午後6時頃。俺はカラオケに来ていた。
理由は言うまでもないだろう。
10分ほど経ったが、来る気配が一向にしない。
飲み物を頼み、気長に待つ。
どうやら時間というものを気にしないようだ。
マイペースと言われればそこまでだが……その場合俺は遅れても問題ない人物、と考えているということになる。
良いこととも悪いことにも捉えられるが、後者だろう。
このまま永遠に待つことになるのだろうか。
そう思案に暮れていたが、杞憂だったようだ。
扉が開く。目の前の人物は少し疲れているようだ。
やむを得ない理由があったんだろう。
「は、はぁ。ちょっとそれ飲ませて」
事前に頼んでいたお茶を一気に飲み干す伊吹。
一応頼んでいたのが功を奏したようだ。
「どうした?随分息を切らしているみたいだが」
気になって聞いてみたものの、何故か睨まれる。
「……急に龍園に呼び出された」
「今は無理って言ったら『滝谷を呼んでこい』とか意味が分からないこと言うしなんなのあいつ。腹立つ」
「呼んでこいって……今からか?」
伊吹の口ぶりから察するに、龍園は俺と伊吹が集まることを知っていたようだ。
いくつも疑問が浮かぶが、考えていても仕方ないと割り切ることにする。
「とりあえず座ったらどうだ。疲れているようだしな」
「言われなくてもそうする」
ソファーに座り、不満げに見つめてくる伊吹。
「あんたのせいでこうなってんだけど。そもそも、あいつから呼び出されるとかなんかしたの」
龍園に呼び出される時は、大抵ろくなことじゃない。
……今度はなんだろうか。
「結局いつなんだ?流石に今日は無理だぞ」
「明日の放課後だってさ。私もだけど」
「お前もか。よく分かんねぇな」
「私が知ったことじゃない。いつものことだし」
「まぁ気にするだけ無駄か。時間も少なくなってきたようだしな」
伊吹から教えてと頼まれたため、始めることにする。
「さっそく聞きたいんだが、石崎より学力は上か?」
一番身近で、比較が簡単な奴を例に挙げる。
やる上でどのくらいなのかは知っておきたいからだ。
「あんな奴よりかは……って言いたいけど、あんたが教えてるせいで分かんない。」
「俺から見たら圧倒的にお前の方が常識はあると思っていたんだが、意外だな」
こいつのことだ。まず間髪言わずに「当たり前でしょ」みたいな事を言うと予想したつもりだった。
「一昨日あいつのテスト答案見てただろ?その時目に入ったけど、私にはさっぱり分かんなかった。ムカつくけど、そのせいで分かんないわけ」
「じゃあ今日は石崎達にやったやつと同じものをやることにするか。確認の為にも」
「やるなら数学以外にして。アレはやる気にならない」
「……分かった。と言っても、大まかにやるだけだ」
全教科やりたかったが、少しだけにしておくか。
そう言って、始めていくことにした。
一時間ぐらい経っただろうか。
ぶっ通しでやる訳にもいかないため、少し休憩させている。
その間色々教えていたわけだが、なんとなく分かった気がする。
あいつらより理解力はある。問題への観点もいい線を言っていると思う。ただ、なんとなくでしか覚えていないのが問題だ。
覚えているというより、自分の直感で解いてるような気がしていた。もちろんあいつらよりはマシなんだが、こういうタイプだと覚えることに慣れていない傾向がある。
俺が最初はそういった考えだったから一番理解している。特に暗記科目はかなりキツかった。
慣れるまで、最終的に5ヶ月ぐらいかかったはずだ。
「で、結局私はどのくらいなの?」
色々問題はありそうだが、まずは目の前のことからか。
「そんなに変わらない、端的に言うならな。地力があるのはお前だが、詰め込みが早いのは石崎達って感じだ」
石崎達というよりは伊吹ができなそうなだけだが、それを言ったら機嫌が悪くなりそうなのでやめておく。
