TS転生した元おじさん一般村娘。将来結婚相手になるだろうからと優しく接していた幼馴染が村を出た。そして十年後、立派になりすぎて帰ってきた。   作:突発性でべそ症候群

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第8話

 お父さんの告白を聞いて、気持ちを知って、それでもおじさんの意思は揺るがない。

 諦めた夢を今更拾う? それこそ、夢がある話だとは思う。

 でも、夢は夢だからこそ夢なのだ。現実ではない。

 おじさんは、前世でよく知っている。

 

「――来たか」

 

 町と町を繋ぐ道に、人影が見える。

 小さい影と、大きな影。おじさんの結婚相手候補と、その付き添いだろうか。

 隣でお父さんが拳を握っている。緊張しているのか、昨日の事を後悔しているのか。

 どっちだっていい。おじさんは、おじさんの務めを果たすだけだ。

 

「初めまして。カメリアと申します」

「あっ、初めまして。え、と、ヒッポです」

 

 まずは相手を観察する。身長は若干低め。おじさんと同じくらい。

 表情は自信がなさそう? 何か不安事がある? なら丁寧に行くよりもフレンドリーにした方がいいかもしれない。

 かといって前より過ぎるのも良くない。

 まずは笑顔で、元気よく。

 

「ヒッポ君! よろしくね!」

 

 握手までは、求めない。ただ、両手を開いて前に出して、敵意はないと、単純に歓迎の意を示す。

 身体的接触は緊張を伴う。お互いに敵意はないと示す友好の印であると同時に、踏み切れなければリスクになる。

 この場では、リスクを負わない。

 

「よろしく、お願いします」

「うん、よろしく」

 

 わずかながら笑顔を作ってくれた。目に見えて作られた笑顔だけれど、気にするそぶりは見せない。笑顔を絶やさず、ひたすらに。 

 

「どうも、イチノシ村の村長です」

「どうも、ヒッポの付き添いです。初めて、ですよね?」

「ええ、お初にお目にかかります」

 

 サンダク村からの付き添いの人は、おじさんも見たことがない男性だった。

 ……違和感がある。

 おじさんが知らない人がいるなんて、少しだけ気になる。

 ただ、村人全員を把握していたかと言われるとそうではないので、そういうこともあるのだとここでは割り切ることにした。

 

「では、ヒッポは数日そちらでお世話になる、でいいんですよね?」

「ええ。丁重におもてなしいたします」

 

 今回のお見合いの手はずは、ヒッポ君をこの村に数日滞在させて、環境に慣れられそうかなど適性を見るのが目的になっています。

 事前情報でおじさんの情報は渡っているはずだから、後は実際に確かめましょうというわけですね。

 

「しかし、付き添いの方が来るとは伺っておりませんでしたが」

「最近物騒みたいですからね。追加で一人ついていた方がよいと思いまして」

「確かに。そうですね」

 

 幾ら道が整備されてるからと行って、十四歳が一人はすこし不安だ。

 ダイナ君みたいな強い子ならともかく、ヒッポ君は一般的な子に見える。

 道中獣や賊に襲われたら大変な目に遭ってしまうだろう。

 

「では、私はこれで」

「もうお帰りに?」

「ええ。後は……よろしくな、ヒッポ」

「は、はい!」

 

 何だろう。ヒッポ君の表情が少しだけ濁っている。というか、怯えてる?

 仲が悪いけれど、実力とかで選ばれた人なのだろうか。

 名前も名乗らずに、付き添いの人はさっさと行ってしまった。何だったんのだろう。

 村の代表として付き添いに来る人にしては随分と不適格なような……。

 

 いや、おじさんが気にするべきはそっちじゃなくて、少し挙動不審気味になってしまっているヒッポ君の方だ。

 ここはおじさんの方が先導して動いてあげないと。

 

「ヒッポ君。イチノシ村は初めてだよね? サンダク村と大きく変わらないと思うけれど……案内させてもらえる?」

「はい、お願いします」

 

 あの人が消えて、少しだけ緊張がほぐれたかな?

 なら、少しだけ強引にして気を別のところに向けさせてしまおう。

 

「ほら、行こう!」

「あっ!」

 

 無邪気を装って。ヒッポ君の手首を掴んでから、引っ張って進みだす。

 お父さんをちらりと見たけれど、複雑そうな表情をしていた。

 大丈夫、そんな顔しなくても、上手くやってみせるから。

 おじさん、そういうのは得意なんだ。

 

「ほら、家とかは大体一緒でしょ? 大きなところは変わらなくて――あれが私の家。一個だけ大きいでしょ? あそこに泊まってもらうからね」

「う、うん」

 

 挙動不審気味に、きょろきょろと周囲を見ている。

 サンダク村とそんな変わらないはずなんだけれども、何か珍しいのかな?

