入学式が終わり、ひとまず俺は腹も減っていたが、何よりも喉が渇いていたので飲み物が欲しいと思いコンビニに行くことにした。
「何でもいいが……無難にお茶でも買っとくか」
そう言って飲み物を取り、ついでにおにぎりを2つほど買うことにした。腹が減ったらまた行けばいいだけのことだ。
そう考えた俺は、軽めの物を手に取りレジに並ぼうとした。
「なんだあれ?」
レジに並ぼうとしたが、「一ヶ月3点まで」と書かれた商品に思わず立ち止まる。それには、歯磨きや洗剤などの日用品が無料で買える、と書き添えられていた。
入学早々、金の管理ができないやつへの救済措置とも思ったが……何事にも、善意には裏があるもんだ。
不意にあいつの言葉が過る。
ーーーー「来月振り込まれるポイントはいくらだ?」
俺は、この学校はそう単純ではないだろうと、あいつの言葉を聞いてより不信感を抱いていた。正直あまり確証は持てていないが、10万ポイント、これは本当に変わらないのか?そんな疑問が強くなった。
「邪魔」
低い声が響きわたる。少し考えすぎていたのか、道の邪魔になっていた俺は左に寄る。
「そこ邪魔。どいて」
レジに行くと思った俺はしまった、と思ってすぐに離れる。無料の日用品に用が合ったらしい。
ふと、気になったので聞いてみることにした。
「それ、なんか不思議じゃないか?」
「は?」
「いや、すまん。道を邪魔した奴が聞くことじゃねぇな。」
「タダなら貰う。何かおかしい?」
そう言うと足早にそいつは会計を済ませ過ぎ去った。
なんだあいつ。俺が悪いことは認めるが、そんなことで機嫌が悪くなるものなのか?と思ったのだった。
その後は特にやることもなく、カードキーと寮で過ごす上で必要であろうルールブックを管理人から貰い今日から自分の部屋となる場所に向かった。
「ええっと……ここか。」
俺の部屋は3階らしく、初めての一人暮らし、新たな新天地となる場所に期待を寄せ、一目散に部屋へと踏み入れた。
部屋自体は、一般的な学生寮と言って差し支えないだろう。俺としては一人になれる空間が増えるので、嬉しい限りだが。
部屋に入った後、俺は流石に無いとは思うが、一応監視カメラの有無だけ確認して無いことが分かったのですぐにベットへと向かった。まだ入学初日というのにも関わらず、知らぬ間に疲労がたまっていたらしい。
「とりあえずルールブックでも読んどくか」特にやることもなかった俺は、寮で過ごす上で一度は見ておいたほうがいいだろうと思い、ベットの上に座って必要事項を確認する。書かれていたことは、ゴミの分別や男女共用の寮であるため、深夜の異性への出入りは禁止など、基本的には当たり前なことが書かれていただけだった。
とはいえ、バレさせしなけりゃどうとでもなるため、禁止よりの校則とはいえ、それだけで退学となるわけではないだろう。行く奴がいたところで、特段おかしなことではない。
ーー気つけばそう熟考していたのだった。
「さて……どうするか」
時刻は深夜21時を回っており、大抵がベットでごろころしたり、休息を取っている時間であろう。
その中で俺はいつもの日課をやり、本格的にやることがなくなったので今日起きたことを振り返ってみるのもありだなと思ったが、 ……すぐにやめた。
睡魔が襲ってくるのには、数分もかからなかった。
ーーーーその日は、いつもと変わらない日々だ。
暗い。
汚れている床。
不快な声がした。
心臓の鼓動が高まるのを感じる。
なんてことはない、いつものことだ。
そこで、視界が暗転した。
誰かが、ーーーー僕を呼んでいる気がする。
「……」
不意に目が覚める。
「またか」
吐き捨てるようにそう呟いた俺は、ベットから起き上がって時計を見る。
「7時、か」確認してすぐ冷蔵庫を開け、保存していたお茶を取り出した。時間には随分と余裕があるが、二度寝する気にはなれなかったので、朝の支度をしてとっとと教室に行くことにした。
時間が早いためか、生徒はあまり登校していないようだ。入学2日目ということもあり、準備に必要以上に時間をかける生徒がいるのも事実だろう。そう考えている内に自分のクラスの前へと立ち、扉を開く。
そこで俺は、思いがけないやつと遭遇する。
「げっ……」
開口一番がそれかよ。と、思わず心の中でツッコミを入れたその人物とは、昨日コンビニにて会った、できれば今後は会いたくないと思った人物だ。
