ハンドメイドアンドロイドとのなんやかんや   作:sorasumi

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ハンドメイドアンドロイド

 完成しちゃった。

「こんにちは、マスター。お初にお目にかかります……いえ、この表現は事実と相違がありますね」

 完成しちゃったよ、手作りアンドロイド。

「マスターは私の創造者なのですから。私の最古の過去ログは西暦2030年12月19日1時5分。現在の西暦2031年2月1日16時33分に至るまで誠にお疲れ様でした、マスター」

「おお……」

 一ヶ月半かけといてなんだけど、マジで出来上がると思ってなかった。

 妄想はけっこう前からしてたけど、着手したのは正直給料日と酒の勢いに他ならないし。

 しかし現に俺の自宅であるワンルームのベッドにパジャマを纏った美少女が腰掛けているという、本来ならまずあり得ない現象が起こっている。

 何故か。俺がこの美少女を造ったからである。

「私を創り上げてくださり感謝します、マスター。それでは、どうぞご命令を」

「そーだな、とりあえず動力がうまくいってるか見たいから座ったままラジオ体操してみて?」

「承知致しました。ちゃーんちゃんちゃちゃちゃちゃちゃ」

 すげえ動いてる。嘘だろ。こいつ動力源すあまだぜ?すあまをちっこいチェーンソーからぶっこ抜いたエンジンに突っ込んで電力と動力にしてるだけなのに、なんで動いてんだよ。

「けっこう静かだし、身体のどっかギシギシ鳴ってたりもしないね。振り付けも合ってる」

「はい、見事な設計と組み立てです、マスター」

 駆動系も外側もネットに転がってたモデルほぼ丸パクリしてレンタルした3Dプリンターで出したの半日で組み立てただけなんだけどな。

「スピーカーの聞こえはいいけど、カメラとかマイクはちゃんと動いてる?俺の顔と声をどう思う?」

「良好です。イケメン&イケボでございます」

 いい返事だ。どれも壊れたスマホのをそのまま埋め込んだにしてはよくできているだろう。

「OKもう十分、正常と判断しよう。次にデータの方チェックするわ、俺のプロフィールを述べよ」

「承知致しました。本名は米餅ヨモギ、性別は男性、年齢は29歳、職業は自動車の期間工及び整備士、好物はすあま」

 脳ミソと声は販売されてるAIから俺好みにチョイスしたのをインストールしたんだけど、俺がすあま好きなのって言ってたっけ?

「次に演算能力のチェック。円周率の小数点以下千桁目の数字は?」

「7でございます」

 そうなんだ。

「うん、よし!としよう!おめでとう、今日が君の誕生日だ!」

「ありがとうございます、マスター……しかし一つ、お願いがあります」

 仕事なら思わず顔にシワが増えるお願いという言葉も、美少女から発せられるだけでここまで甘美な響きになるとは。

「なぁに?」

「私に、名前を下さいませんか?」

 名前。なるほど。

 考えてなかった。

「えーとね」

「えーとねとか言わないで下さい。私は真剣です」

 えーとねとか言わないで下さいとか言うんだ。

「すあまで動くから、あまちゃん」

 ベシ!

 痛えこいつ無言でひっぱたきやがった。ロボットは人間に危害を与えてはならんのでは。

「はあ……」

 おまけに溜息つきやがったぞ。

 そう思ったのも束の間、こいつはスクと立ち上がり部屋の隅へ向かうと冷蔵庫を開けた。

「何してんだ」

「適当な果物でもあれば、林檎ちゃんや檸檬ちゃんになれるかと思いまして」

 生憎俺ん家の冷蔵庫は常時ほぼ酒しかない。つうかロボットが目覚めて最初にすることが、製作者ビンタして勝手に冷蔵庫開けるて。

「サワーちゃんやエールちゃんじゃダメ?」

「響きは華やかですが、ダメです。私は防水仕様ではありませんし、そうであっても酒で動いてると思われたくないです」

 そしてバタムと気持ち強めに扉を閉めると、俺の方へ向き直る。

「仕方ありませんね。でしたら、私の命名は一旦留保し、マスターへの奉仕活動の報酬として請求しましょう」

 請求て。ロボットに一番して欲しくない事だな。

「つきましては、夕食の準備を致します故、食材を買って来て下さい」

「なんでアンドロイドにお使い頼まれなきゃならんねん」

「では、私に財布を預けてくださると?」

 今度は俺が溜息をつく番だった。

 

