TS転生した元おじさん一般村娘。将来結婚相手になるだろうからと優しく接していた幼馴染が村を出た。そして十年後、立派になりすぎて帰ってきた。   作:パンデュ郞

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第33話

 叙勲式の雰囲気は実に厳かだ。

 参列している貴族たちが横並びになり、通路を作っている中を、ダイナ君が歩いていく。

 そして、アルカナ様と第一王子殿下から騎士の位を改めて授かる――これが本来の叙勲式の流れになる。

 

 当然、参列している貴族の方々はそのつもりでいた。

 だからこそ、予定と違うことが起こり、騒めきが走る。

 

 アルカナ様と第一王子殿下が現れたのはいい。

 ただ、その二人に挟まれる形で、顔をヴェールで隠した誰かが一緒に出てきたのだから、気が気でないだろう。

 

 ……はい、気が気でないのはおじさんの方です。

 確かにやるって決めた以上、こうなるのはわかってました。わかってましたよ?

 でも、冷静に考えてみれば凄いことしてますよねこれ。

 とんでもない状況ですよいや本当に。

 

 このヴェールは昔アルカナ様が使ってたものを借り受けて、服装もそのままアルカナ様のお古を使っているわけで。

 参列している貴族の一部は、何事かと思ってるみたいです。

 

 緊張してきた。全てはおじさんがどれだけハッタリを利かせられるかにかかっている。

 場慣れしている王子殿下とアルカナ様は毛ほども表情に出しはしない。流石だなぁ。

 最初は顔を隠すためにヴェールを借りて正解だった。

 今、欠片も威厳がない顔してる自信あるもの。

 

「騎士、ダイナの入場です!」

 

 ――さあ、意識を切り替えろ。

 ここからのミスは許されない。

 

 貴族たちの注目が一旦おじさんたちの方から、部屋の入口の方へと向けられる。

 そこには村で見た、魔法銀の鎧に身を包んだダイナ君の姿がある。

 何度見ても威厳を感じられる輝きを放っている鎧は、ただ者ではない風格を漂わせている。

 それどころか、本人も周囲を威圧するような雰囲気を醸し出しており、周囲の貴族も冷や汗をかいている様子が伺える。

 

 このダイナ君が周りを威圧しているのは、おじさんがお願いした結果だ。

 以前の彼ならともかく、今の彼がわざわざ周りを威圧する必要がないからね。

 

 おじさんが出したオーダーは、なるべく凄い人だと思われるようにしてほしい。

 結果、普段のダイナ君からは考えられないほどの圧を感じている。

 これが、特出戦力なのだと言わんばかりに。

 

 一歩一歩の歩みが重く、おじさんたちのところにたどり着く時には一体どれ程の時間が経ったのだろう。

 いや、そう錯覚させられただけ。

 そんな時間は経っていない。

 

 ゆっくりとおじさんの目の前までくると、ヴェール越しに視線が合う。

 そして、少し微笑むと、その場にすっと跪いた。

 場に、大きなどよめきが広がる。

 

「――はい。しっかりやりなさい」

「ありがとうございます」

 

 アルカナ様からおじさんの手へ、模造剣が渡される。

 ひそりと囁かれた激励に言葉に、少しだけ余裕が戻ってきた。

 

 アルカナ様の手から剣が離れる。ズシリと重い。これでも軽い方らしいけれど。右手、だけでは持てなさそう。

 両手で持ってもいいかな? まあ、大丈夫だと思う。

 問題があれば修正してくれるでしょう。

 

 そのまま、両手で剣を垂直にかざし、跪いているダイナ君の真正面に立ち直す。

 

 場内のどよめきが無視できないぐらいまで大きく広がっている。

 中には中止を求める声もあるけれど。アルカナ様も第一王子殿下も動かない。

 おじさんはまだ、決められた手順に従うだけだ。

 

「……汝は騎士、我が騎士。その誓いを、ここに」

「――我は騎士。汝が騎士。その誓いを、ここに」

 

 静かな宣誓文。短くも、厳かな雰囲気を漂わせている。

 

