TS転生した元おじさん一般村娘。将来結婚相手になるだろうからと優しく接していた幼馴染が村を出た。そして十年後、立派になりすぎて帰ってきた。   作:パンデュ郞

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第3話

 あれぇ? おじさんが何か変な事言ったっけな?

 結婚の話は昔にしてたはずだし(聞いてたかはわからないけれど)、村娘として十年前の時期から探そうって話もしてたはず(聞いてたかはわからないけれど)。

 

「おーい? ダイナ君? ダイナくーん?」

 

 顔の前で手のひらをひらひらと振ってみる。

 反応がない、まるで石像のようだ。駄目みたいですね。

 

 とりあえず、集まってもらった村人の方々には大丈夫と伝えて解散してもらおう。

 みんな、何事かと焦ってたみたいだから。

 逆に、なんだダイナか。って感じで安心してさっていった。

 ……この変わりようには無頓着なんだね。びっくりだよ。

 

 いや、なんだかんだちらちら様子は見てる。心配はしてたのかな?

 だとすれば……やっぱり私はこの村が好きだ。

 なんとしても、今回の結婚話は成立させなければ。

 

 それよりも目の前のダイナ君を何とかしないと。

 おーい。おおーい。生き返ってー。

 

「はっ!?」

「わぁ! びっくりした」

 

 急に動き出した。再起動完了? ロボットになって帰ってきたの?

 それはちょっと嫌だなぁ。

 

「結婚ってどういうことだ!」

「わあ」

 

 急に肩を掴まれて。いや手のひらおおき、力つよ。

 男の子って感じだなぁ。いやぁ、立派に成長してくれて嬉しいよおじさんは。

 送り出した選択肢は間違いじゃなかったんだね……。

 

「そりゃ、おじさんは村長の娘として、村の跡継ぎを産むのが役目ですので……」

「それは、そうかもしれないが。だが、いや、どいつとだ?」

 

 なんか怖いよダイナ君。貴重な結婚相手を目で射殺す気ですかい?

 それはやめてね。十年探して見つけた貴重な候補なので。

 

「まあまあ、そんなことより私はダイナ君の旅話が聞きた――」

「そんなことじゃない!」

「――はい」

 

 盛大に怒られました。

 えぇー。おじさんの結婚話にそんな興味あるのぉ?

 十年前はあれだけアプローチしても鳴かず飛ばずだったのに。

 まあ、思春期過ぎたもんね。恋バナにも興味がある年代かぁ。

 前世のおじさんはどうだったろう。あんまり恋愛にうつつを抜かしている余裕がなかった気がするなぁ。

 

「でも、実際まだかく――」

「どこの! どいつが!」

 

 ――ちょ、ちょっと怖いかも。

 おじさんの肩を掴んでいる手にも力が入ってきて、痛いし。

 ここはさっさと聞かれたことに答えて話してもらいましょう。

 

「い、今のところはサンダクの村の――」

「おいゴラァ! どの面下げて戻ってきやがったてめぇ!」

 

 なんか今日はよく言葉が遮られる日だなぁ。なんて思いまして。

 飛んで来たのは抜き身の包丁。ぎょっとしましたよ。

 それを横目で見ただけで難なくキャッチしたダイナ君もダイナ君ですよ。

 

「……親父」

「おう、馬鹿息子。随分と似つかわしくねぇ恰好してんじゃねぇか」

 

 包丁が飛んできた方向を見ると、そこにはダイナ君のお父さん――ダンギさんが鬼の形相で立っていた。

 

 ひぇっ。滅茶苦茶怒ってる。

 さっきの包丁も、ダイナ君がキャッチできていたから良かったものの、キャッチできてなかったら大事故ですよ。

 

「親父、こいつが結婚ってのは――」

「てめぇがひと様の結婚に口出しできる立場だと思ってやがんのか!!!」

 

 ダンギさんが怒声を発するたびに、空気が激しく震える。地面すら揺れている気がするほどの迫力に、思わずおじさんは一歩だけ後ずさってしまった。

 前世のパワハラ上司でもここまで怖くはなかったよ……。

 

「何も知らねぇ、責任も取らずに出て行った阿呆が。今更何様のつもりだ? 魔法銀の鎧でお貴族様気分か? ああ?」

「…………」

「言い返す言葉もないってか? そうだろうな。なにせてめぇは、お嬢さんを傷物にして置き去りにした最低野郎なんだからなあ!!!」

 

 駄目だ。このままだと二人の間に致命的な亀裂が入っちゃいそう。

 ここは、おじさんが仲裁しないと。

 

「ダンギさん。私はいいので」

「いいはずないでしょうが!」

「ひぃ!」

 

 声が大きい! 声が大きいですダンギさん。

 おじさんはそんな気が強くないので、たじたじですよ。

 

「誰のせいで十年間も必死に結婚相手探す羽目になったと思ってるんですか? 誰のせいで、村のためだからって近隣の村との交流を必死に広げる羽目になったと思ってるんですか? お嬢さんの苦労の何もかもが、この馬鹿のせいなのはわかってるでしょう!!!」

 

 ……それは、否定できない。

 でも、おじさんがあの時ついて行かなければよかった話でもあるのだから、ダイナ君だけに背負わせるのは違うと思って。

 そう、おじさんが悪いんだ。おじさんが悪いから、ダイナ君は悪くない。

 反論しようと、一歩前に出ようとして――ダイナ君が私とダンギさんの間に割って入ってきた。

 

「ああ、そうだ。俺のせいだ。だから、戻ってきた」

「――っ! ああ、そこまでの馬鹿だとは思ってなかった」

 

 ダンギさんはそう言い切ると、腰につけていた剣――随分と年代物に見える――を抜き放った。

 

「腰につけてる剣を抜け。その長く伸びた鼻っ柱、叩き折ってやる」

「上等だ。十年前の俺と同じだと思うなよ、親父」

 

 挑発に乗るように、ダイナ君も剣を抜く。

 し、真剣でやるの? 怪我したら危ないよ。

 かといって、この雰囲気の二人を止められるだけの度量はおじさんにはない。

 あわあわとその場でうろたえるばかり。本当に情けない。

 

 村長なんだから何とかして! という思いでお父さんへ視線を向ける。

 視線を逸らされた。もう駄目だ! 終わりだ!

