TS転生した元おじさん一般村娘。将来結婚相手になるだろうからと優しく接していた幼馴染が村を出た。そして十年後、立派になりすぎて帰ってきた。   作:パンデュ郞

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第37話

 ギャーリドラはエンビローグ領都と比較しても、負けず劣らずの大きさでした。

 考えてみれば、魔境から魔物が溢れ出したときの第一守備ラインがここなのだから、色々な需要が生まれるのも当然。

 戦いの現場って経済が回るんだなぁと実感させられます。

 

「……大丈夫か?」

「たぶん」

「雰囲気がいつもよりもほんわかしていますね」

 

 目の前がぐーるぐーる。

 確かに前よりかは楽だったけれど、辛いものには変わりはない。

 というか、多分、今世の体は乗り物に弱い?

 そんな気がしてきたところ。

 

「というか、なんだこの行列は」

「異変と聞きつけた商人が駆け付けたのでしょう。大人しく待ちましょう」

 

 今、おじさんたちは都市に入る前の跳ね橋の前にいます。

 前と言っても、跳ね橋に続く道の道中ですが。距離自体は結構ある感じ。

 なぜかと言うと、入るための城門へずらりと馬車の行列ができているためです。

 

 そんなおじさんはというと、馬車は並べたまま、少し外の空気を吸っているところ。

 ルピガナさんと同乗していましたが、彼女もいっしょに降りてきてくれています。

 なので、御者席に乗ってる二人だけが並んで、私たちは横で軽くくつろいでいる感じ。

 ダイナ君だけ自前の馬、バロくんに乗ってます。雄だったそうです。

 

「領都の時は並んでましたけれど、すんなり入れましたよね?」

「あれはアルカナ様がいたからです。今回も優先してもらうことは可能でしょうが……」

 

 ルピガナさんは少しばかり考える素振りを見せる。

 

「ふむ、今回は少数精鋭ですからね。お付き含めて五名の旅ですから」

「あー。ひょっとして今面倒臭がってませんか?」

「まあ、平たく言ってしまうとそうなります。先ぶれは出ておりますが、回り道するのも手間ですし、のんびり待ちましょう」

 

 うーんこの。

 まあ、実際入ってすぐどうにかなるものでもないだろうし、そんな急ぐ必要もないのかな?

 

「事前知識のおさらいでもしておきましょう。ダイナ様はギャーリドラについてはお詳しいですよね?」

「ああ。前線拠点だからな。よく利用していた」

 

 ……そこだけは、少し楽しみにしている。

 ダイナ君の十年間の軌跡を追うのは、結構楽しいのだ。

 もちろん痛々しい話は苦手だけれど。

 その裏で、ダイナ君は活躍もしっかりとしている。

 

 まるでおとぎ話の英雄譚の一幕を聞かされているようで、これが中々面白い。

 因みにダイナ君本人に聞いても、何を切った何を殺した以外の情報が出てこないので論外でした。

 守られた側の人に聞くに限る。

 

「カメリア様は事前知識を入れてたぐらいですよね」

「えと、はい」

「確認のため、簡潔に教えてもらっても良いですか?」

 

 なるほど。おじさんがどれだけ知ってるか確認するためには、おじさんの口から説明するのが一番分かりやすいもんね。

 

「ええと、魔境――ファンダル大森林の近隣に建てられた城塞都市で、冒険者や騎士見習いが腕試しや魔物討伐のために頻繁に訪れる。で、アルカナ様のお父様、エンビローグ伯が常駐しているんですよね」

「おっしゃる通りです。最低限、それだけの知識があれば十分ですよ」

 

 ダイナ君、そんな凄いものを見る目で見ないでね。

 本当に簡単な情報しか覚えてないから。

 アルカナ様から軽く都市の全体地図を見せてもらえたけれど、把握しきれてないもの。

 

「異変が起きているのもファンダル大森林で間違いありません。で、肝心の異変の内容ですが――」

 

 ルピガナさんの言葉が途中で止まる。

 同時に、耳を澄ませば聞こえてくるいざこざの声。

 列の前半の方で何かもめ事が起きてる……?

 

「あまりにも進みが遅いと思ったら、もめ事でしたか」

「行ってくるか?」

「そうですね。解決しないことには進みもしないでしょう」

「あっ、じゃあおじさんもついていくね」

 

 ダイナ君一人じゃ心配だから。

 その、最近頑張ってるとはいえど、これまでの実績がね。

 もめ事の仲裁なんて、最悪両方殴って終わりにしかねないから。

 

「……乗るか?」

 

 そう言って、ダイナ君が馬上から手をこちらへ差し出してくる。

 うっ。乗り物……。でもバロ君がつぶらな瞳でこちらを見てくる。

 

「安心しろ。こいつもお前を気に入っている。俺の時のように振り落とす真似はするまい」

「ダイナ君振り落とされたの!?」

「ああ、根負けさせた」

 

 とんでも新事実。

 今のを聞いて余計に乗りたくなくなったけれど、乗らないと大変そう。

 ううん、ええい、なるようになれ!