「それなりに時間が経てば、あいつらとも差が出てくるだろうな。お前がやり続けるなら、だが」
「なんであいつとの比較の話になってんの。私はやれるならやっておきたいだけだって言っただろ?」
こいつの考えがイマイチ分からんな。クラスの為みたいな事を言っていたが、そういう訳でもないように見える。
「なぁ。一ついいか?」
俺は、ずっと思っていたことを口にする。
「石崎ほどお前にはやる気を感じられないんだが……気のせいか?」
伊吹は一瞬だけ目を下にやり、すぐに元に戻す。
「もともと気分でやったからそんなもんでしょ。ないのは認めるけど、やらないわけにもいかないだろ」
それでも納得はしていないが、一応は言質を取れたので、深くは踏み込まないことにする。
「そうか。今日はキリがいいからこの辺で終わることにするが、お前はどうする?」
一緒に出たくないだろうという気遣いだ。
だが、意外な返答が帰ってくる。
「私は少し残る。なんか気に食わないからまだやる」
伊吹としても何か心残りがあるのか、どこか居心地が悪そうにしていた。
「んじゃ俺は帰る。またな」
疲労が溜まっていたのか、考えとは裏腹に脚は順調に進んでいった。
ーーーー気味が悪い。
直前までこの場にいた奴のことを思い浮かべる。
「やっぱり、お前にはやる気が感じられないんだが……気のせいか?」
図星を突かれ、思わず目を合わせられなかった。
そうだ。学力を伸ばすとか、クラスの為だとか。
そんなことで私はやらない。
じゃあ何故ここに来たのか?
途中から疑問だった。
心の中に違和感があった。
言葉では言い表せないし、確証もない。
私のただの直感。気のせいだ、と言われたらそれまでだ。
……そう考えていた。
同じ環境にいたから分かった。
アルベルトが妙にあいつだけには一線を引いているとか、龍園が気にしている様子とか。
それだけ?と思うかもしんないけど、龍園が気にしてるってだけで取っ掛かりを覚えるのには十分すぎる。
気味が悪かった。
最初はただの頭が良いどこにでもいるような奴だと思ってた。けど、時間が経つに連れて変わっていった
私はそれを拭うためにわざわざ来た。
それっぽい理由をつけて。
そこまでしたなら何か分かったのか?
……結局何も分からなかった。鋭いとは思ったけど、それじゃ意味がない。
あいつが何であろうがどうでもいい。
このモヤモヤが晴れないのが、単純にムカつく。
そう言ったことを考えていたのに、分かりやすいと思わされたこともだ。
考えれば考えるほど、アホらしくなってきた。
そもそも頭を使うのは苦手だ。にも関わらず、こんなことをやっている。そんな自分に嫌気がする。
「バカらし。はぁ……何しに来たんだ、私は」
考えたところで答えなんて出る訳がない。そんなことは薄々感じてたが、何もしないよりはいいか。
「直接聞けばいいだけだけど……めんどくさ」
そう吐き捨て、大げさに扉を閉める。
気づけば午後9時になっていた。頭なんて回らない私は、体だけを動かしていた。
翌日。伊吹との集まりから一夜が経った。
放課後になり、約束通り呼び出された場所に向かう。
昨日の口ぶりからだと伊吹、それにアルベルトも十中八九いるだろうな。そこに俺。予想通りだとしたら、どういうメンツなのかイマイチよく分からんな。
場所に関しては昨日と同じのようだ。扉の前に立った俺は、静かに開ける。
案の上、伊吹とアルベルトはいた。それに加え、石崎を合わせた5名がこの場に集まった。
「な、なんでお前もいるんだ?」
石崎だけ、俺がいることが理解できていないらしい。
……俺もだが。
「それはこっちが聞きたいんだが、龍園。なんの集まりなんだ?これは」
「遅ぇよ。テメェならなんとなく分かってんだろ?」
「内容は中間テストだと思うんだが、だからこそなんでこのメンツなんだ?」
「分かってんなら話は早ぇ。他のことなんぞどうでもいい。坂上が言っていた赤点の回避、お前は何も思わなかったのか?だとしたら笑えるがな」
