ヒトの強さを無礼るなよ ─ウマ娘プリティーダービー─   作:嵐牛

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エル、メジャーなネタはとりあえず擦りなさい

 

 「ぐああッッ!?」

 

 吹き飛ばされたトレーナー達を待ち構えていたウマ娘達がキャッチする。

 どこかで見た光景とは真逆の立場だった。

 捕獲したトレーナーを奪ったザイルで即座にぐるぐる巻きにする。

 ようやく目当ての獲物を捕まえたウマ娘が、瞳を爛々と光らせてトレーナー達を纏めて吹っ飛ばしたウマ娘を見る。

 

 「ありがとう! 凄いよグラスさん、もうこんなに捕まえちゃった!」

 

 「いえいえ〜、ですがこれで満足してはいけませんよ? まだ自分のトレーナーさんを捕まえていない子もいますから、届けたら引き続き協力をお願いしますね〜」

 

「わかってる!!」

 

 トレーナーを小脇に抱えて走り去っていくウマ娘を小さく手を振って見送る。

 その手には薙刀、青色と白に金のラインが入った『勝負服』。グラスワンダーが率いる一団は今のところ最も猛威を奮っているグループだった。

 鬼に金棒、ウマ娘に武器。

 大きな得物を磨き抜かれた技術とずば抜けた身体能力で振るうその戦闘能力は凄まじく、ザイルロープしか使えないトレーナーなど物の数ではなかったのだ。

 

 (校舎の中が少しだけ気になりますが・・・・・・彼女がいれば大丈夫でしょう。私の得物は屋内では不得手ですし、ここはお任せしましょうか)

 

 「グラスさん、次はどこ行く?」

 

 「そうですね〜、やはり人が集まっている所に行きたいところです。話によればスズカ先輩は沖野トレーナーと一騎討ち、カフェ先輩の所はむしろ邪魔になりかねませんから・・・・・・」

 

 「伝令! 伝令! 校舎の近くでナリタブライアン先輩が戦ってるよ! 周りにトレーナー達も沢山いる!」

 

 「了解です。となればそこへ向かいブライアン先輩の戦いを観ている人たちを捕まえるのが良いでしょう。勝負の邪魔はしないように気を付けねばなりませんね」

 

 伝令役のウマ娘が走り去っていく。走っている途中で見てきたものを詳しく伝えられるのは携帯電話にはない利点だろう。

 そしてグラスワンダーが進行方向に薙刀を向け、その方向に一斉に走り出す。

 まるで統率された兵隊さながらの動き。

 このままいけば彼女らはその戦場に特大の横槍を入れるだろうが、それは一時先送りになった。

 グラスワンダーが指揮をして進軍を止める。

 腕組みをした1人のウマ娘が、仁王立ちで真正面に立ち塞がったからだ。

 

 「グラス。何をやってるんデスか」

 

 マスクの下の碧眼を細める彼女。

 

 「大勢を引き連れて人を攫って、ほとんど丸腰の相手を武器を使ってタコ殴り。いつも言ってる誉れはどこへ行ったんデス?」

 

 「誉れは芝で死にました」

 

 静電気が爆ぜた。

 さっきまでの柔らかさが削ぎ落とされ、刃物のような硬く鋭い芯が現れる。湖のように青い瞳は今、水底(みなぞこ)ように暗い。

 ───捨てた力だ、と彼女は思う。

 大切な何かを捨てて得た力。自棄と言うには余りにも冷徹な死兵。

 先頭の気配を察知したグラスワンダーの『軍』が巻き込まれない位置まで退がり、彼女は薙刀を蜻蛉のように大きく振り回す。

 

 「私は全てを捨ててでも、1つを手に入れる為にここに来た。貴方は何を捨てて此処に立つのですか?」

 

 「何も捨ててなんかいまセン。私がここにいるのは、道を外れたおバカさんを引っ張り上げてやるためデス」

 

 「・・・・・・耳触りだけは良い台詞ですね。命に等しいものを捧げた相手に対して、己は何も差し出さずに勝とうなどと」

 

 ピタリと薙刀の切っ先が彼女を捉える。

 対する彼女は腰を低く落として前傾に構えた。

 この動乱で初めてウマ娘とウマ娘の対決が行われてようとしていた。

 互いに退かない、退く気配もない。

 炎を燃やす青の双眸が2人を最短距離で結びつけ、そして爆ぜるような火花を撒き散らした。

 

 「エルコンドルパサー(エル)、腹を切りなさい」

 

 「腹を割って話しましょう。これがエルの本気デェェェェス!!!」

 

 

     ◆

 

 重低音と共に微かな揺れ。校舎の一部が破壊されたのだと察する事ができた。

 無念そうな顔で縛られたウマ娘をそっと廊下の脇によけて、『トレーナー』の一団は額の汗を拭う。

 

