II:アイドル系魔法少女:IIと神バズリデザイナー   作:時雨 あさひ

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二月公先生、『声優ラジオのウラオモテ』完結おめでとうございます。愛しています。





7th Magic ●番目に見惚れた人

 

「それでねそれでねっ♪ つむぎお姉ちゃんがわたしに言ったの。生涯わたしの衣装を着てくださいって!」

「おぉ〜っ、堂々とした告白だー。えー? その時、グッと来ちゃったんじゃない〜?」

「そうなのー! もう心がキュンキュンしちゃって! カッコよかったよ、つむぎお姉ちゃん!」

「あっあっあっあっ、はひ。はひひ。へへっ……」

 

 ファミレス。

 女3人。

 内1人アイドル系魔法少女。

 

 そう、わたしこと七星つむぎと、友人の虹音さくらと、運命の相手の香純おんぷ。

 その3人がこの場で、食卓を囲んでいた。

 

 目を輝かせて、あの日の出来事を語るおんぷちゃん。

 隣にいるので動悸がヤバい。何より髪と肩が触れ合いそうなのがヤバい。目の焦点が合わなくて動きの1つ1つが気になって反応がしどろもどろ。

 どう思われてるんだろうか、と怖い思いを抱きながら息を吸う。

 

 さくらちゃんはニヤニヤしながらおんぷちゃんの話を聞いている。

 えらく楽しげに、うんうんと声に出しながら頷く。薄い茶色の髪が揺れ、耳に付けているピアスがチラリと見えた。

 その話を人から聞くと小っ恥ずかしさがやってくる。何故だ、あの言葉や行動には悔いなんてないっていうのに……‼︎

 

 どうして、こうなってしまったのか。

 話は、少し前までさかのぼるーーー

 

 

 

           ♪

 

 

 

「んじゃ、アタシはスイミングサークル寄ってくんで先帰ってて」

「分かった。先に家で待ってるねー」

 

 バイバイして沙苗ちゃんと別れる。

 

 東京にやってきて、実に2週間が経つ。

 大学からアパートまで。アパートから近くのスーパーまでの土地勘は掴めたので、少し活動範囲を広げてもいいかなぁと思った講義終わりの頃。

 

「あれ。さくらちゃん」

「おー。つむぎちゃん、今帰り? 途中まで一緒行かない〜?」

 

 さくらちゃんと昇降口でバッタリ会ったのだ。

 今日は大人っぽいハーフアップアレンジ。艶やかな薄い茶色の髪と、落ち着いた明るい色の春ニット、足首まである丈長スカートが素体(モデル)の魅力を引き出す。

 いつも思うが、とっても美人で目が離せない。マスカラを変えているのか目が普段よりもパッチリしていて、自然と顔に視線がいく。

 ほわ〜としたゆるゆるな表情は、優しげな空気を生み出してるみたいだ。

 

「うん、いいよ。一緒に帰ろう」

 

 そう頷くと、さくらちゃんはわたしの手を握った。ほんのりと温かい感覚。

 わたしは驚いてしまい、顔を赤らめた。

 スキンシップとはいえ迷わずに握られたので、行動の大胆さにドキッとしてしまった。

 

「ありがとー。よーっし、今日は上京して来たつむぎちゃんをエスコートしちゃうからねっ」

「ふふっ」

 

 顎に手を添えたキメ顔でさくらちゃんは言う。

 ただ帰るだけなのに大げさだったので、わたしは笑ってしまった。

 

 けどさくらちゃんのこういうノリの良いところがあって、仲良くなるのに時間はかからなかった。

 笑わせてくれたりする、一緒にいると楽しい友達。たった2週間ほどの付き合いでもそう思えるのは、ひとえに彼女の人徳あってのものだった。

 

 手を少し持ち上げ、一礼をしてみせる。

 

「よろしくお願いします」

「承知仕った」

 

 何故か時代劇めいた言い方するさくらちゃん。

 見合わせ、しばしの静寂が訪れる。

 ぷぷっと。おかしな空気に耐えきれず、わたしとさくらちゃんは頬を膨らませ、アハハハと弾け笑った。

 

 

