ヒトの強さを無礼るなよ ─ウマ娘プリティーダービー─ 作:嵐牛
「お目覚めか?
「んが」
チーム《ケイニス》のトレーナー室、目を覚ました彼が最初に見たのはシリウスシンボリの顔だった。
後頭部に感じる鍛えられた、しかし柔らかな感触。どうやら自分は彼女に膝枕をされているらしい事を彼は理解した。寝ぼけ眼の自分を楽しそうに見下ろすシリウスの手には何枚かの書類が握られている。
「シリウス。そいつは」
「ん? あんたが枕にしてたこいつか? 私が手に入れたものをどうしようが私の勝手だ。提出期限は今日らしいが問題はないだろう?」
「そいつは困るなー。返してくれよー」
「なら相応の態度を見せて貰わなきゃな?」
「ワン! ワン!」
「ハッ、いい子だ」
寝転がったまま受け取った書類を横のテーブルに置き、トレーナーは改めて状況を整理する。自分は作業中に居眠りをした。そして今はシリウスに膝枕をされている。
「ところでこいつは?」
「散歩の途中で突っ伏す程度の可愛げはあるらしいからな。一生懸命走り回ってる
「そっか。ならあと一時間頼むな」
「な、オイ」
言うが早いかトレーナーはスマートフォンのタイマーをセットしてシリウスの膝を枕にしたまま目を閉じてしまった。その瞬間に聞こえてくる寝息。どうやら本当に体力の限界だったらしい。
犬というには太々しいその様に呆れながらシリウスは手を伸ばしてトレーナーのスマートフォンを手に取って一時間にセットされたタイマーを解除する。
文句はあるまい。
自分の前でそうしたという事はそういう事だ。
この男は理事長との交渉の内容を自分達に話してはいない。トレーナーとして、あるいは大人としての矜持なのだろう。しかし理事長はその矜持を尊重するよりも自分のチームメイト達に・・・・・・、あの騒乱の中でも最も手酷くトレーナーを傷付けたウマ娘達に釘を刺すことを優先した。
本来なら退学になるはずだった彼女らをチームとして纏め、全員に未勝利戦を突破させる事。これが達成できなかった時、自分もまたトレーナーを辞する事。この不利すぎる条件を床に額を擦り付けてまで自分に嘆願してきた事を、理事長は全て《ケイニス》のメンバーに話したのだ。
「・・・・・・格好つけやがって」
気の抜けた顔で眠るトレーナーの鼻をふにふにと
隠しているつもりなのだろう。
どれだけ普段ヘラヘラしていようが自分は全て知っている。
鍛え抜かれた強さも与えられた痛みの全てを許す寛容さも、ウマ娘のために全てを捨てられる高潔さも、自分を手に入れるために全員丸ごとチームに引き入れる豪快さも、自分に噛み付かれて喜ぶような性格も。
そして、こいつは自分が大好きな事も。
「どんだけ私に惚れてんだ。ばーか」
鼻を
寝息を立てる彼の頭を優しく撫でる彼女の背後、トレーナー室の外。入るに入れなくなった《ケイニス》のメンバーが、仏頂面で後頭部を壁に預けていた。