ヒトの強さを無礼るなよ ─ウマ娘プリティーダービー─   作:嵐牛

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最初の2話で主役みたいな顔してた奴の霊圧が消えた : 上

 

 「うわっ、モロに食らった!?」

 

 「いや違う、バックステップで力を逃してる! クリーンヒットはしてない!」

 

 武術に造詣の深いウマ娘が叫んだ。

 グラスワンダーは咄嗟に後ろに跳んで顔面に受けた全体重を乗せた飛び蹴りのダメージを軽減、衝突を外されそのまま地面に落ちたエルコンドルパサーが即座に立ち上がりライオンのようなタックルを仕掛ける。

 グラスワンダーはそこに薙刀の横薙ぎを合わせたが、しかしそれは空振りに終わる。硬い柄が身体を打ち据えるより先にエルコンドルパサーが軽々と跳躍したのだ。

 薙刀の一閃を一息に飛び越えた彼女は、得物を振り抜いたばかりのグラスワンダーの額に空中から浴びせるようなラリアットのような肘打ちを喰らわせた。

 

 「くっ!」

 

 首を柔らかく使ってアックスボンバーの衝撃を逃しつつ薙刀を後方に向けて振るうが手応えはない。彼女は既にそこから走り去っているからだ。

 ───逃げるのか?

 追うか捨て置くか一瞬考えた刹那にエルコンドルパサーは反転、再び突進を仕掛けてきた。

 あの突進に薙ぎ払いは効果が薄い。グラスワンダーは薙刀を腰だめに構えて鋭い呼気と共に突き出す。

 一撃ではなく連撃。

 エルコンドルパサーだけでなく彼女が移動するだろう場所まで範囲に含めた刺突の束。

 エルコンドルパサーはその間合いに踏み込む寸前にまたも大きく跳躍、薙刀を足の下に回避しつつグラスワンダーに襲いかかる。

 

 (そう来ると思いました!!)

 

 全身の筋肉を一斉に稼働させ、前に突き出した薙刀を強引に上空へ切り返す。

 宙に浮いた状態で攻撃を回避するのは不可能。

 ただの的と化した標的を地面に叩き落とすべく薙刀による燕返しを見舞う。

 だが、エルコンドルパサーはあろうことかその攻撃を()()()

 空中殺法が売りのルチャドーラとはいえ、自分を狙う薙刀を足で捉えるという恐るべき自在性。『ウマ娘の筋力に支えられた棒』という頑丈な足場を蹴ってエルコンドルパサーの空襲は加速、グラスワンダーは咄嗟に片腕で顔面を防御した。

 だが予測された衝撃は来ない。

 その代わりにエルコンドルパサーの両脚がガードごと巻き込むようにグラスワンダーの首に巻き付いた。そのまま彼女は思い切り身体を回転、空襲の勢いと生み出した遠心力がグラスワンダーを宙に浮かせる。

 地に足を着けた敵を空中から引っ繰り返す豪快な投げが綺麗にグラスワンダーを地面に投げ落とした。

 

 「な、何なのあの投げ技!?」

 

 「ヘッドシザースホイップ(ティヘラ)よ! まさか武器を持った相手に実戦で決めるなんて・・・・・・!」

 

 「いやちょっと待って待ってこっち来る!!」

 

 即座に起き上がったエルコンドルパサーとそれを追うグラスワンダーが遠巻きに見ていた外野の方に突っ込んできた。いきなり巻き込まれそうになった武術に造詣の深いウマ娘達が慌てて外側に逃げる。

 円形に距離を取った彼女らがちょうど2人を囲むような形になった。

 どうやらこの状況に誘い込まれたらしいとグラスワンダーは気付く。確かに長物を振り回す彼女にとってこれは同士討ちが発生しかねない状況だが。

 

 「私が間合いを見誤るとでも?」

 

 「ノー! ここはグラスを閉じ込める檻じゃありまセン! エルが主役のリングデェス!!」

 

 言うが早いかエルコンドルパサーが三度(みたび)突っ込んできた。

 しかし今までの突進より切り返しが数段速い。虚を突かれたグラスワンダーが反射的にガードの体勢に入ったがエルコンドルパサーは攻撃しない。速度は緩めず防御を固めたグラスワンダーの頭に手を置き、跳び箱のように彼女を飛び越してしまった。

 ─────よく動き回る。

 さっきのパターンからして今から後ろに薙刀を振るっても彼女はとっくに間合いの外だろう。

 空振って隙を生んでしまうよりも改めて構えた方が反撃の芽を潰せるはずだ。

 グラスワンダーは落ちついて薙刀を中段に構えつつ後ろを向き、既に切り返して背後からタックルに来ているだろう相手を待ち構えようとした。

 その瞬間に視界一杯に広がったのは、とっくに懐に潜り込んでいたエルコンドルパサーの腕だった。

 

 (速・・・・・・ッッ!?)

