主人公くん、ちょっと生き様見せてくれない? 作:胡瓜トラッカー
見失っちゃった⋯⋯。
いや、確かに途中まで完璧な尾行だったんだよ?
レイが電車に乗ったのを見て最後尾に飛び込んだし、駅前を抜けて住宅街を歩いている時も目視できないギリギリを狙って後をつけた。
なんでそんなに離れて追跡したのかと言われれば、バレそうになったからとしか言えないだろう。
まだ力に目覚めてないとは言え、流石に主人公というべきか。結構離れててもちょいちょい俺のいる方向を見てきてたんだわ。
髪色か? この白髪があかんのか?
太陽の光が反射してレイにまで届いてたのか?
でもバレちゃうのはとても良くない。俺がレイに話しかけられてしまえば、数時間はレイを解放することはできないだろう。俺がダル絡みしてしまい時間を奪ってしまうのは必至。
そうなれば彼はヒロインを助けることができなくなってしまう。数時間は誇張したが、十数分遅れればその時点で手遅れになり物語は始まらない。
その場合は物語を続行するために、俺がヒロインに成り代わらなければいけなくなる。騒動を起こす敵方もかなり減ってしまうため、暗躍と手回しが必要になるだろう。
もちろんそんな未来は受け入れられない。俺は物語を近くで見たいのであって、完膚なきまでに破壊し尽くしたい訳ではないのだ。
故に距離を取って追跡した。
壁と地形を使って、目視できないよう立ち回った。
それだと追跡側も見失ってしまう可能性がある?
魔力を追跡すれば大丈夫なんだなこれが。
当たり前だが、俺は学校で対面した際にレイの魔力を記憶していた。
目視ではなく、魔力を追えばいいのだから見失うことはない。半径数キロ以内にいるレイならいつでも感知出来るし、見失うはずがなかったのだ。
しかし見失った。レイの魔力を感じ取れない。
俺が今さら凡ミスで魔力を追えなくなるなんてことがあるか。きっと別世界関係の影響に違いない。
魔力とはまた異なる別形態の力によるものと考えれば、俺がレイを見失ったことにも合点がいく。
多分今頃主人公くんはヒロインを助けているところなんだろうな。原作でも隔離空間に追い込まれてたし。
諦める? レイくんの活躍シーンを?
いやいや、せっかく付いてきたのに原作シーンスキップとかないでしょ。
こちとら天下のラエ様だぞ。
こう、えいって魔力を薄く伸ばして拡げてやれば周辺の地形と散在する人間を知覚できる即席探知魔法になる。
これを使って不自然な動きのある場所を探れば⋯⋯何もないな⋯⋯。
あれーっ? 自慢の魔力操作術があれば原作見れるんじゃなかったの?
異世界人の独自技術には勝てなかったよ⋯⋯。
一人漫才を披露した所で別世界の住人に情けをかけてもらえる訳もなく、俺はレイの魔力がロストした辺りを重点的に捜索していた。
空、地下、建物のなか、探せる所は全部探したつもりだが、目視で分かる不審点はなかった。
途方に暮れていたその時、俺の腕に電流走る。今なんか流れてきたな⋯⋯!?
微細すぎて特定に時間がかかったが、これは間違いなくレイの魔力。そしてその魔力が流れてきた空間には相変わらず何もない。
まあ空間を特定出来ているのと出来てないのではかなり差があるからいいけど。
こういう時のために保険はかけてあった。
世の中物騒だからね、異世界人のチートに対抗できる手札は用意しておかないと。
魔力が流れてくるのならば、空間が完全に断絶されている訳ではないのだろう。そして現し世との交わりが残っているならやりようはあるのだ。
黄金パワーをレイの魔力が通った痕跡に沿って逆流させる。
突然出てきた黄金パワーは何かって?
