TS転生した元おじさん一般村娘。将来結婚相手になるだろうからと優しく接していた幼馴染が村を出た。そして十年後、立派になりすぎて帰ってきた。   作:パンデュ郞

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第4話

「……お、おお~い。ダイナ君、ダイナく~ん」

 

 上から覗き込むようにして、目の前で手のひらを振る。

 反応がない。まるで屍のようだ。いや、絶賛呼吸はしとりますが。

 

「はっ、どんだけ自分がアホだったかよくわかっただろ」

「ダンギさんも。息子だからってあんまり虐めないでください」

「はいはい。お嬢さんに言われちゃ仕方がない」

 

 ダンギさんはおじさんをお嬢さん呼びする。

 冒険者時代の癖なんだとか。人気商売みたいな側面があるそうで。

 村娘とかをお姫様扱いすると評判が良かったそうです。

 まあ、おじさんはおじさんなので、そんなので靡いたりしませんよ。

 

「はっ!?」

 

 あっ、ダイナ君再稼働した。本日二回目。

 やっぱり旅の疲れとかがあるのかな? ダイナ君の様子がずっとおかしく感じる。

 ここは積極的におじさんが話を進めるべきでしょう。

 

「ダイナ君、やっぱり旅のお話聞かせてくれません? ほら、家でゆっくりと……」

「じゃあうち来るか? お嬢さんなら嫁も大歓迎だ」

「本当ですか? じゃあ、久しぶりにお邪魔しても?」

 

 ダンギさんの家――ダイナ君の実家なら、彼もゆっくりとできるはず。

 この話には是非と乗っかかります。

 

「……勝手に話を進めるな」

 

 むくりと起き上がったダイナ君。大変不服そうな態度です。

 

「そんなこと言わずに。ダイナ君のお母さん――エリアさんも、きっとダイナ君と会いたがってますよ」

「…………」

「はっ。十年間も家空けて、会わす顔がねぇってか? だったら俺らよりお嬢さんに会わす顔の方がねぇだろお前は」

「ぐっ」

 

 図星のようです。

 うーん。おじさんは気にしてないよ? 本当だよ?

 だからそんな悲しそうな顔でこっち見ないでね?

 あの事故はおじさんのせいで起きた事故なんだから、ダイナ君は何一つ気にしなくていいんだよ?

 

「それとも、ここにお嬢さん立たせっぱなしにするつもりか?」

「……わかった。移動しよう」

「あはは……」

 

 やっぱりダンギさんは父親だけあって、ダイナ君の扱いがお上手。

 おじさんは別に立たされててもいいけどね?

 あんまり服を汚したくないから地べたに座りたくはないだけなので。土塗れはちょっと、洗濯物大変なんですよ。

 

 と、言うわけで移動です。

 場所は当然ダイナ君のおうち。久しぶりだなぁ。

 昔は何回かお邪魔してました。全てダイナ君と仲良くなるための施策です。

 なので、ここ十年は村の中で顔を合わせてもおうちにまでは入らなかったのですが。

 

「おーい、エリア。馬鹿が帰ってきたぞー!」

「自己紹介か?」

「ぬかせ。てめぇの事だ馬鹿息子」

 

 あはは。軽口を言い合えるぐらいに仲が良くて、とてもいいね。

 さっきの喧嘩の禍根は残ってなさそう。うんうん、親子は仲が良いのが一番だよね。

 おじさんのせいで二人の仲が悪くなってしまったら、罪悪感でしばらく寝付けなかったかもしれないや。

 

「あらあら。お帰りなさい。……随分と汚れてるみたいで」

「あっ。いや、これは、ちょっとな」

「もうっ。いつまで経っても冒険者気分なんだから。さっさと座りなさい」

 

 流石に母は強く、エリアさんの言う事には静かに従う二人。

 

 一般的な農家の家ということで、基本的には一階建ての木造の家だ。

 部屋も二、三部屋しかなく、簡素さを突き詰めている。

 村長の家は二階建てで、上に泊まる部屋とかもあるんだけれども。領主様の使いが来たりするから、そのための部屋なのだ。

 まあ、ただの農村一般村人の家に過剰な機能は不要というわけで。日中は畑にいるし。

 

 しかしまあ、おじさん、座る前にダイナ君の鎧は脱いだ方がいいと思うんだけれど。

 二人とも気にしてない。

 おじさんの視線に気が付いたのか、ダンギさんが解説してくれる。

 

「ああ、こいつのつけてる鎧の素材は魔法銀って言ってな。軽量で程よく頑丈なんだ」

「……あまり、邪魔になっていない」

「だからって家具に傷はつけるなよ?」

 

 ほえー。物知りだなぁ。

 ファンタジーな世界なのは知ってたけれど、色々と不思議素材もあるんだねぇ。

 おじさんは少しワクワクしちゃったよ。

 まあ、この村で一生を終える予定のおじさんには関係ないのだけれど。

 

 さてさて、おじさんも用意された木の椅子に座る。

 エリアさんが水瓶から水を汲んで、机の上に出してくれた。

 

「それで? 十年間も姿も一報もよこさなかった放蕩息子がどうしたって?」

「……悪かった」

「ふうん? 十年間で少しは学んだみたいね。じゃあ、私からは何も言わないであげる」

 

 言い切って、エリアさんはさっさと自分の作業へ戻って行ってしまった。

 す、すごい。おじさん、自分の息子が十年間も消息不明だったら気が気でないよ。

 情がないわけではなく、信頼しているのだろうな、というのは伝わってくる。

 羨ましいかはともかく、良い関係だとは思う。

 

「それで、ダイナ君は十年間何してたんですか?」

「ぐっ……」

 

 え、どうしてそんな苦しそうな表情をするの。

 あっ、え? もしかしておじさんが責めてるように聞こえてた!?

