TS転生した元おじさん一般村娘。将来結婚相手になるだろうからと優しく接していた幼馴染が村を出た。そして十年後、立派になりすぎて帰ってきた。   作:パンデュ郞

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第26話

「……で、だ。あいつとはどういう関係だ?」

「はえ?」

 

 殿下が建物から出て早々、ダイナ君に詰められております。

 先ほどは遠巻きに見ていた冒険者の方々も、なんか近くに寄ってきてる?

 好奇の視線。完全に見世物ですねこれは。

 

「はえ? じゃなくてだな」

「えーと、多分お気に入りのペットか何か?」

 

 場が騒めいた。

 おじさんも何気なく言ったけれど、少し語弊を生みそうだなって後から気が付きました。はい。

 ダイナ君、表情が怖いよ。

 

「……少し待っていろ」

「待った。誤解だから」

 

 無造作に歩き出したダイナ君の服を掴んで引き留める。

 

「安心しろ。証拠は残さん」

「違うの! 私、私が悪かったから落ち着いて!」

 

 周りの人たちもいいぞだとか、やっちまえだとかはやし立てないで!

 誰か一緒になってダイナ君を引き留めて!

 失言したのは謝るから!

 

 違うんだって!

 可愛い小動物眺めてるようなものだって言いたかったの! おじさんは!

 

「はっはっは。随分と愉快なお客さんだな」

 

 から竹を割る様にさっぱりとした、よく通る声だった。

 

「支部長か」

「おう、ダイナ。帰ってきてすぐにやんちゃしてるな」

 

 天の助けか、止めに来てくれそうな人が来てくれた。

 支部長さん。この冒険者酒場の責任者ってことなのかな?

 随分渋めのおじさんだ。なんだかダンギさんを思い出す。

 

 体つきの良さとか。筋肉の付き具合とか。

 ただ、左目に傷跡が残っていて、おそらくもう見えてなさそうだ。

 瞼は開いているものの、眼球が動いていない。

 

「お前が女のためにそこまでムキになるなんて珍しいな。棒に振った女の方が多いだろ? お前は」

「……あれは勝手に向こうが近づいてきただけだ」

「そりゃものの見方次第だろうよ。なぁ、お嬢さん」

 

 この人が出てきたら、なんだか周囲の空気が少し引き締まった? いや安定した感じがする。

 もう大丈夫か、そういう安心感が漂っている。

 信頼されている人なんだね。

 

「そうなの? ダイナ君」

「違う。そういう連中じゃない」

「はははっ! こりゃめでたい。あのボンクラがこんな面するとはな」

 

 ううん。こういう話になると困る。

 好意を向けられてもそれに応じる方法がないんだよなぁ。

 また別の話題に逸らして事なきを得ようか。

 

「支部長さん? はダイナ君の事をよくご存じなんですか?」

「うん? まあな。長いことこの酒場の管理人やってるが、こいつほど向こう見ずな奴は見たことがねぇ」

 

 言いながら、乱暴にダイナ君の頭を撫でる。

 髪の毛をぐしゃぐしゃにされて、ダイナ君も軽く抵抗するが、それでも軽くだ。

 

「俺の名前はヒビギット。嬢ちゃんは?」

「カメリアです。ヒビギットさん」

 

 挨拶を返すと、それだけで快活に笑い返してくれる。

 気持ちのいいぐらい素直な反応だ。

 

「よろしくな、カメリア。冒険者酒場へようこそ」

 

 まずは握手だと言わんばかりに、おもむろに手を差し出される。

 当然、おじさんは笑顔でそれに応じる。

 

「はい。よろしくお願いします」

「……驚いた。並みの女性はまずビビるんだけどな」

「あはは……。冒険者にはそういう方もいるって、聞いてましたから」

 

 前世ではもっと顔の怖い人とお付き合いしたことがあるから、だなんて言えない。

 なのでそれっぽい嘘を吐く。

 顔が怖くても性格がいい人はいっぱいいるからね。

 人を顔だけで判断してはいけない。身だしなみならともかく。

 

 そういう観点で言うと、ヒビギットさんは顔こそ傷があるけれど、服装はしっかりと整えられている。

 布もしっかりとしたものに見えるし、管理者として見栄えを意識していることも伝わる。

 多分だけど、結構几帳面な人だ。

 

「そうか。まあ、ダイナの知り合いならダンギの事も知ってるか」

「そうですね。同じ村の仲間なら家族のようなものですから」

 

 暗にそういう関係ではないですと伝えながら。

 それでも伝わってない外野からは野次が飛んでいるけれども。

 あっ、ダイナ君が襲い掛かりに行った。本気じゃなくてじゃれ合うぐらいに見えるから放っておこうかな。

 なんだか楽しそうだし。

 

「あっ、こらダイナ。……ったく、いつまで経っても子供だな」

「まだ十六なんですから、そのぐらいでいいんですよ」

「俺からすりゃもう十六なんだけどな……。同い年とは思えねぇ差だ」

 

 うん? 同い年って言ったっけ?

