全5話構成で、2話・1話・2話の3日間に分けて投稿予定です。
カーテンの開く音と共に光がまぶたを通り抜け、目に差し込んでくる。眩しい。
「あら、目が覚めてしまいましたか?」
きれいなやさしい声だ。
口にしながらベッドの端に腰をかけ、こちらを見つめる。目と目が合う。吸い込まれる。
「あぁ、おはよう」
僕は寝転んだまま彼女の腰に抱きついた。
あったかい。あんしんする。
このままの心地よさがずっと続いてくれたらいいのに。
彼女は何も言わず僕の頭を撫でながら、そのままでいてくれた。
ある程度彼女の全てを堪能したのち、僕は抱きつくのをやめた。起きる準備をしないと。
「……もういいんですか?まだ時間は有りますよ」
そりゃあそうしていたいのは山々だが、そういうわけにもいかない。生きないといけない。
区切りをつけないと流れのまま落ちていってしまう。
「美鈴は今日学校だろう。流石に遅刻させる訳にはいかないから」
「ふふ、分かりました。じゃあご飯の準備をしましょうか」
美鈴がキッチンで準備している間に、僕は着替えや歯磨きなどの朝支度をする。朝の日差しを浴びつつの支度は思ったより時間がかかる。気力も湧かないまま慣性に従って動いていた。
朝食まではまだ少し時間がかかりそうだ。
僕は椅子に座り、時間を潰すことにした。朝のぼんやりとした夢の中のような時の中で揺蕩う。日差しの熱が体を暖め、少しずつ少しずつ明瞭な世界へと誘う。
「ご飯、出来ましたよ」
味噌汁、ご飯、そして焼き魚の匂い。
いつも通りの朝食の匂い。
一人暮らしで居間には低いテーブルしかない。
だからいつもフローリングに敷いたカーペットに座りご飯を食べる。
僕と美鈴は小さいテーブルに朝食を運び、向かい合って座った。
「「いただきます」」
「どうでしょうか、今日のご飯は?」
「うん、美味しい。いつもありがとう、本当に」
「……いいんですよ。私が好きでやっていることですから」
「でもありがたいよ」
多くが色褪せた世界で生きるのは案外苦しい。
食事でさえ食べようと思えなくなってしまった。
それでも生きているとお腹が空く。お腹が空くのは辛い。それは当然のことだ。
だからありがたい、本当に。
美鈴の学園での話やちょっとしたニュースについてなど、取り留めのない会話をしながら食事をする。それで時間はすぐに過ぎていった。
「「ごちそうさまでした」」
ご飯を食べ終え、片付けを行う。
もうすぐ美鈴が出なければいけない時間だ。
「それじゃあ、また夜に」
「ええ、行ってきます」
別れの挨拶に抱擁を交わし、見送る。
いつも終わってしまうと呆気なさを感じる。
少しずつ体から熱が奪われていく。
別れた瞬間は美鈴が居た記憶が鮮明に残っていても、すぐに現実感がなくなってしまうようだ。
一人、そう一人になる。
いつも通りの一人に。
スマホを触る。
ソシャゲのデイリー。
小説の更新確認。
Youtubeの新着動画。
すぐにやることが尽きてしまう。
ベッドに倒れ込んだ。
暇だなぁ。苦しいなぁ。
スマホで時間を確認する。
まだ10時だ。
散歩に行ってもいいが、どうせ昼ご飯を食べに行く。
その時の方が面倒くさくないだろう。
いつも通りだ。
あぁ、長い。永遠かのようだ。
そう思っても時間は過ぎない。
そんなことを考えていると、美鈴から写真が送られてきた。
レッスン終わりだろうか。
同級生たちと並び、汗を浮かべながら笑っている。
僕を気にかけてくれているのだろう。
少し心が暖かくなるような気がする。
もし美鈴が居なかったら、僕の生活はどうなっていただろう。
少し体が冷える。
冬の夕暮れを思い出した。
美鈴と出会った日を。
そして、それでも崩れてしまった僕の過去を。