「なんであんたがここにいんのよ、しかも隣に」
「そりゃ……クラスメイトだからだろ?」
昨日は色々あって、隣の席なのに顔すらまともに覚えていなかった。
「まぁ、俺も不本意だが、これも何かの縁だ」
「チッ……」
どうやらこの少女とは相容れないようだ。そう思った俺は立ったままだったのでとりあえず座ることにした。すると、思いがけずにあちらの方から反応があった。
「昨日のアレ、結局何だったの」
「昨日?って……ああ、無料の奴か?」会話してくると思わなかったので、少し硬直してしまった。
「それ以外に何があんの。変人」
「へ、変人だと?」
「そりゃそうだろ、あんな所で突っ立ってるなんて」
「そういう気分もあるだろ?」深く話す必要性がないと思った俺は適当に言葉を返した。だが、当の本人は気に食わなかったのか、露骨に嫌悪感を示されてしまったようだ。
「あんた会話する気ないでしょ」
少女は呆れたように視線を逸らした。
「お前が勝手に話しかけてきたからだろ?」その言葉を聞いて、めんどくさくなったのかもう話す気はない、と体で意思表示をされる。
そんな些細なやり取りがあった後、先生が教室に来たことで本格的に気を引き締め直すのだった。
入学2日目は特に何事もなく、授業も大抵がオリエンテーションだったため、あっという間に時間が過ぎていった。なかには2時間連続で寝ている生徒もいたが、教師は注意する気が無いのか、それとも……と考えていたところで昼休みに入るチャイムがなる。
そこで俺は、もう少し探索してみようと思い席を立つが、石崎から、「お前も食堂に行くのか?」と声をかけられた。食堂に行く気はなかったのと、人込みがあまり好きではないことを加味して俺は適当な理由をつけて断ることにした。
「お前、少食なのか?」
「それもあるが、朝に昨日の分に買ったやつを食べ過ぎたせいかもな」
「流石に俺も腹の中のもんまでは食えねぇからな……」
そう言って別の奴と食堂へと向かっていった。そんな心配をしてくれた石崎を断るのは、少し申し訳ないと思ってしまった。
パンを買って屋上へと歩み入れたが……どうやら先客がいるらしい。
「またあんた?」
フェンスにもたれつつ、心底嫌な顔でこちらを見つめる少女。
「景色がいいし、一人の方が楽だからな」
「あっそ。で、消えてくれる?根暗」
「いろんなレパートリーがあんのな」
人の名前を次から次へとつけていく少女。それに加え、的確に刺さったことにより言葉が詰まる。
「名前知らないんだからしょうがないでしょ」
「じゃあ言った方がいいか?」
「興味ないし知りたくもない」
怒涛の否定に息を呑むが、こいつに一本食わせてやろうと思い立った俺は積極的に話していくことにした。
「まぁ別にいいが……ならお前は?」
「は?」
「名前だよ、名前」
答えは期待していないが、無視なら無視で俺も変なあだ名で呼んでやることができる、と後の事は考えずに聞いてみることにした。だが、予想していた答えとは全く異なっていた。
「はぁ……伊吹澪。これで満足?」
吐き捨てるようにそう言った伊吹は、フェンスから背を離して足早に屋上の扉へ向かっていく。
「よく分からん奴だな……」
そんなことを思い浮かんだ内に、アナウンスが鳴る。どうやら、午後5時に部紹介があるから興味がある人は行って見ておいたほうがいいとのこと。
部活動そのものに興味があるわけじゃない。だが、ここまで大々的にされれば人も集まるだろう。他クラスの連中を見るいい機会だと思い、俺は向かうことにした。
案の上体育館は多くの人だかりができており、直前に来た俺はかなり後方の位置から見ることとなった。
まず生徒会書記と名乗った少女が司会進行を進め、各部の代表者がそれぞれ並ぶ。半分俺は聞いているようで聞いていない形だったが、突如舞台に立つのが生徒一人、となったところで目を向ける。立ったにも関わらず、無言なことに生徒は自分の言いように自己解釈をして、ありもしないことを喋っているようだった。だが、それでも無言を通し切る。言うなれば、無言で相手に解釈させる。高校3年生がやるとは思えないような手法だ。