 

「ダイナが以前から話題に出してたんだよ、あんたの事は」

「そうだったんですね」

「ああ。あいつがあれだけ心酔するって、どんな化け物みたいな女なんだって盛り上がってたぐらいだ。実際に見てみたらえらいべっぴんさんだったから余計に驚いちまった」

「あはは……」

 

 褒められてるんだけれど、喜ぶべきか怒るべきか。

 まあ、ダイナ君大分やんちゃしてたみたいだし、そんなダイナ君が話題に出してたならそっちにイメージが引きずられるよね。

 

「どんな話をしてたんです?」

「んー? 命がけで助けてもらった恩義があるんだと。で、恩を返すために強くなるってずっと言ってたぜ」

 

 ……それは知ってる話だ。ここでも、ずっと同じことを言ってたんだね。

 本当にとらえ続けてしまってるんだなぁ。

 どうにかして開放してあげられればいいんだけれど。

 いい案が思い浮かばない。ううむ。

 

「……その様子じゃ、あんまり喜ばしい話でもなさそうだな」

「んー。私としてはあまり過去に固執せず、ダイナ君の人生を選んでほしいんですよね」

 

 あの時のミスは若さの過ちだと割り切って。

 おじさんは許しているわけだし。運がよかったから後遺症も殆どない。

 時々傷跡が痛んだり、雨の日に軽くしびれたりするぐらい。

 

 そんなに十年間も思い続けるほど、大事にはなってないんだよ。本当は。

 二人とも生きているんだから。

 

「――俺は細かいことは知らねぇが、それはちっと酷いんじゃねぇか?」

「え?」

 

 酷い? おじさんが?

 

「男が女のために、人生かけたんだ。なら、せめてそれ自体は認めてやるべきなんじゃねぇか?」

「……そう、ですね」

「ああ。嬢ちゃんの気が乗らねぇってのなら、後回しにしたっていいさ。でもよ、あいつの決意自体すら否定するのは、嬢ちゃんの権利じゃねぇだろ」

 

 それは、そうだ。

 その通りだ。

 ダイナ君が選んだことならば、おじさんが否定するのは筋違い。

 

 じゃあ、この気持ちはただのおじさんの我儘なのかな?

 割り切ってしまった方がよいのだろうか。

 わからない。

 

「……そんなに気にいらねぇなら、振ってしまえばいい」

「それは、そうですけど」

 

 でも、その時になったら。

 もう、同じような関係には戻れないだろう。

 

 だから恋愛関係は苦手なのだ。

 一度のことで、何かの拍子に、これまで築き上げた関係性が全て失われてしまう。

 おじさんはそのままでいられれば、それでよかったのに。

 

「……ま、これは地獄見てぇな自傷行為繰り返してたガキを見続けてた俺の我儘さ」

「自傷行為……」

「ああ。いくら自分を追い詰めたって、罪滅ぼしにもならねぇのに。地獄を自分から味わい続けてたんだ。少しぐらい肩を持ちたくはなるさ」

 

 よって、これは公平な意見ではないから忘れてもいいと。

 そう、付け足してくれた。

 

 ダイナ君の方を見る。

 今は楽し気に笑いながら、他の常連と思われる冒険者の方々とじゃれ合ってるけれど、その前はどれだけ暗い日々を送っていたんだろうか。

 わからない。おじさんは何も知らない。

 

 少なくとも、この人にこう言わせるだけの頑張りがあって、その頑張りが報われないのも、おじさん的には嫌だ。

 なら、おじさんはダイナ君の思いに応えればいいのかな? どうやって? やり方もわからないのに。

 

「嬢ちゃんたちはまだ若いんだ。このことはじっくり考えればいいさ」

「でも、もう十六ですよ?」

「村じゃ多くの子供を産まなきゃだろうが、町ならもうちっと生む人数も少なくなるだろう。少しぐらい時間かけたって、神様は怒らねぇだろうよ」

 

 そうなんだ。

 確かに、村では働き手を増やす目的で子供はたくさん産むものだけれども。

 ……そういえばうちの村はおじさんたちの周りの世代だけ少なかったなぁ。もうちょい上はなんだかんだ結婚してて、下はまだまだ子供ぐらいな感じだった。

 

「嬢ちゃんがあいつの思いにどう応えようが、あいつも覚悟はしてるだろうさ」

「……そう、ですかね」

「ああ。少なくとも、あいつからその話題を振ってきた時には、な」

 

 ひょっとしたら、ダイナ君はおじさんがまだその話を受け入れる準備ができてないと見抜いてくれているのだろうか。

 わからない。わからないけれど、ここは甘えさせてもらおう。

 いつか、自分が納得できる答えを出せる日まで。

 

 今のうちは、保留にさせてほしい。

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