主人公くん、ちょっと生き様見せてくれない?   作:胡瓜トラッカー

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一人称小説の致命的弱点が発覚したのでしばらく勉強にいってくる


学園入学/少女との出会い

 

「西米良レイです。一年間、よろしくお願いします」

 

 そう発言した途端、高校生活が始まるのだと実感した。

 

 ここ月夜野学園は神流学院、ロフォン総合学園に並ぶ名門校である、と学園長が話していた。

 

 軽く流した言葉であったが、今になって始めて彼女の言うことを正しく認識できた気がする。

 

 一目見ただけでわかるほどクラスメイトは皆優秀。肌を刺すような鋭い魔力がクラスに充満しているのだ。

 

 強力な魔法使いは沢山見てきたけれど、彼らはそれに匹敵、もしくは上回るレベルだと思う。

 

 特に僕の後ろの席に座っている白髪の彼女。彼女はここにいるクラスメイトと一線を画す実力を持っていると僕の直感が囁く。

 

 立ち振舞が、その体の動き一つが驚くほど滑らか。これほどの圧力を感じたのは人生で数度のみ。もしかして僕の師匠よりも強いんじゃないか?

 

 

 クラスメイトを見回しながらそんなことを考えている間も、口は勝手に動き続ける。

 

「僕は火・水・風・土の四大元素魔法が得意だったりするので、苦手な人は是非頼ってください。逆に体術は苦手なので、助けてもらえると嬉しいです」

 

 そう言うと数人が笑ってくれた。これは有難い。愛想笑いでも笑ってくれて僕は嬉しいよ。

 

「改めて、よろしくお願いします」

 

 自己紹介を切り上げて教壇を降りた所で、白髪の彼女とすれ違う。

 

 その時、なびいた髪から懐かしい香りがした気がした。

 

 昔も昔、僕が思い出せないくらい昔に嗅いだことがあったような⋯⋯ないような⋯⋯。

 

 ⋯⋯思い出せないな。重要なことではなさそうだし、頭の片隅に追いやっておこう。

 

 

 席に戻り、クラスメイトの自己紹介を記録したメモ帳をパラパラと一読する。僕は新クラスになった時、メモ帳に名前を書き残してまとめて覚えるようにしている。

 

 一人ひとり覚えていくより効率がいいのもあるし、クラスメイトと関わる際、自信を持って会話できるからだ。

 

 このクラスで最も強いと思われる白髪の彼女は、自らを日向ラエと名乗った。名乗ったあとはそのまま席に戻ってしまったので名前以上の情報を得ることはできなかったが、前向きに捉えればこれは仲を深めるチャンスとも言える。

 

 分からないならこれから知っていけばいい。同じクラスの生徒である以上関わることも多いだろう。僕としては強くなる秘訣を聞いてみたい。

 

 

 それから数人分の自己紹介をメモしたところで先生が前に立ち話し始めた。先生は西臼杵ネネというらしい。

 

 この先生は知識として知っていた。

 

 7年前、学園武闘祭で猛威を振るった伝説。

 

 月夜野の暴君ネネ。見た目からはまるで想像もできない通り名だが、当時凄まじい成績を残した結果つけられたものだ。

 

 魔法・武術・総合問わず暴れまわりその全てで勝利を飾る。特殊魔法部隊を単独で撃破。不老の魔法を自身にかけている⋯⋯などなど、公式に記録されたものではない情報も際限なく広がり、通り名が付く。

 

 恐ろしいのは、普通なら鼻で笑い飛ばされるであろう噂すらも、彼女ならやりかねないと思わせたことだろう。

 

 今は僕たちの担任なので分からないことはどんどん頼っていきたいと思う。師匠の知り合いらしいし。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 ネネ先生の自己紹介が終わったあと、僕は帰路に着いていた。見慣れない帰り道だけど、これから3年間使う事になる道だ。そう考えれば親しみが湧いてくる気がしなくもない。

 

 そこから暫く進んだ所で、少女が肩から血を流して倒れているのが見えた瞬間、僕は駆け出していた。

 

 瞬時に浮かんだのは、事故という二文字。

 

 しかし近付いて傷跡をみてみればその考えが間違っているということはすぐに分かった。

 

 まるで機械に裁断されたかのような、真っ直ぐすぎる切り傷。どんな達人が斬ってもここまで真っすぐな傷にはならない。

 

 不自然。この少女に一体何が起きたのか。

 

「何があった! 大丈夫か!?」

 

 幸いなことに、少女は気を失っているだけのようだった。

 