「汝、いかなる時も我に忠誠を誓い、我が剣と盾となることを望むか」

「我、いかなる時も汝に忠誠を誓い、汝が剣と盾となることを望む」

 

 剣をゆっくりと横に向け、ダイナ君の肩に剣の腹を置く。

 

「ここに忠誠を受け入れる」

「ここに忠誠を誓う」

 

 さあ、ここからだ。

 

「汝、何に誓う。何を以て騎士となる」

「我、我が宿業に誓う。――全てを汝に捧げると」

 

 手が震える。剣が重い。

 でも、やりきらないといけない。

 ここが、最も重要なところだから。

 

「では、汝に名を授ける。汝は――“宿業の騎士”。その誓いを振るい、我が宿命を果たすべし!」

「謹んで、拝命いたします。我が主」

 

 先ほどまであれほど騒いでいた場内が、しん――と静まり返った。

 目の前の光景を信じられないのだろうか。それもそのはず。

 だって、彼らは誓わずの騎士の叙勲式にやってきたのだから。

 

 静けさに、ぱちぱちと可愛げのある拍手音が響き渡る。

 

「アルカナ・エンビローグの名において。宿業の騎士の誕生を認める」

「エルビム・デア・グランディークの名において、宿業の騎士の誕生を認める」

 

 おじさんの両隣にいる二人が認めたことで、改変された叙勲式は終わりだ。

 ゆっくりと、ダイナ君の肩に当てていた剣を上げ直す。

 アルカナ様がお疲れ様と耳打ちしながら、剣を回収してくれる。

 結構辛かった。

 

 でも、息をついている暇はない。

 ここからが本番だ。

 

「――先日、我が騎士ダイナが誓いの証として、私に捧げてくれたものが紛失いたしました」

 

 この場の注目全てが、おじさんに集まっている。

 それもそのはずだ。彼らは誓わずの騎士の叙勲式に来たはずで、ダイナ君が誰か一人に誓いを捧げるだなんて予想もしていなかったはずだ。

 ――その間隙を突く。

 

「それは聖銀の指輪。私の母が愛用していた品で、一度は盗賊に奪われた品です。騎士ダイナが、奪い返してくれましたが」

 

 再び、場内にどよめきが帰ってくる。

 聖銀の指輪の価値はおじさんよりも貴族たちの方がよく知っているはずだ。

 だからこそ、より効果的な作り話になる。

 

「正直なところ、私は諦めていました。母が残した唯一の形見ですが、奪われてはしまっては仕方がない。――そんな諦観を打ち砕いてくれたのは、彼でした」

 

 予想外の行動が起きた彼らは、目の前の事を咀嚼するので精一杯なはずだ。

 だから、この真実に練り込まれた嘘に食らいつく。

 だって、一部からの視線があの子爵に注がれ始めているのだから。

 

「それが、先日再びこの城内にて紛失してしまったのです。おそらく、庭園の散歩中に落としてしまったのだと思いますが――どなたか、行方をご存じではないでしょうか?」

 

 心臓が口から飛び出そうなぐらい高鳴っている。

 これは、純粋な脅しだ。

 

 指輪は紛失した。庭園を探しても見つからなかったのはこの状況から明白。

 そして――紛失した人間は誓わずの騎士が忠誠を誓った謎の人物。

 一度は盗賊から取り戻したと言ったのは、もしも盗人がいるのなら――必ずや取り戻すという隠喩。

 

 ただのハッタリ? それもそう。

 だけれどおじさんの両隣にはハッタリを現実にできる両名がいる。

 第一王子殿下と、アルカナ様。この二人はダイナ君と大きく事を構えることを望んでいるわけではなく、しかしダイナ君と対抗できる戦力を保有している。

 その両名がおじさん側についているということは、貴族の彼らはダイナ君という脅威に対しての防波堤を持たないということだ。

 

 ああ、今になって理解できる。

 これが、力があるということ。何て理不尽なのだろう。

 権力に狂う人間がいるのもわかる。だって――あれだけ偉そうにしていた貴族たちが、どれほど怯えているのかが手に取るようにわかるのだから。

 