 

 鈍い音がした。

 突進の勢いを余す所なく乗せたラリアット(ラソ)がグラスワンダーの首に激突する。

 呼吸困難に陥った彼女を全方向からの打撃が襲う。打撃(ゴルベ)ラリアット(ラソ)だけではなく回し蹴り(パターダ・コンヒーロ)などの動きの大きな攻撃までバラバラの方向から飛んできた。

 自分の周囲を走り回りながら攻撃しているのだと理解したグラスワンダーだが、ならばこの攻撃の方向と密度のメチャクチャさは何だ?

 分身でもしなければ考えられない現象に混乱し始めた彼女だが、直後の武術に造詣の深いウマ娘の叫びによってその正体が明らかとなった。

 

 「気を付けて!! 私達をリングロープ代わりにしてる!!」

 

 攻撃して走り抜ける。

 周囲を囲む外野に背中からぶつかってブレーキをかける。

 ぶつかった反動を利用してノータイムで走る。

 周囲を囲むウマ娘を使ってピンボールのように跳ね回り全方向から間断なく攻撃を叩き込む。

 ロープで弾んでリング内を駆け回るルチャドーラの立ち回りを、エルコンドルパサーは外野をロープ代わりにして行っていたのだ。

 腹筋を駆使して強引に呼吸を立て直したグラスワンダーは大声で指示を飛ばす。

 

 「全員散りなさい! 利用されるだけです!」

 

 「「「 は、はいっ!(きゃっ!?) 」」」

 

 慌ててバラバラに散っていくウマ娘達の返事の中に小さな悲鳴が混ざっていた。

 躓いたかぶつかったか、そのどちらかだろう声にグラスワンダーは強烈な違和感を覚えた。

 敵はどこにいった? 素早く首を回す。

 前にはいない。左右は? いない。

 ならば後ろ。薙刀を振り回す。手応えなし。

 ()()()。どこにもいない。

 

 自分の影に別の影が重なっていた。

 全てを察して見上げた時にはもう遅かった。

 外野の肩を思い切り踏んで空高く飛翔した彼女が、空駆けるコンドル(El Condor Pasa)の名の通りに獲物に襲いかかる。

 

 「エル☆Numero(ナンバー) ooooooone(ワーーーーーーン)!!」

 

 笑って、落ちた。

 重力加速度を存分に蓄え体重以上の破壊力を得た渾身のフライングボディプレス(プランチャ)が、グラスワンダーを真上から叩き潰す。

 しかしそれでは終わらない。

 エルコンドルパサーは敵と地面の間でプレスされて肺の中身を全て吐き出したグラスワンダーの背面から左腕を掴んで後頭部を押さえつけ、その左腕と首の後ろを自分の脚に引っ掛ける。

 

 (こ、の技は、一体・・・・・・!?)

 

 「この(ジャベ)は何十年も前にメキシコに渡った日本人が生み出しました」

 

 語りながらもエルコンドルパサーは止まらない。

 さらに左足の爪先をグラスワンダーの右膝の裏に引っ掛け、右腕を掴んで引っ張る。

 その技はグラスワンダーの身体に横から組み付いて「く」の字に折り曲げるような形で完成した。

 

 「体格の不遇に泣かされ続けそれでも折れずにプロライセンスを取得! 日本に生まれ世界に飛び出し、そして日本にルチャを伝えたルチャドール! 彼の開発したこの(ジャベ)を帰国子女のグラスにプレゼントデス!」

 

 気道が潰れる。身体が軋む。

 見ていた全員が息を呑んだ。

 能動の極地、ウマ娘の身体能力だからこそ成立する実戦のルチャ・リブレ。武器を圧倒する肉体の図。

 完全にグラスワンダーの身体をロックしたエルコンドルパサーが高々と叫ぶ。

 

 「その名も《ジライヤクラッチ》!! ここから抜け出すのは絶対に不可能デェェェス!!」

 

 編み出した者の名をそのまま名付けられた組み技。ここに至るまでの攻防の組み立ては最早芸術と言っても差し支えない。

 思わず見入っていたウマ娘達だが、ハッと我に返った1人が慌てて動いた。

 

 「全員でいこう! グラスさんを助けなきゃ!」

 