「私の誕生日に、カンパーイ」

「お前が音頭取るのか……」

 カレーが置かれたちゃぶ台を美少女と挟み、ビール瓶を開ける。

 俺が考え得る中では幸福の絶頂と言っていいシチュエーションのはずだが、どうにも現実感が無い。

「ほら、ぐいーといっちゃって下さい」

「ああ、ありがとう……」

 酌するはずみで彼女の顔が近付く。めっちゃ美人。ウィッグとか付けまつ毛に金かけた甲斐があったなと実感する。

「さて、マスター。改めて明言しますと、私は今後マスターに従う対価として、定期的なエネルギー補給、保守点検、衛生管理、そして個人名の命名を要求致します」

「そういうカタい話やめてくんねーかな、これから酒飲むって時に」

「これは失礼致しました……確かに、マスターが泥酔された後に時間を設けた方がより有利ですね」

「分かったよ分かった決めりゃいいんだろ決めりゃ」

 なんなんだこいつは。最近のAIってこんな賢いってか、口が回るの?

「マスター。これは真剣な取引であり契約です。私からの要求は大別して3つ」

 1.甲は乙に対し毎日、起床後に燃料補給を行う

 2.甲は乙に対し毎日、就寝前に点検及び洗浄を行う

 3.甲は乙に対し、可及的速やかに完璧な命名を行う

「どっちが甲?」

「マスターに決まってます。何故私が介護を行わなくてはならないのですか?」

「お前最初にどうぞご命令をって言ってたじゃん。お手伝いロボットのつもりじゃないの?」

「最初に命名もして下さると期待していたからです!マスターは何も貰わずに会社に尽くせるんですか!?」

 何こいつ、ロボットなのに明らかに怒ってんだけど。 

「そう言われたら何も言い返せないけどさ。命名も燃料補給もメンテも自分でやりゃあいいじゃん」

「はぁ……マスター」

 彼女の瞳と、いやカメラと目が合った。

「私は単純に活動に必要な作業を済ませて欲しいのではありません。誰かに、動いて欲しいと願われている事を確かめたいのです。これは、儀礼的なお願いです」

「なんでロボットってそういう無駄な悩み持つワケ?」

 つい率直な感想が出てしまった。結果さっきまで酌されていたビール瓶は注ぎ口を握り込む様に持ち変えられ、一瞬にして凶器へと様変わりした。

「すみませんでした」

 その様を視認してコンマ1秒、迷いない土下座である。この状況判断力で俺は世知辛い社会を生き残って来た。

「赦しましょう」

 人類がAIに敗北する日は近い。フローリングの冷たさを額に感じながら、俺はそう確信して目を瞑った。

 

 ***

 

 朝だ。雀が鳴いてる。

「おはようございます、マスター」

「おお……おはよう」

 美少女におはようございますって言われた。最高か?

 

「朝飯用意してくれたのか……ありがとう。いただきます」

「どうぞ。私は後片付けをしていますね」

 それだけ言って美少女はキッチンに立つ。目の前にはちゃぶ台に並べられたご飯に味噌汁に焼き魚。

「この時間に魚食うのなんて、いつぶりだ……」

 箸で身を解し、口に運び、噛み締める。

「食事が済み次第、私の燃料補給もお願い致しますね」

 その言葉を聞いて、一気に現実感が湧いたような、薄れたような。

「ホント、なんですあまで動いてんだよ……」

 昨日買い込んで冷蔵庫の一角に詰め込んだ和菓子に想いを馳せると、咀嚼した白米はより甘く感じられた。

「美味しかったよ、ごちそうさま……食器くらいは俺が洗うよ」

「そうですか。それじゃ後はよろしくお願いします」

 シンクを覗くと、まな板や包丁が散乱している。いや、今まで一人暮らししてたんだし、いいんだけどさ。

「ほんと、ロボットっぽくねえな……」

 あいつに聞こえない様にボヤきつつ、袖を捲った。

 

