TS転生した元おじさん一般村娘。将来結婚相手になるだろうからと優しく接していた幼馴染が村を出た。そして十年後、立派になりすぎて帰ってきた。   作:パンデュ郞

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第30話

「……そろそろいいかしら? お二方?」

「ぎゅぴ!」

 

 唐突に後ろから話しかけられて、変な声が出た。

 急いで振り返ると、そこには少しばかり呆れた表情をしたアルカナ様が立っていた。

 い、いったいいつから……。

 

「まあ、何にしても丸く収まったようで良かったわ」

「は、はひ……」

 

 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。

 すっごい恥ずかしいところ見られてた!

 今顔真っ赤になってる自覚ある。本当に年甲斐もなく青春みたいな真似してた。

 いや、十六歳ですけど! 十六歳でもおじさんはおじさんなんですよ!

 

「そっちで倒れてたのは運んでおいたわよ」

「ああ、助かる」

「『ああ、助かる』。じゃないわよこのスカタン!」

 

 スパァン! と非常にいい音を鳴らしてダイナ君が叩かれた。

 アルカナ様が直接暴力を振るっている場面を始めてみた。

 

「ああ、もう最悪な気分だわ。主役は顔見せの途中で抜け出すし、アルカナ様を舐めた輩は出てくるし……」

「すまない。迷惑をかける」

「……やたらと素直になったわね、あんたも」

 

 素直なダイナ君を気味悪がるアルカナ様。

 それだけで、どれだけダイナ君がコミュニケーション不足だったのかがよくわかる。

 

「今回の件で学んだ」

「何を学んだのよ」

「俺はおそらく、考えていることを素直に吐きだした方が上手くいくんじゃないかと」

 

 ……うーん。これにはおじさんも苦笑い。

 ダイナ君、いつも口数足りないもんね。

 ひょっとしてこっちに来てからもずっとあの調子だったり?

 それだとしたら、うん、今後一緒に頑張ろうね。

 

「それで、お前もこっちに来て大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃないわよ。何とかあの馬鹿王子に場を繋げさせているけれど」

「なら、もう戻ります?」

「二人して、その顔で?」

 

 うっ。意識してなかったけれど、さっきまでおじさん泣いてたから、目元が少しばかり……。

 ダイナ君はというと、泣いてはいなかったものの、明らかに表情が穏やかになってる。

 普段の仏頂面を見慣れていると天と地ほどの差もあるかも。

 

「はぁ。ダイナは先に戻りなさい。あの馬鹿王子が上手くやってくれるでしょう」

「わかった」

「カメリアは私についてきなさい。まずはお色直しからよ」

「はい」

 

 ダイナ君は少しだけ名残惜しそうにこちらを向くと、納得したように戻っていった。

 もう十分離れて、姿が見えなくなってから、アルカナ様がこちらを向いて口を開いた。

 

「――さて。移動しながら結果だけ教えてもらえる?」

 

 表情からは、おおよそ察してそうな感じもするけれど。

 ここはしっかり、おじさんの口から説明するのが筋だろう。

 ……随分と心配してくれていたみたいだし。

 

 移動しながら、軽く歓談の形で説明をする。

 おじさんが抜け出した後に何があったのか。

 子爵に乱暴されかかった時に、ダイナ君に助けてもらえたこと。

 そして、ダイナ君の告白を断ったこと。

 

 全てをゆっくり話し終えるまで、アルカナ様は相槌を打ちながら静かに聞いてくれた。

 

「……ま、なる様になるでしょう」

「です、かね。ちょっと今後気まずいかも」

「大丈夫よ。あの馬鹿の清々しい表情見たでしょう」

「あはは……」

 

 確かに。あそこまですっきりとした表情のダイナ君は初めて見たかもしれない。

 思えば、彼も自分の中に貯め込む子だったなぁ。

 今回の一件で、色々と話すようになればいいんだけれど。

 なんて、人の事を考えてる場合じゃないか。

 

「何にしても、無事でよかったわ」

「はい。おじさんもびっくりしました」

「偏に私の落ち度よ。まさか、このアルカナ様の客人に無礼を働く愚か者がいるとはね……っ」

 

 にじみ出てくる怒気がすさまじい。

 アルカナ様が運んだって言ってたけれど、無事で済むのかなあの子爵。

 

「でも、表立っては何もできないですよね?」

「そうね。あなたの立場が微妙だもの。使用人に多少の暴力を振るったとして、貴族を強く罰するのは難しいでしょうね」

 

 まあ、それを何とかするだけの暴力は持ち合わせているのだけれど。

 なんて嘯くので、止めてくださいと止めることとなった。

 今のおじさんにそこまでしてもらうことはできない。

 

 あまりそれこそ、中央との対立が云々って問題があるのに。

 アルカナ様が中央の貴族と喧嘩しようものなら余計に亀裂が広がってしまう。

 

「第二王子も何を思ってあそこまでの無能を使者にしようと思ったのか、見当も使わないわね」

「あるいは、第二王子の思惑ではなかったり?」

 