「この前のアドバイスで、公募に出す絵本が完成したの〜。サンキューだよつむぎちゃん」

「ほんと? 役に立てて良かった」

「うん。おかげでちょー自信作。なんでもいいから賞ってやつを取ってみたいね……」

「今度、完成品を読ませてもらってもいい? わたし、主人公の汽車くんが結構気にいってて」

「マジ? いいよいいよー、明日持ってくるね〜」

 

 機嫌が良さそうに、手を繋いだままのさくらちゃんは鼻歌を歌う。

 

 信号が青になったので共に足を進めた。

 

 同じように帰宅する学生の姿は多い。そのいずれもがヴィジョバを身につけていた。

 

 ヴィジョバにはよそ見をしていたり、間違えて赤信号を渡ろうとすると、ブルブルと強い振動がきたり音が鳴るなど、警告をしてくれるシステムがある。

 それに、建物の影に隠れている車も察知できるので、曲がり角でぶつかるケースは激減した。

 装着するAR機器ならではの利点である。

 その代わりバッテリーの消耗は激しいのだけれど。

 

 それにしても、と仰ぎ見る。

 

 東京を歩いてみると、高いビルが多くて圧が凄い。

 地元は都心部では無かったので、こういった高層建築物が多いところを歩くのは1種のステータスだと思っているわたしである。

 

 地元の空が見えるほどよさが、少しだけ恋しくなった。

 地元……と思いを馳せると、弟の顔がどうしてか真っ先に浮かんだ。生意気な弟である。小学生なのにCG作って自主アニメ制作しては公開して、莫大に儲けている怪物だ。

 

 そんな弟だったら『壊し甲斐があっていいなぁこのビル達』とか羨ましがるのかな、と想像してみる。言うな、絶対。写真を撮って送りつけてやろう。

 せっかくだし、わたしとさくらちゃんのツーショと共に送ろうか。キャンパスライフを楽しんでます、という意を込めて。

 

 スマホを手に、まずは煽り構図でビルをパシャリ。

 

「さくらちゃん、さくらちゃん。弟に送る用に写真撮りたいんだけど一緒にいい?」

「おぉ。いいよー。仲良しなんだねぇ」

「なか……よし……? 話はするけど……それほどではないかな」

 

 これを送るのも『あー? つむ姉大学に入ったのに友達の1人も出来ねえのかよ。笑えるわー』とか言われないようにするためである。想像なのに腹立ってきたな。

 

「撮ろう撮ろーう」

 

 邪魔にならないよう建物側に寄る。

 インカメに切り替えると、さくらちゃんは頬に片手を添え、ハートの左半分を作っていた。

 よく分からないけど、わたしもそれにならって右半分ハートを作る。

 にしっ、とさくらちゃんが歯を見せて微笑み、頬と頬がぷにっと触れる。

 

 何故か湧き上がる胸のドッキュンを全力で隠し、ボタンを押した。

 

 パシャリ。

 

「おっ。映えてるぅ」

 

 撮った写真を見て、さくらちゃんは口角を上げる。かわいらしくて、仲が良いのがひと目で分かるようだ。

 ビルの写真と一緒にメッセで弟に送る。

 さあて、どんな反応するかなアイツと笑みを浮かべる。すると瞬時にスマホがバイブした。

 返事がやって来たのだ、それも速攻で。

 

『おお。間に挟まりたくねぇな』

 

 ……これ、どういう意味だ?

 

「……さくらちゃん、これ意味分かる?」

「ブホッ。……ケホ、ケホっ。あー……うん。そのぐらいに、そのー……仲が良いってことが、伝わったってこと……なんじゃない〜……?」

 

 そういうものか。

 弟のことだから、わたしの知らないSNSの言葉だろうが……まぁ、興味はないから置いておこう。

 それにしても、なんでさくらちゃんは吹き込んだんだろう?