「おい、お前」

「いや、しかし」

「自慢していた奴がいたような……」

 

 徐々に、情報が出てき始める。

 あの子爵の性格的に、多分周りに手に入れたと自慢するだろうなと思ってましたよ。ええ。

 周囲の視線が彼に集まるのに合わせて、壇上のおじさんたちも彼へと視線を向ける。

 ――顔を真っ青にしている、あの子爵へと。

 

「い、いや、しかし、これは……」

「――もしも、それが私の無くした指輪であるならば」

 

 子爵へとヴェール越しに視線を向ける。

 彼はまるで生まれたばかりの小鹿のように、情けなく手足を震わせていた。

 

「内側にこう刻印があるはずです。――ヘルモニア、と。我が母の名前が」

 

 子爵の顔が真っ青になる。

 同時に誰かの声が上がった。

 

「お前! なんてことを!」

「盗んだのか! なんて恥知らずな!」

「ち、ちがっ。これは拾ったもので――」

 

 もう遅い。仲間内にだけ見せびらかしていたつもりなのだろうけれど。

 あなたの仲間は、誰一人としてダイナ君を敵に回したいとは思ってない。

 

 これがおじさんが考えた策。穏便に、指輪を取り戻すための。

 このまま見守って、周りから追い立てられるのを見ていても、指輪は戻ってくるだろう。

 でも、それじゃあ意味がない。

 

「――そうなのですか。拾ってくださったのですね」

 

 無邪気を装って、両手をパンと叩いて、壇上を降りる。

 そして、パタパタとわざとらしく足音を立てて、子爵の前へ行く。

 当然、静かにダイナ君もおじさんの斜め後ろについてくれている。

 

「ありがとうございます」

 

 そして、返してくれますよね? といわんばかりに両手を前に出す。

 

 おじさんは、我ながら性格が悪いと思う。こんなことを思いついてしまうのだから。

 子爵を悪者に仕立て上げてしまえば、それは王子様たちの思惑通りになってしまう。

 だから、そうはさせたくなかった。

 

 子爵を――指輪を拾ってくれた恩人に仕立て上げる。

 それも、身元は不明ながら――誓わずの騎士を従える主の恩人に。

 一体、誰が気安く罰することができようか? できるはずがない。

 無能な味方を処分したかった? なら、させてあげない。

 

「――あ、え。ああ、そうです。実は庭園を散策中に見つけまして。どうぞ、お納めください」

 

 言いながら、子爵は懐から指輪を取り出し、おじさんの手の上にそっと乗せる。

 おじさんは少しだけ子供っぽく、指輪をかざして眺める。

 指輪の内側には、しっかりとお母さんの名前が彫られていた。

 

「わあ、こちらで間違いありません! どうも、ありがとうございました」

「いえいえ! 誓わずの、いえ、宿業の騎士様の主様のお役に立てたのであれば光栄です」

 

 ――ダイナ君。小さく舌打ちしたの、おじさん聞こえてるからね。

 でも、ここまで面の皮が厚いと一周回って凄いと思う。

 おじさんが女性って分かって鼻の下伸ばしてるし。

 本当に自分の欲求に素直な人だ。一周回って可愛く見えてきたかもしれない。

 

 まあ、二度とこの顔は見たくないけれども。

 

「皆様、お騒がせいたしました。ありがとうございます、アルカナ様、エルビム様」

「いいのよ」

「無事に終わったのであれば何よりだ」

 

 お二人から声をかけてもらって、壇上へと戻る。

 ダイナ君が周囲に威圧感を放ってくれているおかげが、途中で声を掛けられるなんてことはなかった。

 

「では、これにて叙勲式は終了となります。この後、中庭にてささやかな催し物がございますので」

 

 おじさんはゆっくりと、ヴェールの隙間から顔が見えないように気を付けて。

 その場で習った貴族令嬢としての一礼をする。

 

「どうか、皆様そちらにてご歓談ください」

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