この組み合わせに深い意図はなさそうだ。
「結局こいつを呼んだのはなんなの?それくらいはっきりしてよ」
「黙ってろ伊吹。今は関係ねぇ。テメェの小さい頭を使って考えるんだな」
「そう言うわけにもいかない理由があんの。そのせいで昨日も寝れなかったし」
伊吹は納得していない様子だったが、そこまで気にすることなのか。それにしても、昨日か。あの態度に関係してるってことだろうな。
「テメェの事情なんて知ったことじゃねぇ。で、結局お前はどう思ってんだ?黙秘は認めねぇ」
伊吹との会話を切り上げて、こちらに視線を向ける龍園。相変わらずの暴論だが、龍園らしいと言えばそれまでだ。
「確か勉強以外。だったよな?確信しているようだったし、解答をそのままどうにか使える方法があると思っている。これでいいか?」
そう言うが、龍園は黙ったままだ。
「具体的に言うならポイントで買うとか、上級生の過去問を貰う。こんなもんでいいだろ」
「ククッ……やっぱりか」
龍園は満足そうだが、果たしてこれに意味があるのだろうか。
「テメェからそれが出るなら話は早ぇ。この話は終わりだ」
突如として会話が終わる。チラッと石崎や伊吹を見てみるが、何も分かっていない様子。アルベルトに関しては何を考えているのか読めない。
正直俺もいくつかの考えは浮かんでいるものの、どれもありきたりなものだったりする。
「は?それで終わり?何がしたいの。意味分かんない」
「お、おれもさっぱりだ。なんで滝谷を呼んだんですか?龍園さん」
「こっからが本題だ。過去問をどう使うつもりだ?」
伊吹と石崎。それぞれが疑問を述べたが、龍園は答えない。終わりかと思ったが、ここからのようだ。
「少し勘違いしているようだが、俺は別に使わなくてもいいと考えている」
「……なに?どういうつもりだテメェ」
「逆に聞きたいんだが、過去問を手に入れたとして、どうするつもりだ?」
俺は自身の見解を述べる。
「坂上がわざわざ一週間遅れて言っていたのが気になる。中間テストの時に言えばいいだけだろ?俺はそれを、使わずに乗り切れと解釈した」
「そもそもの話、過去問を都合よく手に入れることなんざ不可能だと思っている」
「ハッキリ言いやがれ。テメェはどうしたいんだ?」
「つまりだ、わざわざ手に入れる必要性があるとは到底思っていないと言うのが俺の考えだ。そもそも、テストだぞ。勉強するのが当たり前だろ?根本的な部分がズレてるんじゃないのか?……龍園」
「テメェの発言には懸念点がいくつもあるぜ。テメェの主観を押し付けている点。それに、赤点を取った場合どうするつもりだ?」
頭の中に???が文字通り浮かぶ。
「いやだから、それがあり得ないって話をしてるってことだ。仮にそんな奴がいたとしても、それはそいつの責任だろ?」
「随分と楽観的なようだが、もう用はねぇ」
「テメェが何と言おうと俺は使う。使えるもんは使う。それが俺にとっての普通だ」
「好きにしたらいいだろ。結局のところ、最終決定権はお前にある。俺はただ意見を述べてるだけだ」
「もとからそうするつもりだ。余計なことはすんなよ?」
そう龍園に釘を刺され、この場はお開きとなる。
集まりが終わった後、俺は速やかに部屋を出た。
終始龍園の独壇場だったような気もするが、まぁ別にいいか。それより、こいつらをなんとかして欲しい。
「な、なぁ滝谷。龍園さんとあんな関係だったのかよ!意外だぜ……」
「チッ。なんであんたまでいるわけ?後でいいだろ石崎」
石崎と伊吹。主に石崎から質問攻めに遭っていた。
なんでこうなったんだろうか。
「そういうわけにもいかねぇだろ?てか、お前こそ何なんだよ。滝谷と喋るような仲じゃねぇだろ?」
「それとこれとは別でしょ。あんたと喋ると、こっちまで頭がおかしくなるからやめてくんない?」
