TS転生した元おじさん一般村娘。将来結婚相手になるだろうからと優しく接していた幼馴染が村を出た。そして十年後、立派になりすぎて帰ってきた。   作:突発性でべそ症候群

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第6話

 家に帰ってから少しして、ダイナ親子が謝りに来た。

 なんだろう? と思って出迎えた瞬間、勢いよく頭を下げられた。

 ダイナ君に至っては、迷うことなく土下座しようとしたので必死に止めた。

 騎士の称号持った人にそんなことさせられないよ~。

 

 なので、今は普通に頭を下げるだけにしてもらってる。いや、本当は頭も上げてほしいんですけどね?

 そんな騒ぎを聞きつけて、お父さんまでやってきた。

 そして、本題へと移る。

 

「本来は十年前にやらせるべきでした」

「――謝罪が遅くなって、本当に申し訳ありません」

 

 頭を九十度下げる二人の目の前には、おじさんとお父さん。

 ど、どう反応すればいいんだろう。

 おじさんとしては、もう気にしてないよ~。大丈夫だよ~。って言ってあげたい。

 でも、おじさんの婚活が長引いた現況でもあるわけだから、お父さんがダイナ君にどんな感情を抱いているのかわからない。

 

 ……ここは、お父さんに任せよう。

 お父さんが村長だから、決定権はお父さんにある。

 おじさんはその決定に、従う。うん、それが正しい。

 

「……まずは、謝罪に来たこと自体は認めます。ダンギさんは十年前からことあるごとに謝りに来てくれましたが、ダイナ君は今回が初めてですからね」

 

 暗に、十年間も放置してたのだと責め立てる声色。

 怖い。怒ってるのが、おじさんにだってわかる。

 お父さんはいつも温厚で、情に深い人。だからこそ、身内が傷つくと誰よりも怒る。

 

「完全に許してほしいとは、言いません。これはケジメです」

「では、何のケジメとすると?」

「今後、この村に滞在するための」

 

 ああ、そうか。

 当時、ダンギさんはうちだけでなく、村全体に謝罪をしてまわってた。

 あの時は、許すっておじさんがあっさりと言っちゃったんだけれども。

 冷静に考えてみれば、この村にダンギさんとエリアさんがいられなくなってもおかしくない出来事だったんだ。

 

 それでもいられたのはおじさんとお父さんが許したからで。

 でも、多分、みんなに受け入れられたのは、直接の関係者がダイナ君だったから――ダンギさんたちじゃなかったからだ。

 

 思わず、不安になってお父さんの顔を見る。

 せっかく帰ってきてくれたダイナ君が、おじさんのせいでまた出て行かないといけないなんて不憫だ。

 必要なら、おじさんがお父さんを説得しないと。

 

「……これも、一つの機会かもしれないね」

「?」

 

 お父さんが、ぽつりとつぶやいた。

 あまりに小さい声だったから、きっとすぐ隣にいたおじさんしか聞き取れてない。

 

「わかりました。ダイナ君の村への滞在を許します」

「っ!?」

 

 お父さんの返答に、誰よりも驚いていたのはダイナ君だった。

 見て分かるぐらいに体が震えて、驚いたのが見て取れた。

 

「ただし、条件があります」

「……なんでも受け入れます。俺にできることなら、なんでもします」

「今後、村を出るときは、何があろうともカメリアの許可を取りなさい。それが、滞在を認める条件です」

 

 えっ、おじさん!?

 今度はおじさんの方が心の底から驚いた。

 

「ダイナ君がこの村に今いられるのは、この子が当時必死に村の方々を宥めていたからです。君の責任だけではなく、止めなかった自分の責もあるのだと」

「――そんな、ことが」

「感謝しなさい。この子が優しい子であることに」

 

 い、いや。そんなことはないよ。

 おじさんのせいで、自由な未来を閉ざさせてはいけないなって。

 そう、思っただけで、そんな大層なことではない。

 優しくなんて、ない。

 

「はい、重々承知しています」

「君にとって、この十年間は無駄ではなかったみたいだね。今の返答を貰えて、少しだけ安心したよ」

 

 あっ、でも穏便に終わりそう?