 純粋興味で聞いただけだったのに!?

 

「いや! 単純に旅の話が聞きたくてですね! ほら、騎士様になったみたいですし! 色々なことがあったんだろうなって!」

 

 思わず大きな声でフォローしてしまう。

 ダンギさん! そんな楽しそうに笑わない! ダイナ君はこんなに辛そうな表情してるのに!

 

「……騎士には、なった。これが、その証拠だ」

 

 そう言って、彼は懐から一つのメダル? のようなものを出しました。

 これは一体?

 

「ほう、本物の騎士勲章っぽいな」

 

 これが騎士勲章らしいです。

 ほえー、じゃあ本当に騎士の位を得たんですね。

 幼馴染が大出世していておじさんも鼻が高いですよ。

 やっぱり、彼は村を出て行って正解だったのです。

 

「騎士の位って単純な実力で取れるものじゃないですよね?」

「あー、そうだな。まあ冒険者でもやって、でかい功績立てるのが早いんじゃないか?」

「そうだ。俺も、その手順で騎士になった」

 

 騎士の人に弟子入りするって言ってたから、その伝手で騎士になったのかと思ったら。

 きちんと実力で騎士になったらしいです。

 素晴らしいですね。おじさん感動しちゃいます。

 若い子が自分の力で、努力で地位を獲得できるだなんて……なんて素晴らしきことか。

 

「でかい功績って、何をしたんですか?」

「…………」

「ダイナ君?」

 

 また黙ってしまった。

 あれぇ? 結構喋れるようになったと思ったんだけれども。

 何かおじさん気に入らないことしちゃってました?

 

「……敬語」

「はい?」

「昔は、もっと親し気に話しかけてくれていただろう」

 

 ん? いや、確かに途中からは意識して丁寧語で話しかけてましたが。

 戻ってきたばかりは驚いて忘れてましたけれども。

 

 おじさんは平民で、ダイナ君はもう騎士様なんですよね? なら身分の差もあるし、必然では?

 それに、離れていた時間も長いわけで……。

 

 困ってしまったので、ダンギさんに視線で助けを求めます。

 大人しく受け入れてくれと目と表情で言われました。

 えぇ……まあ、本人が言ってるのならいいのかな。

 

「……わかった。それで、どんな功績をあげたの? 冒険者だから、なんかすごい魔物を倒したとかなの?」

 

 うわ、露骨に嬉しそうになった。微妙な変化だけれど、おじさんには分かる。

 十年間、ブランクはあるけれど、二年間の間一緒にいた効果はあるんだなぁ……。

 ちょっと懐かしくなって感慨深くなってしまったよ。

 

「――竜種、地竜を討伐したんだ」

「竜種!? 凄い!」

 

 それはすごい。いやどのぐらい凄いのかはわからないけれど。

 前世の記憶的に、竜はすごいって印象で凄いって言ってる。

 ダンギさんも少し驚いてるから、凄いってのは合ってるっぽい? というか凄くなかったら騎士になれないよね。それはそうだ。

 

「下手な功績だったらぶち殺してやろうと思ってたが竜種なら許してやる」

「ダンギさん?」

「いや、お嬢さんの顔を立ててたが、やっぱりこいつのしたことを考えると許せるわけがなくてな。手土産の大きさで、まあ、少しは許してやる」

 

 ひえ。じゃあおじさんがダイナ君を非難してたらもっと本気で殺す気だったってこと?

 良かった。本当に良かった。親子は仲良く。家族愛は良いことです。

 

「でも地竜かぁ。氷竜クラスなら文句なかったんだがなぁ~」

「そのクラスがぽんぽん見つかるはずないだろ」

「俺は討伐したことがあるが~? てか、あいつが騎士になれたのそのおかげだが~?」

「俺は単独で討伐した!」

 

 煽る煽る。本当に内心ではムカついてるんですね……。

 おじさんは怒ってないよぉ。だからその怒りを鎮めてくださいな。

 

「まあまあ。いいじゃないですか、立派なことですよ!」

 

 おじさんがフォローを入れるとダイナ君はとても嬉しそうだ。

 うんうん、認めてくれる人がいるって嬉しいことだよねぇ。よくわかるよぉ。

 

 因みに、地竜は普通に単独で幾つかの町を、氷竜は武装された都市を滅ぼせるぐらいの力を持ってるらしいです。竜種怖すぎる。

 

「それで、ダイナ君はどんな素敵なお姫様を見つけたの?」

「――っ」

 

 ――一瞬で、空気が凍り付いた。

 え、な、なに。

 ダイナ君はまたフリーズしちゃったし、ダンギさんは顔に手を当てて困ってるし。

 おじさん、今日失言しまくりだったりします?

 

「い、いや。竜を倒してお姫様と結ばれる騎士様って素敵でしょ? だから、ダイナ君にもそういう人が見つかったのなら、素敵な話だなーって……」

「……おい、これが十年分のツケだ。わかったな」

「――ああ。今、身に染みている」

 

 あれれぇ。おじさん以外の二人は理解し合ってるみたいだぞぉ?

 お願いだから、おじさんが悪いなら教えてほしいな?

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