ヒトの強さを無礼るなよ ─ウマ娘プリティーダービー─   作:嵐牛

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再結人馬之絆 娑婆訶 : 上

 

 静謐を神威で塗り潰された人造の神域。初手で両腕を斬り落とした【国穣神賛明王】の手に握られているのは、鈍く輝く無骨な大鉈だった。

 そして【寂寞の日曜日(Sunday Silence)】の両腕が切断面から噴き上がった黒炎と共に再生した。肘から先を取り戻してなお燃え盛るそれは【彼女】の手の中で収束して漆黒の大鎌(サイズ)に姿を変える。

 

       『【末脚之鉈(なたのすえあし)】』

 

 「【寂滅する隣人(memento mori)】!!」

 

 低い男の声とマンハッタンカフェの叫びが重なると同時、二柱が手に握った得物を振るう。

 互いの距離の中間地点で激突した大鉈と大鎌が激甚な衝撃を神域に爆烈させた。

 それに止まらず二回、三回、四回。恐るべき大質量(スケール)の打ち合いが始まる。暴風雨のような余波を撒き散らすその均衡を崩しにいったのは【寂寞の日曜日】だった。

 

 【◼️◼️◼️!!!】

 

 打ち払われた大鎌が不気味に蠕動、その直後にその柄が生物のように生々しい動きで伸長した。

 その様はもはや武器ではなく、頭の代わりに巨大な刃を備えた蛇。【彼女】の咆哮に呼応してのたうち回るような軌道で【神賛明王】の首を狙う、が。

 

        『【震山鐡(しんざんてつ)】』

 

 言葉と共に【神賛明王】の四肢が鎧を纏った。

 首を刈り獲らんとする刃を銀色の籠手に覆われた拳で地面に叩き落とし、それを同じく銀色の脛当てに包まれた足で踏み付けて動きを封じる。

 そしてぐにゃぐにゃと動く大鎌の柄を握って思い切り引っ張った。綱引きのように引っ張られた【寂寞の日曜日】が引き寄せられてつんのめる。

 

 ─────叩き斬った。

 

 体勢を崩した【寂寞の日曜日(Sunday Silence)】に袈裟斬りで振り抜かれた大鉈がその身体を何の抵抗も無く二枚に下ろす。

 その瞬間、彼女の身体が炎の塊になって爆発するように四散した。

 その圧で【神賛明王】を押し返した炎や火の粉が蠢くように宙を泳いで一箇所に結集、渦を巻くように融合したそれらが再び【寂寞の日曜日】となる。

 炎から甦った【彼女】の双眸に滾る殺意は更なる高まりを見せていた。

 

 (触れれば滅する鎌のはずですが。あの鎧、神霊の呪いすら弾きますか)

 

 予想を超える規模の【神賛明王】の権能を前に眉根に皺を寄せるカフェ。

 再誕した【寂寞の日曜日(Sunday Silence)】が体勢を戻す前に【神賛明王】が大きく踏み込んで大鉈を振るう。

 再び生み出した大鎌で応戦する【彼女】だが、しかし二度三度と打ち合う度に【神賛明王】が一歩一歩と詰めていく。

 直接的な武力においては【神賛明王】に軍配が上がるらしいが、その程度で勝負が決したりはしない。

 音もなく己を霞ませ不定形の黒い霧と化した【寂寞の日曜日(Sunday Silence)】が刃を身体に透り抜けさせつつ神賛明王から距離を取る。まるで巨大な飛蝗の群れが大移動しているかのような光景だ。

 その中から再び実体化した【寂寞の日曜日(Sunday Silence)】が両手を薙ぎ払うように振るうと、虚空から現れた無数の火球が【神賛明王】に襲いかかる。

 先刻トレーナーに叩き付けたのと同じ技だが、その時と違うのは一回の爆裂では終わらない事だ。

 

 幾千幾万を超えて牙を剥く炎が、放たれた瞬間から際限なく産み出されていく。

 世界を滅ぼす裁きの雨が神域の結界の中を埋め尽くした。

 ───そこにある存在を、丸ごと巻き込んで。

 

 「ッッッ!?!?」

 