「いいぜ、喧嘩がしてぇならやってやるぜ。お前には負ける気がしねぇ」
「それはこっちのセリフ。ムカついてたから丁度いい。遠慮なくやれる」
何故か殴り合いに発展しそうになったため、やむを得ず止める。
「はぁ……そのぐらいで終わりでいいだろ。というか何なんだ?少し落ち着けよ」
両者は動きを止めるが、臨戦態勢のようだ。
俺が答えないとダメみたいだ。
「さっきのアレだが、俺自身よく分かってない。龍園に頭が多少マシなのを買われたんじゃないか?」
「そ、そんな理由でかよ……案外龍園さんもそんなもんなのか?」
「それを龍園に言ったら面白そうだがな」
「じょ、冗談だぜ。怖いこと言うなよな」
石崎はさっきの活き活きとした感じから、分かりやすく顔を背ける。
「石崎は分かったが、お前はどうした?」
黙っている伊吹にそう聞く。
「……私も大体同じ。いつから?あいつとやり合ったの」
「勘違いしてるみたいだが、龍園とやり合ったことなんて一度もない。というか喧嘩は得意じゃない。さっき言ったように、何故か目に付けられているだけだ」
「何故って……それが聞きたいんだけど。あんたから見て何か分かんないの?」
「お前に今俺が考えていることが分かるか?……分からないだろ?龍園の思考全てを理解できるわけがない」
それでも伊吹は腑に落ちていない様子。
「あんたが答える気がないならいいけど、私は納得してない」
そう言って、伊吹は去っていった。
「何だったんだあいつ。てか、お前伊吹になんかしたのか?いつもよりキツかった気がするぜ」
「さぁな。思春期とか?」
「思春期ってなんだ?生理ってことか?」
俺は冷めた目で石崎を見つめる。
「お、おい。どうしたんだよ滝谷。何かマズいこと言ったか?」
「あながち間違ってはないが……まぁいいか」
「それがマジだとしたら、いつか急に蹴られると思うから気を付けろよ。お前喧嘩とかできなそうだしな。なんかあったら俺に頼ってくれよな!」
適当に言ったのだが、真剣に考えている石崎。
少しだけ申し訳なく思ったが、心の中に留めておこう。
石崎と別れ、一人帰路を進む。
中間テストまでは残り3日を切っていた。
その間も石崎達や伊吹を教えながら、俺は俺でやるべきことをこなしていた。
伊吹に関してはあれ以降やらないと思ったのだが、素直に来ていた。そのおかげで、赤点はまず取らないだろう。むしろ、高得点まで狙えるんじゃないかとまで俺は思っていた。
6限が終わる。普通なら帰宅したり、友達と遊んだりするだろう。
だが、俺を含めたCクラスは誰一人としてこの場から動かなかった。ーーいや、動けなかった。と言ったほうがいいか。
その状況を作った奴が全員に聞こえる声で言う。
「よく聞け、お前ら。この紙が何だか分かるか?」
そう言って龍園は、テストの答案を見せる。
眼鏡をかけている生徒が答える。
「過去問、ですよね龍園くん。それも、少し前にやった小テストと同じ問題なんじゃないですか?」
確か、金田だったはず。俺より小テストの点数が高かったのは覚えている。
「ククッ……正解だ金田。この小テストは今の3年が1年のときに受けたものだ。俺達がやったのと同じものをな」
「早く本題に入れ龍園。俺達の時間を奪っていることを分かっているのか?」
「そう焦んなよ時任。これは必要な事だ。まだ何も分かっていないようなら黙って聞いていろ」
時任という人物は黙るが、渋々と言った感じだ。
猛烈に龍園を毛嫌いしていることは知っている。ただそこまで印象には残ってはいない。
「この小テストの答えだが、俺達がやったのと同じものだ。それだけで分かるだろ?」
「詳しくは言わねぇ。今から中間テストの過去問を全員に配る。貰ったら好きにしていいが、赤点を取ったら容赦しねぇぞ」
いつの間にか龍園の側近となっていた石崎とアルベルトがそれぞれ配り、あっという間に全員に渡る。
