主人公くん、ちょっと生き様見せてくれない?   作:胡瓜トラッカー

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主人公くん! 熱戦を見せてくれてありがとう!

 

 道化師ランスロッドくんは無敵の装備を手に入れて天狗になっていた。それゆえに、主人公くんが自ら向かってくるまで鷹揚に構えるという愚行をしでかしてしまったのだろう。

 

「わざわざ話の終わりまで待っていたのはどういう了見だ?」

 

 レイの問いかけにランスロッドは答える。

 

「どうせキミはここで死ぬんだ。だから抵抗する時間をあげて、藻掻く様子を鑑賞しようと思ったんだよね。せめて、ボクの記憶の中に残ったほうがキミも嬉しいだろう?」

 

 やっぱり君パフォーマンス系の職に就いたほうがいいんじゃないかな⋯⋯。

 

 ランスロッドはメメを異世界へ連れ戻すために派遣された追跡者だ。舐めプして対象を取り逃すとか洒落にならないし、こいつを派遣しようと思った奴らも頭がぶっ飛んでいる。

 

 ランスロッド以外の構成員が全員殉職したとかなら理解できるが、別にそういう訳でもないし。

 

 レイくんはランスロッドの言葉を聞き、何とも言えない顔をしていた。

 

 

 

 だが次の瞬間にはランスロッドに鋭い眼差しを向けながら、手元に剣を創造する。

 

 魔法で作られた剣。研磨されていない棒切れ。

 

 何かを斬ることは出来ないだろう。

 

 むしろ剣を握ることによって動きは制限される。

 

 それでも彼は使うことを選んだ。

 

 斬るためでなく、ほかの目的のために。

 

 それを見たランスロッドは剣先をレイに向ける。大方、レイが打ち合いをしようとしているとでも考えたのだろう。

 

 二人は声もなく間合いを詰め、互いの呼吸と足音だけが静かな空間に響く。躊躇なんてない。その勢いのまま、どちらかが切り裂かれるのではないかという気迫があった。

 

 剣と剣が交わり、ランスロッドの剣がレイの剣を両断する。質量のある物体が激しくぶつかりあったはずだが、音はない。

 

 やけに切れ味がいいと思ったけど、そういえばランスロッドの剣には細工が施されてたんだっけ。

 

 剣を断ち切った流れで、ランスロッドはレイの首に刃を入れる。

 

 食い込んでいく刃に動じることなく、レイは腕を伸ばした。目的はランスロッドが握る剣の奪取。

 

 持ち手に触れる直前にランスロッドが後退したため、それは叶わなかったが。

 

 

 

 

「カハッ⋯⋯ヒュー⋯⋯ヒュー⋯⋯」

 

 切られら箇所は激しく出血している。あれでは、数十秒と持たないだろう。

 

 レイくんは死んだりしないと思ってるけど少し不安だ。

 

「そんな所だろうと思っていたよ。ボク自身に攻撃が届かないなら、武器を奪ってしまおうと考えたんだろう?」

 

 ランスロッドはよく喋る。

 

 あんなに喋っていたら喉が渇きそうだけど、喉のケアをしていたりするのかな?

 

 殆ど勝ちが決まっている状況だからこそより喋りたくなっているのか、ランスロッドは口を休めない。

 

「キミをこのまま放置しても、数分とかからずに死ぬだろう。惜しかったよ。ボクは──」

 

 ランスロッドくんには調子がいい時に限って言葉を遮られるジンクスがある。確かランスロッドキャンセルなんて言われてたはずだ。油断しているのが原因と言われたら弁明の余地はないが。

 

 喋り途中のランスロッドに襲いかかるは轟く爆音と炸裂する膨大な熱。主人公くんが爆裂魔法を煙幕にランスロッドの元へ走る。

 

 熱風が俺まで届き、髪をばっさばっさとかき乱す。さっきセットしたばっかりなのに俺許せねえよ。誰か今すぐこの風を殺してくれないか?

 

 

 

 ランスロッドは爆発を避けたが、主人公くんの突発的な自爆に困惑していた。レイが間近に迫っていることに気づけない。

 

 レイはランスロッドの元へたどり着くと、未だ体勢を整えていない彼から剣を毟り取ってはるか彼方へと放り投げる。

 

「なっ」

 

 哀れランスロッドくん。彼は武器を取り上げられる際の衝撃で姿勢を崩す。そして、それはスートで出来た鎧を纏った彼にとって致命的な隙だ。

 

「これで終わりなさいよ!」

 

 異世界系ヒロインのメメはスート加工のスペシャリスト。そんな彼女を前にして抵抗手段をすべて失うなど言語道断だ。抵抗できない者は、彼女によって丸裸に変えられてしまうだろう。

 

 メメが鎧に触れた直後、鎧の輝きは消える。

 

「出来たわ。今すぐ仕留めなさい!」

 

 メメちゃんの合図と共に、レイは死に体の体を引き絞りランスロッドの頭にクリーンヒットを叩き込む。

 

 脳震盪を起こしたランスロッドは気絶。顔から地面にダイブしていった。

 

 レイくんもそろそろヤバそうだ。首から噴き出してる血の量が半端じゃない。

 

