いよいよやってきた。早かったような長かったような気もするが、ここまで中間テストに向けて勉強を重ねてきた。
その成果を証明すべく、中間テスト当日を迎える。
いつもより早く起きた俺は、最後の追い込みをする。
過去問を使わなくても点数はなんとかなるだろうが、石崎達が赤点を取る可能性がないわけでもない。まぁやることがないだけだが。
結局のところ、過去問に対して否定的な姿勢を見せていながら使っていた。仮定がどうあれ、結果として俺は矛盾している。とはいえこの世の中には無数の矛盾が溢れている。それに比べたら陳腐なものだ。
全て頭に詰め込んだ俺は朝食を取ろうとするが、インターホンが鳴る。
(誰だ?こんな時間に)
玄関まで行って、確認する。
「よう!朝からわりぃな」
朝とは思えない元気のいい声に、開けようとしたがすぐに閉めた。
「な、なんで閉めんだよ」
「朝からお前の声を聞かされる身にもなってくれ。まぁいい。とりあえず……上がってくれ」
人を上がらせるのは好ましくないが、ずっと待たせておくのも良くはないだろう。
「めっちゃいい匂いするじゃねぇか!何作ってんだ?」
「普通のパンにその他諸々つけ合わせただけだ。お前は…………なんでもない」
トーストしただけなのだが、石崎は食べたそうにこちらを見つめている。
「食いたいのか?俺も気分で作っただけだからそんなにいらないが」
「いいのか!?なら遠慮なく食わせてもらうぜ!」
まだ朝だと言うのにもかかわらず食いっぷりが凄まじい。高校生で食べ盛りなのはいいことだとは思うが……俺の分まで食っていた。
「何しに来たんだ?今のままだと単なる嫌がらせだが」
「すまねぇ。食欲が収まらなかったぜ……」
「食べたことは気にしてない。それよりここにきた目的は?」
「目的?そんなんねぇって。早く起きちまったから来たってだけだぞ」
何かしら意図があると思ったのだが、見当違いらしい。
「早く登校して過去問をじっくり見たほうがいいと思うぞ?龍園からの罰を食らいたくないならな」
「そ、それは困るな……じゃあまたな!」
石崎は足早に去っていく。
初めて俺は龍園に感謝したのだった。
中間テストに臨む前に、坂上先生が教室へとやって来て端的に述べる。
「当日になりましたが、勉強はしましたか?」
「最初はどこか浮ついた様子でしたが、今日に至るまでそのような生徒も少なくなりました」
「貴方達が今までやってきたことは決して無駄ではありません。それをお忘れなく」
それだけ言って、生徒達に時間を渡す。
見た目とは裏腹に意外といい人なのかもしれない。というよりは、現実的なだけなのか。
俺は、自分のできることをする。と言っても、過去問は大体覚えたので同じことの繰り返しになるが。
HRが終わり、始まりの合図を告げるチャイムが鳴る。
前から回ってきた解答用紙を後ろに渡し、問題とにらめっこする。正直、過去問が全て問題と一緒なのかは疑問だったが、一通り見る感じまったく同じのようだ。
確認ができた俺は、全て解き終えた。
そして、どのくらい点を下げようか考える。
結局のところ、高い点数を取ったところで何かあるわけでもないだろう。それなら、赤点のラインを下げる方が意味がある。赤点を取るのは自由だが、それを目の前でやられると中々に困る。
予想じゃ36点だったが、過去問も渡されたことにより、40点ぐらいいくんじゃないだろうか。
そう考えた俺は、10点ぐらいの差が出るように調整する。
解き終わった問題を消していく。ある程度消し終えたところで1限が終わる。次の教科が始まるまでボーッとしていたが、隣から声がかかる。
「解けたか?滝谷。俺は楽勝だったぜ!マジで100点あるかもしんねぇな」