こいつは魔力でも異世界人由来でもない謎エネルギーだよ。銀スーのスピンオフ作品で登場したキャラが使ってた力だ。
説明文には事象を正しい形へと強制する霊力の塊と書かれていたが、そもそも霊力なんてもの原作では少しも掠って無かったし、作中で語られることもなかった。
俺が転生してからネットとか文献を読み漁ったけれども全く情報出てこなかったしな。
っと、そんなことはどうでもいい。今俺がその力を扱えていることが重要なのだから。
先程語ったように、この力は事象を正しい形へと"強制"する。
つまり異世界人の隔離空間だろうがなんだろうが、それをぶっ壊して俺が入れるように穴を開けることが出来るって訳。
もちろん、彼らの闘いにちょっかいを出したい訳じゃないから壊すのは少しだけだ。異世界人達も特に何もしてこないオーディエンスを攻撃するほど暇じゃないはずだし、許してくれるだろう。
景気よく黄金を流し込んでいると空間くんは遂に耐えられなくなったようだった。
ミシミシと何かが歪むような音と共に、今まで何もなかった空間にヒビが浮かび上がる。
最後のひと押しといったところか。
手の甲に黄金パワーを纏わせ、腰を少し落とす。
そして俺は、ヒビに向かって拳を思いきり振りかぶった。
おお、やってるやってる。警備員とか駆け付けて来なかったし結界に穴開けたのはバレてなさそうだ。
俺が聞き耳を立てると、ちょうど銀髪の少女が真剣な顔で敵の情報を解説しているのが聞こえてきた。主人公くんが拾う異世界系ヒロインのメメちゃんだ。
俺に髪色が近いという致命的な欠点を抱えてはいるものの、よく見ればちゃんと色が違うことが分かるので敵ではない。
同じ色のやつが出てきたら? そりゃあもちろんそいつは敵だ。完膚なきまでに叩き潰す。
「回避させない方法は?」
「あるにはあるけど⋯⋯」
原作だと作戦会議をしていた場面だけど、この世界でも同じく会議をしているようだ。バタフライエフェクトで原作から乖離してなくて良かった。
なお主人公くんが戦っている、いわゆる小ボスはチート装備を手に入れてウキウキのランスロッドくん。
大体の攻撃を避けられる防具をつけたことで調子に乗った彼は、舐めプを続けて最後に殴り飛ばされる。
一話で退場して終わりかと思いきや、定期的に出演していたので準レギュラーキャラでもある。レイの見せ場を作ってくれた道化師なので個人的には嫌いではない。
耳をそばだてて話を聞いていた俺だが、急に話し声を聞き取れなくなる。
原因はメメがレイの耳元でこそこそと話始めたこと。おかげでレイくんまでもが小声で話すようになってしまった。
魔法は、身体能力を底上げしたり前世ではあり得ない現象を引き起こすことは出来るが聴力を強化する機能を搭載していないのだ。
これ以上近づくとバレかねない。
極めて遺憾だが、バレた時のことを考えると流石に距離を詰める気にはならなかった。
ここからはセリフをうろ覚えで補完することする。
『私ならスートに干渉できる。道具は無いけど、無効化するだけなら十分よ』
『気が進まない理由があるんだろう?』
おっ。今レイの口の動きを読めた気がする。
メメの口元は手で隠されているからさっぱり何を言っているのか分からないが、レイの口は隠れていないから分かりやすい。
スートっていうのは異世界人の独自技術の大本となる魔力的なエネルギーのことを指す。魔力よりも扱いがムズいが、うまく加工できれば魔力とは比較にならないレベルの力を発揮する代物だ。
『例えば、かなり近づかないといけないとか』
『その通りよ。でも近づくだけじゃ駄目なの。手で直接触れなきゃいけないわ』
そして、小ボスランスロッドくんのチート装備を構成している物質もスートである。これ以降防具のスートとか滅多に出てこなくなるし、あそこまでデカい塊を観覧できるのは最後の機会になるかもしれんな。
主人公くんがメメなら全回避無効化できますよ〜って感じの話を聞き出したね。それを聞いたなら、やることは決まってるでしょ?
『君はここで待機してくれ。僕があいつの動きをとめるから、合図をしたらアーマーに触ってほしい』
頑張れレイくん!
君が負けたらメメちゃんが連れて行かれちゃう!
「ほ、本当に大丈夫なんでしょうね!」
ここまで元気な声が聞こえてきたな。急に耳元で大声を出されたレイくんは少し頭が痛そうにしていた。難聴にならないといいが。
「もちろん」
レイは断言する。メメを安心させるために。
或いは約束するように。
おっと、気づいたらよだれ垂れてたわ。
ばっちいから焼却しとこ。
原作シーン生で見れてよかったよほんとに。
俺は大満足だ。
次も観戦する機会があればカメラを持ってこよう。