「それが中間テストの答えだ。それをテストまでに全て覚えてこい。分かった奴から出ていけ」
大半の生徒は出ていったが、少数は残っていた。
それを示すかのように、時任が声を挙げる。
「待てよ、龍園。どうしてその紙が中間テストの答えに繋がる。ただの過去問にしか見えないが?」
「お前の意見なんて聞いてねぇ。テメェらは大人しく俺に従っていればいい。その紙が中間テストの答えなのは間違いねぇ。分かったらとっとといけ」
その言葉を皮切りに、ほとんどの生徒が出ていった。
俺は事の顛末を見届けたかったため、残っていた。
「出ていけと言ったはずだが……お前の頭には耳がついていないようだな」
「俺はお前が気に食わない。クラスのリーダーなら分かるように伝えるべきだろ。暴力で統制した奴を、俺は認めない」
「その言葉は的を外れていると思いますよ、時任くん」
「……なんだと?お前も龍園がリーダーであることに何の疑問も思わないのか?」
「そうは言っていません。確かに、龍園くんの暴力で作り上げるという体制には些か疑問が残ります」
「なら……『ですが、それが全てではないと僕は考えています』
「龍園くんよりリーダーに長けた人はそもそもこのクラスにはいないと思います。それだけではありません。現に、中間テストの問題を過去問の答えと一緒だと見抜いたのも龍園くんです」
「リーダーとして、生徒全員に平等に配ったこともです。……それでも、納得できないですか?」
「だとしてもだ。何があっても俺は絶対に認めない」
そう吐き捨て、出ていく時任。
くだらないプライドを誇って何になるのか。今の問答だけで、時任という人物が手に取るように分かった。
「なんであいつは素直に従わないんですか、龍園さん。俺には威張ってるようにしか見えないっていうか」
「好きにしてやれ。無能な癖にプライドが高いだけの奴だ。あいつがいようがいなかろうが関係ねぇ」
「龍園くん。少しいいですか?」
「どうした?金田」
「残っている生徒もいるみたいですか……いいんですか?」
「あいつはお前と同じで頭がキレる奴だ。問題ねぇ」
「そうでしたか。すみません、杞憂だったようですね」
耳打ちしていたため会話は聞こえなかったが、俺に対して何かを言っているというのは分かった。
「テメェはいつまでいるつもりだ。俺が過去問を使ったことにまだ納得していないのか?」
「いや、それについてはもとから気にしていない。時任って奴が滑稽すぎて、出るに出られなかっただけだ」
そう言って、すぐに教室を出る。
俺は過去問なんて使わないでいいと考えていたが、使わなかったらこの場には遭遇できていなかっただろう。
自分の見解だけで物事を判断するのは控えるようにするか。ーーそう思わされた。
テスト前の最終日。クラスでは、少しだけピリついた雰囲気ができていた。
いくら過去問が渡されたとはいえ、不安なものは不安なのだろうか。石崎も珍しく、休み時間に過去問をずっと見ていた。
もう大丈夫だと思うが、いざ本番となると何が起こるか分からないか。
過去問を渡されてからは、集まってやらなくてもいいかと考えていたが、石崎達が一人だと絶対やんねぇ。と全員同じ意見だったので開くことにした。
「や、やべぇ。今ならなんでも答えれる気がするぜ!」
「これも滝谷のおかげだな」
「あぁ。間違いねぇ」
俺じゃなくて、お前達の気合いが凄かったからだと思うが……今は余計な事なんて言う必要ないか。
「そう言われるとやった甲斐があるな。お前達の頑張りに、中間テストが終わったらそれぞれに10000ポイント送ることにするか」
喜ぶと思ったが、反応はまったく異なっていた。
「俺らは金のためにやったわけじゃねぇ。だろ?」
「当たり前だ。自由のためだ!」
「これが終わったら遊び放題だぜ!」
少しらしくないと思ったが、いつも通りで安心した。
「……そうだな、まずは中間テストだな。ちなみになんだが、目標はどのくらいにするんだ?」
