ヒトの強さを無礼るなよ ─ウマ娘プリティーダービー─ 作:嵐牛
「うひゃ〜・・・・・・グラウンドが大変だべ・・・・・・」
「当分は屋内トレーニングが主になりますわね」
沖野が纏めるチーム《スピカ》に割り当てられた一室、スペシャルウィークは窓に張り付いて外を眺め、メジロマックイーンは冷静に今後の動き方を考える。
「けどどーすんだ? 外が使えないなら屋内でって奴は大勢いるだろ? トレーニング器具だって無限にある訳じゃねーし、使いたい奴でケンカになっちまうんじゃ・・・・・・」
「いま学園が周りの施設を総当たりしてるらしいわ。幸い・・・・・・ではないけどトレーニングできる子も少ないし、何とかなるんじゃないかしら」
「あれ。そういえばゴルシさんはどこに?」
「グラウンド整備に参加していますわ。いつもの意味不明な口上を理由にしていましたけれど、スズカさんの様子を見に行ったのでしょう」
当然の不安を口にするウオッカと情報を掴んでおり冷静なダイワスカーレット。思い出したように周囲を見回すスペシャルウィークに答えながらマックイーンは外の景色を見遣る。
「ビックリです・・・・・・トレーナーさんが好きなんだろうなっていうのはちょこっとだけ感じてましたけど、まさかここまでするなんて・・・・・・」
「タイマン張ったって聞いた時はビビったよなー。まあ何に一番ビビったかって言えばほとんど無傷のトレーナーになんだけどよ・・・・・・」
「お話は戻ってきてからゆっくりと聞かせていただきましょう。大変な結果になってしまいましたけど皆が無事だったのです、トレーナーさんを含めて誰も気にしていませんわ」
サイレンススズカとトレーナーが話題に上ってもその空気は他愛もない雑談と同じ。それだけ損なわれない信頼が築かれているのだろう。三者三様の感想を口にする中、スカーレットがおずおずと伺うように手を挙げた。
「そうそう、そのトレーナーが好きっていうのについてなんだけど・・・・・・」
「?」
「・・・・・・ゴルシ先輩も、よね?」
「うーん、それってどうなんですかね・・・・・・? そういうのでは無さそうな気が・・・・・・」
「いえ、私もそうではないかと思っていますわ」
「そうなんですか!?」
「はい。以前彼がトレーナー室で鍋を振る舞って下さった時、私達で彼を折檻しましたでしょう? その時にふとゴールドシップさんが目に入ったのですが、騒がしくしている彼を見ている彼女が、その・・・・・・、何よりも愛おしそうな顔をしていて・・・・・・」
「マジかよ!?」
「私に見られている事に気付いてからはいつものゴールドシップさんに戻られて、そこから同じ様子は二度と見ていませんわ。時々あれは夢だったのかとすら思いますが、きっと彼女も・・・・・・」
「ひええ・・・・・・おんなじ男の人を二人で取り合うんだべかぁ・・・・・・」
「取り合ってない取り合ってない」
「でもそうなったらどうなんのかな。トレーナーもゴルシ先輩かスズカ先輩のどっちかと、つつっ、付き合うのか・・・・・・!?」
「鼻血拭きなさい。少なくとも私達が現役の内はありえないわよ。もちろん将来的には分かんないけど」
─────将来的に。
その言葉に彼女らは起こり得るかもしれない未来予想図を脳内に思い浮かべる。
トレーナーがサイレンススズカと一緒になったら? 彼女は優しく芯が強い。トレーナー業で忙しい彼を優しく癒し
ゴールドシップと一緒になったら? あの破天荒な性格は彼を決して飽きさせないし、その強さは彼が寄りかかるには最適だろう。
どちらにしても彼は幸せになれる。
日本一のウマ娘になるという抽象的な自分の夢を、笑わずに全力で叶えてくれた彼が。
何事も一番でないと気が済まない自分の面倒臭さを、ありのまま受け入れ存分に活かしてくれた彼が。
屈腱炎に泣く自分に寄り添い、あらゆる手を尽くして支え立ち上がらせてくれた彼が。
自分ではない誰かの隣で、笑っている。
沖野は本当に上手くやっていた。
己の胸を引き裂く痛みの理由に彼女らが思い当たるまで、まだしばらくの猶予があるのだから。
急に俯いて沈黙した三人を、困惑したウオッカがキョロキョロと見回していた。