審議当日を迎え、HRを終える。
ため息が聞こえたので隣を見てみる。いつもの感じから一転して、石崎はどこか落ち着かない様子。近藤や小宮も同じようだ。審議のことだとは思うが、そこまで気にするほどのことなのか。
放課後になっていれば治るだろう。そう考え、特に触れるわけでもなく授業を受けていく。
6限が終わってすぐに石崎は席を立ち、近藤と小宮。それに金田を連れてくる。ある程度折り合いはつけたってところか。
俺も後に続いて、職員室へと向かう。
「あー面倒くせぇ」
「なんだよ近藤。今になって怖じ気ついたのかよ?」
「そういうわけじゃねぇって。それにあんなにやったんだから楽勝だろ」
石崎は頷き、再び歩みを進める。
予想通りいつものように戻っているのはいいのだが、近藤の口ぶりから察するに事前演習でもしたのか?それなら俺も呼ばれそうだが……どうせ龍園が何かしたんだろうし、考えても仕方ないか。
「滝谷氏。いくつか聞きたいことが」
「ん?別にいいけど、このタイミングでか?」
ほとんど言葉を交わしたこともなく、ましてや審議の直前に話しかけてきたことに疑問を抱く。
「声をかけようとは思っていたんですが、思いのほか見当たらなくてですね」
「それはすまん。で、聞きたいことは?」
時間もないため、早めに切り上げようとする。
「石崎氏が写真を譲り受けたことは分かりました。ですが、少々懸念点があるのではないかと」
「……金田が現場にいたのが不自然ってことか?」
「ええ。証拠は確かにありますが、その前提が成立しないとなると……あまり意味がないのではないか、と思いまして」
金田の懸念は最もだろう。石崎達がどうかは知らないが、俺はまともに会話をしていない。それもクラスポイントに関わるような問題だ。むしろ疑問に思わない方がおかしい、とも言えるか。……今回に関しては不要ではあるが。
「正直に言うなら、そこまで意味はない。その写真はオマケ、みたいな物だ。石崎が使いたいってことで渡しただけだしな。ただの保険と思ってくれればいい」
「なるほど。滝谷氏なりの考えがある、ということでよろしいですか」
「その認識で構わない」
金田の表情を見る限り、渋々といったところか。一定数の理解は得られたようだし、問題ないだろう。
そうこうしている間に、職員室に辿り着く。が、何故か扉の前で立ち止まる。
「どうかしたのか?」
「な、なんでもねぇって。……お前は余裕なんだな」
石崎の言っていることはあまり分からないが、緊張しているということだろうか。短時間で切り替えることは流石にできなかったらしい。
俺達の声が聞こえたのか、坂上先生自らやってくる。
「準備が早いようで何よりです。早速行きましょうか」
職員室から階段を登っていき、生徒会室に着く。
坂上先生が扉をノックして部屋に入るのを見て、俺達も後に続いていく。
空白の席に、それぞれ座っていく。
Dクラスはまだ居ないようだが、生徒会長は既に座っている。下手な行動は許されないだろう。
しばらく経って扉が開かれ、Dクラスの面々が入ってくるが…………不気味な奴もいるな。
どんな展開になるのか読めないが、俺がやることは特にないだろう。とりあえず話を聞くことに徹するほかないか。
「ではこれより、先日起こった暴力事件について、審議を執り行いたいと思います」
さっそく小宮が一連の流れを説明し、それに伴って逆のことを須藤も説明する。平然と嘘を言う小宮に腹が立っているのか、分かりやすく苛立っている。
「てめ、嘘言ってんじゃねぇぞ!」
痺れを切らした須藤が机を思いっきり叩くが、書記に止められる。このままだと平行線だろう。
それを感じ取ったのかようやく証拠の有無を確認され、ここぞと言わんばかりに金田が手を挙げる。
「少しいいでしょうか。証拠なら、ここにあります」
金田の一言で、場は静まる。
「……は?そんなもの、あるわけねぇだろ。いきなり何言ってんだ」
言葉とは裏腹に、須藤は動揺している。正確には須藤だけではないが、間違いなく相手は焦っている。…………おかしいな。Cクラス以外にも現場を見ている奴がいることは知っているはずだ。結局名乗り出なかったのか?それはそれでいいのだが……妙だな。
「先に説明することもあると思いますが、まずはこの写真を見てください。これには、僕達のクラスメイトである滝谷くんが殴られている姿が写し出されています」
生徒会長直々に、写真を確認する。
「確かにハッキリと映っているな。真偽がどうあれ、手を下したということは事実のようだな」
「な、なんでそんなもんが……どういうことなんだよ」
手で顔を覆って、俯く須藤。
本当に何もないのなら決まり、と言っても良さそうだな。未だに動きを見せる様子がない。ここに来て須藤以外の二人は喋っていないが、何しに来たんだ?……それは俺も同じか。
「Dクラス側からの証言はない、ということでよろしいですか?」
それでもなお、動きを見せない。
保険のつもりのはずだったが、簡単に勝利が決まったか。正直、こんなやり方で何か得たとしても意味はないんだが。
そもそもの話、やる気なんてまったくなかった。
龍園のやり方に共感はできないし、理解しようとするのはもってのほかだ。
始めて目が合ったときに思ったこと。俺自身は否定していたが、実際は龍園の考えている通りなのかもしれない。
ーーなら、何故こんなマネをした?