「100点に決まってんだろ!?」
「60点取れたらなんでもいいぜ」
「一教科ぐらいは高得点を取ってやる」
石崎以外は割と現実的だが、そのくらいの方がやりやすいだろう。過去問もある。もしかしたらあるのかもしれないな。
机に向かって最終確認をする石崎達に、やっていて良かったと改めて思わせられた。
「あんたに聞きたいことがあるんだけど」
石崎達との確認を終えたため、同じく教えていた伊吹にも最後の追い込みをしようとする。
だが、開始早々に切り上げられる。
「単刀直入に言う。あんたは何なの?」
「……どういう意味だ。あまりに脈絡がないが」
「あれだけ龍園にダル絡みされてるってことは、普通の奴じゃない。ただ頭がいいだけ、それだけには思えない」
「だから何が言いたいんだ?」
「仮に俺が龍園に買われているとしよう。それが何に繋がる。そもそもだ。お前が何故気にする?」
集まったときから気にしていたみたいだが、それが何なのかまでは分からなかった。
「龍園みたいに分かりやすいならいい。アルベルトぐらい特徴的なら何も言わない。でもあんたには何も見えないのに、気味が悪い。ーーそれが知りたい」
「……」
少しの間静寂が続く。
正直、龍園あたりなら特に何も思わなかった。
もしかしたら……なわけないか。
こいつがそこまで気づけるとは思わないし、自分の主観で考えない方がいいのは龍園で立証された。
であるなら、単純に気になっているだけか。
「まぁ別に言う必要がないと思っていただけだ。ハッキリさせとくか」
「お前が言いたいのは、こういうことか?」
俺は伊吹が避けられる速度で、拳を繰り出す。
「……ッッぶな。な、なんのつもり?」
反射的に出た伊吹の蹴りを躱して、向き直る。
「お前の本質ってのはこういう意味だと解釈したんだが、違ったか?」
「は、はぁ?頭でもイカれたの」
「お前、察しが悪いってよく言われないか?」
「……答える気はないってわけ?」
それでも伝わらないようだ。
「お前の違和感ってのは、身体的な部分ってことだと思ったんだが、違うのか?」
「……そういうことか。でも、それならそれでおかしいだろ」
俺は伊吹に続きを促す。
「アルベルトや龍園が一目置いている理由は分かったけど、ならなんで龍園とやらないの」
「その話は前に言ったと思うが……聞いてなかったのか?」
「あんたほど私は納得してない。分かる?」
これ以上は意味がないだろう。
「お前の違和感は払拭されたってことでいいか?あまり長話するつもりもないが」
「納得できない部分もあるけど……もういい。私が聞きたいことは聞けた。早く答えを覚えないといけないし」
切り替わりが早いことで何よりだが、それならそれで別の時間に聞けばいいものを。
「よく分からんが、答えの確認はやるのか?」
「やるわけないでしょ。答えがあるなら一人でやった方が楽だろ。そもそも私は一人の方がいいんだ」
言いたいことだけ言って、部屋を出る伊吹。
一人取り残された俺は、思案する。
ただの我儘な奴だと思っていたが、感覚だけは鋭いらしい。石崎達とは違う意味で、変な奴だと思っていた。
いずれにしても、そこまで気にすることじゃないか。
それよりも、明日の中間テストだな。
自分の点数には興味はないが、石崎達や伊吹がどれくらい取れるのだろうか。純粋に楽しみだった。
石崎がもし100点なんか取ったら、地震でも起きるんじゃないか。
ありもしない事を考え、帰路につく。
誰であろうが、自分のベストを尽くすだけだ。
過去問というアドバンテージがあるものの、結果は蓋を開けるまで分からない。
もしかしたら退学する奴も……いるのかもしれない。
何にせよ、やれることはやっておくべきだろう。
考えるのを止め、明日を迎えるのだった。
他クラスとの本格的な絡みは中間テストが終わってからにします。