どうやら自信満々の様子。まだ1限が終わったばかりだが、この調子を見るに大丈夫そうだな。
「俺も問題ない。お前の結果が楽しみだ」
「おう!俺も楽しみだぜ」
それから6限まで同じ事を繰り返し、あっという間に時間が過ぎていった。
「やっと終わったぜ……頭が痛えよ」
「てかなげぇって」
「けど手応えはあったよな?」
3人とも疲れている様子ではあったものの、テストに対しては自信有りげだ。
「その様子からして点数は大丈夫そうだな。目標の点は取れそうか?」
「実感はねぇけど、高い点数は間違いなく取れてるぜ」
「そうか。早い段階でやっていてよかったな。期待せずにしておく」
「おいおい。そこはする場面だろうが?お前が泡吹いて倒れるくらいびっくりさせてやるぜ!」
「そうなるといいな。ないと思うが」
軽い冗談を言って、石崎達と別れる。「このあと遊ぼうぜ!」と言われたが、素直に断った。
一週間が経ち、遂に中間テストの結果発表が行われる。
心なしかいつもより雰囲気が違う気もする。そりゃそうか。もしかしたら赤点を取って退学、ということだってあるかもしれない。普通にやっていれば取らないとは思うが。
「待ち望んでいた生徒も多いと思いますが……先に結果を載せましょうか」
大きな紙が黒板に貼られる。
「赤点はいませんでした。それどころか、多くの生徒が平均点を上回っていました」
平均点は75.6。赤点のラインは38点か。まずまず、と言ったところだろうか。
俺は全教科47点のつもりだったが、ミスをしていた教科もあって43点のものが一つあった。過去問が手に入ったことでギリギリまで下げようと考えたが、そこまでする必要はなかったか。
内心あっぶな、と思ったが……それより石崎か。
さっそく点数を確認する。
予想以上に高かった。特に、国語と社会は70点を超えていた。数学は赤点ギリギリだが、他の教科も50点台とあの状態からここまでいくのであればかなりいいんじゃないだろうか。近藤や小宮も同様に石崎と似た点数だった。
「クッソ……100点取ったと思ったのによ。でもこんなに高いとは思わなかったぜ」
「あの状態からこの点数ならもっと誇ってもいいと思うけどな。過去問があったとはいえ」
「そ、そうか。お前が言うなら間違いねぇな。でもよ、なんか低くねぇか?滝谷の点数」
「高く取ったところで特に何もないだろうしな。というか赤点にならないよう下げるって言っただろ?」
「そうだったか?俺らのこと舐めすぎだぜ」
「万が一があるかもしれないだろ?やらないよりはやる、それが俺の信条だ」
「俺らのこと気にしてるってことだよな。次のテストはそんなめんどくせぇことやらずに済むから期待しとけよな」
石崎は納得したように頷く。
そういや、まだ確認していなかったな。
もう一度テストの点数が載った紙を見て、頬枝を机についている人物をチラッと見る。
「なに?」
「石崎達にもびっくりさせられたが、お前もかなり高いんだな。特に国語とか」
国語が80点を超えていて、その他も大抵が60点台だった。数学はアレだが。
「あっそ」
いつにも増して機嫌が悪そうだ。
「そう気にすることじゃないだろ。数学以外は比較的高いようだし」
「何を勘違いしてるのか知らないけど、眠いだけ」
「石崎の同じ点数なのが癪に障ったか?」
「……何が言いたいわけ?眠いって言ってるだろ」
「冗談だ冗談。眠気を覚まそうと思っただけだ。にしても、少しぐらい喜んでもいいと思うんだがな」
テストの結果を気にしている訳でもなさそうだし、石崎に対して対抗心があるわけでもない様子。ただ眠いだけなのか……そうは見えなかったが。
テストが終わったら何をするだろうか?