 

「これ、うちの妹にも送っていーい?」

 

 そう言ってスマホを取り出すさくらちゃん。子ども向けアニメのカバーで、夢の絵本作家と相まって趣味がなんとなく察せられた。

 

「もちろん。さくらちゃんにも下の子がいるんだ」

「可愛い子だよー? わたしのこと、姉さん、姉さんって言ってて。ちょっと前まではお姉ちゃんって呼ばれてたんだけど、やっぱ高校生になると恥ずかしいのかなぁ?」

 

 すごく楽しげに、早口で語り出した。

 さくらちゃんが妹を溺愛(できあい)している姿は想像に難くない。というか、それしか浮かばない。

 わたしは苦笑して頬をかく。

 

「でもなぁ、姉さんってちょっとぶっきらぼうな言い方も良いなぁって思えるんだよねぇ。ちゃんとわたしのことは好きだから、ツンデレ風味があるっていうか。いつもわたしのこと気にかけてくれるし」

「へー……仲が良いんだね、2人は」

美優(みゆ)ちゃんって言ってね〜、今高校2年生なんだけど、いろーんなところを兼任してるの。生徒会とか演劇部とか」

「そうなんだ……。聞いてるとあんまり、さくらちゃんの妹って感じしないかも」

「わたしに似てなくて凄い子だよー? 似てるとこは体格と顔ぐらい」

 

 結構失礼なことを口走ったわたしをさらっと受け流し、さくらちゃんは妹の話を続ける。

 

寡黙(かもく)で美人で才能があって視野が広いし、ウラもオモテも無いから人望があって男女問わずモテるし。自慢の妹なの〜〜〜えへへ〜〜〜」

 

 頬を緩ませるどころか溶けているレベルのさくらちゃんは、顔に両手を添えてくねくねとしている。

 それを見て羨ましい、とわたしは思ってしまう。

 

 ここまで愛されている人をわたしは知らない。

 別に、家族に愛されなかったとかそういうのではない。ただ、彼女へ向けられる愛情の深さがとても綺麗に見えたから。

 家族とか、友達とか、仕事仲間とか、恋人とか。この世界には色んな関係性があるけど、ここまで強大な愛はそこらを探しても無いのではないかーーーと、そう思えたのだ。

 わたしがおんぷちゃんに対する愛を除いて。

 

 小さく、わたしは微笑む。

 

「小っちゃい頃はねー、自分のこと、舌ったらずにみうって言ってーーー」

 

 こうなったら最後まで聞こう。

 そう思っていた時だった。

 

「ーーー姉さん。人の恥ずかしいところを勝手に言わないでください」

 

 さくらちゃんの背後に、1人の女子高生が立つ。ほぼ背丈が同じだったので、持っている鞄に目が行かなければ気づかなかった。

 凛とした声だった。それでいてトーンもハッキリしていて、おそらく普段から発声練習をしている人なのかな、と感じた。

 たった1言口にしただけで、その人のおおまかなイメージがつく。そんな声だった。

 

「わっ⁉︎ 美優ちゃん⁉︎」

 

 さくらちゃんが驚いて振り返る。

 それで、顔が見えた。

 

「ーーーーーー」

 

 綺麗。第一印象はそんなありふれた言葉だった。

 黒い髪をうなじまで伸ばし、二重でアイラインがハッキリしているつり目は吸い込まれるような魔力があった。白い肌は人形のようで、かたく結んだ口が余計に無機物感を生じさせる。

 男性が見たら女性に、女性が見たら男性に見えるような、そんな少女だった。女性と分かったのは制服が理由だった。

 

 驚くべきことに、わたしはその少女に見惚れてしまった。

 おんぷちゃん以外に、わたしはこんな感情を抱くのかと、自分自身に驚愕する。彼女の魅力に度肝を抜かれる。

 

 そして。

 

 なんとなく、だけど。

 

 どこかで、あった気がした。

 

 呆れた顔をした、美優なる少女が口を開く。

 

「あのですね。秘密にしておきたい、なんて部分があるのは当然ですし、やめておいた方がいいと思いますよ姉さん。他人なら絶対に。それなら、私も姉さんの恥ずかしい部分を話しましょうか?」

 

 それを聞いて、右目をひくひくとさせるさくらちゃん。

 

「どれを……? どれを話すというの美優ちゃん……?」

 

 美優は腕を組んで、ふむと考えだす。たったそれだけのことなのに、わたしは目を奪われる。

 そんなにさくらちゃんには黒歴史があるというのか。ああでも創作する側だったら、わたしみたくSNS関連でそういうこともあるのかもしれない。

 ごくり、とさくらちゃんは唾を飲んだ。

 

「そうですね……。pixi●で、」

「ごめんなさいィーッ‼︎ お姉ちゃんがぜーんぶ悪かったからそれだけは友達に言わないでお願いィーーッ⁉︎」

 

 さくらちゃん、まさかのジャンピング土下座。あまりにも綺麗なフォームだったので内心10点を与えるわたし。

 なんだ? 何があった? 高度な推理戦が繰り広げられていたのか?