 心臓が鼓動し呼吸も止まっていない。

 

 この真っすぐな切傷は、綺麗に切れすぎているようで損傷の割に出血はそこまで多くない。

 

 ポケットから携帯電話を取り出し、119番へ電話をかけながら考える。

 

 彼女は顔から倒れ込む体勢になっていた。そして傷は背中側からつけられたもの、つまり──

 

 

「何かから逃げていた?」

 

 ぞわり、と肌が逆立つ。

 

 辺りは既に、ただの帰り道ではなくなっていた。

 

 人の気配がない。太陽もいつの間にか見えなくなっており、代わりに僕は真っ白な空間に立っていた。

 

 携帯電話は繋がらず、足元には相変わらず倒れたままの少女。

 

 恐らくこの少女が狙われているのだろう。そして僕達は結界の中に閉じ込められた、と。

 

 この少女に危害を加えた手合いの目的は分からないが、怪我をしている少女を運びながら守り切るのは現実的でない。

 

 少女を起こして、せめて自ら動けるようになってもらわなければ。

 

 傷口を焼いて止血するか? いや、苦痛に耐えられず暴れられれば傷がより広がる可能性がある。この手段を取るのはリスクが高すぎるか。

 

「目を覚ませ! ここは寝所じゃないぞ!」

 

 少女の頬を叩きながら耳元で声をかけ続ける。

 

 外的要因によって気絶したと思わしき少女の意識が、深く沈んでいるとは思えない。刺激を加え続ければ目覚めるはずという考えは間違っていなかったようで、しばらくすると少女は目を開いた。

 

「うぇ⋯⋯? アンタ誰なの?」

 

 状況をいまいち把握できていないようだが、目覚めたばかりなのだから仕方ない。

 

「僕はレイ。肩を切られて倒れてる君を介抱してたんだ」

 

 図太そうだし手短に情報を共有しておく。

 

「痛っった! うぅ⋯⋯人間がいるってことは、夢界からの脱出には成功したって訳ね」

 

 全く聞いたことのない言葉が飛び出してきたが、脱出という言葉は理解できる。推察通り何かから逃げていたということだろう。

 

「君は何処かから逃げ出してきたってことでいいかな? その場所に帰るつもりはある?」

 

「あるわけないでしょ!? 私はあの世界にウンザリしてるの。もう死んでも帰るつもりはないわ!」

 

 怪我をしている割に元気な少女である。身振り手振りを大きく交えて彼女は語る。

 

 

「まあまあ、落ち着いて。そんなに激しく動くと傷が広がっちゃうよ。それに、追っ手はまだ君を諦めていないみたいだ」

 

「しつこい奴らねぇ⋯⋯そうだ、アンタ私を守りなさいよ。なんか強そうだし、この空間にいる時点で巻き込まれてるわけでしょ?」

 

 なぜこの少女が追われているのかは分からないが、追っ手は僕達を結界で隔離してから姿を現していないため何とも言えない。

 

 傷の位置的に、追跡者達は少女を殺害しようとしているわけではなさそうだ。恐らく彼らは彼女を連れ戻そうとしている。手荒な手段を用いてでも。

 

 相手は少女。やりようはいくらでもある筈なのに、この方法をとった彼らを僕は認めることができない。

 

「助けが欲しいって認識であっているかな? SOSなら喜んで手を貸すけれど」

 

「そう! 私を助けなさい、レイ! 夢界(むかい)の女王たる私を!」

 

「任せてくれ。それじゃあ、敵について知っていることを教えてほしい。外見、使用武器、行使していた魔法。分かることなら何でもいいから」

 

 少女は頭に指を当て、赤い瞳を左右に動かしながら口を開く。

 

「追っ手はいけ好かない騎士で剣を使っていたわ。魔法っていうのはあれでしょう? 人間が好き好んで使う低俗な動力」

 

 人間が行使できるエネルギーは今の所、魔力しか見つかっていないはずだが。彼女の言葉を文字通り受け取るならば別の力があるということなのか。

 

「今魔法以外にどんな動力があるんだって顔したでしょ! したわよね! いいわ教えてあげる。まず私がいた世界、いわゆる夢界には──」

 

 

 咄嗟に少女の腕を強く引いた。

 

 直後、少女が立っていた空間に光が奔る。

 

「ぐぇっ⋯⋯! なにすんのよアンタ!」

 

 少女はまだ気づいていないようなので、襲いかかってきた人影に指を差し、そちらを向くよう促す。

 