 なんて、あはは……と冗談を言ってみたつもりだったのだけれど。

 おじさんの言葉を聞いて、アルカナ様の足がぴたりと止まる。

 

「可能性、いえ、あり得るわね。利益、十分出る。それを加味して動かせる手ごま? 第二王子側の利点は……」

 

 ぶつぶつと呟いて、急速に頭を回転させているのが分かる。

 言葉をかけるのも憚れるほど集中しているようだけれど、その集中は瞬時に弾けた。

 

「ごめんなさい。これは後で考えるべきことね」

「いえ。そんなに気になることでもあったんですか?」

「……ええ。少し、ね」

 

 アルカナ様の表情はどこか深刻そうだ。

 何に気がついてしまわれたのだろう。

 聞く、のは怖い。実際に聞ける雰囲気ではない。

 そのうち、話すべき時が来たら話してくれるだろう。

 

「そういえば、あの子爵はどうなったんですか?」

 

 話題を逸らそう。

 なんか最近話題逸らしばっかりしている気がするけれど。

 気のせいだと思いたい。

 

「ん? 使用人たちに運ばせて、今も部屋で気絶してるんじゃないかしら」

「……死んだりしてませんよね?」

「しないしない。流石にそこら辺の手加減を間違えるほど弱くはないわよ」

 

 ほっ、と一息。

 貴族殺しは流石にまずいよね。

 

「まあ、このアルカナ様のところで無礼を働いたわけだから、後でなんかしらのペナルティは科すけれどね」

「あはは……命まではとらないであげてくださいね?」

「流石にそこまではしないわよ。無駄に中央との関係を悪くしたくないもの」

 

 いえ、むしろ殺したらよくなるまであるかもしれないわね。

 だなんて軽口を叩いてくれる程度にはアルカナ様の表情は穏やかになった。

 良かった。さっきの表情は、あまりに殺気立っていたから。

 

「せいぜい幾らか罰金を払わせるぐらいね。カメリアは幾らぐらい欲しい?」

「ええっ! 私に聞くんですか!?」

 

 クスクスと笑われる。

 良かった。すっかり雰囲気も落ち着いている。

 冗談を言うぐらい余裕があるならよかった。

 アルカナ様、怒ると本当に怖いんだから。

 

「……それで、これからどうするんですか?」

「ん? あなたを部屋まで連れていったら、私もまた一回戻るわよ。とはいっても、締めの宣言をするぐらいだけれどね」

 

 そっか。あの宴自体はアルカナ様が主催だから、始まりも終わりもアルカナ様がやらないとなんだ。

 じゃあ、おじさんは部屋でじっとしていればいいだけ、なのかな?

 また行って何かしなければならなかったりするのかな?

 

「……心配しなくても、あなたは部屋でじっとしていてもいいわよ。もちろん、来たいなら本当にお色直しさせるけれど?」

「いやあ、私はやっぱりああいう場は少し苦手です」

「でしょうね。あなたは目立つのがあまり好きではないようだから」

 

 んん? おじさん目立ってた?

 目立ってたのかなぁ。隅っこでジュース飲んでただけだよ?

 

 ピンと来てない、という感じで少し考えていたら、またアルカナ様に笑われた。

 よっぽど変な顔をしていたらしい。

 

「その方があなたらしいわよ」

「褒めてくださってますか?」

「ええ、もちろん」

 

 なら、良かった。

 変な顔をしてるのがそれっぽいと言われたから、普段からそんなに変顔してたのかと勘違いしてるところだった。

 褒めてるってことは、多分違う、違うよね?

 

「……それにしても、面倒ごとばかりねぇ」

「そうですねぇ」

「これ以上の面倒ごとは勘弁願いたいものだけれど……あっ」

 

 そう言いながら、アルカナ様がこちらを見て固まった。

 足を止めたので、合わせておじさんも足を止める。

 ん? 何か変なところでも見つかったのだろうか。

 

「ねぇ、カメリア」

「はい」

「あなた……首飾りはどうしたの?」

「え」

 

 言われて、すぐさま首元に手を回す。

 ない、ない。お母さんの形見を吊るしている、あの首飾りが。

 顔から血の気が引いていくのを感じる。

 

 多分、あの時だ。

 首飾りを掴まれて、それで、ダイナ君が吹っ飛ばしたから。

 あそこに落ちているか。それとも、あの人が握ったままか……。

 

「あ、あの、アルカナ様っ」

「いい。落ち着きなさい。カメリア」

 

 ぐっと両肩を掴まれて、目を覗き込まれる。

 蜂蜜を流して固めたような黄金色の瞳は、強くおじさんを制止する。

 

「状況は何となくわかったわ。捜索はこちらでやる。見つからなかったら、子爵の方を当たる。それでいいわね?」

「は、はい」

「あなたが動いて、下手に拾った人間が出てきた時が問題よ。あなたとしては気が休まらないでしょうが、一旦、こちらに預けて頂戴」

 

 呼吸が浅くなるほど、焦っているのを自覚する。

 大丈夫。きっと、大丈夫だから。

 見つかると信じて。

 おじさんは、ゆっくりとアルカナ様の提案に頷いた。

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