少年漫画によくいる主人公と嫌々敵対しているタイプの公務員に転生した   作:相川

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プロローグ

「おいおい……。一体どういうことだ、こんなところに魔人がいるたぁね」

 

 センサーには下級の魔物の反応が検知されたというから来てみれば、そこにいたのは魔人でした。

 

 参るね。

 

 楽な仕事のはずだったのに、最低でも危険度Bの魔人がいるとは。それも、人間の男の子がなぜか彼女を庇っている。

 

 はぁ……。

 

 一体全体どういうことなんだ。見た限り並々ならぬ事情がありそうだけど、もしかしたら彼が魔人にそそのかされている可能性もある。

 

「君、何をしている」

 

 一応、何か事情があるかもしれないので話しかけてみる。だが、俺は一切の油断はしない。

 魔人は人間に対して本能レベルで敵対的な生物だ。次の瞬間にも彼の命を奪っていてもおかしくない。

 

 すると、冷や汗をかいて困惑気味の青年が口を開いた。

 

「こ、こいつは俺の……。俺のクラスメイトなんです!」

「……はぁ?」

 

 精神操作系の魔術にかかってるのか? それとも極限状態でおかしくなったか。

 だが、そんな様子は微塵も感じられない。魔術が行使された痕跡も感じ取れないし、目の前の青年は冷静だ。

 

「おいおい……。それが何か分かってるのか? 魔人だぞ? 魔人が何でクラスメイトなんてことになる」

「そ、それは……。で、でもこいつは違うんです! 人を害そうという意思は無くて……」

「それを信じろと? 魔物や魔人による被害は君も知っているだろう?」

 

 魔物や魔人による被害は社会問題になっている。

 

 空間に漂っている魔力に『穢れ』が溜まることで、魔物や魔人は形を成す。普通の人間が魔人に変異したなんて話は聞いたことがない。

 

 それに、魔力にたまった『穢れ』によって誕生した魔人は非常に凶暴で人類に敵対的な意思を持っている。無差別に殺戮を繰り返すだけの化け物だ。

 

 その性質から、日常生活を送っているだけで突如として発生した魔物に襲われて死ぬなんてことも起こり得るのだ。

 

 ただでさえ今の日本は治安が終わっているというのに……。いや、日本に限らないけど。

 

 俺の説得が不可能だと悟ったのか、男の子は魔人を庇うようにして前に出た。

 その表情は固く、どうやら実力差はちゃんと理解しているらしい。それでも守ろうとしているという訳だ。

 

 こりゃあ、決意は固いと見ていいな。

 

 困ったなぁ……。

 

 でも、法律では魔人は見つけ次第殺さないといけないことになってるんだよね。治安の悪化にも繋がるし、放置していて何かメリットになることもない。妥当な判断だと思う。

 

 俺は腰に携えている刀を抜いた。

 

「仕方ない。ちょっと痛い目見てもらうことになるが……」

 

 彼に傷をつけるわけにはいかないのでみねうちを意識する必要はあるが、まあ大丈夫だろう。

 

 足に魔力を集中させ、爆発させることで驚異的な推進力を生みだし魔人の背後を取る。

 どうやら彼らは俺の動きを目で追えていないらしい。なら、このまま刃を魔人の首筋に通せば任務は完了だ。

 

 どういった理由で彼が魔人を庇っているのかは知らないが、例外を認めるわけにはいかない。俺は公務員なんで、殺せる魔人を見逃しましたとなれば大問題なのだ。

 

「…………」

 

 まーじか。

 

「どういうつもりだ。蘆村」

「見りゃあ分かんでしょ、先輩」

 

 俺が放った渾身の一撃は、魔人と俺の間に乱入してきたクール系イケメンの蘆村という男によって防がれる。

 俺の刀と蘆村の刀が鍔迫り合いの形となって膠着状態と化した。

 

「俺、もう先輩じゃないんだけど」

「先輩は先輩ですから」

「あっそ」

 

 かわいいんだか可愛くないんだか分からない元後輩である。

 

 一度距離を置き、盤面をリセット。

 

「蘆村さん!」

「君たちは逃げろ! この人は俺が止める!」

「……ッ! 分かりました!」

 

