TS転生した元おじさん一般村娘。将来結婚相手になるだろうからと優しく接していた幼馴染が村を出た。そして十年後、立派になりすぎて帰ってきた。   作:パンデュ郞

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第35話

 中央からの使者一行が帰る日がやってきた。

 本来の意図とは違ったけれども。

 ダイナ君は忠誠を誓う主を見つけ、その主とは友好的な関係にある、ということが示せたからだ。

 

 おじさんは見送りには当然出席しない。

 ダイナ君もだ。

 アルカナ様だけが見送りに行っている。

 

「窮屈な日々もこれで終わりだな」

「あはは、そうだね」

 

 中央の人たちが城内をうろついている間は、おじさんは自由に部屋の外を出歩くことができなかった。

 それもそのはず。背丈や声。そして胸元に常に隠している聖銀の指輪から、叙勲式の謎の人物の正体だとバレてしまうからだ。

 

 アルカナ様は謝っていたけれど、その間はルピガナさんが甲斐甲斐しく世話をやいてくれていた。

 美少女と二人っきり、堪りませんね。なんて冗談……であってほしいことまで呟きながら。

 

 ダイナ君も寂しいとは言いながら、今日という日が来るまではなるべく接触を控えるようにしてくれていた。

 あの日から彼はすごい積極的になった。

 きっと、いい方向への変化、だと思う。

 おじさん的には……どうなんだろう。少しだけ困ってる面もあるけれど。

 気持ち的には、少しだけ嬉しい。

 

「ダイナ君の方はどうだったの?」

「鬱陶しい連中が来たら適当にあしらっていただけだ」

「……あんまり敵作ってないよね?」

「……流石に俺だって人を見ることぐらいはする」

 

 立ち居振る舞いから、できる人とできない人を見分けているらしい。

 できる人には可能な限り丁寧(ダイナ君比)な対応をして、そうでない人は軽くあしらう。

 なんというか、らしい形だ。

 

「人との繋がりが、役に立つこともあると、今回よく学んだ」

「そうなんだ」

「ああ。今回の件、俺だけではどうしようもなかったからな」

 

 アルカナ様と第一王子殿下――諸悪の根源も第一王子殿下側だけれど――が協力してくれたからこそ、穏便に指輪を取り戻すことができたのだ。

 おじさんとダイナ君だけでは、確かに難しかった。

 

「少しずつ、そうだな。人を知ることを頑張ってみようと思う」

「うん、うん。それはいいことだねぇ」

 

 十年前のダイナ君からは想像もできない言葉だ。

 よほど暴力だけでなんとかできないことに直面したのが悔しかったらしい。

 

 でも、相変わらず考えるのは苦手みたい。

 この間アルカナ様に言って軽く勉強見てもらったみたいだけれど、五分で投げ出して練武場に逃げ出してたとルピガナさんから聞いた。

 

 後日、あれは剣を振るう以外の才能ないわね。だなんて愚痴を言っていたらしい。

 あのアルカナ様が、才能がないと見捨てた。

 

「それに、俺が繋がりを作れば、お前のためにもなるだろう」

 

 俺は、お前の騎士だから。と。

 ダイナ君は誇らしそうに言う。

 

 騎士の誓いというのは、未だにピンと来ていないけれど。

 それでも、ダイナ君はきっと自分の命を懸けてでもおじさんを守ってくれるんだろうな、というのだけは分かる。

 おじさんにできるのは、その覚悟を受け入れることだけだ。

 自分勝手に利用して、用事が済んだら知らないことです。だなんて無責任な人にはなりたくない。

 

「おじさんも、ダイナ君の主として恥ずかしくない人にならないとねぇ」

「何を言っている」

 

 心底不本意だという声で、抗議の声が上がった。

 

「お前に恥ずかしいところなどない、そのままでいい」

「……あはは」

 

 ダイナ君は、こういう恥ずかしいセリフを恥ずかしげもなく言うようになってしまった。

 外で女の子引っかける悪い男の子になりそうだなぁ。だなんて。

 うん。真剣な声、真剣な顔で言われるものだから、素直に恥ずかしい。

 笑って誤魔化さないとやってられない。

 

「そのままだと、ただの村娘に仕えている凄い騎士様がいることになるねぇ」

「それでもいいじゃないか。平民出身の騎士に、平民の姫。お似合いだろう?」

「姫扱いは照れ臭いなぁ」

 

 まるで幼い子供のごっこ遊びのようだ。

 けれども、それが現実に起こっているわけで。

 お国の貴族たちも注目するぐらいの騒動になっている。

 ……考えたらなんだか恐ろしいね。

 

「何にしても、まずは身を立てる手段を考えなければな」

「そうだね。いつまでもアルカナ様のお世話になってるわけにはいかないもんね」

「……あいつは残念がるだろうがな」

 

 ダイナ君が言うには、この城の重役の多くはアルカナ様が引っ張ってきた人らしい。

 なんでも、現当主は政治に関して無頓着で、現場主義な人間なせいで苦労しているのだとか。

 第一王子殿下も似たようなことを言ってたような?