「うん? おかしいな、確かに斬ったと思ったんだけど」

 

 それは煌々と光るプラチナ色の鎧を着込み、装飾の施された剣を携えた男だった。それは騎士であった。

 

 少女に不意打ちで剣を打ち込もうとする行いが騎士に相応しいものであるとはお世辞にも言えないが、姿は確かに騎士のそれである。

 

「この騎士が追っ手ってことで間違いないか? その場合、僕がこの場で相手をするけど」

 

「ええ、間違いないわ。あいつ、二度も私に傷をつけようとするなんて信じられない!」

 

 地団駄を踏みながら少女が怒る。白銀の長い髪がばたつき、僕の腹部にバシバシと当たる。

 

 本当に元気だ。とても怪我人には見えない。

 

 本音を言えば、ここに残られると戦いづらいので少女には離れていてほしいと思っている。

 

 この結界を張った人物が目の前の騎士でない場合を考えるとそれが無茶な要求であることは分かっているが。

 

「キミは誰かな? 大人しくそこのお嬢さんを渡してくれると嬉しいんだけど」

 

「お断りさせてもらう。少女に手を出す人間を、誰が信用できるかって話だ。交渉したいなら別の人間を窓口に立ててくれ」

 

 俺に発言に一瞬考え込むような仕草を見せた騎士は、顔を上げてこちらへ剣を向けてきた。

 

 交渉は決裂。力で僕を押さえつけるつもりらしい。

 

 

 騎士は鎧を光らせながら駆け出した。目線を合わせているはずの騎士は気が付いたら視線から消え、再び見つけるも直ぐに見失ってしまう。

 

 僕の動体視力でも追いきれないほど高速で動いているというのか。それにしては踏み込みが浅い。

 

 速度が出せるなら僕を無視して少女に斬り込めばいいのにも関わらず、騎士は視界から外れながらも僕に向かってくる。

 

 再び感じる不自然。先程少女に付けられた傷、あれは剣によるものだったのか? 剣はブラフ? 本当の武器は魔法か?

 

「戦闘中に考え事かい? ほら、隙だらけだ」

 

「ぐっ」

 

 騎士は視界の外から回り込み、横腹を薙ぐ。

 

 咄嗟に魔法を使い岩石を撃ち込むことで剣が食い込む事態は避けられたが、一撃を喰らってしまった。

 

 痛い。痛いが、動きに支障が出る傷ではない。

 

 再び騎士が視界から消える前に、岩石を連続して叩きつける。

 

 轟々と向かってきた岩を見た騎士は笑った。

 

 そしてそれら全てを斬る訳でもなく体で受ける。受けたように見えた。

 

「驚いたかな? どうしてボクを見失ってしまうんだ、攻撃が当たらないんだって」

 

 騎士は余裕の笑みを浮かべて話す。

 

 当たったように見えた岩石は、騎士の体をすり抜け、はるか彼方へと飛んでいってしまった。悠々と歩いてくる騎士の足を狙った火炎弾も同様に。

 

「無駄だよ。だって、キミの攻撃はボクに当たらない。当たらないことになっているんだからね」

 

 己に攻撃が届くことはないだろうという圧倒的な自信。一帯に振りまいている強風を物ともせず歩いているあたり、その言葉は事実なんだろう。

 

 言い回し的には幻像や分身を使って攻撃を仕掛けてきているように聞こえる。

 

 狙いが逸れる事象の原因は魔法ではないはずだ。神経毒のガスでも吸わされたと見るべきか。

 

「あーっ! アンタ私が秘蔵してたコレクション持ち出したのね! もう怒ったわ! レイ、早くそいつから鎧を剥ぎ取って!」

 

 騎士の言葉を聞いて少女が声を荒げた。少女の話を鵜呑みにするなら、この男はプレートアーマーを盗んだ上にその持ち主を追いかける盗人ということになる。

 

 それなら納得だ。先程少女に不意打ちで襲いかかったのも、言葉で説得を試みなかったのも、騎士の理念を持たない賊だからこそ出来たことであると。

 

「人聞きが悪いなあ。緊急事態だったから少し拝借させてもらっただけだよ」

 

「いちいち鬱陶しいのよアンタ。御託なしには喋れないわけ?」

 

「性分だからね。そんなことよりキミはどうして夢界を飛び出したんだい? 大人しくしていてくれれば、ボクはキミを手荒に扱うこともなかったんだよ?」

 

 

 男が少女と会話をしている隙にいくつかの魔法を準備しておく。

 