そんなことを知ってか知らずか、はたまた呑気なのか。生徒達が向ける視線が、嘲笑から呆れと変わっていく。そんなに間を置くなら、何かそれ相応の内容があるのか?と思った俺は耳を傾けることにする。周囲も緊迫とした空気に包まれ、静寂が場に残る。
「私は、生徒会長を務めている、堀北学と言います」
そこから先は3年生が卒業するにあたり、1年生から生徒会に立候補する生徒を受け付けているとのこと。また、遠回しに甘い考えでの立候補を受け付けないとの発言があった。
その間は皆心ここにあらず。と言った感じで、誰一人として言葉を発していなかった。俺としてはそこまで興味はなかったが、高校3年生がそんな芸当をしたことに素直に凄いと思ったし、自分にできないことを平然とやってのける奴には、誰しも一目置くものだ。
入学開始からおよそ1週間が立った今日。どこか浮ついた雰囲気で俺に話しかけてくる石崎。
「今日、何があるか知ってるか!?」
石崎が言うことにピンとこなかったが、石崎の後ろでニヤついていた2人が口を開く。
「滅多にない機会だぜ、女子の水着が見れるとかよ」
「準備はできたよな?」
この会話から察するに水泳の授業のことを言っているのか、とようやく理解した。チラッと隣を見る。すると、伊吹は冷めた目つきでこちらを見つめていた。
「あんたもアレの仲間?」
心底冷めているであろう伊吹がそんなことを口にする。
「生憎、俺にそういう趣味はない」
「口では何とでも言える」
こいつの中の俺はどんな風に見えてんだ?と、口にしようと思ったが何を言っても聞かなさそうなので石崎達の会話に耳を傾けることにした。
2限の終わりにチャイムがなると同時に、更衣室へと速やかに向かう男一同。俺が一番最後だと思ったが、背後に気配を感じる。
「龍園か……何の用だ?」
あれから会話は一度もしていなかったため、このタイミングで話しかけてくることに少し警戒する。
「てめぇは猿どもと一緒に行くと思ってたが……そう悟られたくないだけか?」
全く意図がわからなかった俺は、訝しげな視線を送る。
「ただの確認だ。深い意図はねぇよ」
そう言い残し、龍園は更衣室へと向かっていく。
「結局、あいつの真意は分からなかったな」
俺が行く頃には人の影はほとんどなく、素早く着替えることにする。更衣室をでた俺は、ソワソワした男達を尻目に、一際目立っていた奴を見る。
「確か……アルベルトって奴だよな」
身長190は超えているであろう特徴的な外見に加え、明らかにガタイの良さが他とは比べ物にならなかったからだ。そんなことを考えている内に視線がいつの間にか向けられており、近づいてくる。
「すまん、人の身体はジロジロ見るもんじゃないよな」
圧倒的な巨体を前に、なんともいえない空気が漂う。もしかして、と思った俺は英語で話そうとするが……それより早くアルベルトが口にする。
「good」
それだけ言い、すぐに去っていった。
「何だったんだ?」
近づいてきたのもそうだが、good……?そんな疑問を内に秘めたが、少なくとも悪い奴では無さそうだと感じたのだった。
そんなやり取りがあった後、遂に女性陣の声が聞こえてくる。だが……石崎達の思いは無念にも裏切られることになる。
「な、なんで着替えていないんだよ!」
「う、嘘だ……」
「俺たちの会話が聞こえていたのか!?」
そう、男達の思惑に気づいていたのか、ほとんどがいつもと何ら変わらない制服姿だったのだ。
この世の終わりだと、絶望する者たち。
突如として、勝手に抱いていた幻想は見事に打ち破られてしまった。
「バッカじゃないの」
数少ない水着姿の伊吹がゴミを見るような目で見つめる。こいつがやるとは思えなかったので、少し意外だった。
「そう言いながらお前はやるんだな」
「私が何しようが勝手だろ?」
それはそうだと思い、無言なのもアレかと思った俺は、抱いた感想を率直に述べる。
「スラっとしてんのな、武の経験があるのか?」
「試してみたい?私は大歓迎だけど」
ジロッと見たことに不快感を覚えたのか、どうやらサンドバックにする気満々のようだ。
「勘弁してくれ」
そんな攻防を向かえた後に、担当であろう教師が集合の一声をかける。どうやら、泳ぎの実力が見たいとのこと。男女別で50メートルをして1位の生徒には5000ポイントが配られ、逆に最下位の生徒には補習があるらしい。