 

 そんな思いでダイナ君の手を掴むと、力強く引っ張られ、一息ですっと馬上に乗せられた。

 ひ、人を馬に乗せるのが上手すぎるかもこの子。

 

「よし、行くぞ」

「うわ、うわ」

 

 お、思ったより揺れはしないけれど。

 てか視線が高い、怖い。

 

「初めてだからな。ゆっくりと行くさ」

「それでお願いします」

 

 背中にごつごつとした感触が当たってる。ダイナ君の鎧だ。

 密着しすぎないようにしとこう。

 

 バロ君に代わりに歩いてもらって、争いごとの現場が見えてきた。

 どうやら二人組の子供と、門兵さんがもめているみたい?

 二人は……十歳ぐらいかな?

 片方の子がずっと叫んでいて、もう片方の子は縮こまって黙ってしまっている。

 

「どうして俺たちが入れないんだ!」

「近隣の町や村には勧告が出ているはずだ。冒険者は実績がある冒険者しか、現在この町には入れない」

「でもよぉ!」

 

 異変が起きているからなのか、町に入れないでいる子たちが騒いでいるみたい。

 まだ若いし、新米冒険者なのかな?

 

「――異変中は何が起こるかわからないからな。自己判断が怪しい人間は、周囲の人間も巻き添えにする可能性がある」

「だから、なんだ」

「ああ。だが、実績を積むとしたら魔境探査が一番早いのも事実だ」

 

 俺のように盗賊退治に駆け巡る場合もあるが。

 とダイナ君は付け足しつつも。

 

 なるほどなぁ。

 難しい問題だ。

 

 なんて、頷いていたらこちらへ視線が向いている。

 なんで?

 

「その魔法銀の鎧。も、もしかして孤高の閃光、ダイナか!」

「ふむ、この鎧が話になっているとは知らなかった」

「吟遊詩人が歌ってるんだぜ!」

 

 わあ、ダイナ君大人気だ。

 そうだよね。出世頭だもんね。

 なんか二回目な気がするなこういうの。

 

「これはこれは。ダイナ様、連絡は来ております」

「ああ。順番を待とうと思ったが、一向に進まないものだからな。様子を見に来た」

 

 ダイナ君を見るなり、門兵さんは即座に敬礼した。

 おじさんをちらっと見て疑問そうにしているあたり、おじさんの詳しい話は伝わっていないみたいだ。

 アルカナ様のミスとは考えられないし、意図的なものなのかな?

 

「ひょっとして、そちらは代筆官殿ですか?」

「そうだ。ルピガナは馬車で待たせている」

「そうですか。では、さっそく入場手続きを――」

「待ってくれ!」

 

 さっきの子が、近づいて来ようとして――バロ君に睨みつけられて足を止めた。

 でも、距離を保ちつつ、こちらを見つめてきている。

 

「俺たちも一緒に入れてくれないか!?」

 

 こちらが有力者と知ってか、懇願の矛先をこちらへ変えてきた。

 

 うーん、おじさんの心情としては、かわいそうだなと思うのはあるけれど、危ないのもそうだし。

 正直なところ、大人しく門兵さんに従ってほしい。

 どういうのが穏便に伝わるかな。

 

「……才能はあるな」

「ダイナ君?」

 

 耳元でぽつりと漏れた言葉は、きっとおじさん以外には聞こえていなかったはずだ。

 

「カメリア」

「なあに?」

「お前さえ良ければ、こいつらを一緒に連れて行きたい」

 

 ――驚いた。

 何が驚いたって、ダイナ君がそういう提案をしたことだ。

 放っておけ、気にするな。とでも言いそうな感じしているのに。

 果たしてこれは成長か、はたまた……。

 

「理由は?」

「少し考えがある。だが、こいつらが条件を飲むかどうかが先だな」

 

 条件?

 ダイナ君、彼らに何をさせようとしているんだろう。

 雰囲気からして、異変の調査には関わらせる気はなさそうだし。

 

「おい、そこの二人組」

「な、なんだ」

「条件次第では、俺がお前らの身元を保証して中に入れてやる」

 

 高圧的に感じる物言いはダイナ君だなぁ。

 なんて思いつつ。

 しっかりと彼らも威圧感を感じているみたいだ。

 でも、芯が通った瞳はじっとこちらを見つめている。

 驚いたことに、後ろに隠れているもう一人の方も。

 

「――ああ! できることなら何でもする! 冒険者として名を立てるためにここまで来たんだ! 引き返ってなんていられるもんか!」

「そうか。ならばちょうどいい。俺たちがこの町に滞在している間、俺の言うことは絶対だ。いいな。疑い一つ持つことは許さんし、反発すれば殺す。それでもいいならば入れてやる」

 

 凄い物騒!

 でも、声色的にダイナ君は真剣そのものだ。

 冗談を言っている口調ではない。

 

 子供たちはというと、多分に逡巡して、それでも最終的には覚悟を決めたようだ。

 

「わ、わかった!」

「ならば良し。――すまんが」

「仕方がありませんね。ダイナ様の言う事ならば、まあ、伯も聞く耳を持つでしょう」

 

 仕方がないと諦めた門兵さんを見て、ダイナ君は短く謝辞を伝えた。

 そして、止まっていた列が動き始め――おじさんたちは無事に町に入ることができたのだった。

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