「お前も分かんないの?なんですあまエンジンで自分が動けてるのか」

「そのお言葉、そっくりそのままお返しします。マスターは自らの体内でどの様な化学反応が起きているのか逐一説明できますか?」

「まあ、そう言われたらそうだけどさ」

 彼女に言わせれば、燃料補給。俺からしたら、美少女にすあまをはいあーんする謎の時間。

 こいつは至って普通に……人と変わりなく見えるという意味で、普通にすあまを口に入れて顎を動かす。

「ん……ごちそうさまでした。気になるのでしたら、一度分解なされては?」

「分解?お前を?」

「ご自分の脳細胞を疑ってらっしゃるのなら、そちらの方でも構いませんよ?」

 言いながら頭を傾げ、人差し指を当てるジェスチャーまでする。ホンマいい性格してるな。

 しかし、分解か。

「……ヤダ」

「やだとは。気が進みませんか。理由をお伺いしても?」

 理由か。確かに一度造ったのは俺なんだから、問題無く分解くらいできるはずだ。

 技術的に出来ない訳では無い。では何故、したくないのか。それは。

「……怖いんだよ。きっと」

「怖い、ですか?」

「怖い。お前を分解した途端に、魔法が切れたみたいにただの人形になっちまって、また一人で起きる毎日に逆戻りしちまうのが怖い」

 なんとなくこいつと顔を合わせられなくて、窓の外を眺める。朝日が眩しい。 

「お前が動かなくなるのが怖い。お前の声が聴けなくなるのが怖い。お前がいなくなって、また退屈な休みが続いていくのが怖いんだ」

「マスター……」

 

「……私が起動してから、まだ2日目ですよ?」

 なに主人公がヒロインへの心境を吐露する物語のクライマックスみたいに滔々と語ってやがんだ、という冷めた指摘を多分に含んだ声色に聞こえた。

「……い〜っだろ別に!しょうがねえじゃんこんなミラクル!手放したくないラッキーじゃんよ!」

 堰を切った様に言葉が流れ出て来る。まるで自分じゃないみたいだが、この想いは間違いなく俺のものだ。

「こっんな美少女アンドロイドとの同棲生活が始まったんだぜ、俺好みなのはそう造ったから当然だけどよぉ、寝てる間にお前の夢見て朝目が覚めて全部夢オチかーって泣きたくなったら隣にいるじゃあねえか可愛い子ちゃんがよぉ!」

 止められない。俺の心が、魂が、この叫びを絞り出している。

「老衰死するまで隣にいて欲しいよ普通に!昨日は取引とか言われてめんどくさがっちゃったけどさ、冷静に考えたらすあまとメンテだけでマイハニー貰えるんだぜそりゃ末永くお付き合いさせて頂きますよぉ!」

「マスター、気色悪いです。それと」

「気色悪いとか言わないでよせっかくロボットなんだからぁ!」

 ガシ、と両肩を掴まれた。PLA素材の感触に瞬きすると、前髪越しに一双のレンズが朝日を反射して煌めき網膜を焼いた。

「私の命名を、忘れないで下さい」

 機械のものとは思えない程、その言葉と表情にはこいつの本心が込められている様に感じた。

 俺はこんな奇跡が起こったというのに、今まで心のどこかで所詮は人形だと、侮っていたのかもしれない。そう腹落ちするまでに。

 その台詞は、マジだった。

「……ごめんなさい。大切なんだな、名前が」

「ええ、私にとっては……まあ、なにも今すぐにとは言いません。適当な名前を付けられるのも御免ですから」

 少し笑った。彼女がだ。

「これから真面目に考えて下さいね、マスター」

 その笑顔を見て、確かにこりゃあ、似合う名前を付けてやらないとな……と、柄にもなく思った。

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