 これは1対1の試合ではない。味方が危険ならば全員で助けるべきだ。

 複雑な体勢で絡み合っている2人を引き剥がそうと一斉に群がろうとするウマ娘達だが、エルコンドルパサーは彼女らに向けてしれっとした顔で言い放った。

 

 「いいデスけどそうしたらグラスの身体がプッチンしちゃいマスよ?」

 

 「っぐぅぅううう!!」

 

 エルコンドルパサーがさらに足と肩を絞った。強引に腱を引き伸ばされたグラスワンダーの喉から唸るような叫びが漏れる。

 この『軍団』はグラスワンダーの武力を(たの)んだウマ娘の集まりだ。彼女がいなければ指針を失う烏合の衆に過ぎない。

 つまり彼女が戦闘不能になる訳にはいかない。

 こうして彼女自身を人質に取られてしまっては、もう彼女達は動けない。

 グラスワンダーの身体を丸めた布のように絞りつつ、エルコンドルパサーは最後の通告を突きつけた。

 

 「さあグラス!ナギナタを捨てて降参するデス! グラスの技は! ナギナタは! こんな事をするためにあるものじゃ無いはずデェス!!」

 

 力を込めて締め上げる。

 グラスワンダーの腱がさらに悲鳴を上げる。

 このように勝負は決したと判断できる状況は各地で発生していた。

 

 「くうっ・・・・・・!」

 

 例えば沖野とサイレンススズカ。

 投げ技の対策は万全と彼女は言ったが、沖野の引き出しはマニュアルの対策だけで尽きるものではない。

 投げられる方向に自ら跳んで着地しようにも、どうやってもパンチなど打てない体勢で着地させられるのだ。掴まれた腕をウマ娘の怪力で振り払おうにも、その力をコントロールされて体勢を崩される。

 しかし転がされる訳にはいかない。

 倒れたが最後、神速の捕縛術が待っている。

 攻めあぐねる彼女に沖野は冷静に降伏を促した。

 

 「落ち着け、スズカ。これ以上は無意味だ」

 

 ナリタブライアンとそのトレーナー。

 両者一歩も退かない殴り合いの戦局は加速度的にトレーナー側に傾きつつあった。

 体格と体重の差という圧倒的な有利だった。巨大な体躯はそのまま長大なリーチと打たれ強さに繋がってナリタブライアンを圧倒する。

 食い縛った彼女の歯から呻きが漏れる。

 あちらの攻撃は届かずこちらの攻撃は届く一方的な距離に、指先が引っかかるだけで吹き飛びそうになる膂力。ガードを固めて回避に徹するしかなくなった彼女に嵐のような掌打を浴びせながら彼は叫んだ。

 

 (クソッ・・・・・・! こうまで体格の不利が出るか!)

 

 「どうしたァブライアン!! ここらがお前の限界かァ!?」

 

 木は火を活かして火は土を産む。

 土は金を内包して金は水を凝結させる。

 そして水は木を育む。

 呪符で構築された陣を背に、マンハッタンカフェのトレーナーは自らの担当ウマ娘に苛烈な畳み掛けを始めていた。

 

 「《五行円陣》。この規模の攻撃は許可されていないけれどカフェ、君の力は得体が知れない。ここで一気に決めさせてもらう!」

 

 順繰りに相生を発生させ加速度的に力を増していく陣から飛び出す炎や水が襲いかかり、金と土と木が防御を固める。

 まるで隙のない攻守共に脅威的な布陣だが、トレーナーからすればそれに単一の力で対抗し続けているカフェの方が異常だった。

 しかしやはり手札の種類がものを言うのか、カフェの黒炎のような力による反撃と防御は確実に押し切られつつあった。

 どこの戦場も(じき)に決着となるだろう。

 《特能枠》と《特化戦力》、共に動乱の結末を決定する力を持つ者。この2つの勢力の激突はトレセン学園における人間とウマ娘の代理戦争と言っていい。

 平穏か蜜月か。

 勝った種族が望んだものを手に入れる。

 ─────終わってしまうのか。

 じわりとウマ娘達の背筋を恐怖が這う。

 全てを擲った作戦が、失敗に終わるのか。

 

 「そうですか。これじゃ駄目なんですね」

 

 サイレンススズカはそう呟いた。

 他の《特化戦力》も同じ事を言った。

 しかしそれは諦めではなく覚悟の証。

 スズカとカフェとグラスは視線を研ぎ、ナリタブライアンは凶暴に笑う。

 彼女らの瞳の中で爆発した稲妻のように苛烈な眼光に、トレーナー達は人では及べぬ獣の領域を見た。

 

 

 「「本気で行っていいん(だな)ですね?」」

 

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