TS転生した元おじさん一般村娘。将来結婚相手になるだろうからと優しく接していた幼馴染が村を出た。そして十年後、立派になりすぎて帰ってきた。   作:パンデュ郞

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第16話

 それは、領都道中の一つの町での出来事だった。

 

 宿屋の個室を貰っており。こんなに親切にしてもらっていいのかなってぐらいの賓客対応をおじさんは受けていた。

 アルカナ様に言ったら、『下手に道中で困られる方が困るわ』とのことだったので、全て織り込み済みなのだろうけれど……。

 こんなに丁寧に扱われて、おじさんはある意味窮屈な思いをしているのでした。

 

 いや、明らかにベッドが粗末じゃないんだもの。

 おじさんの家にあるものよりはるかにいい物使われてるよこれ。この世界に来てから初めてみたよこんなにふわふわなベッド。

 さらには部屋に鍵すらついている始末。高級宿だぁ。

 いや、アルカナ様も同じ宿に泊まるってことを考えれば当然なんだけれど。

 

 なんて、思いにふけっていると、部屋の扉がノックされた。

 誰だろう。もう外は大分暗くなっていて、眠り始めてる人がいてもおかしくない時間なのに。

 

「アルカナ様よ。カメリア、まだ起きてるかしら」

「アルカナ様っ!? 今すぐ開けます!」

 

 慌てて立ち上がり、部屋の扉を開けるとそこには麗しい金色の御髪と金色の両眼を輝かせているアルカナ様が立っていた。

 

「呼んでくだされば私の方が向かいましたのに」

「いいのよ。あなたが宿の中を動くより、私が動いた方が安全上問題がないから」

「それはぁ……そうかもしれませんけれど」

 

 道中の馬車の中で聞いた話だけれど、アルカナ様は高名な魔法使いらしい。

 この国の中でも随一の実力なのだと鼻高々に語っていた。

 なので、護衛よりも彼女の方が強いという逆転現象が起きているそう。すごい。

 

「幾つか話しておきたいことがあってね。領都についてからは少し忙しくなるだろうから」

「はい。えと、なんでしょうか」

「要点は二つ。あなたが魔法を使える素養があるかと、あなたが持ってるその指輪について」

 

 ピッ、と人差し指と中指を立てて、アルカナ様が話の内容をかいつまんでくれる。

 

 ……えっ! おじさんが魔法を使える可能性があるの!?

 

「期待させて悪いけれど、知っての通り基本的に平民は魔法が使えないわ」

「えと、はい」

 

 基本的に魔法が使えるのは貴族の人だけだ。

 だからこそこの世界で貴族は貴族であるわけで、平民とはそれだけで隔絶した存在となっている。

 そもそもの生物としての能力が違うのだ。

 

「でも、稀に遠縁か何か知らないけれど、素養がある平民もいるのよ。それを見てあげる」

「期待は……しない方がいいんですよね?」

「もちろん。魔法が好きって言ってたから、念のためね」

 

 アルカナ様も魔法が好きなんだそう。

 だから、できれば使えればいいなって思ってくれている。

 

「手を出して」

「はい」

「少しだけ不快感を覚えるかもしれないから、先に注意しておくわ」

 

 魔法の素養があるかどうかの検査自体は簡単らしい。

 相手の体に魔力を流して、どのぐらい流れるか。

 魔法が使える人間は、魔力がよく通り、そうでない人間は弾かれるらしい。

 なんか電気抵抗みたいだなって思った。ちょっとだけ。

 

 アルカナ様が差し出した手に、上から重ねるように手を置く。

 瞬間、体の中を何かが駆け巡るような感覚に襲われる。

 見えない何かが、体中の血管や神経を循環している。

 あまりにも不思議な感覚。

 これが、魔力?

 

 少しの間、なんともいえぬ感覚を味わった後、不意にすっと体内を流れていた何かが抜けていく。

 終わった、のかな?

 

「……驚いた。微弱だけれど、素養があるわね」

 

 アルカナ様の表情に嘘はない。

 心の底から、驚いたという顔をしている。

 おじさんも、驚いた。

 

「本当ですかっ!?」

「ええ。僅かだけれど素養自体はあるわ。大したことはできないけれど、全く使えないってわけではないわね」

 

 ――っ!