 「今のはナリタブライアンとそのトレーナーかな。時間をかけると人が減って鎮圧が厳しくなってくるから早めに勝ってほしいんだけど」

 

 「あの、俺たち本当に校舎内に集中してていいんですか? 本格的に『特能枠』も動き始めたし、外に出て勢いに乗った方が・・・・・・」

 

 「いえ。ウマ娘相手に機動力で仕掛けられると分が悪いので、どこかに拠点を作って迎え撃つ体勢を整えた方がいいでしょう。それに恐らくは生徒会室が制圧されている現状を考えると」

 

 「ウマ娘が外に出払ってる隙を突いて不意打ちが出来る、って事ですか」

 

 はい、と頷くトレーナー。

 真正面から戦うのは得策ではないと判断したそのトレーナーは孤立していた者達を助けて仲間に加えつつ校舎の奪還を進めていた。

 生徒会が制圧されている可能性に気付いてからすぐに現状を俯瞰して反撃の糸口を掴む窮地においても冷静な判断力は流石『若き天才』と呼ばれるだけあった。

 だが、もっと人数が欲しい。

 校舎を奪還したとして、そこを拠点にするには作業を行う人手がいる。

 動けるトレーナーが減りはしても増える事はない現状、急がねば反撃の準備すら間に合わなく───

 

 ()()()、と音が聞こえた。

 

 ほとんど全員が崩れ落ちた。

 ただ1人意識を保ったトレーナーの背中に怖気が走る。

 聴き覚えのある音だった。

 しかしモノが違う。まるで自我を丸ごと引っこ抜いてくるような感じた事のない力。

 

 「トレーナー さぁん」

 

 慌てて振り向いた先に彼女はいた。

 水色と白の『勝負服』。

 右手に持つは赤子の玩具(ガラガラ)

 母親のように優しい微笑み、その瞳は羊水のように昏い光に満たされていた。

 

 「クリーク・・・・・・ッッ!?」

 

 「【でちゅねする】【と】【言いなさい】」

 

 

     ◆

 

 

 黒炎が乱れ飛び呪符が舞う。

 マンハッタンカフェが持つカンテラから間断なく襲いかかってくる意思持つような炎の砲弾がトレーナーが展開した呪符から溢れた水の壁に激突し、派手なスプリンクラーを周囲一帯に撒き散らした。

 力は互角・・・・・・なのだろうか。

 水の壁を突き破ってきた黒炎の欠片がトレーナーに迫り、そして彼はそれを咄嗟に迎撃して破壊した。

 

 「ベルベットの夜。射干玉(ぬばたま)の目覚め」

 

 如何なる意味が含まれているのか、詩の一節を抜き出したような唄を口にするカフェ。

 その言葉に呼ばれるように更に彼女のカンテラが黒炎を吐き出した。

 同時に4発。呪符のような下準備も無しにこの攻撃速度は術師としては有り得ないものだったがトレーナーは動じない。

 4枚の呪符を地面に配置して彼は短く命令を下す。

 

 「《金相(きんそう)(へき)》」

 

 芝を突き破って鉄の壁が地面からせり上がってきた。

 直後に黒炎がそれに激突して爆散するが、今度は完璧に防御した。『盾』の強度が単純に黒炎を上回った形である。

 

 (この黒炎が本当に『火』なら、『水』に(こく)され『金』を剋すはず。それが逆の結果になったということはこの炎、『火』とはまるで別物の力だ)

 

 「────起源と方式は違っても、私達は同じ存在。だから分かります・・・・・・トレーナーさんが、この『世界』でもトップクラスの力を持っていることが」

 

 カフェがカンテラを揺らすと灯っている紫色の焔が更に光量を増した。

 そこから飛び出してきたのは腕。

 黒炎が姿を変えた腕が2本、ヘビのように伸びてのたうち回りながらトレーナーに迫る。

 この程度なら問題にはならないと見たトレーナーが金の氣を込めた呪符を防御に回し、最低限の防御で生まれた余裕で反撃に転じようとした。

 その直後。

 

 「ですが・・・・・・、『お友だち』と共にいる私には・・・・・・敵いません」

 

 膨れ上がった。

 防御の呪符に触れる直前、丸太程度だった2本の腕が人間1人楽に握り潰せる大きさにまで一気に肥大化。

 反撃に転じようとしていたトレーナーを2つの黒炎の掌が防御ごと握り潰した。

 

 「一緒に行きましょうトレーナーさん・・・・・・新月の揺り籠で眠り、サファイアの契りを交わしましょう・・・・・・。

 何者も侵せない、私達だけの楽園を・・・・・・!」

 