人間は不自然な生き物だ。時間が経てばいずれ分かることを、好奇心で知ろうとする。そして、簡単に自分の信念を捨てることができる。
真反対にいる奴に、視線を向ける。
ソイツは、この状況でも表情一つすら変えない。
名前すら知らない。知っていることと言えば、Dクラスに在籍しているということだけ。
Dクラスに仕掛けるなら、少しは見えてくるのではないか。そう思っただけのこと。
ーー結局、無意味だったんだがな。
「議論の余地はない、ということでいいか」
「勝手に終わらしてんじゃねえ!……ま、まだ時間はあるだろうが」
須藤が言葉を強くして言うが、逆効果だろう。
このまま終わりにーー「や、やめ、ちょ、ちょっと。いきなり何するの!?」
この場に似つかわしくない声が響き渡る。何事かと不審がる者。特に動じず、じっと見つめる者。反応はそれぞれだが、言い分によっては余計立場を悪くするだろう。
俺は座ってから一度も話していない少女を見上げる。
「んッ、ん。すみません。少し、お時間を頂いてもよろしいでしょうか」
突然発狂して顔を紅くしているが、そんなことはどうでもいい。……丁度下を向いてたせいで何が起きたか分からなかった。最後まで見届けるべきだった、な。
「いいだろう」
「まずお聞きしますが、あなたたちが須藤くんを呼び出した理由はどういった理由ですか?」
ようやく言葉を開いたかと思えば、振り出しに戻り出す。Cクラスの面々はわけが分からないといった様子。
「それは分からないですけど……その質問に何の意味があるんですか」
「バスケット部員であるあなたたちがいるのは分かりますが、他の3人はどうでしょうか。何か関係があったとは思えませんが」
「須藤くんが暴力的な人だと言うことは知っていたので、自分と仲がいい人を連れてきただけです。万が一に備えることがおかしいですか?」
堀北の意識外からの質問に戸惑うことはあれど、ブレる様子はない。これも用意していたおかげということか。
このままだと悪足掻きにしかならないが、わざわざあんな痴態を晒した以上何かあるのは間違いないな。
「少し違和感があると思いまして。須藤くん一人に怪我を負うのかという疑問が。さらに一人だけ、怪我をあまり負っていないようですが?」
明確に視線が俺へと向けられる。
「あまり。ですよね?傷が小さいのは認めます。ですが、それが何だと言うのですか。堀北さんは見ただけで傷の具合が分かるとでも?」
特に意に返すわけでもなく、淡々と述べる。
「先程見せてもらった写真。確かに顔を殴打されています。ですが、今のあなたの顔の傷と写真の傷跡では位置がズレているのではないですか?」
もう一度写真を見せ、それが事実か確認される。
「つまり今の傷跡の方が大きくて、写真と違うことを言いたいんでしょうが、それが何か?明確な証拠があるわけでもない。難癖にしか聞こえませんが」
これ以上は無駄だと判断したのか、生徒会長直々に言葉を発する。
「言いたいことはそれだけか?」
「……証拠ならあります。現場を目撃していた人物が、私達のクラスにいます。佐倉愛里さん、です」
目撃者だと思われる佐倉が生徒会室に入ってくる。
踏み入れはしたものの、前は向かず俯いたままで今から証言をする人物だとは到底思えない。それにDクラスからの目撃者……結局状況は変わらないだろう。
「え、えっと。あの、その…………す、すみません」
おそらく頼みの綱だった証言がまともに機能しないと分かったのか、堀北の勢いは潜めた。
数十秒経っても無言のまま。
「どうやら時間の無駄なようですね。話は終わりでいいですか?これ以上生徒の時間を奪うのは、勘弁願いたいところです」
坂上先生がさらに追い打ちをかけて耐えきれなくなったのか、佐倉は目を閉じる。
誰もが終わりだと思ったが、一際大きい声で佐倉が証言する。
「最初にCクラスが殴りかかったことは間違いありません!はっきりとこの目で見たんです!!」
それでも、状況は変わらない。あくまで証言、だ。
呆れた視線で見つめる中、まだ言いたいことあるといわんばかりに佐倉は強い眼差しで見つめる。
「証拠も……あります!」
佐倉が写真を見せ、現場にいたという証明をする。
その写真には、須藤が石崎を殴っているシーンが写っていた。確かに証明にはなるが……それだけだ。
その証言が出たことによって、生徒会長は双方の意見を聞く。
最終的に下した決断は、明日にもう一度行うとのこと。
両クラスが、生徒会室を後にする。
「ク、クソが。あと一歩だったのに……」
「大丈夫なのかよ、俺達」
客観的に見たとしても、Cクラスに軍配があがると思ったんだがな。ただ時間を与えたというよりは、生徒会長による贔屓にも思えた。
「アレは無理やり時間を設けただけにすぎない。変なことをしない限りは問題ない」
「そうだといいけどよ……納得いかねぇぜ」
俺以外の4人は、それぞれ引き上げていく。
なんだかんだ……意味はあったのかもな。