「ちょっと、しっかりしなさいよ! レイ、アンタ死んじゃうわよ!」

 

 メメが半ばパニックになりながらレイを揺さぶる。まあ、揺さぶってた所で傷が治るわけじゃ無いんですけどね、初見さん。

 

 レイくんは目を閉じたし、戦闘は終わった。

 

 だからそろそろ彼らの前に出ても大丈夫だろう。

 

 

 

 

「なっ⋯⋯!? あ、アンタ誰よ! 追っ手!?」

 

 突然前に現れた少女にメメは驚きの声をあげる。

 

 が、彼女の問いは無意味なものなので無視させてもらう。追っ手ならば返答せずに彼女を連れ帰ってしまえばいいし、味方なら無駄な問答で主人公くんの命を危険に晒す必要はないからだ。

 

 レイの頭をひと撫でし、メメちゃんに向き直る。

 

「煩い。レイを死なせたくないなら従って」

 

 メメちゃんに優しく頼むことで協力を促す形だ。

 

 俺の言葉に狼狽しているメメに指示を飛ばす。

 

 さっさと動けと。

 

「スートの塊を応急処置に使う。持ってきて」

 

 ランスロッドが着ている鎧を指差す。あれはスートで出来ている、いわゆるエネルギーの塊。現在進行系でレイから失われている生命力を補うのに相応しい代物。

 

 原作でレイの治療にメメが使っていたものだ。俺が手出ししなくとも彼女は鎧を使う選択肢に思い至るだろうが、その後の治療で行き詰まる。

 

 本来人間の体にスートを充填することはできないから。メメがレイの手当てに成功したのは、ひとえに運が良かったからだ。たまたま、奇跡的にレイの魔力とスートが同調しただけ。

 

 俺という異物が生まれた世界で、同じ奇跡が起きる保証はない。故に、俺が魔力とスートの同調作業を補助しようとわざわざ出てきた訳だ。

 

 俺の意図を理解したのだろう。メメは納得いかない表情をしながらも、ランスロッドから鎧を剥ぎ取りこちらへ持ってくる。

 

「回生を刻むけれど、合図はいるかしら?」

 

「いらない。合わせる」

 

 メメが鎧に力を込めると、それは七色に輝き始める。

 

 魔力とは比べ物にならない力の奔流が鎧を変形させレイに流れていく。首の切り傷から入り込んでいくけど、このままだとただ異物が体内に侵入しているだけなんだよね。

 

 すかさず、スートに反応して暴走するレイの魔力を片っ端から鎮圧する。止められないと判断した箇所には魔力を流し込み、無理やり暴走する魔力の濃度を下げ制御下に置いていく。

 

 同調というより力技で抑え込んでいるだけのように見えるけど多分これが正攻法のはず。

 

 スートを体内で適度にバラけさせ、魔力に溶け込み始めたのを確認したらミッションコンプリート。

 

 真っ青だった顔色に赤みが差し首の傷も癒えていく。

 

 バイタルも安定したし、起きるまで見ていこうかな。

 

 

 

「それで、いきなり現れたアンタは何者なの? この空間、外界と隔離されてるでしょ。どうやって入ってきたの?」

 

 なんかメメちゃんが急に話しかけてきたな。確かに傍から見たら俺はちょっと怪しいかもしれない。

 

 別にメメに警戒されても今は影響ないからいいけど。レイくんの治療はもう終わったし。

 

「通行人。穴が空いてたからそこから」

 

「通行人って、そこら辺の人間がスートに詳しい訳ないでしょ! それに穴? 隔離領域に?」

 

 メメちゃんは元気だなあ。彼女自身も一応手傷を負っていたはずなんだけど⋯⋯。

 

 俺が入ってきた穴を指差す。真っ白な空間にぽつんとある裂け目はよく目立っていた。

 

「はあ〜? どこまで杜撰なのよアイツ。私を傷つけるわ、領域もまともに確立できないわで本当にとんでもないヤツね!」

 

 納得してくれて良かった。ランスロッドくんの人徳のたまものだな。

 

 全部に納得した訳じゃなさそうだけどね。メメちゃんは紅い瞳を大きく開けて、俺の顔を覗き込む。

 

 スートを知っている人間はほとんどいない。メメちゃんの住んでいた世界、いわゆる夢界(むかい)と人間界はほとんど交流がなかったため、人間界にスートが流れることはなかったのだ。

 

 メメもそれを理解している。理解しているからこそ、突然現れた人間がスートの知識を持っていることに疑問を抱いている。

 

 一応書物には記載があったので、全く露出がなかったのかと言えばそうではないが。

 

 

「ぅ⋯⋯」

 

 レイの声だ。そろそろ起きるのかな?

 

「なんとか死なせずに済んだわね」

 

 ウム! これで安心して帰れるな。

 

 よく知らないクラスメイトが居ては、主人公くんも戸惑ってしまうだろう。瞼がちょくちょく動いてるし多分もう起きる。

 

 俺は床に延びているランスロッドくんの腕を掴み、先程開けた穴から飛び出した。

 

 

「ちょっと、ソイツを置いていきなさい! 拘束してひ──」

 

 後ろでメメちゃんが何やら喚いているが聞こえない。聞こえないったら聞こえないのだ。

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