TS転生した元おじさん一般村娘。将来結婚相手になるだろうからと優しく接していた幼馴染が村を出た。そして十年後、立派になりすぎて帰ってきた。   作:突発性でべそ症候群

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第7話

 お父さんの語りだしは、どこか遠くを見つめているようで。

 かなり昔の事から始まった。

 

「お前が二歳、三歳ぐらいの時のことを覚えているかな?」

「――覚えて、ないよ」

 

 ああ、その切り出し方は。

 もはや、何を話したいのかわかってしまった。

 咄嗟に否定する。否定したって意味がないのに。

 おじさんのつたない嘘が、お父さんに通じるはずがない。

 

 実際、お父さんは優しく微笑んで、おじさんの嘘を指摘する。

 

「嘘だね。何年お前の父親をしてきたと思ってるんだい」

「うっ。ごめんなさい……」

「謝らなくていい。謝るべきは、私の方なんだから」

 

 それは、違う。お父さんは悪くない。

 悪いのはおじさんなんだ。

 思わず泣きそうになってしまうおじさんを、優しくお父さんは抱きしめてくれた。

 

「すまなかった。お前が自分を抑えつけるようになったのは、私のせいなんだね?」

「違う、違うよ、お父さん」

「ああ、お前ならそう言うだろうね。でも、私にも一因がある」

 

 違う、違う、違う。お父さんは悪くない。

 否定すれば否定するほど、お父さんが苦しんでいる。

 じゃあ、おじさんは一体どうすればいい?

 何をするのが、一番正しい?

 

「お前は二歳のころ、魔法に憧れていたね。それを私は『こんな村には魔法使いはこないよ』と一笑してしまったっけ」

 

 覚えてる。

 実際そうだなって思ってしまったし、魔法の使い方もわからないから諦めてしまった。

 そんなことよりも、目の前のできることをした方が遥かに良いと。

 現実的に、分かってしまったから。

 

「お前が三歳のころは、大きな町に憧れていたね。見たこともない綺麗な景色を見てみたいと。行商が語る話を、食い入るように聞いていたのを覚えているよ」

 

 よく、覚えてる。

 一回でいいから、外の大きな町を見てみたかった。

 ファンタジーな世界なのはわかっていたから、それを見てみたかった。

 

 行商から聞かされる話はどれも新鮮で、前世とは違って夢がある話ばかりだった。

 だから、大好きだった。こんな世界なら、おじさんでも何かができるんじゃないかって。

 そんなことはないと、後から思い知らされた。

 

 ……ダイナ君が戻ってきて、嬉しかった。

 だって、外の素敵な話を聞けると、思ってしまったから。

 聞くだけなら、許されるかと思って。

 あっ。

 

 気が付いてしまった。

 お父さんが、うっすらと嬉しそうになる。

 

「四歳になるころには、何も言わなくなってしまったね。ごめんよ、私が、お前の未来を潰してしまった。子供なんて、幾らでも夢を語ればいいのに」

「ちが、違うよ。私は村長の娘だから、今後の村を支えないとだから」

「そうだ。私のせいで、お前の未来を決めつけてしまった。だから、お前は他の全てを簡単に切り捨ててしまった」

 

 違う、違うんだ。

 おじさんはお父さんの子に生まれたくなかったなんて考えたことはない。

 ずっと感謝してる。ずっと尊敬している。

 だから、もうやめて。謝らないで。

 

 悪いのは、悪いのはおじさんなんだ。

 

「いつしか、お前は全く手がかからない子になってしまった。私はそれに甘えてしまった。妻がいなくなって、余裕がなくなっていた私は、お前に夢を見続けることを許してあげられなかった」

 

 お母さん。おじさんの、今世のお母さん。

 実際に顔を見たことはない。おじさんを産んだときに、死んでしまったと聞いている。

 だからこそ、この世界では母体の丈夫さは重視されている。

 おじさんが避けられてきた理由が、そうであるように。

 障害が残るような怪我をしていれば、赤子もろとも死亡率が上がるから。

 

 おじさんの怪我は、運よく無事に完治したけれど。外から見れば、右腕の機能に問題が生じていてもおかしくないように見える痕は残っている。

 外から見た価値が下がることは、その瞬間に理解してしまった。

 

 でも、どうしてダイナ君を恨めるだろうか。

 ダイナ君は、おじさんに綺麗な景色を見せてくれた。

 ダイナ君は、おじさんと違って自由な未来がある。

 ダイナ君は、おじさんが諦めた全てを手に入れる権利がある。

 

 おじさんが持ってはいけないものを、いっぱい持っている子に。

 どうして、その持ち物を捨てさせるようなことができるだろうか?

 

 すべてはおじさんが我慢すれば、おじさんが受け入れれば済む話ならば。

 それが、一番簡単な解決方法でしょう?

