TS転生した元おじさん一般村娘。将来結婚相手になるだろうからと優しく接していた幼馴染が村を出た。そして十年後、立派になりすぎて帰ってきた。   作:突発性でべそ症候群

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第2話

「はぁ……」

 

 憂鬱だ。大変憂鬱だ。

 齢十六、乙女も乙女である。おじさんは花も恥じらう乙女になってしまいました。

 適当言いました。この世界では、この年齢で未婚は普通に行き遅れです。

 少なくとも村娘としては婚期を逃しつつあります。

 

 前世の感覚では十六歳なんて全然未成年ですが、この世界では立派な成人です。

 受け入れましょう、異世界の常識を。

 

「見た目は悪くないと思うんだけどなぁ……」

 

 おじさんが未婚な理由は割とはっきりしていて、肩にできた傷跡のせい。

 十年前、ダイナ少年と共に崖下ダイブしてできた傷は、未だに痕が残っているわけで。

 女性の体にあまり傷があるのはよろしくなく。そもそもそれだけの傷があったら他にもどうなんだという疑いすらかけられ。つまるところ無事に子供を産める体なのかと問われたわけです。

 

 産める、産めますとも。でも、疑いを晴らすためには産まないとならないわけで。

 鶏が先か卵が先かみたいな論争になってしまったわけです。

 おじさんは大変困りました。お父さんは大丈夫だと言ってくれますが、このままではうちの村の今後が左右される事態です。

 

「胸も、まあ、どうだろう?」

 

 この世界の標準を知らないので何とも言えません。

 年の割には大きいのではないでしょうか。

 比較対象がいないので何とも言えませんが。

 

 おじさん的に容姿に問題はないと思います。本当に。

 前世だったら間違いなくクラスメイトの男子から告白されてるであろう見た目はしてます。本当に。

 

 ただ、肩の傷が痛々しい。それだけの理由が強いのです。

 あとは、まあ、怪我をしたのが六歳のときなので、はねっかえりという印象を持たれてることが多いのですが。

 大抵は一度会えば払拭できる噂話です。

 

「はぁ。逃した魚は大きかったのかもしれない……」

 

 ダイナ君がいればなぁ。と何度思ったことか。

 快く送り出したはずでは?

 いえ、戻ってこいとは言わないので、愚痴ぐらいは許してください。

 現実逃避しないとやってられないのです。

 

 余談ですが、あの事件の当日、ダイナ君が彼の父親に半殺しにされたという話を五年ぐらい前に聞かされました。

 本当におじさんがただの村娘でよかったです。もしも名のある貴族令嬢とかだったら、ダイナ君の首は胴体とお別れせざるをえなかったでしょう。

 

 立派になったら戻ってくると言ってましたが、戻ってこない方が彼のためでしょう。

 彼のお父さんはおじさんが結婚できてないせいで、年々怖い顔になっていってます。

 次会った時にはダイナ君が殺されるかもしれません。それはとてもとても嫌なので、どうかお元気で。

 

「おい! おい! カメリア! カメリア!」

「ん? 大慌てでどうしましたか、お父さん」

 

 カメリアって言うのはおじさんの今世の名前です。

 可愛らしい名前ですね。割と気に入ってます。お花の名前ですよね。あはは、おじさんには似合わないなぁ。

 

「お前と結婚しても良いという奴がついに見つかったぞ!」

「本当ですか! ついに!」

 

 周辺の村々、五か所のうち四か所から断られて、残り一か所で探していたというわけなのですが。

 まあ、はい。そんな交流が盛んじゃなかったので難航したんですよね。

 向こうの村からしても男手を外に出したくなかったわけで。婿入りってなると渋られるんですよねぇ。

 しかも傷物の花嫁ってデバフもあって当人の気乗りも悪い。村長の娘ってバフでデバフ打ち消せません? 無理ですかそうですか。

 

「ああ。これまで少し遠くて交流があまりなかったわけだが……今回の件で両村の仲が深まればと」

「しかしまあ、我ながらよく受け入れてくれましたね。向こうの年齢は? 三十ぐらいの方だったりします?」

 

 働き盛りの年齢ではなく、妻を早々に亡くした人だったりするのだろうか。

 だったらまあ、村長のポジションは魅力的に見えるはず。

 おじさん的には……まあ、人生は諦めと妥協。結婚して子作りできないよりかはマシだと割り切りましょう。

 

「それが……まだ十四歳の若者なんだ」

「ええっ!? それは、凄いですね」

「向こうの村の事情は詳しく知らないが、何か訳アリかもしれん」

 

 確かに。

 十四歳なんて働き盛りを手放すだなんて、ぶっちゃけあり得ない。

 単純に考えるならば厄介払い。よく考えても人身売買もどき。

 うちの村に恩を売って、有事の際にはよろしくねということかも。

 

 随分と政治的だって? ははは、そんなものですよ。

 自由恋愛なんてもってのほか、村社会で許されるはずがありません。

 次代を残すために番えるなら番え。それ村のためなのだから。

 受け入れましょう、異世界の常識を。

 

 結局のところ、自分たちの土地が大切で、自分たちの未来が大事なのですから。

 個人主義が許されるほど豊かな世界ではないということで。

 