 ああ、規模が大きいから、それが不思議なのかも。

 

「ここら周辺だと、確かにこのイチノシ村が一番大きいね」

「……やっぱり、そうなんだ」

「そうだね。畑の規模とかも、ここが一番大きいんじゃないかなぁ」

 

 周りの村々に詳しいわけじゃない。結局のところ同じ領主の下で、税を納めている仲間というだけ。そして、比較的近くに位置しているというだけ。

 今のところ農地のための水問題でもめてるところは見てないけれど、過去には色々と問題があったとか。

 

 うちの村は他の村とは別の支流を使っているから、あんまり争いに巻き込まれたことはないらしい。

 その分、ちょっとだけ距離があるけどね。

 

「あっ、あそこの食糧庫には近づかないでね。一応、まだヒッポ君は他所の村の子だから」

 

 食糧庫は村の心臓だ。他所の村の人を近づけさせるわけにはいかない。

 万が一があれば、村人全員が飢えることになる。それは流石に許せない。

 村の人であろうと、まあ、うん。多分次の日から姿を見なくなると思う。

 よそ者であればなおさら。

 そんなのは、普通に嫌です。

 

「それじゃあ、今後暮らしていく家の中を案内――」

「――おい、そいつが件の見合い相手か?」

 

 おじさんたちの家の前までついたところで、後ろから声をかけられた。

 振り変えってみれば、そこにいたのはダイナ君だった。

 

「ダイナ君? うん、そうだよ。ヒッポ君っていうんだって、少しの間この村に滞在するから、仲良くしてあげてね」

「は、初めまして。ヒッポです」

 

 ダイナ君が随分と剣呑な雰囲気をしているから、ヒッポ君が怯えてしまっている。

 もう、しょうがないなぁ。こんなに人を威圧する子……だったね。うん。

 十年前もおじさん威圧されてた記憶があるや。

 

「そうか……俺はダイナだ。先日、この村に戻ってきた」

 

 心の中でひとまずほっとする。

 威圧的だけど、攻撃的にはなってないみたい。

 ここで問題起こされると非常に困る。せっかくの結婚相手候補なんだから、逃げられたりしたらたまったものではない。

 

「それじゃ、村の案内の途中だから、また後でね」

「ああ、また――」

 

 ダイナ君の圧が強くてヒッポ君が怯えているし、さっさと案内を口実に二人を離してしまおう。

 そう思って、家の中の案内を進めてしまおうとヒッポ君の腕を軽く引っ張って、家の中に入ろうとする。

 

「――待て」

 

 ダイナ君が、待ったをかけた。

 嫌な空気がしたので振り返る。

 すると、そこには恐怖で震えるヒッポ君と――彼の首に剣を突き付けているダイナ君の姿があった。

 

「ダ、ダイナ君!?」

「お前、本当は何者だ」

 

 何者? 何者って?

 ダイナ君は何を疑っているの?

 お父さんは、ダンギさんに軽く調査してもらったけれど、おそらく問題なさそうだと言っていた。

 なのに、ダイナ君は何を疑っているの?

 

「お前からは血の臭いがする。冒険者業の時に、死ぬほど嗅いだ臭いだ」

 

 血の臭い?

 試しに少し鼻に意識を集中させてみるけれど、おじさんにはさっぱりわからない。

 分かるのは、ただヒッポ君が怯えていて、このままだといけないという事だけだ。

 

「答えろ。どうして、ただの村人であるはずのお前がそんなに血の臭いをさせている?」

 

 微かな血の臭いなら、獣の解体とかで分かると。

 ただ、一度に大量に浴びた血の臭いは消えないのだと、ダイナ君は言う。

 例え、年単位で時間が経過しようとも。人に染み付いた血の臭いは、そのままだと。

 

「途中で、一回、獣たちに襲われたから……」

「その割には、服に血がついてないみたいだが?」

「移動には数日かかるから、替えの服を用意してたんだ。見た目は大事だって、村の人が」

 

 たどたどしくも、しっかりとダイナ君の問いに答えるヒッポ君。

 その姿は本当に怯え切っている。下手すれば、今すぐ倒れてしまいそうだ。

 

 ダイナ君はしばらくじっとヒッポ君を見つめたまま、剣をそのままにしている。

 そして――すっと一瞬だけ視線をおじさんへ向けると、静かに剣をおろしてくれた。

 

「……そうか。それならすまなかった。謝罪する」

「ダイナ君! 幾らなんでもやりすぎだよ!」

「申し訳なかった。村の中に殺人鬼でも紛れ込んだかと思ったんだ。俺の勘違いなら、幾らでも頭を下げる」

 

 そう言って、即座に頭を下げる。

 もう、殺人鬼なんて、そんなはずがないのに。

 だって、三年間もサンダク村で問題なく過ごしていた子だよ? 問題がある方がおかしい。

 

「……後で、しっかりと怒るからね。ダイナ君」

「――わかった」

 

 ここで怒ってもいいけれど。

 そうすると、怯えたままのヒッポ君がかわいそうだ。

 さっさと、二人を引き離してしまおう。

 

「行こう、ヒッポ君」

 

 二人を引き離すために、家の中にさっさとヒッポ君を招き入れる。

 背中には、ずっとダイナ君の視線を感じていた。

 少し嫌な気分になったので、入るなり扉を閉めて、視線をシャットアウトする。

 それでも、扉の向こうにはまだ彼がいるような気がしていた。




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