ハメを外して娯楽に費やしたり、今回の結果を受けて次に向けて既に取り組んでいる奴もいるかもしれない。どちらにせよ、一息つける時間がようやく来るだろう。
俺としてはここ数日やることが多かったため、睡眠を少しでもいいから取りたかった。
ーーだが、目の前の男はそれをさせてくれない。
「よぉ。テメェなら来ると思ったぜ」
「来るも何も、呼んだのはお前だろ」
認めたくはないが、少しばかり関わる機会が増えてしまっている。そんな状況を嘆けばいいのか、いっそのこと受け入れてしまう方がいいのか。
「……アルベルトだけか。石崎と伊吹はいないんだな」
「テメェとアイツらは相性が悪そうだからな」
「それもそうか」
呼ばれた理由はおそらく図書室での出来事だろう。
「ここに呼んだのはアレのことか?」
「自分で考えやがれ」
龍園に視線を向ける。どうやら合っているようだ。
「合ってるということで進めるが……それなら丁度いい。気になっていることもあるしな」
「言ってみろ」
「俺を山脇の近くに置いた必要性が分からないな。お前の狙いは分かっているつもりだ。だからこそ意味があったとは思えないが?」
わざわざあの場で揉めたのは必然だ。
「意味なんてねぇよ。ポイントの変動が起こるか確かめたかったが、邪魔が入ったようだな」
おそらく山脇から聞いたのだろう。単なる嫌がらせ半分、と言ったところだろうか。どっちでもよかったのだろう。
「Bクラスの奴が止めなかった所で、あの場では特に何も起こらないと思うけどな」
過るのはあの場で唯一止めようとした人物。どちらにせよ防がれていただろう。
「あ?どういう意味だ」
「お前なりに言うなら意味なんてないな。そろそろ、本題に入ってもいいんじゃないか?」
「チッ、まぁいい。次は派手に動く。準備しておけ」
「それだけか?」
龍園は返答しない。
「ここに呼んだってことは、どうせ俺も含めるんだろうが……一人でことを起こせと?」
「そうは言ってねぇ。都合がいいってだけだ」
ハッキリとはしていないが、問題があるわけでもないか。
「……なるほど。この学校の基準がどこまでなのかは俺も知りたいし、特に言うこともない」
どうやら本格的に動くようだ。
俺は立ち上がって、アルベルトに目配せだけしてこの場を去る。
「ククッ……面白いことになりそうだ」
背後から聞こえてきた声を気にすることなく、先の事を考えるのだった。
「アルベルト。お前はアイツをどう見る」
アルベルトがアイツに対して高く見積もっていることは知っている。だが俺にはそれが何なのかが分からねぇ。
俺と似ている奴なのは間違いねぇ。アイツ自身は否定していたが、俺のように暴力で支配する奴だ。 ーーそう思っていた。
実際はどうだ。
常にスカしか野郎だと思っていたら、ソレに触れた瞬間空気が変わりやがる。どうにも気がかりだ。
それすらも、演じているのか。ただの犬だと思ったが、納得がいかねぇ。
俺に従っている内は特に気にすることもねぇが……もし牙を向いてくるなら、屈服させるだけだ。
「おもしれぇ。テメェの仮面を取ってやるよ」
俺の前に立った奴は、全てひれ伏した。
そいつらから得られる恐怖と愉悦が俺にとって唯一満たされる瞬間だと思っていた。
アイツを屈服させたとき、俺には未知なる感情が得られるかもしれない。
「退屈させるんじゃねぇぞ?ククッ……」
龍園とのやり取りが終わった後、俺は寮に帰った。
石崎達と伊吹の両方を教えながらだと、時間がどうしても削られていく。睡眠が思う存分に取れない日もあった。
それもこれも、ひとまず今日で終わりか。
ベッドに腰を下ろす。
龍園がやることは十中八九暴力関係だろうが、どうなるのやら。それよりも、あいつだ。
あの時は一ノ瀬穂波に気を取られてたが、唯一止めようとしていた奴がいた。
瞬時に止めようとする状況判断ができる。
気になったのは、そこではない。
ーー目だ。あの時見たあいつの目、アレはどことなく得体がしれなかった。
俺は、人の目を見る癖がある。
そしてなんとなくだが、その人物像が見えてくる。
だからこそ、不思議だった。
アイツには何も見えなかった。ソレを見て俺は、負なる感情が沸き立ったように感じた。
俺自身も、その感情の起伏はよく分かっていない。
ただ一つ言えることがある。
間違いなく、まともな人間ではない。
俺の経験から言える、確かなことだ。とはいえ、ズレてる方向までは分からないが。
いつか分かるだろう。それが何なのか。
今は変なことは考えずに、待つことにしよう。
当分先にはなるだろうが、いずれは答えが見えてくるはずだ。