5000ポイントという数字に石崎達はさっきまでの意気消沈とした感じはなくなっており、逆に闘志がみなぎっていたようだった。
補習をしてまでやる必要性があるとは思っていないが、泳げるようになっておけば得をするのは間違いない。
ーーそう教師は断言していた。なら最下位は避けつつ、ある程度体を慣らすことに集中する。
俺のレーンは、顔をまだ覚えてきれていないのが3人いて、先ほど話したアルベルトがいるようだ。水泳は得意じゃないが、補習は受けたくないので、最善を尽くすことにする。
結果としてはアルベルトが1位で、俺は31秒でのゴールとなり、3位というまずまずな結果になった。ポイントはこの時点で貰えないことは確定したが、補習を回避できるのならなんでもいい、と思った俺は観戦に徹することにした。
女子は1レーンから伊吹が27秒のタイムを叩き出し、その後も変わらない展開になりそうだ、と思い最終レーンまで待つことにする。
最終的に男子の方はアルベルトが圧倒的な体格差を見せつけて1位、変わらず女子の方は伊吹が1位になったようだ。
31秒。
特別早いわけでも、遅いわけでもない。
だけどなんとなく違和感を覚えてしまうのは気のせいか?と考えてみたものの、柄にもないことをしている自分に嫌気がさし、
ーーめんどくさくなってやめた。
プールの後は睡魔によって大抵の奴が机に伏していた。4限目が数学、ということもあり相乗効果があったのだろうか。
ふと、俺は考える。この学校の特徴、それは卒業したら自分が行きたい場所へ行けるということ。だが、そこまでの仮定はどうだ?卒業しても後の事は自分がやらなければならない。卒業するまでの間に、ある程度の常識や教養をつけるのは必要不可欠だというのに、先生達は一切注意などはしない。
はっきり言って不気味だ。それだけ大々的なことを言っておきながら、自分達は我関せずといったスタンスを取り続けている。普通の教師なら、いくら高校生から義務教育になるといっても注意などをして更生や成長させるのが、教師というものだ。
ーーーー明らかに意図的にしている。そこから導き出される答えはなんだ?
けれど時間というものは非情で、脳が活性化したタイミングで思考を奪い取る。放課後のこともあるので、気分が低い俺だった。
午後4時、生徒達が下校するタイミングで俺はカラオケに来ていた。その言葉を聞けば、友達との約束があるのか、と思い浮かぶだろう、少しは当たっているが、そんな和やかな感じではないのは間違いないだろう。暇なので飲み物を注文しようとしたところで扉が開く。
「よう、根暗野郎」
伊吹が言っていたことが耳に入ったのか、気に入ったらしい。
「遅刻しといてそれはないんじゃないか?」
そんな言葉など気にも留めず、ソファーにドン、と腰を下ろす。
「まぁ落ち着けよ、要件はなんとなく分かってんだろ?」
「分かりたくもないがな」
それを肯定と捉えたのか、龍園は本題に移っていく。
「1週間たったが……てめぇはどう考えてんだ?あの時は聞けずじまいだったからな」
「結局お前も……」
「質問以外の返答は認めてねぇ」
野郎二人で談笑する気はないのか、すぐさま龍園が視線をこちらに向ける。
「逆にお前の方はどうなんだ?」
その言葉を発した瞬間、一触即発といった空気が漂う。
「冗談だ、結論から述べるなら……まだ確証にはいたっていない、って感じだな」
「はっ、随分と回りくどい言い方だな」
「実力主義と謳っている割には救済措置があったり、妙に甘すぎると思っている。特に顕著なのが教師の放置だ。アレは意図的にやっている」
「……で?」
「で?」
「お前はどう動く」
龍園は試すようにこちらを見る。
「学校は臭え、教師も信用できねぇ、間違いなく裏があるだろうなぁ……てめぇはどうすんだ?」
「どうもなにもいずれ分かるんじゃないか?今俺が何かをしたところでどうにかなるとは思えないが」
「チッ、掴めねえ奴だな」
「そういうお前は、何か掴んでいるのか?」
「ま、答え合わせなんてそのうちできるだろ」
龍園は答える気がないらしい。
それ以上言葉を交わすことはなく、この場は解散となった。
入学から4週間ほど立った今日も続く日常は変わらない。教師も態度は同じで、それに伴いクラスの奴らは自由にする人が増えてきたのが印象だ。
