君の輝きと共に   作:スイレン765

2 / 3
出会い

 

 

 

 僕が美鈴と出会ったのは、冬の寒い公園でのことだった。

 

 夕暮れごろ、僕は学校から歩きながら帰っていた。道すがら、その日のことをぼんやり思い返す。

 その日はようやく卒論提出が終わり、一息つくことができていた。

 自分で選んだもののイマイチ興味を持てないテーマ。

 けれども、どうにか完成まで持っていくことができた。よくやった気がすると自画自賛をしていた。

 

 いつも通り、帰り道の途中にある公園に寄る。

 そこは綺麗に木々や芝生が整えられており、人もそこまで多くなかったため、よく考え事やボーっとするのに使っていた公園だった。

 

 ただ、その日の公園は少し違っていた。

 独特の雰囲気を放つ少女が、ベンチに座って夕暮れを眺めていた。

 空中に視線を彷徨わせる彼女はどこか悲しげだった。

 誘蛾灯のように、目を引かれた。

 

 そして誘われるまま僕は近づいてしまった。

 その姿から、目が離せなかった。

 

 少しの間呆けたように彼女を見つめていると、ふと目線が合い、僕のことに気づいたような表情をした。

 

「ふふ、隣に座りますか?」

 

 返事も返せないまま、少し間を空けて隣に座る。

 ベンチは冷たく、こちらの熱を奪ってくる。

 

 彼女はこちらに体を向けて座り直した。

 

「お兄さんも学校帰りですか?」

 

「うん……そう。君はあまり見かけないけど、同じく学校帰りかな?」

 

「ええ……そうですね。普段はあまり来ないのですが、少し気分転換に」

 

「そっか。この公園は綺麗だからね、ちょうどいいかも」

 

 会話が途切れる。

 彼女は変わらず、どこか悲しげだった。

 

「……そういえば、お兄さんは初星学園を知っていますか?」

 

「まあ、名前だけは」

 

「実は私、そこでアイドルをやっているんです」

 

「へぇ、それは……すごい」

 

 近いこともあり初星学園の名前は知っていたけれど、アイドルについてはあまり詳しくなかった。

 知っていたのは有名な数人程度だった。

 

 だから微妙な返事になってしまった。

 彼女の瞳は少し揺れている。

 

「少し……相談に乗って貰ってもいいですか?」

 

「出来ることなら」

 

 何か力になれるなら、それは……嬉しい。

 胸の奥が、少しだけ浮つく。

 

 

「そうですね……私、グループで活動してたんです」

 

 

「そこに、一人の子が居て……」

 

 

「その子は……レッスンやライブなど常に一生懸命で、まるで燃え盛る炎のようでした」

 

 

「だから、私は不安になったんです……」

 

 

「燃え尽きてしまうじゃないかって」

 

 

「それで……止めようとしたんですが、上手くいかず、もう一人の子のこともあって解散してしまいました」

 

 

「私は離れたくなかった。でも、潰れて欲しくなかった」

 

 

「私は、どうするべきだったのでしょうか……」

 

 

 彼女の想いを聞く。

 熱を抱えたまま、深い暗闇の中に沈んでいるようだった。

 

 どう答えるべきか少し迷う。

 それでも、どうにか言葉を探す。

 

 

「僕は……物語が好きでね」

 

 

「どんな物語でもみんな輝きを放っている。何かを目指している。何かを望んでいる」

 

 

「もちろんそういう物語ばかりではないけれど、僕はその輝きに焦がれている」

 

 

「酷く美しいと思うし、その輝きを曇らせてはいけないと思う」

 

 

「……君はその子の何が好きだったのかな」

 

 

「どちらかしか選べないなら、より良い方向に向かうしかないと思う」

 

 

「止めても、多分苦しくなるだけなんじゃないかな」

 

 

「……君も、その子も」

 

 

 息を落ち着けつつ、前を見る。

 夕日が沈んでいく。空を、木々を地面を、僕たちを照らす。橙色のグラデーションに彩られる。

 その景色の中に、自分も溶け込んでいくようだった。

 

 彼女も景色を見つめる。

 

「綺麗……ですね……」

 

「うん」

 

「相談に乗っていただき、ありがとうございます……

 まだあの子を止めることは諦められないですが、少し……分かりました」

 

 僕は彼女たちの物語を知らない。

 ただ、それでも幸せへと向かって欲しいと願った。

 

「そういえば……名乗っていませんでしたね」

 

「秦谷美鈴と言います。また……お話してもいいでしょうか?」

 

「うん、こちらこそ。僕は河野裕人です。

 よろしくお願いします」

 

 それが僕と美鈴の出会いだった。

 

 

 それから僕らは、時々公園で話すようになった。

 僕は授業や研究、趣味のことを。

 美鈴は学園での日々を。

 

 中等部でのレッスンのこと。

 上手くサボる方法。

 かつてのグループの仲間のこと。

 

 4月に入ると、美鈴の話す内容も少しずつ変わっていった。

 高等部でのレッスン。

 新しい仲間。

 そして、一番星《プリマステラ》への挑戦。

 

 そんな時間を、何度も過ごした。

 最初はどこか距離があった彼女も、日が経つごとに少し色んな表情を見せてくれるようになった。

 

 ある時、僕の生活の話になった。

 

「料理とかはあまりしないかな……掃除も時々」

 

「まぁ……」

 

 美鈴の表情が少し緩んだ。

 

「裕人さん……私にお世話をさせてもらえませんか?」

 

「私、親しい人のお世話をするのが好きなんです」

 

「まりちゃんとりんちゃんから離れてから、そういう欲望があまり満たせていなくて……」

 

 少し不満げな表情をしながら、こちらを見つめてくる。

 

 流石に、年下の少女を簡単に家へ上げるのはどうなんだろうとは思った。

 けれど、どこか僕も望んでいたのかもしれない。

 何度か断ろうとはしてみたものの、結局了承してしまった。

 

 そうして、美鈴は僕の家に来るようになった。

 料理を作ってくれたり。

 掃除をしてくれたり。

 ただ何もせず、二人でゆっくりしたり。

 

 

 いつの間にか、美鈴は僕の日常の中に居るようになっていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。