にそれはーーー

 

「雑、すぎない? 区分」

「それな。ようはさっき言ってたみたいな、個人で活動して、組織に属さないアイドルをストリートアイドルって呼ぶ」

「だとすると……スクールみたいなSNS中心だけど、学生じゃなければストリート?」

「ストリート」

「どれだけ人気があっても、事務所からのスカウトが来ない限りはストリート?」

「ストリート」

「プロジェクトに変わったことのあるストリートアイドルは、いる?」

「ーーーいない」

 

 絶句、する。

 アイドルを夢見て、活動しているのがストリート。

 好きな気持ちが手を伸ばすキッカケになって、どうしてもなりたいと思ったのがストリート。

 それ以外。その烙印を押されたのが、ストリート。

 

「香純おんぷみたいに、2年も続けられるのはごく稀。大抵は3ヶ月で夢半ば終わる。宣伝力に欠けて、人気が出なくて辞めるとか、活動費が大きすぎて辞めるとか。そういう流れ。

 増えては減って、増えては減って、ってのが現状。ストリートアイドルは路上ライブしか出来ないから、許可取りが必要なんだせど、競争率が高かったりで上手く取れなくて辞めるのも珍しくない。

 昼のおんぷのライブが、今までのストリートで最多の観客だな、あれは」

 

 当たり前のように、沙苗ちゃんは語る。

 当たり前のように、現実を語る。

 

 誰にも知られず、人知れず終わる。

 それは当然のことだ。観客がいない、少ないのに続けられるのは僅かしかいまい。

 

 地上には目も向けられない。

 仰ぎ見て、その人の目を輝かせるのが、アイドル。

 大きな星の光こそ、アイドル。

 

 そう、言われているのと同義だった。

 

 わたしは知っている。

 香純おんぷが、ストリートアイドルが、どれほどまでに人の心を動かすかを、知っている。

 

 でも。

 そんなおんぷちゃんが、言ったのを覚えている。

 

『……今のままのわたしだと、やりたいことまで届かないの』

 

 あの時、衣装を作ってほしいと言ってくれた時に見せた、悲しい顔を覚えている。

 

 アイドル系魔法少女香純おんぷでさえ、行き詰まりを感じていた。だとしたら他の人は、一体どんな思いをしているのだろう……?

 

「スクールはストリートよりも若さを売りにしてるから、どこも相当数のファンがいるんだけど、ストリートは本当に……その……見ようとしない人が多い、んだわ。透明化……って、言うかさ……」

 

 この部屋の寒さゆえか、体が震え上がる。

 思った通りだった。わたしの中で憤りを感じる。触れてもいないのに、無視するなんてありえていいはずが無い。

 

 俯き、言いにくそうにする沙苗ちゃん。

 重苦しい雰囲気が伝わってくる。

 なにか、わたしの預かり知らぬことが彼女の中で起きていた気がした。直感でしか、なかったが。

 

「……正直、アタシもおんぷを紹介されるまで、そういうのがあったんだよ。でも、つむぎが言ってるんなら、見に行きたいなって。そう思えて」

「そう、だったんだ」

 

 自分もかつてはそうだったから、後ろめたい気持ちがあったのだ。

 それで、言いにくそうにしていたのだろう。

 

 沙苗ちゃんは、さっきのわたしのように申し訳なさそうな顔をする。

 

「ごめん。気分悪くなる話しちゃったな」

 

 わたしは首を横に振った。

 

「沙苗ちゃんは悪くないよ。それに、今はストリートアイドルを見る目が変わったんでしょ?」

「そーなんだけど……。んー……」

「そーいう時もある、でしょ?」

 

 沙苗ちゃんに言われた言葉を、わたしはそのまま言い返した。

 ポカンとした顔。それが数拍置いて、笑いに変わる。

 

「うん。そうだ。そんで、そーいう時は過ぎた」

 

 

 わたし達はクールルームから離れ、円型のソファーに腰を下ろす。

 ゆったりとした雰囲気が眠気を誘う。

 引き締まった体はいつの間にか平温に戻り、それが心にゆとりをもたらした。

 

 プロジェクト、スクール、ストリート。

 このアイドルブームにいる3つの勢力。

 

 ふと、考える。

 

 もし、そういう隔たりを取っ払って、実力で戦ったら一体どうなるのだろう。

 

 やはりそうなると、プロジェクトの一強になってしまうか。

 それとも、案外スクールが勝つのだろうか。

 ストリートは、勝てるのだろうか。

 

 自分でもヤケにストリートに肩入れしているなと思うが、おんぷちゃんがストリートだからにしか他ならない。

 あれだけ輝いて、人の心を豊かにするのだ。

 初めて会った時の心のドッキュンは忘れたことがない。アイドルというものを知らないわたしにでさえ、魅力が伝わったのだ。

 笑顔がかわいい。笑顔じゃない時もかわいい。頭から指先までかわいい。声がかわいい。優しさがかわいい。

 

 もっともっと沢山の人に見て貰えば、その良さが分かる。そうわたしは信じている。

 

 だから、わたしは願った。

 

 ーーー香純おんぷが、いつか、大きい場所でライブ出来ますように。

 

 そうして、わたしは瞳を閉じた。





尚この後寝てしまって晩ごはんはスパで食べた模様。

次回はつむぎとさくらと……?
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