 そのうちの一つはマーキングという技術。動いている相手に行使するのは骨が折れるが、止まっている今なら容易いことである。

 

 マーキングによって対象の位置を把握できるようになる。これで見失っても魔法を頼りに行動できる訳だ。

 

 そして二つ目は防御結界。少女を魔法攻撃に巻き込む訳にはいかないから当然の処置である。

 

 三つ目は爆裂魔法。男はなんらかの手段によって攻撃を回避し続けている。そのため、避ける機会を与えず吹き飛ばしてしまおうという判断だ。

 

「あんな暗い場所に閉じ込められて働かされてたら頭が腐るわよ! もう二度と戻るつもりはないわ」

 

 少女がヒートアップして叫びに近い声をあげているが、いったん無視して泥棒男の方に顔を向ける。

 

 男は変わらず不敵な笑みで少女を見ており、僕を完全に視界から外している。

 

 

 それをみて、爆裂魔法を起動した。

 

 同時に自身と少女に全力で結界を展開する。

 

 轟音が空気を震わせ熱を伴った突風が吹き荒れる。

 

 散発的な攻撃ではあの男に傷をつけることは出来ないと判断した。故に、この一撃にかなりの魔力を注ぎ込んだ。

 

 倒す事は出来なくともペースを崩せればと考えていた。

 

 

 煙が晴れ男が姿を現す。

 

 それは、爆発に巻き込まれながらも無傷を保っていた。

 

「嘘だろ⋯⋯?」

 

「いいや、嘘じゃないさ。見ての通り僕は元気だよ」

 

 男に魔法を使う時間は与えなかった。

 

 爆破の瞬間、鎧男が気づいたとしても結界を展開する余裕はなかった。実際、爆破には巻き込んだはずだ。

 

「キミの攻撃はボクに当たらないって言っただろう? そういう運命なのさ。人間はボクを傷つけられない」

 

 どうする。どうすればこの男にダメージを与えられる?

 

 範囲爆破は無傷。近接距離では視界から消え、中距離から放った魔法はすり抜けるか逸らされる。

 

 実体はある筈なのに、まるでそこにいないかのような幽霊をどうすれば倒せる?

 

「ちょっと、何いきなり爆発してるのよ!」

 

 少し視線を動かすと、結界の中で蹲り風で巻き上げられた髪を下ろしながら文句をいう少女がいた。

 

「一つ聞きたい。全く攻撃が当たらないんだけど、その理由は知ってる?」

 

 先ほどの話を聞く限り、男は少女を知っているようだった。そして少女と同じく夢界という言葉を使っていた。

 

『今魔法以外にどんな動力があるんだって顔したでしょ! したわよね! いいわ教えてあげる。まず私がいた世界、いわゆる夢界には──』

 

 夢界。それが何処かなんてどうでもいい。彼女の言いかけていた、魔法以外の動力というものが、男に攻撃できない原因を作っているのではないか。

 

 魔力以外の力があるなんて聞いたことも見たこともなかった。しかし、男の常軌を逸した姿を見せられれば、そんな力があってもおかしくないのではないかと考えるのだ。

 

「スートね」

 

 爆発地点に立っている男に一瞬目をやり、少女は口を開いた。

 

「スート?」

 

「そう、スート。概念を実体化させたモノ。いえ、概念が実体化したモノと言ったほうが正しいかもしれないわ」

 

 定まっていない曖昧なものをどうやって実体化させているのだろうという疑問は心の中にしまっておくべきなのだろう。黙って話の続きを待つ。

 

「アイツが着てるプレートアーマーもスートで出来てるわけ。込められてる概念は回避。だから当たらない」

 

「回避させない方法は?」

 

「あるにはあるけど⋯⋯」

 

 余り乗り気ではないようだ。しかし、このまま消耗戦を続けた所で当たらないのならば撃退することはできない。周囲に張られている結界は強固に見える。男の相手をしながら結界を破り逃げ出すのは難しい。

 

 アーマーをどうにかできれば僕はあの男に勝てるという自信がある。アーマーの力さえ無効化してもらえればいいのだ。

 

 男は動かない。

 

 それどころか、面白そうにこちらを見ていた。

 

 

 少女が服を引っ張って僕の頭に顔を近づける。

 

 なるほど、少女は男に聞き耳を立てられたくないらしい。

 

 男がこちらに向かって来ることなく、余裕綽々に立っている時点で何をしようとしているのか見破られている気もするが。

 

「私ならスートに干渉できる。機材が無いから簡易的な加工しか出来ないけど、無効化するだけなら十分よ」

 