 

「しかし、俺はお前があんなに字が上手いだなんて知らなかったぞ」

「逆に、ダイナ君はどうしてあんなに字が汚いの?」

 

 まさか、ダイナ君が字をまともに書けないだなんて。

 びっくりした。小学生一年生よりも酷い文字だったもん。

 確かに戦ってばっかりなら必要なかったのかもしれないけれど。

 読めはするみたいだから、勉強してなかったわけじゃないんだよね?

 

「……苦手なものは仕方がないだろう。手が震えるんだ」

「あははは」

 

 仮に手紙を送ってもらったとしても、あの文字じゃあ読めなかっただろうなぁ。

 それに、ダイナ君自身も見せるのを相当渋ってたし、恥ずかしいという思いはあるみたい。

 ちょっとずつ練習していこうね。

 せめて自分の名前ぐらいはきちんと書けるようになろうね。

 

「村長のところではそんなに字を書いてたのか?」

「んー? いや、細かい作業は昔からしてるからさ。得意なんだよね」

 

 半分は本当。半分は嘘。

 前世で取った杵柄もあるし、右肩の影響でしばらく重労働できなかったから、軽作業がそのまま役目になったのもある。

 まあ、そんな裏事情は言わないけれど。

 

「アルカナも推奨していたが、代筆官という手もあるぞ」

「代筆官かぁ……」

 

 代筆官。文書を依頼者の代わりに執筆する役割だ。

 貴族からの人気が高く、給料も悪くないらしい。

 機密を守らないといけないから、その分危険もあるらしいけれど。

 おじさんはダイナ君が守ってくれるから安心だ。

 

「ううん。あんまり他人の秘密をのぞき見するみたいなのはねぇ」

「そうか。お前が気が乗らないなら、俺も強く勧めはしない」

 

 かといって、今すぐ身を立てられそうな役職がそれぐらいなのもそうだ。

 アルカナ様の下で文官として働くにしても、立場が平民の今だと何かしらの実績を見せないと周りの人は納得してくれないだろうし。

 いや、アルカナ様の推挙ってだけで通ったりするのかな?

 それはそれで職場内で軋轢を生みそう。

 

「でも、お金が必要なのもそうだから……アルカナ様の紹介だけは受けてみようかな?」

「冒険者の中にも代筆官に依頼したい奴らはいるぞ」

「そうなの?」

「ああ。貴族相手に仕事するような連中だけどな」

 

 なるほど。ダイナ君みたいに読めはするけれど書けない人たちがいっぱいいるのか。

 

「ただ、代筆官は信用が大事だからな。伝手がないと依頼が難しいんだ」

「あー。怪しい人と付き合えないってこと?」

「そうだな。代筆官の情報を盗もうとするやつは多い」

 

 恐ろしい職業だ。

 ダイナ君も代筆官に頼めばよかったのに。なんて少し思ったけれど。

 ……信用はなさそうだなぁ。騎士になった今ならともかくとして。

 

 言葉足りないし、威圧感振りまくし。

 うん。手紙関連でダイナ君に恨み言を言うのは止めよう。

 これはしょうがない。

 

「アルカナの紹介なら、今後職業の幅を狭めるような奴から受けることは少ないだろう」

 

 そこは信頼してもいい、とダイナ君は語る。

 

「なら、一旦はそれでお金を稼いでみようかな?」

「お前がそれを望むなら、俺は止めることはしない」

「あはは……」

 

 そもそもな話、お金の話ならダイナ君に無心すれば手に入るのだ。

 前に少し聞いた話だけれど、この子はほぼほぼ残りの人生遊んで暮らせるぐらいのお金を保有しているわけで。

 それを、自分でも稼ぎたいというおじさんの我儘でこんな話題になっているわけで。

 ヒモってわけじゃないけれど。その、養われるのは違うなって。

 

「最悪の場合は俺が何とかする。好きにやるといい」

「そうだね。うん、やってみることにするよ」

 

 お母さんの事も気にならないわけじゃない。

 でも、まずは一旦。

 おじさん自身の事を始めよう。

 

 せっかく村から飛び出てきたのだから。

 地に足つけて、ひとまず頑張ってみよう。




これにて第二章叙勲式編完結となります。
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