 固唾を飲み込むしかないわたしは、ヒエラルキーが可視化された姉妹の様子を見つめる。

 

「でしょう? これに懲りたら、私の恥ずかしいところを言わないでください。そんなに嫌いなんですか、私のこと」

「嫌わないよぉ〜⁉︎ 世界中の誰よりもお姉ちゃんは美優ちゃんを愛してる‼︎ 好き好き! だいしゅき!」

 

 捨てられた元恋人のようにさくらちゃんは必死に縋りつく。

 こんな感じなんだ、妹の前だと。普段とまるで違うが……でもまぁ、わたしも弟の前だと性格悪くなるしこんなもんか?

 とはいえ、ここは街中。注目を浴びてしまうので、外側に立って通る人が見えないようにする。振り向いたり角度が変われば全然見えてしまうのだけれど。

 

「でしたらいいんです。ええ」

 

 ちょっとだけ笑みを浮かべ、美優は言った。

 声色もなんだか明るく、納得がいったというよりは、当然と反応しているみたいだった。

 まさかだけど、それ言われたいがために嫌いかって聞いたのだろうか。だとしたら相当な……いや、考えすぎだろう。

 

「え、えーっと……」

 

 おそるおそる、声を出す。

 これか、弟よ。間に挟まりたくねぇってやつ。

 第三者の立ち位置を獲得したわたしに、美優は目線を向ける。

 

 一瞬、ポカンと彼女の口が空いた。

 それがどういう心情であったかは、知るよしもなかった。

 口が再び閉じられると、美優はわたしへと向き直る。

 

「申し遅れました。そこにいる虹音さくらの妹。虹音美優(にじのみゆ)です。お噂はかねがね、姉から聞いています」

 

 ぺこり、と美優は一礼する。

 そこて。

 

 あはは、と苦笑いして、わたしも頭を下げた。

 

「初めまして。七星つむぎです。これからよろしくね、美優ちゃん」

「ーーー。ええ、初めまして。よろしくお願いします、つむぎさん」

 

 美優ーーー美優ちゃんはさっきとはまるで違う、柔らかな表情をしてみせた。

 人形のようだった顔は人間そのものになり、優しげな眼差しが心を揺さぶる。カアッとわたしの顔が熱くなるのを感じ、さっと目を背けてしまった。

 そういう、顔も出来るのか。なんというか、これは、強くないか? それはモテるはずだ。これに落ちない人間はそうはいまい。

 

「? どうしたんですか?」

「ヤッ。そのぉ……凄い、表情の使い方がっ良かったと言いますか……へへっ。見惚れちゃったって言いますか……」

「そうなんですか? 褒めてくださりありがとうございます」

 

 私、演劇部に入っていて、それで鍛えられたんだと思います。美優ちゃんはそう続けて言った。

 確かさくらちゃんも言っていた。生徒会に入ってて演劇部にもいると。在校生徒の心総なめなんじゃないか? 男装なんてしたら女子の黄色い悲鳴が止まないのは目に見える。

 

 かわいい系な姉と美形な妹。

 創作のような姉妹であった。

 

 しかし、見比べてみると本当に体格も変わらない。顔もその面影がある。

 ということは、さくらちゃんもメイク次第ではもっと化ける可能性があるということ。

 よく、姉妹の入れ替わりが少女漫画であったりするが、もしかしたら2人なら……。

 

 なんてことを考えていると、さくらちゃんが立ち上がった。

 

「で……わたしたち今帰ってる途中だけど、美優ちゃんも……一緒来る?」

 