 仰天したのはマンハッタンカフェだ。

 彼女は【寂寞の日曜日(Sunday Silence)】の加護が掛かっているので余波を受ける事は無いが、トレーナーはその限りではないからだ。余波への対策はしているはずだが、柱の位階が使う全力の術式を受け止められるレベルの術を人が扱えるはずがない。

 そしてまた低い男の声が響く。

 トレーナーの祝詞に応えて【神賛明王】を現世に導いた、宙に浮かんだ人形(ヒトガタ)から。

 

 

       『【見晴霞(ミハルカス)】』

 

 

 天変地異のような暴風が吹いた。

 神域を満たさんとしていた炎の裁きが、一つ残らず吹き飛ばされた。

 それだけではない、産み出されようとしていた炎まで・・・・・・つまり、【寂寞の日曜日(Sunday Silence)】の術式そのものが、だ。

 目を見開いた【彼女】に対して【神賛明王】が身体を沈めて構える。突撃の姿勢だが間合いは遠い。【寂寞の日曜日(Sunday Silence)】は直ちに迎撃の術式を発動しようとしたが、

 

        『【飛鳥(アスカ)】』

 

 大鉈が【彼女】を叩き斬る。

 遠い距離を一歩で踏み越えてきた【神賛明王】の一撃が、【寂寞の日曜日(Sunday Silence)】の胴体を深々と通り抜けた。

 致命の一撃を喰らった【寂寞の日曜日(Sunday Silence)】は即座に手に炎の剣を生み出して眼前の敵を斬り返そうとする。

 しかし。

 

       『【倍増双星(バリモスニセイ)】』

 

 ()()()

 二体に分散した【神賛明王】が左右から【彼女】を挟み撃ちにする。

 どちらかが偽者。ギョロリと視線を往復させた【寂寞の日曜日(Sunday Silence)】は一切迷わない。躊躇の欠片もなく右の【神賛明王】の額に炎剣を突き立てる。

 ─────手応えがあった。

 分身ではない、核心を貫いた感覚。

 ぐたりと脱力して地面に倒れゆく【神賛明王】を見下ろして眦を引き裂くように嗤う。

 

 直後に左側から縦に真っ二つにされた。

 

 (受けた事象を分身と入れ替えた!?)

 

 【◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!!!】

 

 乱舞する大鉈に瞬く間に(なます)切りにされながら激昂に吼える【寂寞の日曜日(Sunday Silence)】。バラバラにされていく身体を再生しながら【彼女】は強引に【神賛明王】に組み付いた。

 両腕ごと身体を抱き抱える抱擁のような形振(なりふ)り構わない拘束。当然それを振り解こうとする【神賛明王】だが、それよりも先に【寂寞の日曜日(Sunday Silence)】が動いた。

 いや。

 動いた、というよりは──────

 

 

 極大の火柱が顕現した。

 【寂寞の日曜日(Sunday Silence)】を中心に天を貫いた漆黒の大噴火が、自分ごと【神賛明王】を呑み込んだ。

 

 大地が震える程の爆轟。

 余波に巻き込まれないための結界すら心許なくなるような衝撃に叩かれ、カフェとトレーナーは思わず顔を庇う。

 そして炎が鎮まった神域、自爆した身体を再構築して甦った【寂寞の日曜日(Sunday Silence)】が勝ち誇った顔で爆心地を見遣(みや)る。

 その顔が強張った。

 

 確かに少なくない損傷はある。

 羽織はあちこちが黒く燃え落ち、【震山鐡(しんざんてつ)】も一部が溶け落ちている。ボロボロになった紋付袴から覗く肌には深く焼かれた痕が色濃く存在していた。

 

 ───しかして【国穣神賛明王(こくじょうしんざんみょうおう)】は健在。

 二本の脚で傲然と立ち、漂う炎の残り滓を軽い調子で振り払う。

 

 (何故)

 

 目の前で起きた事を受け入れられないカフェ。

 文字通り命を対価に発動する今の大技が直撃してあの程度で済むはずがない。

 そもそも感覚的には【あちら】と【彼女】はほぼ同格。耐久力以前に【彼女】がここまで一方的に押されるのが不自然なのだ。

 何かがある。

 天秤を向こう側に傾けている何かが。

 ─────そうだ、()()

 

 「・・・・・・『神域』、ですか」

 