 

「すまない、すまない……っ! 当時、彼を見るお前の目を良く覚えている。淡々と見ているだけでなく、僅かに羨むような視線をさせてしまっていた」

「それは、それは……っ」

「徹底するならば、彼と関わるのを辞めさせなければならなかったんだ。いつか出て行く人間なのだから、あまり情を入れるなと。そう、しなければならなかったんだ」

 

 ――せめてそのぐらいは、と。許すべきではなかった、と。

 お父さんは言う。

 

 羨ましかった。妬ましかった。

 その感情は、嘘じゃない。

 でも、それを村長の娘であり、ただの村娘であるおじさんが持つのは正しくないから。

 全部、ゴミ箱に捨てた。そんなものは最初からなかったと、全部全部捨てさって。

 

 その方が正しいから。

 おじさんは村の存続のために、村のためだけを考えれば。

 全体にとって、一番正しいことだから。

 

「お前の怪我は、私にも責任がある。にもかかわらず、私はそれを認めたくなくて、彼を怒鳴りつけてしまった。わかっている、私は弱い大人だ。情けない大人だ」

「そんなことない。そんなことないよ! ずっと大好きだよ、ずっと尊敬してる!」

 

 いつしか、お父さんも泣き出していて。

 二人して泣きながら、抱き合いながら話していた。

 

「お父さんがどれだけ村の事を考えているのか、おじさんはよく知ってるから! どれだけ苦悩して、おじさんのために、動いてくれていたのか知っているから」

「――その自分をおじさんと呼ぶ癖も、久しぶりに出たね」

 

 言われてから、気が付いた。

 つい、“私”ではなく、“おじさん”と。

 

「昔は、自分の事をおじさんおじさんと、愛嬌があったから、私は好きだったんだ。でもね、徐々にそういうことは減り――婚活を始めたあたりから、一切言わなくなってしまったね」

「それは、そう、成長、しただけで……」

 

 婚活していて、真っ先に整えたのが口調と立ち居振る舞いだった。

 丁寧に、悪感情を抱かれないように。初対面だろうと、礼節を持って。

 この世界でどれ程前世の礼節が通じるかはわからなかったけれど、相手を思っているってのは伝わるものだから。

 なのに、若い女性が自分をおじさんと呼ぶ? 論外だった。

 意識して、徹底して直したはずなのに――。

 

「そんな成長ならば、私は望まない」

「でも、大人になるってことは――」

 

 おじさんはよく知っている。

 大人になるっていうことは、子供のころ憧れていたものを諦めることだと。

 諦めと妥協。それが、人生を生きていくにおいて大事なことなのだと。

 

「いいことを教えてあげよう。カメリア、よく聞くんだ」

 

 嫌だ。聞きたくない。

 それを聞いてしまえば、きっと堪えられなくなる。

 これまで無視できたものを、無視できなくなる。

 

「何歳になろうと、どれだけ大きくなろうと――親にとって、子供は子供なんだよ」

 

 ――だから、お前は夢を見てもいいんだ、と。

 ――だから、好きなことを望んでもいいんだ、と。

 

 即座に反論したかった。胸が苦しかった。

 村長であるはずのお父さんにこんなことを言わせるのは間違っている。

 では、間違ったのは誰? 言わせたおじさん? それとも、言うのを我慢できなかったお父さん?

 お父さんは悪くない。じゃあ、おじさんが悪い。

 

 でも、おじさんが悪いなら、どうすれば防げた? 夢を見続けていれば、それでよかった?

 それは、正しくない。

 じゃあ、それなら。

 一体、どうするのが正しかったの?

 

 おじさんは、何を間違えた?

 

「……大丈夫だよ、お父さん」

「カメリア……」

「安心して。私はちゃんと、幸せだから」

 

 そう、おじさんは幸せだ。

 これだけ愛されて、村の人にも慕われて。

 この村が好きだ。この気持ちに嘘はない。

 だから、この村のためになることをしたい。これは、間違いではないはず。

 

「だから、ちゃんと、お見合い成功させるからね」

 

 二歳年下の子が、何を抱えているのかはわからない。

 わからないけれど、きっと成功させてみせる。

 そうやって跡取りを作れれば、その時こそ。

 お父さんも、おじさんが傷ついた罪を忘れられるだろうから。

 

「カメリア……」

「私が出て行ったら、この村は誰が継ぐの?」

「それは……いや、しかし……」

「お父さんも、分かってるでしょ。大事に思ってくれてるのはとてもうれしい。でも、村の事を考えれば、私は外に出てはいけない」

 

 そう、これが一番正しい。

 あるべきように、あるがままに。

 歪めないのが、一番いいんだ。

 

「見誤らないで。お父さんは、村長でもあるんだから」

 

 だから、今からはお父さんではなくて。

 どうか、村長として判断してほしい。

 

「カメリア……」

 

 抱き合っていたのを、そっと手で放して。

 これ以上は不要だと、拒絶して。

 お父さんがどれだけ愛してくれてるのかは、よくわかった。

 おじさんにはもったいないほどに、多分な愛をくれている。

 

 その愛に応えるために、おじさんはきちんと勤めを果たすよ。

 

「大丈夫、きっとすべてが上手くいくよ」

 

 だから、今は精いっぱいの笑顔で。

 全ての不安を、吹き飛ばすように。




ここからが本番です。

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