 先の出来事もあってか、尻すぼみに小さくなる言葉。

 だいぶ尻に敷かれているな、とわたしはそれを横目に見た。

 

「残念ですが、遠慮しておきます。これから予定が入っているので」

 

 瞳を閉じて美優ちゃんは断った。

 しょぼんとするさくらちゃん。愛らしい姿にふふっとわたしは笑う。

 

「そうなんだ。色々大変だと思うけど、頑張ってね。あ、もし服のこととかで聞きたいことがあったら言ってね。わたし、腐ってもファッションデザイナー志望だから」

「お気遣いありがとうございます。その時が来たら、遠慮なく。つむぎさん。姉さんのこと、よろしくお願いしますね」

「そんな。さくらちゃんはずっと頼りになる子だよ。わたしは助けられてる側」

「……分かります。姉さんはーーー」

 

 ひと間置いて、静かに。

 美優ちゃんは呟いた。

 

「ーーーいつも、わたしにくれてばかりですから」

 

 

 美優ちゃんと別れて、駅まで辿り着いた。

 とことん人が多く、目を離せばはぐれてしまうので、手は繋いでいる。

 仕事終わりのスーツ姿の社会人もしばしば見え、もうそんな時間かと驚いた。

 ここから、わたしとさくらちゃんは別々の電車に乗るのでお別れになる。

 

「なんか、濃かったね」

「ごめんねー、完全に家にいる時のテンションなってた〜……」

「楽しめたから平気平気。あれほどの美人とは思わなかったな、妹さん」

 

 交通系ICをチャージしながら、思い出す。

 画面の中ぐらいでしか見ることのないレベル。アイドルとかモデルとか、そういったもの。

 それが美優ちゃんだった。あれでまだ高校生だというのだから末恐ろしい。成人になってしまったら一体どうなってしまうのか。

 

 アイドルと言えばおんぷちゃん。おんぷちゃんはもちろん美人だけど、方向性が違う。なんならさくらちゃんに近い。

 性格も近いと思う。笑顔にしてくれるし。かわいいし。気がきくし。

 

 思えば、さくらちゃんに会った日に、私服姿のおんぷちゃんに会った。

 

 可愛かったなぁ、と思い出してニヤける。

 

 思えば、手紙を受け取ったのは、さくらちゃんと会ったランチの時だった。

 

 告白かと思って声に出してしまった。恥ずかしい記憶だ。

 

 思えばーーー

 

 

「…………」

 

 

 そこで、ふと。

 ありえない想像がやってきた。

 

 

「さくらちゃん」

「ん? なぁに?」

 

 チャージし終えたさくらちゃんの顔を見る。

 

         ーーードクン、と心臓が跳ねる。

 

 似てはいない。

 

         ーーードクン、ドクンと。

 

 声だって違うし、顔の印象だって違う。背は同じくらいだが、握った手の感覚はあの時のものではない。

 

         ーーードクドクドクドク、と。

 

 そんなはずはない。馬鹿馬鹿しい。

 心がそう言ってるように心臓の鼓動がはやる。

 でも、何故だか……。

 

         ーーードク、ン。

 

 言いたくなって、しまったのだ。

 

 

「おんぷちゃんってーーー」

 

 

 

 

「あーっ! つむぎお姉ちゃんだー♪」

 

 

 

 

「おんぷちゃん!??!??!!????!?!!!???!!?」

 

 

 わたし達の後ろ。

 そこに、私服姿、のおんぷちゃんが、いて。

 えっ。え…………っ。

 

 わたしなんて馬鹿なこと考えてた⁉︎ そんなわけないじゃん! うわうわうわうわうわうわほんっっっっと自分が嫌になってくる何探偵ごっこしてんの? ありえるわけなかった! ほんの一瞬でもさくらちゃんがおんぷちゃんなんじゃないかって思っちゃった!

 そんなわけないもんね、おんぷちゃんはおんぷちゃんだもん! 生まれた時からアイドル系魔法少女なんだもん!