 

「行くぞ!」

「おう、かかってこい!」

 

 おじさんの目には、ただただ激しく打ち合う二人の姿が見える。

 剣閃なんて見えやしない。一瞬一瞬、刃が交わった瞬間だけが、おじさんに分かる限界だ。

 そんなおじさんでも分かるのは、この二人の戦いのレベルはきっと素晴らしく高いのだろうと。

 

 お互い本気に見えるのに、お互いに怪我をしていない。

 一瞬たりとも動きが止まらないのに、一瞬たりとも互いから目を放していない。

 刃が交わる金属音が鳴り響く度、大気が震える。

 彼らが大地を踏みしめるたびに、足元に振動が伝わってくる。

 

 これは本当はじゃれ合いなんだよね? 殺し合いに発展はしないんだよね?

 そう錯覚させられるぐらいに、迫力が凄い。

 

「少しはやるようになったじゃないか!」

「親父は逆に衰えたんじゃないか? 年には勝てねぇか!」

「馬鹿言いやがれ!」

 

 あっ、やっぱり楽しそう……?

 良かった、本格的な殺し合いにはならなさそう。

 

「本当に見っともねぇなぁ! 男の風上にも置けねぇ!」

「うるせぇ!」

「黙れヘタレ! そもそも事前に伝えてりゃ終わる話だっただろうが!」

 

 ……うん。喧嘩するほど仲がいいってことで。

 

「トンビに油揚げかっさらわれてざまぁみろってんだ!」

「やかましい! 元はと言えばあんたがなぁ!」

「自分の口から伝えられねぇ阿呆に価値はねぇ!」

 

 ……もうそろそろ、おじさんどこか行ってもいいかな?

 駄目そうかなー。怒られそうだなー。

 さっき少し足動かしたらダイナ君がすぐにこっちに視線向けてきたし。

 

 黙って見守るかぁ。

 そう思って、しばらくの時間が経ちました。

 二人が力尽きたのがほぼ同時で、その場でバタリと大の字に倒れたのです。

 

「はぁ、はぁ、はぁ。クソ親父が」

「はぁ、はぁ、はぁ。クソ息子が」

「お二人ともお疲れ様です。はい、お水ですよ」

 

 そろそろ終わるかなーぐらいで、お父さんに水をコップに入れてきてもらってきた。

 二人は上体を起こして、水を一気に飲み干した。

 

「落ち着きました?」

「ああ。……すまなかった、取り乱した」

 

 ダイナ君は落ち着きを取り戻してくれたみたい。

 ダンギさんはこれを見越して……?

 視線を向けたらウインクしてくれた。会釈で返します。

 

「……結婚、するんだな」

「ええ、はい。それが、村のためなので」

「――――――わかった」

 

 随分と飲み込むのに時間がかかったご様子で。

 そんなにおじさんの結婚が意外ですか? 心外ですよ。

 ほら、見てください。見た目には自信があります。

 なのに十年間結婚出来てなかっただろって? ははは、泣きますよ。

 

 ダイナ君はまるでこの世の終わりみたいな顔して空を見上げています。

 本当にどうしてしまったんでしょうかこの子は。

 十年と言う歳月はあまりにも長く、人を変えてしまったのかもしれません。

 

「せめて、誰と結婚するのかだけ、教えてくれないか?」

「えーと、名前までは聞いてないんですけれど、サンダク村所属の十四歳の子だそうです」

「……そう、か」

 

 本当の本当にお葬式みたいな顔ですが。

 だ、大丈夫? ダイナ君? 生きてる?

 

「結婚の誓いは、いつやるんだ。せめて、そのぐらいは呼んでくれるよな?」

「あっ、それなんですが」

「なんだ? それすらも許されないのか?」

 

 随分と卑屈になってしまわれてる。

 同じ村出身のよしみ、誓いの日には呼びますとも。もちろん。

 だからそんなに卑屈にならないで~。

 というか、それ以前の話なんですが。

 

「まだ結婚してもいいって相手が見つかったってだけで。結婚は確定じゃないんですよ」

 

 だから、結婚できることになった。って伝え方をしたんだけれど。

 できれば、結婚するんだ。って報告をしたかった。確定してないからできなかったけれど。

 

 あれ、ダイナ君の表情が……ダイナ君? ダイナくーん。

 しばらくの沈黙の後、ダイナ君はばたりと倒れて空を見上げてしまった。

 

「――勘弁してくれよ」

 

 ぽつりと呟かれた言葉は、あまりにも切実で。

 おじさん、なんか変な事言いました? これ、おじさんが悪い感じですか?

 ダンギさんは、終始いい笑顔でした。

 

「ざまぁみろクズ息子が」

 

 なんてことを言うんでしょうこの人は。

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