TS転生した元おじさん一般村娘。将来結婚相手になるだろうからと優しく接していた幼馴染が村を出た。そして十年後、立派になりすぎて帰ってきた。 作:パンデュ郞
「おい、生きてるか」
「……多分」
ダイナ君に支えられるようにして、くたくたになった体を何とか立った状態に維持する。
数日間の馬車の旅は、実に大変なものでした。
お尻が、お尻が砕け散る……。途中からは道が整備され始めて楽になったけれど、それでも辛いものは辛かった。
車ってすごかったんだなぁ。揺れの快適さが段違いなんだもの。
あれってどういう原理でそうなってるんだっけ。衝撃の吸収機構とかなんとか思い出せないかな……。
「悪かったわね。急に動かせる馬車がこれしかなかったのよ。恨むなら突発的に出て行った馬鹿を恨んでちょうだい」
「他の馬車は……もう少しまともなんですか?」
「まとも、というと語弊がありそうだけれど。まあうちで確保している馬車はもっと快適ではあるわね」
いっそ馬に乗れるようになった方が楽かもね。なんていう言葉は聞かなかったことにする。
馬に乗るのも大変だっておじさん知ってるんだからね!
でも、当然と言えば当然なのかもしれないけれど、おじさん以外の人は平然としているのは流石というべきか。騎士の人たちはそうだし、ダイナ君もアルカナ様も平然としている。
これが慣れ、ですか。
がくり。
「おい、元気を出せ」
「そうね。せっかく領都に来たのだし、少しぐらいは街並みを見てもいいんじゃなくて?」
ぐったりとしたおじさんは、必死に思いで顔を上げる。
その瞬間だけ、ほんの一瞬だけ、全ての疲れを忘れた。
「わあぁ……っ!」
そこは、夢にも見たような光景で。
赤茶色な煉瓦造りの屋根に、白色の壁、基礎は石作り、まさしくファンタジーって感じの街並みが広がっていた。
想像していただけの光景と、実際に目の当たりにするのとではまるで違った。
前世で海外旅行に行ったときに見た光景を思い出す。
その時も、実際の光景に感動したっけ。
ふと、一通り周囲を見回して、違和感に気が付く。
「……なんか、見られてる?」
「当然だろう」
何が当然なのだろう。と、一瞬だけ考えてしまった。
答えはすぐに民衆から返ってくる。
「アルカナ様だ!」
「アルカナ様、その馬鹿野郎ひっとらえられたんですね!」
わっ、と圧倒されるような活気。
みるみるうちに人が集まってきて、二階の窓からも人が顔を出してくる。
その中心にいるのは、当然アルカナ様だ。
「……お前、まさかこれを見せたくて城前じゃなくて中途半端なところで馬車を停めたな?」
「あらやだ、言いがかりね。アルカナ様はカメリアに我が町を見てもらいたかっただけだというのに」
「どうだか」
アルカナ様は町の人たちにも慕われてるんだなぁ。
というか、偉い人って城に籠ってるイメージだったけれど、そこら辺の人も顔を知ってるぐらいなんだ。
「おい、カメリア。こいつを基準に貴族を考えるなよ。こいつは頻繁に城を脱走して町を駆けまわっていた問題児だ」
「あらやだ。一度も人里に降りてこず、二年もの間、魔境へ籠り続けた経験がある野蛮人に言われたくはなくてよ?」
二人の間で火花が散る。
ちょっとおじさん今は仲裁している余裕はないかも~。
結構心身に疲労が……。
「アルカナ様、そちらの娘は一体?」
「また誰かを拉致してきたんですか?」
近寄ってきた人たちは、興味津々という表情で、親し気にアルカナ様に話しかけている。
そこに敬意はあれど、畏怖はない。
「拉致とは人聞きの悪い。才能の原石を拾ってきたと言うべきね」
「あははは……」
何となく予想はできてたけれど、アルカナ様、頻繁にこういう事してるんだ。
町の人たちの表情がまただよみたいな顔になってるもん。
まるで、自分たちの家族を見るかのように。
「凄いんですのよこの娘は! 道中軽いテストを行ってみましたが、いずれの項目でも高水準の回答を出したのですから!」
「えぇ、そんなことないですよぉ」
「いいえ。商家の跡取りかと思うぐらいの計算速度。代筆人を任せられるほどの字の綺麗さ。細かいところにまで気が回る観察力。いっそのこと私の手元において置きたいぐらいですもの!」
べ、べた褒めされてるぅ。
それらは全部、その、おじさんが人生二週目だからってだけで。
なんだか、凄いずるしている気分。
神童も二十を越えればただの人というように、どんどん劣化していくばかりですよぉ。
「おおぉー! そりゃ凄い!」
「カメリアちゃんって言うのか。どうだ、うちで働かないか?」
「ずるいぞ! どうだ、うちの酒場の看板娘になってみないか?」
「やめなさいあなたたち! 一度城に案内してからですわよ!」
わあ、少し怪しい不動産投資の話ぐらい一斉にお誘いがくるよぉ。
アルカナ様も止めてくれてるようで止めてくれてないのね。
まあ、最終決定権はくれるって感じなのかな?