 あ、だめだこのままだと目ン玉くりぬきコースになるかもそれだけは避けねば‼︎ 両目でおんぷちゃんを見たいから‼︎

 

「え、なに? おんぷちゃんっておんぷちゃん……?」

 

 わたしの発言がおかしすぎたのか、そのまま反復するさくらちゃん。

 どっちを向けばいいか分からずチャールズ・タナ・ギブソンの絵のような状態になるわたしに、おんぷちゃんが抱きついた。

 

 抱きついた⁉︎

 

「久しぶり、つむぎお姉ちゃん! わたし、しばらく会えてないから寂しかったんだよ……?」

 

 おんぷちゃんが、子犬のような潤んだ目で見つめてくる。泣き姿もかわ、泣かせたのは誰だ。無論わたしだ。どれだけ罪を増やせば気が済むのだお前は。死刑だ死刑。

 罪悪感に苛まれていると、さくらちゃんがおんぷちゃんと目があった。

 

「妹、いたの?」

 

 さくらちゃんが、冷や汗をかいて聞いてくる。

 実に壮大な間違いであった。

 

「ちがっ、違うのっ。この子はね、アイドル系魔法少女の、香純おんぷって言って……」

 

 わたしが焦って説明すると、おんぷちゃんは言ってしまった! とばかりに目を見開いて大きな口を開ける。

 なにかマズいことを言ってしまったのだろうか?

 

「つ、つむぎお姉ちゃん! 魔法少女は正体を早々には明かさないのがセオリーなんだよ! あれはつむぎお姉ちゃんだったから言ったの!」

「へぇ⁉︎ そ、そうなのぉ……⁉︎」

「うむ。そういうものなのです。でも……バレちゃったねぇ……えぇと……おんぷちゃん」

 

 さくらちゃんはニヤけた顔でいじわるなことを言ってくる。怯えるかわいいおんぷかわいいちゃん。

 

「はわわわ」

「へっへっへっ……心配することはない……。わたしも魔法少女好きの端くれ。誰にも言わないと約束しよう……」

「ほ、本当に……?」

「約束は守るさ……」

 

 差し出された小指を、おんぷちゃんはぷるぷると震えさせながら自分の小指で組む。

 いつの時代にもある、約束事のおまじないだ。

 こうして約束は締結された。

 

「ありがとうね、ええと……」

「さくら。虹音さくらだよー。よろしくね〜」

「うんっ♪ さくらお姉ちゃんっ♪」

 

 笑顔でそう言われた瞬間、さくらちゃんが胸を抑える。

 成ったな。

 

「う、うぅ……お姉ちゃんって言われたらおしまいだ……その術はわたしに効く……」

「えー? ふふふー、さくらお姉ちゃんさくらお姉ちゃんさくらお姉ちゃん!」

「ウボアー」

 

 まるで小さい子とじゃれ合うようなリアクション。

 微笑ましかったが、同時に嫉妬した。

 

「ふふ。面白いね、つむぎお姉ちゃんっ」

「うん!」

 

 嫉妬は今の笑顔で霧散した。

 

 それにしたって、どうしておんぷちゃんがここにいるんだろうか。魔法少女なんだから、魔法で空を飛べばいいのに。

 

 そんな疑問を浮かべるわたしを梅雨知らず、さくらちゃんはおんぷちゃんに話しかけた。

 

「いやぁ。本物の魔法少女に会えるとは一生で一度の経験だ〜」

「えっへん。でしょでしょ?」

 

 胸を張るおんぷちゃん。でも、まだわたしに抱きついているままなので、そんなに張れていない。かわいい。

 

「つむぎお姉ちゃん、さくらお姉ちゃん。良かったら、これからちょっとファミレスに行って話さない? わたし、小腹が空いちゃった」

 

 なんと。

 おんぷちゃんとご飯が食べられるなんて願っても叶いそうに無いことだ。

 けれど、わたしはこの後家に帰って沙苗ちゃんと晩ごはんを食べなきゃだから……うん。ドリンクバーと軽い物ならいけるだろう。

 

「いいよー」「大丈夫だよ」

 

 わたしとさくらちゃん。その両方が提案を了承する。

 駅の隣にあるビル中ファミレスに、わたし達は入店したのだった。





前回に引き続き長くなったので分割します。
今話八千以上て。




二月公先生、新作『廃墟めぐり』発売おめでとうございます。愛しています。
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