「気が進まない理由があるんだろう?」

 

 少女はバツが悪そうな顔をした。その様子をみるに見通しは当たっているようだ。

 

「例えば、かなり近づかないといけないとか」

 

「その通りよ。でも近づくだけじゃ駄目なの。手で直接触れなきゃいけないわ」

 

 予想が当たっていて良かった。自信満々に言って間違っていたら恥ずかしいからね。

 

 干渉条件はその程度であればなんとかなる。

 

「君はここで待機してくれ。僕があいつの動きをとめるから、隙を見てアーマーに触ってほしい」

 

「ほ、本当に大丈夫なんでしょうね!」

 

「もちろん」

 

 こういうのは自信を持って答えるものだ。僕が自信なさげにしていれば少女まで不安にさせてしまう。

 

 意思を声に出して自分を鼓舞する目的もあるけれど。

 

 覚悟を決めろ西米良レイ。

 

 助けると決めたのなら責任を持て。

 

 

 

「わざわざ話の終わりまで待っていたのはどういう了見だ?」

 

 問いかけに対して、男は小さく肩をすくめることで返す。

 

「どうせキミはここで死ぬんだ。だから抵抗する時間をあげて、藻掻く様子を鑑賞しようと思ったんだよね。せめて、ボクの記憶の中に残ったほうがキミも嬉しいだろう?」

 

 趣味が悪い男だが、その思想のおかげで生まれたチャンスがあるのだと考えると複雑だ。

 

 岩で剣を型取り、構える。

 

 それを見てようやく男も剣をこちらへ向けた。

 

 勝負は一瞬でつくだろう。そこに打ち合いはない。

 

 僕が賭けに勝つか、男が人間を一人切り裂くかの二択。

 

 

 合図もなく二人は同時に駆け出していた。

 

 一人は何らかの概念を持つ鉄剣を、方や刃がデコボコの岩剣を手に。

 

 踏み込む。男に姿はすでに見失ってしまった。

 

 しかし彼ならば、一度は己の岩剣に鉄剣をぶつけてくれるだろうという妙な自信があった。

 

 期待通り、音もなく刃が断ち切られ、そのままの勢いでブレードが首元へと迫る。

 

 引き伸ばされた時間の中、首に入り始めた刃を横目に男の剣に手を伸ばす。

 

 

 あと、少し────

 

 

 

 

 しかし、無情にも腕は男によって振り払われ、その勢いのまま後退する。

 

「カハッ⋯⋯ヒュー⋯⋯ヒュー⋯⋯」

 

「そんな所だろうと思っていたよ。ボク自身に攻撃が届かないなら、武器を奪ってしまおうと考えたんだろう?」

 

 喉からは勢いよく血液が噴き出す。声を出そうにもゴボゴボと液体の中で空気が弾けるような音しか聞こえてこない。

 

「キミをこのまま放置しても、数分とかからずに死ぬだろう。惜しかったよ。ボクは──」

 

 

 爆発。男の眼前で光が炸裂する。

 

 

 熱が顔を焼け焦がすが無視して前へ。

 

 

 煙が晴れる前に。

 

 

 先ほど付けておいたマーキングを頼りに駆ける。

 

 

「ゴホッ⋯⋯自爆?」

 

 

 いいや、違う。

 

 

 これは勝利を掴み取るための布石に過ぎない。

 

 

 男の手から剣を奪い取り、そのまま遠くへ投げ捨てる。

 

「なっ」

 

 男は剣を急に引き抜かれた衝撃で体をよろめかせていた。これは今までで一番大きな隙だ。

 

「これで終わりなさいよ!」

 

 時を同じくして、少女が声を響かせながら煙に走ってきた。

 

 僕達の影を見つけ一直線にこちらへと接近する。

 

 それに気がついた男が少女を遠ざけようと蹴りの予備動作に入った時、少女は男の鎧に触れた。

 

「出来たわ 、今すぐ仕留めなさい!」

 

 その言葉を待っていたのだ。体に残る力を総動員し、頭に拳を思いきり振りかぶった。

 

 重く爽快な音が轟き、男が白目を剥きながら崩れ落ちる。その様子を確認した僕の身体からも力が抜けてきていた。

 

 目の前が暗くなっていく。

 

「ちょっと、しっかりしなさいよ! レイ、アンタ死んじゃうわよ!」

 

 流石に、無茶しすぎたか。耳鳴りが大きくなっていく。

 

 最後に視界に入ったのは、白く輝く、霧のように煙る髪だった。

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