「てかよぉ。ダイナが肩貸してるってすげぇ珍しい場面じゃね?」
「確かに。お前そんなの許すタイプだっけ」
話の矛先がアルカナ様からダイナ君へと変わった。
こちらにも親し気な雰囲気が漂っており、少なくとも怖がられている様子はない。
……都会で人間関係に失敗してないようで、本当に良かったよ。
「……やかましい」
あっ、ダイナ君が少し不機嫌になったのが分かる。
これはおじさんが肩を借りているせいだよね。
謝らないと。
「ごめんねぇ。馬車に揺られて私の下半身がよわよわなばっかりに」
「気にするな。茶化す連中が悪い。あともう少し言葉を選べ」
言葉を選ぶ?
そんなに変な事を言った自覚はないけれど。
なんて首をかしげていると、再び観衆が一斉に沸く。
「おい、聞いたか! ダイナが女を庇ったぞ! あのダイナが!」
「一言目には死ね、二言目には殺すしか言わないあのダイナがか!」
「流石にそれは言いがかりが過ぎるだろう!」
この町ではダイナ君も名前が通ってるみたい。
内容はともかく、固定認識があるぐらいには知られてるってことだもんね。
じゃあおじさんは有名人二人に挟まれてるわけだ。
何だろう。どういう心構えでいればいいんだろう。
「いやー、お前にも春が来たのか」
「保護者面するな」
「そうですよぉ。私はダイナ君と同じ村の出身で、そうだなぁ……」
思えば、どういう関係と言い表すのが適切なんだろう。
友達。うーん、もうちょい近しいと思ってる。
許嫁とかでもないからなぁ。悩ましい。
ああ、一番適切なのはこれかな。
「姉弟みたいな関係ですよ」
ちょうど同い年で、勝手に親しくさせてもらってたつもりではあるし。
最後の方はダイナ君もある程度心を開いてくれていたと今なら信じられる。
なら、もう同じ村の家族として考えていいよね。
……? アルカナ様はどうしてそんなに笑っているんだろう。
ダイナ君もその苦々しい表情は一体?
おじさん何か悪いこと言っちゃった?
「……そうか、同じ村出身なら家族みたいなもんか」
「どっちが上だ?」
「そりゃどう考えてもダイナが下だろう。こいつはガキ過ぎる」
「ええい、やかましいぞお前ら!」
ダイナ君が凄むとわいわいきゃーきゃー言いながら人が散開していく。
その姿すらどこか楽しそうだ。
二人は本当に、この町に良く馴染んでるんだなぁ。
アルカナ様は分かるとしても。ダイナ君も。
十年間かぁ。そうだよね、そんだけ時間が経ったんだもの。
十六歳のおじさんたちからすれば、人生の半分以上を過ごしている場所なんだから。
ふと、気持ちが軽くなっていることに気が付いた。
初めての都会だからどこか恐怖心があったけれど、二人のおかげかすっかりなくなっている。
足も、少しは動くようになったかな?
緊張がほぐれたせいで、気が休まったのかもしれない。
自然と頬が緩む。
「あははは……二人とも、ありがとう」
「あら、一体何のことですの?」
「さて、さっぱりわからんな」
本当にわかっていないのか、とぼけてくれているのか。
残念ながら二人の顔色からは分からなかったけれども。
それでも、感謝の気持ちでいっぱいなのは嘘じゃない。
意図的かどうかなんて関係がないのだ。
「それで、少しは自分で歩けそうか?」
「う、うん。ちょっとは」
「ここから城までそこまで歩くわけではないわ。気軽に街並みを楽しみながら歩きましょう?」
そう言って、アルカナ様が手を差し出してくれる。
そっと手を取ろうとすると、ダイナ君がぺしりと彼女の手をはたき落とす。
ダイナ君?
「そうやって見せびらかそうとするのはお前の悪い癖だ」
「あら、嫉妬かしら?」
「違う。単純に目立たせすぎるな、というだけだ」
確かに。アルカナ様と手を繋いで歩いてたら、おじさん領主様の娘様と手をつないで歩く村娘になるところだったよ。
気が付かなかった。この数日ですっかりアルカナ様の距離感に慣れてしまったせいかも。
「それじゃあ、歩いていきましょう。どこにどんな店があるのか、簡単に説明してあげるわ」
「はい、お願いします!」
アルカナ様の案内を受けながら、ゆっくりと。
それでも、楽しく異世界の街並みを楽しみながら、おじさんたち三人は歩いて行った。
とても、和やかな時間だった。