 「気付いたみたいだね」

 

 しらを切る様子も無くトレーナーは答える。

 

 「その土地の気候や災害、そこから生まれる文化と信仰。神と土地は密接に関係している。

 本来『柱』とはそういった背景の全てを織り込んだ『儀』によって(まみ)え、風土に(のっと)った礼を尽くして初めて請願が叶うもの。

 君は友誼を結ぶ事でそれら全てをすっ飛ばした有り得ない略式で【彼女】を降臨させているようだけど、それでは【神賛明王】には敵わないよ。

 私は【神賛明王】に(ゆかり)の深いこの場所を龍脈で整えて、その上で『儀』により『神域』として区切った。

 ・・・・・・その環境が【彼女】には不快なようだけど、恐らくは彼女に根付く背景とまるで噛み合わないからだろうね」

 

 そうは言うが舞踊や器楽その他諸々も無しに柱を招いたトレーナーの『儀』とて考えられないレベルの略式なのだが、それが出来るのが彼の異常性だ。

 とはいえ重要なのはそこではない。

 場を整えられた【神賛明王】は充分に力を発揮でき、何も無しに()ばれた【寂寞の日曜日(Sunday Silence)】はむしろ弱体化しているという事だ。

 

 「何度倒しても甦り続ける理由は分からないけれど、劣勢に怒るならその不滅だって無限じゃない。・・・・・・刃は必ず、【彼女】の核心に届く」

 

 ずしん、と【神賛明王】が距離を詰める。

 カフェに慢心はあったのだろう。

 友誼を結んだ【彼女】の強大さに慣れ過ぎて、初めて相対する万全に整えた同格の存在に対する思考が甘かったのだろう。

 

 だからどうした。

 桁外れなのはこちらも同じ。

 同格の相手が出来る事など、こちらだって当たり前に出来る。

 

 

 「──────【燎原の血脈(Leading Sire)】」

 

 

 どぷんっ、と【寂寞の日曜日(Sunday Silence)】の全身から真紅の粘液が溢れ出した。

 『神域』の地面を蝕むように広がっていくそれの表面が沸騰するように泡立つ。

 そこから粘質な音を立てて引き摺られるように出現したのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 夥しく産み出され口々に嘶きを上げるそれらに込められた力は今までの比ではないが、トレーナーが驚愕したのはそこではない。

 

 (『神域』が侵食されていく・・・・・・! あれは正しく【彼女】自身の土地であり領域!【彼女】の権能は龍脈まで塗り替えるのか!)

 

 「・・・・・・さあ、始めましょうトレーナーさん。ここからが私達の本領です・・・・・・!!」

 

 カフェの宣言と共に【寂寞の日曜日(Sunday Silence)】が人差し指で【神賛明王】を指し示す。

 その直後に全ての獣が殺到してきた。

 天を駆け地を駆け、世界を押し流す津波のように。

 それに対する【神賛明王】は歩みを止めて防御に回った。人形(ヒトガタ)の低い男の声と共に、明王は大鉈を地面に突き立てる。

 

        『【鉄欅(カネケヤキ)】』

 

 大地を貫いて無数に屹立した鋼の樹木が城壁となって獣達の特攻を阻む。

 裏側にいる自分に響いてくる爆音と振動から考えて、やはり自分の時は加減されていたのだとトレーナーは改めて理解した。

 しかし───これはマズい。

 今は凌げても防壁に限界は来る。しかしこの破壊力で埒外の弾幕を張られては反撃など(まま)ならない。

 

 (そもそも【彼女】のエネルギー源は何だ?)

 

 自分は神器の人形(ヒトガタ)による『儀』で来迎(らいごう)に掛かる負荷を低減し、事前の準備で龍脈と場を整える事で【神賛明王】への神力の供給源としているが、【彼女】とカフェにそうした何かしらが見当たらない。

 【寂寞の日曜日(Sunday Silence)】がここまでの権能を振るう力の源泉とは──────

 

 「・・・・・・・・・・・・(ネガ)(タテマツ)ル」

 

 これは賭けだ。()()()()()()()

 【神賛明王】の傍らの人形(ヒトガタ)にトレーナーは念を送る。

 ぴくり、と【神賛明王】が僅かに頭を傾けた。

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