 蘆村によって彼らと距離を引き離されたことによって、魔人を匿うあの青年と魔人の女の子は逃げていく。

 

「いや、させないけど」

 

 俺は再び両足に魔力を集中させ、それを爆発させることで一気に彼らとの距離を詰めようと──。

 

「──ッ。そう簡単にはいきませんよ!」

 

 したけど、蘆村によって妨害された。

 

「相変わらず、とんでもないスピードですねッ!」

「捉えられてるんだけどね」

 

 蘆村が刀が眼前に迫る中、こちらも刀で応戦。金切り音が鳴り響いた。

 彼は元々、俺の後輩だったということもあり実力は知っている。

 

 こいつの教育も何度か請け負ったし、特事課を辞めるまでは面倒を見ていた。

 

「急に辞めたかと思ったら、なんかとんでもないことしでかしてくれるじゃないのよ」

「先輩こそ、任務に一人で当たるなんて規定違反なんじゃないですか?」

「……俺、今日非番なんだよ」

 

 非番だったけどなんか本部の人員が足りないだのなんだので、仕方なく俺が駆り出されたってわけ。どっかのヤクザのガサ入れが入ってたんだったかな。

 

 あーあ。

 

 彼らの姿も見えなくなっちゃったじゃんか。蘆村の相手をしながら彼らを追いかけるのは無理そうだ。

 

 そう思い、俺は潔く納刀する。そんな俺の様子を見て、蘆村も戦闘態勢を解いた。

 

「先輩だって、彼らを捕らえるのに乗り気じゃなかったんじゃないですか?」

「見りゃあ分かんでしょ。俺は今日非番で、それになんか並々ならぬ事情がありそうな嬢ちゃんと坊ちゃんを相手にしないといけない……? 勘弁してよ」

「太刀筋、ブレッブレでしたもんね」

「……お前が辞めたのはあの子たちが理由か?」

「……いえ。ですが、まあ似たようなものです」

「社畜やるよりは有意義かもな」

 

 特異事象対策課。

 

 略して特事課。

 

 警察庁警備局直属の部署であり、日本における魔術犯罪や魔物、魔人の駆除などを担当している治安維持組織である。そこに俺は所属している。

 

 勤続十年、まあ面倒見てもらった時期を考えると諸々込々で十三年になるのか。

 年齢は、今年で二十八歳になるアラサー男性である。

 

「先輩は、やっぱりお金のためですか」

「うん。金払いがいいし、戦いの才能があったっぽいし公務員だから安定してるし」

「ご家族のためでしたっけ」

「そう。十五年前の災害で俺も色々とあってね。お金はあって困らないから」

「そうでしたか……」

「うん。それで、彼らはもう逃げ切れたかな? 俺もさっさと帰って報告しないといけないし……。まあ適当に誤魔化しておくわ」

「ありがとうございます」

 

 あの子達の正体も最初から見当がついていたので、この一連のやり取りは割と茶番だったりするのだけどね。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

『灰境戦線』。

 

 十五年前に発生した未知の災害によって魔力が誕生した日本を描いた現代ファンタジー作品。

 魔術という超能力に、魔物、魔人といった災害によって治安は急降下。裏社会では殺し殺されが当然のように繰り広げられてる怖い世界。

 

 主人公は何の変哲もない男子高校生。友人たちと普通の日常を謳歌して、クラスメイトの女の子を好きになるという甘酸っぱい青春のど真ん中。

 

 だが、ある日その女の子が魔人になってしまう。

 

 魔人、或いは魔物は大気中にある魔力に『穢れ』と呼ばれる汚染が一定量を超えると発生する自然災害。人類に対して非常に敵対的な生物が魔力だけで生み出され、形となって人を襲う。

 

 本来自然発生しかしないはずの魔人になってしまった女の子を巡って、様々な陰謀が渦巻く。

 そんな中、好きな人を守るべく主人公は力を付けていく。

 

 そんな王道少年漫画。

 

 の世界に転生したのが俺だ。

 

 久城依斗(くじょうよりと)

 十五年間の災害によって両親を亡くし、途方に暮れていたところで前世の記憶を思い出す。

 