「まあ、訳アリだとしても受けない選択肢はないですよねぇ」

「……カメリア。お前がもし嫌がるのなら――」

「お父さん。それ以上は村長として言うべきではないですよ」

 

 情に厚い父親を持って嬉しい限りですが、それとこれは話が別。

 もし、身内の情で会社を傾ける社長がいたらそれは良い社長でしょうか? いいえ、そうではありません。

 村長とは、村人全員のまとめ役であり、村の顔役でもある。

 貴族領主様へお伺いを立てるのも、伝えられた方針を実現させるのも、村長の役目。

 

 そんなお父さんが、どうして娘かわいさで村の損失を出すことを見逃せましょうか。

 

「いいじゃないですか。結婚すら怪しかった私で、将来ある若者が釣れるのであれば」

「……わかった。お前がそこまで言うなら、近いうちに返事を出そう」

 

 あー、良かった。

 一つ、憂いが消えた。

 これで生まれた役目を果たせるし、村に対しても貢献ができる。

 おじさんが男に生まれていれば、もっと簡単な話だったんですけどねぇ。

 男手じゃなくて女性ならもっと簡単に引っ張れるので。

 

「ただ、もっと情報は仕入れてからだ。迂闊に返事を出して、厄介話を持ち込まれたら困るからな」

「そこはお任せします」

 

 村長の仕事だからね。最終決定権は一任ですよ。

 まあ十中八九、結婚は決まりでしょう。しない理由がほぼほぼない。

 向こうの村だって、村同士の争いになるようなことはしたくないはず。

 特に、うちの村は周辺の村の中では畑も大きく、収穫量も多い。いざを考えれば機嫌を損ねたくないでしょう。

 

 なので、まあ地雷の可能性はあるけれど、核爆弾ってことはないはず。

 可能性が一番高いのは、事故で両親を失った孤児(みなしご)。次点で流れの子供を拾ったってところだと推測します。

 後者だとちょっと困るかも。でも、村の一員として差し出されるぐらいなので、昨日今日加わったわけではないはず。

 

 なにはともあれ、祝いましょう! 祝、結婚内定!

 この世界で女性の独り身がどれほど肩身が狭いことか。

 次代は宝です。そのためには番いましょう。死ぬほど圧を受けてきた十年間でした。

 ついにその重圧から解放されるのです。

 

「……ん? お父さん、今日って行商が来る予定ってありましたっけ?」

「いや、定期行商の日ではないはずだ」

「いえ、馬の走る音が聞こえたような……」

 

 気のせい? いや、気のせいではなさそう。

 蹄の音が響いている。近い?

 家の中でも聞こえるってことは、そんなに距離はないはず。

 

 お父さんと顔を合わせて、二人で一緒に家の外に出る。

 村の人たちも、何事かと外に出てきていた。中には、敵襲かと農具を構えている人もいる。

 

 馬に乗ってやってきたのは、一人の青年。

 騎士様だろうか。身分の高そうな金属鎧を身にまとって、顔は随分な……随分な?

 なんか、見覚えがあるような……。

 

 騎士様はおじさんたちの近くまでくると、馬から降りて、そっと馬の首筋を撫でた。

 馬が軽く嘶く。

 

「……久しぶり、だな。十年ぶりか」

「――ひょっとして、ダイナ君?」

 

 静かに頷かれる。

 うそ、うそ、うそ!

 十年間ですっかり身長抜かされてる……。いや、おじさんが早熟なだけだったけれども。

 

 いや、待って。立派になったらって、立派になりすぎじゃない?

 十年前はあんなに素朴な少年だったのに。こんなに精悍な青年に成長してるだなんて。

 

「凄い、凄い凄い! 立派になったねぇ!」

「ああ。苦労はしたが」

「だろうねぇ。うん、わかるよ! 見た目で分かる!」

 

 きっと、様々な苦難を乗り越えたんだと思う。

 騎士の人に弟子入りするって言ってたっけ? てことは、ダイナ君も騎士として認められたってこと?

 でないと、こんな立派な金属鎧を身に付けられないよねぇ。

 冒険者はもうちょい皮鎧とか質素な鎧のイメージがあるから。

 

「――ああ。本当に、十年間。この日を待ちわびていた」

「――そうだね。お帰り。ダイナ君」

 

 良かった。心の底からそう思う。

 十年前のあの事件が、ダイナ君にとって苦痛になっていて、この村に二度と来たくないとか、そういうのになっていなくて。

 こうして、笑顔で再会できるぐらい、健やかに成長してくれていて。

 本当に、良かった。

 

「その」

「ん?」

「綺麗に、なったな」

「あはは、ありがとう」

 

 お世辞も言えるようになっちゃって。会話も難しかったことを考えれば、すごい進歩を感じる。良かった、本当に。

 あ、良かったといえば、これは報告しないとだよね。

 

「そうだ、ダイナ君! 聞いてほしいことがあるんだ!」

「ん、なんだ?」

「私、ようやく結婚できることになったんだ!」

 

 だから、十年前の事はもう気にしなくていいんだよ。

 そんな思いを込めて、喜びを込めて言葉を発する。

 

「―――――――は?」

 

 そんなおじさんとは対照的に。

 ダイナ君は、先ほどまでのにこやかな表情どこへやら。

 険しい表情で、身に着けている金属鎧のように固まってしまった。

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