 金色の瞳がどろりと淀み、吐息に熱が篭もる。愛しい人を手中に収めた時に昂るのはウマ娘の闘争本能故だろうか。

 トレーナーを文字通りに手篭めにしている黒炎の腕がさらに出力を増していよいよ捕獲対象を無力化しようとする。

 

 「悪いけど、そうはいかないんだ」

 

 巨大な腕が弾け飛んだ。

 防御ごと握り潰される瞬間にトレーナーは金の呪符に相生の関係にある土の氣を送り込み、さらに大きく強大な壁を生み出したのだ。

 そして敵の攻撃を無力化しこちらに備えがあるのなら、更に強力な反撃が可能になる。

 土が金を生かすなら、金が生かすものとは。

 

 「どうしたんだ、カフェ。誰に煽動されたんだ。君は僕の事が好きという訳でもないし────まして力で誰かを従わせるようなウマ娘じゃなかったはずだ!!」

 

 氣で生み出された鉄をさらに氣に還元、水の呪符に送り込む。

 相生で一気に力が増幅した水の呪符たちが津波のような物量の水を一斉に吐き出した。

 陸地に突如として出現した水源。全てを押し流す鉄砲水が小細工も何もない質量の暴力となってマンハッタンカフェを呑み込む。が、しかし。

 

 「・・・・・・『どうした』? 『誰に』・・・・・・?」

 

 確かに激流に呑み込まれたはずの彼女の声が水の中から聞こえてきた。

 いや違う、水の中からではない。水の裂け目だ。

 カンテラから放たれた『力』が球体となって彼女を包み鉄砲水から守っているのだ。

 声に滲むは怒りと怨嗟。愛情が裏返りかけた時に人はこんな声を出すのだろうか。

 彼女が今まで抑えてきた感情が、解き放たれる事を許された感情が今、ようやく力と共に爆発した。

 

 「あなたが私の想いに欠片も気付いてくれないから!! こうするしか無くなったんじゃないですかッッ!!!」

 

 カフェの憤怒の叫びと共にカンテラを中心とした黒炎の爆発が発生した。彼女を押し流そうとしていた鉄砲水が爆散して水飛沫と霧の集合体に変わる。

 ─────まさか、そんな。

 愕然とする彼を相手にカフェが頭上でカンテラを振り回すと、カンテラから溢れ出した黒炎が大きな球形を形作った。

 そしてカフェが人差し指でトレーナーを指し示すと、禍々しく輝く黒い太陽のようなその火球は一直線にトレーナーへと降り注いだ。

 

 (瞬発的な火力なら僕より上か・・・・・・ッ!?)

 

 その火球に対してトレーナーは防御を諦めた。

 『木』『火』『土』『金』『水』いずれにも当てはまらない紋様が描かれた呪符を素早く折り畳んで平面的な鳥の形を作って力を流し込む。

 トレーナーが片足立ちでその上に乗ると紙の鳥が起動、トレーナーを乗せたまま宙に躍り上がって主人を火球から逃す。

 着弾地点で発生した大爆発の規模を見て、彼は自分の選択の正しさを確信した。

 

 「・・・・・・逃がしません」

 

 地上から睨みつける金色の双眸。

 カフェの周囲にいくつもの黒炎が惑星のように浮かんで泡立つように揺れ、カンテラが何かの合図を発信するかのように何度か瞬いた。

 

 「今まで気付いてもらえなかった分を、全て受け取ってもらいます・・・・・・。怒りも愛も、炎も水も、夜空に光る太陽も・・・・・・!!」

 

 一瞬、浮かんだ火球が膨れ上がる。

 ホウセンカのように炸裂した黒炎の惑星が、無数の火の玉となってトレーナーがいる上空一帯を覆い尽くす弾幕を張った。

 大地のない上空では『木』も『土』も『金』も満足に使えない。『火』の呪符の炎で弾幕に穴をあけつつジグザグの軌道でトレーナーは地上を目指す。

 

 (あんな事を言って自分がこうなるのか)

 

 歯噛みしつつトレーナーはさらに呪符を取り出して火の呪符に重ねる。

 送り込む氣は相生の『木』。重ねられた火の呪符がさらに大きな火力を得た。

 

 「僕もハル君の事を言えた義理じゃなかった、なッッ!!」

 

 「!」

 

 投擲された火の呪符がまるで意趣返しのように太陽の如き火球となり、真っ直ぐにカフェへと落ちていく。

 それを受けたカフェは即座にカンテラから同程度の規模の黒炎の球を生成、直撃寸前にそれをぶつけて辛くも相殺した。

 ここまでは互角。ここからは不明。

 トレーナー達の中でも割と同情の余地のないレベルの朴念仁(クソボケ)の精算が、いま始まろうとしていた。

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