 こんなに嬉しいと思わなかった。

 些細な事だとしても、魔法というのはひそかに憧れだったから。

 どんな規模であれ、使えるという事実が嬉しくてたまらない。

 

「偶然、いえ、どこか遠縁に貴族の血が流れているのかもしれないわね。相当遠いところに」

「お父さんはずっとイチノシ村に住んでるそうなので、お母さんの方かもしれません」

「母親ね……お母さんは村の人じゃないの?」

 

 確かに。その流れならそうなるに決まっている。

 

「……実は、お母さんについては殆ど知らないんです」

「そうなの?」

「ええ。私が産まれた時に死んでしまったんですが、お父さんも思い出すと辛そうで……」

 

 話す機会がなかった、と。

 アルカナ様も、なるほどねと納得してくれた。

 ご自身の目でお父さんとおじさんの関係を見たからこそ、納得できたんだと思う。

 

「それで、この指輪がお母さんの形見なんです」

「――その指輪、ね」

 

 含みがある言い方だった。

 そういえば、アルカナ様がおじさんの部屋に来た理由の二つ目は、この指輪についてだったっけ。

 何か、この指輪にあるのかな。

 ぱっとみた限りだと、ただの銀色の指輪だけれど。

 材質とかもよくわからない。

 

「一応、確認だけしたいから、少しだけ見せてもらってもいいかしら。いやなら結構よ」

「いえ、アルカナ様なら盗むはずありませんから。どうぞ」

 

 ここまでの道中、扱いで十分に信頼関係は築けていると思っている。

 少なくとも、おじさんはアルカナ様の事は信頼できる立派な人だと思ってる。

 ……ふと思ってしまったけれど、アルカナ様って何歳なんだろう。

 おじさんよりも身長は低めだけれど、ひょっとして年下だったり?

 

 そっと、指輪をアルカナ様の差し出した手のひらの上に乗せる。

 瞬間、バチリと指輪から火花が散った。

 

「ひぇ!?」

「……まさかとは思ったけれど、やっぱり聖銀製の指輪なのね」

 

 聖銀製? ダイナ君の鎧は魔法銀って話だったけれど、何か違うのだろうか。

 村娘で得られる知識には限りがあって、村の生活で使わない情報はとんと知らないのだ。

 

「聖銀ってのは、簡単に言えばこの国では手に入らない人工鉱物よ」

「き、貴重なんですか?」

「そうね。この指輪を売れば、王都の屋敷一邸ぐらいは買えるんじゃないかしら」

 

 ひぇ。王都の? 屋敷が一邸?

 それってすさまじく高価なんじゃ……。

 

「どういう経緯でお母さまが手に入れたのかはわからないけれど、大事になさい。後、なるべく人前には出さないように」

「は、はいぃ……」

 

 恐る恐る、指輪を返してもらう。

 

「あの、この国では手に入らないって、どこなら手に入るんですか?」

「南にあるギンディー聖国が製法を独占している感じね。ちょっと特殊な性質があるから結構な値段で取引されてるのよ」

 

 ギンディー聖国……。

 お母さんはそこの出身だったりしたのかな? だとしたら、どうしてイチノシ村へ?

 

 お父さんはお母さんについて深くは語ってくれたことはなかった。

 それは、お母さんの事を思うと悲しくて思い出せなかったから? 

 それとも、話したくない内容が含まれていたから?

 

 わからない。今となっては、聞く機会もしばらくはないだろう。

 

「とにかく、大事になさい。貴重な品よ」

「はい。あの、アルカナ様」

「ん、なあに?」

「アルカナ様は、この指輪を見ても何も思わないんですか?」

 

 おじさんは少し怖くなってしまった。

 なのに、アルカナ様は顔色一つ変えていない。

 目の前にこんなに貴重な品があるというのに。

 お母さんが、何者なのかわからなくなってしまったのに。

 

「何も思わないわよ。だって、その指輪があるからと言って、あなたがあなたでなくなるわけじゃないじゃないの」

 

 数拍おいて、当然とばかりに彼女は言い放った。

 

「それとも、お母さんが何者かわからなくなって、自分も誰なのかわからなくなってしまったの?」

「それは……」

「違うでしょう? あなたはあなた。お母さまはお母さまよ。そこを間違えてはいけないわ」

 

 アルカナ様が言うと、不思議と腑に落ちる。

 これがカリスマっていうものなのかな。

 おじさんにはついぞ恵まれなかったものだなぁ。

 

「ありがとうございます。その色々と」

「ええ、存分に感謝しなさい。そして、あなたはこのアルカナ様の下で働いてその恩を返すの」

 

 堂々と言い切られて、思わず笑ってしまう。

 頭が上がらないなぁ。

 本当に立派な人だ。

 

「……後、もう一つだけ用事があったのを思い出したわ」

「はい、なんでしょう?」

「明日からの行軍、少しだけ苛酷になるから、覚悟なさい」

 

 にっこりと、今日一のいい笑顔で言い切られて。

 おじさんは、思わず頬を引き攣らせてしまう。

 

「……へ?」

 

 実は、ここまでの馬車も決して快適というわけではなく。

 既にお尻は結構痛いし、疲れたし。

 それを、さらに苛酷に……?

 

 思わず気絶しそうになってしまう。

 そして、次の日。

 実際に、気絶した。

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