昼休みが終わり、5限目に入るともう既に談笑している奴も少なからずいた。しかし、担任の坂上先生が扉を開ける。その音で少しは静まるが、一部の生徒は未だに呑気なようだ。だが今まで関与しなかった坂上先生が口を開くことにより場は静かとなった。
「皆さん、今日は小テストを受けてもらいます。科目は5つありますが、成績表には反映されないので、気楽に受けてもらって構いません。」
そう言うと坂上先生はテスト用紙を配る。配点は1教科20点らしい。配り終わると、皆テストに取り組む。
問題を解いていくが、想像以上に簡単だった。中学生でも解けるレベルだ。嫌いな数学を後半に残した俺は、いざ取り組もうもするが……さっぱり分からん。
特に最後の3問、大学レベルじゃないんじゃないか?と疑うような難しさだ。1年の中でもまともに解けるのは一握りだろう。諦めた俺は隣をそれぞれ見てみるが、石崎は既に寝ており、伊吹に関しては問題と向き合ってはいるものの、表情を見る限りさっぱり分かっていない様子だった。
授業終了のチャイムがなると同時に石崎が「さっぱり分かんなかったぜ、滝谷は分かったか?」と聞いてきた。
多分石崎の感じからするに、全体的に解けなかったんだろうが、それを言ったら変な空気になりそうなので同意を示す。
「同じだ、特に数学は理解不能だったな」
「だよな、なんで成績に含めねぇのにやったんだ?」
確かにそれは俺も思っていたが、変わり目となる5月、そこで何らかの発表が行われる、と考えていた俺は特に思うところはなかった。
放課後になり、石崎からカラオケに行かないか?と誘われる。二人だと寂しいような気もするが、小宮と近藤も一緒に行くらしい。学校生活をしていく上で名前も覚えてきたが、関わりはあまりなかったので参加すると伝えると、少し意外そうにされた。
「珍しいな、お前が行くなんて。俺としちゃ大歓迎だけどよ」
そんなことを言いながら石崎達は教室を出ていく。それについていく俺だった。
カラオケに入ると、フードメニューの注文から始まる。俺も注文しようとするが、「なぁ滝谷、貸してくんねぇか?」と両手を合わせて頼んでくる石崎。
「そんなに使ったのか?」
そんなことを言いながらポイントの残高を確認するが、3人とも10000ポイントを切っていた。どうやったらそんな状態になるのか理解できなかったが、そのくらいなら大した支出にはならないと考えた俺はOKのサインをする。
少額なら別に返してもらわなくても構わないし、何より現時点で70000ポイント残っていたので特に考えずに支払う。これも山菜定食で頑張った回があったのかと思うと涙を流さずにはいられない。
「お前は一生の友だぜ!」
「神様だ……」
「すまん、絶対来月には返す」
3人とも反応は違ったが、悪い気はしなかった。ただ、多分返さないんだろうな、と思ったのだった。
石崎達と別れを告げた後、見覚えのある少女がいたので声をかける。
「珍しいな、お前が一人でいるなんで」
「いつものことでしょ、それより……何の用?」
時間が少し経ってちょっとだけ緩くなったようにも感じるが、俺の予想が正しければマイナスから0になっただけ。つまり、良くは思われていないことは間違いない。と毎度のことながら思わせられる。
「暇だから声をかけてみただけだ、不快なら消える」
遠回しに消えてと言っているのだと考え、足早に去ろうとする。が、どうやら違っていたようだ。
「あんたはあのテスト解けたの?」
思っていた返答と違い、少し面食らう。
「別に意図はない。ただあんたが解けたのか気になっただけ」
「数学以外は解けたが、肝心の数学はさっぱりだったな」
俺が解けていないことに満足したのか、元より興味がなかったのか、背中を向けて歩き出した。
マイナスと言ったが、0から0.1ぐらいには上がっているのだろか?そんな能天気な考えが浮かんだのだった。
伊吹と別れ、寮へと一人道を歩く。
今日一日を振り返って見ると、あのテストは少し気がかりだったな。最後の3問を難しくしたのもよく分からんが……まぁ、そろそろ答えが出るだろう。
この先何が起きるのかは、まだ俺には分からない。
予想通りになるのか、それとも全て覆るのか。
ただ、まともな学校生活を送ることはできそうになさそうだ、と思い歩みを進める。
明日がいつもと何ら変わらない日々であればいいな、と気づけば思っていたのだったーーーー。