 それならよか――。

 

「――ここまでは、この村の村長としての言葉。これからはこの子の父親としての言葉だよ」

 

 ――ただなんて。簡単に済む話ではなくて。

 これまでの十六年で見たことがないぐらい、お父さんが怒っている。

 ただの一度も、本気で怒ったことがないお父さんが。今、怒っている。

 

「あまりふざけてくれないでほしい。何が謝罪だ。君がしたことで、この子がどれほどの苦労を背負ったのか理解しているのか」

「……いいえ」

「愚直に、『はい』と言わなかったことだけは評価しよう。でもね、この子の肩に今も残っている傷跡を見るたびに、私がどういう気分になるのか、それぐらいは想像もできるだろう」

 

 迂闊な言葉を発しようものならば、即座に手を出しそうな剣幕。

 普段は本当に温厚で、おっとりしているお父さんが見せる、強くなればならない村長としての側面だった。

 

「この子は許すだろう。優しい子だからね。でも、私は絶対に許さない。許せるはずもない」

「……わかってます」

「君が、君が迂闊な提案をしなければ! 君が村を出るような真似を試みなければ! 私の娘に生々しい傷が残ることはなかった! 死にかけることもなかった!」

 

 びくりと大きくダイナ君の体が揺れる。

 そのぐらい、湧き上がる圧がある。今、この人には勝てない。抗えないという圧が。

 

「知っているか!? 知らんだろうな!? あの晩、この子がどれだけ苦しんでいたのか。うわ言で何を呟いていたのか。あの後の事をひとかけらでも想像したことがあるのか!?」

「…………返す言葉もありません」

「あるはずがないだろう! 君は確かに騎士という立派な立場になった! では、この子に何をしてあげられる、君が騎士になって何が残る! 何も残らんさ!!!」

 

 お父さんを止めようとしたけれど、ダンギさんにそっと視線で止められる。

 伸ばしかけた手を、そっと引っ込める。

 

「この子がどれだけこの村のために尽力したか、周辺の村との交流に積極的になったか、この子のおかげでこの村がどれほど安定するようになったか。そんな子に、お前は消えない傷跡を残したんだぞ!!!」

「……はい」

「村の外の事なんぞ私は知らん! 私が守るべきはこの村だ、この村に住む人々だ! 君がどれだけ村の外の人を救おうが、私の愛する人を傷つけた事実は消えやしない!」

 

 これまで聞いたことがないほどの大きな声。

 肩で息をするほどに興奮したお父さんを見て、おじさんはずっと申し訳なさを感じていた。

 

「お前が、お前が! お前が——っ!」

 

 ごめんなさい。ずっと、そんなに抱えさせてしまってただなんて。

 大丈夫だって、笑顔で許してくれてたから。

 そこまで、思いつめさせてるだなんて知らなくって。

 想像力の足りなかった、おじさんの罪だ。もっと、寄り添って、吐き出させてあげればよかった。

 

 こういうところすら、お父さんは苦しむのだろうか?

 でも、おじさんが全てを受け入れてしまうのが。

 他の誰かが、一番傷つかないはずだから。

 

「……今日のところは、帰りなさい。これ以上その姿を見ていると、言ってはいけないことまで言ってしまいそうだ」

「わかりました。おい、ダイナ。行くぞ」

「……はい」

 

 ゆっくりと、それでも、言うことをしっかりと聞いて。

 二人は、出て行った。

 その背中を視線で追う事しかおじさんにはできなくて。

 喉まで出かかった声は、傷つけることしかないと理解して。

 なにか、できることなんてなかった。

 

 二人の姿が消えて、お父さんの呼吸も整ってきた。

 そのころになって、ようやくおじさんも声を出す勇気が出た。

 

「お父さん……」

「……すまない。みっともないところを見せたね」

「ううん。私のために怒ってくれて、嬉しいよ」

 

 これは、嘘じゃない。

 嬉しい。けど、悲しい。お父さんにそんな思いをさせてしまっていた自分が不甲斐ない。

 だからだろうか。お父さんがこっちを向いた時、泣きそうな表情になっていたのは。

 

「そうだよね。そういう子だ、お前は。口では言っても、悲しんでいる」

「そんなことないよ。嬉しいのは、本当」

「でも、同時に相手の事を考えてしまう。ずっと、見てきたからわかるさ」

 

 それは……いや、この反論こそが、お父さんの言うことを裏付けてしまう。

 だから、何も言わない。

 何も言わなくても、おじさんの考えてることなんてお見通しなんでしょう。お父さんは、優しくため息をついて、頭を撫でてくれた。

 そのまま、そっと視線の高さを合わせてくれる

 

「カメリア。少し時間を貰ってもいいかな?」

「うん、大丈夫」

「ありがとう。それじゃあ、少し話をしよう」

 

 話? 話っていうのは、何の話だろう。

 ダイナ君についてだろうか?

 いや、そういう雰囲気じゃない。

 お父さんの瞳に映っているのは、今はおじさんだけだ。

 

「大事な、今後についての話だ。これは村長とその娘ではなく、親子として」

 

 親子として?

 それは、一体どういうことだろうか。

 お父さんとはずっと親子で、それが変わったことなんてないはずなのに。

 

 喉がやったらと乾いている気がした。

 頷いてはならなかった。そんな直感がよぎる。

 おじさんは、この話を聞くべきでないと。

 

「話を、しよう」

 

 これまでになく、神妙で。

 だからこそ、おじさんには黙って頷く以外の選択肢はないのであった。

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