 年の離れた弟と妹、それから養子に迎えてくれた義両親への恩返しのために才能があるという理由でスカウトされた警察庁警備局特異事象対策課に入庁。

 

 そこからはみるみる実力を身に着け、今では一級執行官としての地位を確立している。

 

 前世の記憶を思い出したのは十五年前の災害当日。

 

 原作通りに進めようとか、そういう気力は全くなかったが、多分俺の人生の軌跡は原作の久城依斗とあまり変わっていないのではないかと思う。少なくとも、大枠は同じだろう。

 

 俺が仕事に向き合うのは、偏に金のため。

 

 災害が起こり、家も両親も失って途方に暮れていた俺たちを受け入れてくれた養父と養母に恩返しをする。年の離れた大学生活を謳歌している妹と弟のために学費を稼ぐ。

 

 力を付けたのは、もう二度と大切なものを取りこぼさないため。

 

 ぶっちゃけ、俺に忠誠心は求めないでほしい。この世は混乱の最中にある。法則が変わり、魔術という個人が扱える武力が誕生したのが全ての変わり目。

 

 表社会は依然として平和を保っているように見えて、その実砂上の楼閣。いつ崩れてもおかしくない状況にある。魔術師による破壊行為だって少なくない。

 

 俺たちのような公的な治安維持組織だって、少数の犠牲に目を瞑り、多数の幸福のために動くのだ。いやまあ仕方ないとはいえ、やるせないとも思う。

 

「報告ご苦労。反応からしてただの魔物だとは思っていたが、久城が対処したのなら問題ないのだろう」

「はい。ちゃんと処理しておきました」

 

 まあ、噓なんですけどね。 

 

 蘆村という男は原作において主人公たちの後見人。師匠ポジ、というより三歩後ろを歩いてる後方保護者面の男ってイメージ。元特事課であることは作中でも明言されていた。

 

 そして、俺の後輩にあたる。

 

 色々と今の世間の現状を目で見て、ここにいるだけじゃ解決できないことがあると悟り独立。今は原作開始時期だし、これからは主人公たちの支援をしていくことになるだろう。

 

 ヒロインである夜凪透花(よなぎとうか)は魔人となった。

 魔人・魔物は自然発生しかしない、いわば魔力による災害のようなもの。だというのに、普通の人間が魔人と化すなど前代未聞。魔人自体には理性はあれど、人類に対して並々ならぬ敵意を持っているため協調など不可能であることが特徴なのに、透花はそれを制御することができる。

 圧倒的イレギュラー。だからこそ、様々な勢力から狙われることになるわけだが、それを許さないのが主人公である伏見綴(ふしみつづる)

 

 クラスメイトで片思い中の相手がそんな事情を抱えることになり、不安で涙を流す姿を見て自分が彼女を守れるくらいに強くなると決意するわけだ。

 

 それが大体のあらすじ。

 

 いずれ、透花の存在が裏社会にバレる日は来る。彼女には、魔人特有の身体的特徴、額の角があるのだから。

 

 

『すみません、蘆村さん。俺は強欲なんです。好きな人には、笑って生きていてほしい』

 

 

 ずっと隠れて生きて行く。それが賢明な判断だった。

 でも、そんな生き方をしてほしくない。好きな人には笑って生きていてほしい。だから、彼女がずっと隠れて住み続けるような世界を認めない。

 

 それが、主人公の選択。

 

 普通の人間が魔人となった。

 

 そんな前代未聞の事態に、政府は夜凪透花の確保に動く。未知の危険、未知の可能性。あまりに貴重な彼女の体を解剖すべく、建前上は魔人の確保と銘打って特事課は動き出す。

 

 久城依斗は、何の罪もない少女の確保に消極的ながらも、仕事だから仕方なく時に敵対、時に共闘するというポジションにいる。

 

 まあ、それは今世でも変わることはない。

 

 俺の目的は金稼ぎ。

 特事課を辞めることもなければ、特別誰かの敵に回る気もない。

 

 家族が笑顔になれるように、俺は社畜として生きる。

 

 世知辛い世の中だよ、ほんと。

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